アフリカでのビジネス事例丸紅、アフリカでのヘルスケアビジネスを推進、現地企業にも出資

2025年3月25日

アフリカの人口は、国連によると、1950年に2億2,778万人だったところ、2024年に15億1,514万人、2050年には24億6,665万人になり、世界人口の約4分の1を占める見込みだ(2024年8月19日付地域・分析レポート「アフリカの人口急増と物流・貿易動向」参照)。また、アジアの人口は、21世紀半ばには減少に転じ、中南米、欧州、北米もおおむね横ばいとなる一方、アフリカの人口は2100年まで右肩上がりに増加することが見込まれる。

人口増加、経済進展、ライフスタイルの欧米化などに伴い、アフリカの医療関連のビジネスにも注目が集まる。途上国における医療機器やヘルスケア分野は援助や、国連機関による調達での展開も多い(2024年7月29日付ビジネス短信参照)。一方、丸紅は、アフリカの印僑(いんきょう、注)が立ち上げたヘルスケア企業へ出資し、アフリカ全体への面展開を通じた内需の取り込みを進める。その中で、日本の企業や省庁との連携も模索している。

同社のアフリカでのビジネスと現地のヘルスケア事情について、次世代事業開発本部ヘルスケア・メディカル事業部の西田将之部長代理に話を聞いた(取材日:2025年3月11日)。


丸紅の西田氏(同社提供)
質問:
アフリカでの活動概要は。
答え:
1950年に南アフリカ共和国(南ア)からの羊毛買い付けなどから始まり、これまでにアフリカでの化学品、金属・鉄鋼製品などの販売を手掛けている。また、南アでの排水処理事業、ナイジェリアでの複数の電力案件、チュニジアでの火力発電事業、マラウイでの空港拡張など、インフラ事業にも取り組んできた。
現在、南ア、赤道ギニアなどに事業会社がある。このほか、ケニア、南ア、エチオピア、アンゴラ、ナイジェリアなどに支店や事務所が11拠点ある。
2025年2月に公表した中期経営戦略において、「成長性の高い地域における内需取込型ビジネスの創出・強化」の中でアフリカに言及した。中東・アフリカ全体の利益を、2024年度200億円から、2027年度には250億円まで引き上げる方針だ。
この中期経営戦略にもとづき、市場成長性・収益性・拡張性の高い事業領域で、付加価値の高い商品やサービスを提供していく。規律を保ちながらM&Aを通じた事業拡大、成長にも取り組む。
また、成長領域の1つとして、ヘルスケア・メディカル領域に継続して注力していく。
質問:
アフリカでのヘルスケア事情と御社の取り組みは。
答え:
アフリカでは、「成長×変容するアフリカ需要」などを市場戦略のテーマにしている。人口増、都市化、教育レベル向上、ライフスタイル変容などデジタル技術加速により、成長するアフリカの需要を取り込むことを目指している。特に2050年には世界の4人に1人がアフリカ出身の人が占めるようになり、アフリカ市場の存在感が高まる見込みだ。
一方、アフリカには54カ国あり、それぞれ気候や疾病領域が異なる。例えば、ナイジェリアなど亜熱帯地域では、マラリアへの対策ニーズがある。他方、ケニア、ルワンダなどでは、高血圧対策、眼科、抗がんなどのニーズがある。
我々は2022年、日系VCのAAICが運営する、ヘルスケア分野のスタートアップなどに投資するファンド「Africa Innovation & Healthcare Fund」に出資した。また2023年には、グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)が支援するマラリア治療薬の新規開発投資プログラムを活用した新たな抗マラリア治療薬の開発事業へ参画した。
これら取組を通じて、アフリカにおけるネットワーク・知見を獲得し、10回以上の、長期に亘る出張を経て、2025年1月に大手医薬品販売会社であるPhillips Healthcare Corporation(Phillips Pharma)への出資を発表した。同社への出資は、丸紅のアフリカに関する投資として最大規模だ。
質問:
Phillips Pharmaの概要・取扱商品は。
答え:
1991年にケニアで設立された医薬品、医療機器・診断機器を取り扱う販売商社だ。現在、本社がモーリシャスにあり、アフリカ8カ国(英語圏であるケニア、タンザニア、ウガンダ、ナイジェリア、ガーナ、ルワンダ、ザンビア、ナミビア)に展開する他、UAEにグループ全体の内部統制・財務会計等を統括する拠点を有する。
各展開国で営業・MR・薬事専門家を抱え、自社倉庫を含む物流機能を保有し、大手病院・薬局などに販売している。あわせて、ビル&メリンダ・ゲイツ財団などが運営する社会慈善/援助事業などにも参画している。
強みとしては、(1)展開国に営業、マーケティングのスタッフを構えていることから現場ニーズをくみ取ることができる点、(2)薬事専門家による薬事対応が可能である点、(3)アフリカへの進出を企図するメーカーのニーズに合わせて(薬事から輸出入・販売まで一気通貫で受託する、薬事対応のみ受託する等)機能をカスタマイズできる点だ。

Phillips Pharmaのケニア法人(同社提供)
質問:
同社の取扱商品は。
答え:
取扱商品は医薬品から医療機器、診断機器まで、対象疾患領域は基礎疾患から高度医療までと広くカバーする。欧米・日系メーカー製品を中心に、抗がん剤やワクチン等付加価値の高い製品群も取り扱う。
なお、アフリカでは主にインフォーマルセクター向けの安価なジェネリック医薬品が主流だが、同社では、民間保険に加入するような中高所得者層に向けて、サービス・製品を提供している。
質問:
どのように提携先を探したのか。出資決定の理由は。
答え:
2022年に中東で医薬品・医療機器を販売するLunatus社に出資した。Lunatus社は薬事対応・輸出入・販売卸機能を持つ企業であり、丸紅としては、グローバルでこうした機能やサービスを外部委託するニーズが増えると考え、新たにアフリカにおいても市場参画可能性の検討を開始した。私(西田氏)は担当者として、100社以上のロングリストから、アフリカでの提携先を探した。
Phillips Pharmaに出資を決めた理由として、同社がアフリカ複数国に展開することでリスク分散をしながらアフリカを面でおさえている点が挙げられる。また、インド系ケニア人のファミリー企業であったこともあり、アフリカ域内の印僑ネットワークによる事業拡大のポテンシャルが高い。またインドにおけるヘルスケアビジネスの知見をアフリカでも活用できる可能性が高いと考えた。
さらに、複数国に展開している点も理由の1つだ。アフリカは1カ国では市場が小さいものの、例えば東アフリカ地域としてみれば、その人口規模は1億人以上で大きな市場ととらえて開拓できる。また薬事申請手続きを含む医療関連規制は国単位で異なるものの、同社との協業を通じて、同社の複数拠点を足掛かりに、日本企業を含む多国籍企業は域内にワンストップで面展開が可能になる。
また、Phillips PharmaはPIEXというアフリカ・フランス語圏での医薬品・医療機器を取り扱うフランス系販売商社とも連携しており、戦略的互恵関係にある。具体的には、多国籍企業のニーズに応えるべく、両社にて英語圏と仏語圏をカバーしている。
質問:
印僑の強みは。
答え:
インド現地での医療関連ビジネスの成功体験、またインド・アフリカ・欧米他との印僑ネットワークをもとに、新興国において、特にヘルスケア産業において成功をおさめている。例えば、アフリカの医療機関の一部ではインド人の医療従事者もおり、Phillips PharmaのMR(医薬情報担当者)スタッフにはインド出身者も多い。インド出身のMRがアフリカ現地に来て、アフリカの専門人材をトレーニングし、人材育成するモデルだ。
なお、中国系企業はインフラ分野に強く、ヘルスケア市場におけるプレゼンスは必ずしも高くない点で、印僑と競合する部分は少ない。
質問:
同社と丸紅の連携は。
答え:
私自身(西田氏)、2025年4月よりナイロビに駐在し、クロージング(出資手続き完了)後はPhillips Pharmaの経営管理・執行に関与することで同社の事業拡大を目指す。中でも、日系を含む多国籍企業との事業連携を強化することで彼らのアフリカ進出を促進していく。あわせて、当社目線での投資を含む事業開発も推進する。
質問:
アフリカでの注目国や今後の取り組みは。
答え:
ヘルスケア分野では、ケニア、ウガンダ、タンザニアなど東アフリカに注目している。また、西アフリカでは、人口の多いナイジェリア、フランス語圏の足掛かりとなり得るコートジボワールにも注目している。
今後は、Phillips Pharmaの事業拡大支援のほか、医療サービス分野における参入機会も探る。
なお、欧米メーカーがアフリカにおいて現地大学と連携する事例がある。アフリカは地理的に、歴史的にも欧州に近いことから、欧州の医療機関・教育機関で学習した医療従事者は欧州の機材・医薬品を選ぶ傾向が強い。掛かる環境下、日系製品・サービスをアフリカに浸透させるには官民レベルで一体化した仕掛けを設計する必要があるとの危機感を持っている。
質問:
日本企業へのアドバイスは。
答え:
アフリカは国単位でみると市場規模が小さい一方で、東西南北といった地域でみれば規模感が出るため面展開のポテンシャルはある。面展開を図る上で、国毎に社会制度・薬事制度・薬価規制・貿易関連制度などが異なるため、自社製品・サービスの特徴を踏まえた市場戦略を立案・実行する必要がある。
また、アフリカでは、気候などによるボラティリティが高い農業などの一次産業が主流を占めており、製造業が十分に発展していないため、アジアのような経済発展モデルは成立し辛い。デジタル経済進展によるリープフロッグの可能性はあるが、マクロ経済が概して安定的ではないため、アプローチするにしても対象領域を慎重に選定する必要がある。現地展開を検討する日本企業は、Phillips Pharmaのような現地に根差したネットワーク・知見を持つローカル企業とコンタクトを持つべきと考える。医薬品・医療機器・診断機器に限らず、アフリカ進出を企図する企業は当社にご相談頂きたい。長期間、現場に張り付いて実投資に漕ぎ付けた経験をもとにヒントを提供していきたい。

注:
印僑とは、外国に移住したインド人のこと。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課 課長代理
井澤 壌士(いざわ じょうじ)
2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課、ジェトロ北海道、ジェトロ・カイロ事務所を経て、現職。中東・アフリカ地域の調査・情報提供を担当。

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