アフリカでのビジネス事例 椿本チエインが南アでアフリカ市場開拓の足掛かり構築

2026年7月8日

南アフリカ共和国(以下、南ア)は、アフリカの中で日系企業の進出数が最も多い国だ。近年は進出企業数の伸びがやや鈍化しているものの、毎年新規進出は続いている。日本企業による出資企業も多く、現地法人や出資企業を含めた日系企業数は130社近くに上る。進出企業の業種は、大手商社や金融機関、トヨタをはじめとする輸送機器関連に加え、機械関連にも広がっている。ジェトロの調べでは、機械関連商材を扱う企業は21社と最多となり、南アにおける日系企業の進出業種の多様化を示している。

図:南アの業種別日系企業数
南アフリカ共和国に進出している日系企業数を業種別にみると、機械21社、輸送機器17社、化学11社、電気機器9社、総合商社7社、倉庫・物流・運輸6社、消費財6社、ゴム製品5社、情報・システム・ソフト4社、非鉄金属(鉱業・資源)4社、医薬品、医療機器、精密機器、保険、金融、マスコミは各3社。機械と輸送機器が他業種を大きく上回る。

注1:日本企業が出資する企業を含む。
注2:グラフは主な業種のみを掲載しており、少数の業種は省略した。
出所:東洋経済『海外進出企業便覧』(2026年5月)、在南ア日本商工会議所会員企業名簿、ジェトロの活動を通じて確認した企業情報を基に、ジェトロが独自に作成

機械関連商材を扱い、産業用チェーン業界で世界トップクラスのシェアを誇る椿本チエイン(大阪府)は、2025年、南アに駐在員事務所を開設した(椿本チエインプレスリリース参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。依然として投資環境に厳しさもある南アへの進出を決断した背景や進出時の課題・対応について、常務執行役員の揚田利浩氏、パワトラ戦略推進室(注1)副参事の正村牧子氏、南ア駐在員事務所ジェネラルマネジャーの中江恵氏に聞いた(取材日: 2025年10月、2026年5月)。

質問:
貴社の概要は。
答え:
1917年に自転車用チェーンを製造する工場として創業し、現在は「一般産業用チェーン」「モーションコントロール(注2)」「モビリティ」「マテリアル・ハンドリング(注3)」の4つの主要事業を展開している。産業用スチールチェーンの世界シェアは17%、自動車エンジン用タイミングチェーンシステムのシェアは42%(自社調べ)で、ともに世界シェア1位を維持する。既存事業のさらなる市場地位向上と収益力強化を狙うとともに、「長期ビジョン2030」および「中期経営計画2030」に基づき、持続的成長を可能にする対応充放電システム(注4)、アグリビジネス、ライフサイエンスなど、既存の事業領域の枠を超えた新規ビジネスにも挑戦している。
質問:
海外ビジネスの現状と、 南ア進出の決め手は。
答え:
海外28カ国でビジネスを展開している。海外売上比率は65%で、最も多いのは米国(34%)、次に欧州(12%)、環インド洋(8%)(注5)、中国(7%)、韓国・台湾(4%)が続く。国・地域によって市場シェアにバラつきもあるが、日本と北米市場では圧倒的な首位を維持している。
現在、当社は中期経営計画において、グローバル販売拡大のため、これまで比較的シェアの低かった地域を中心に市場開拓の強化に取り組んでいる。アフリカは現在13億人を超える人口が2050年には25億人まで増加すると予測されており、それに伴う経済成長が期待できると考える。
2024年からの約1年間にわたり南アの市場調査を実施した。担当者が南アへ出張し現地調査を行い、今後のビジネス拡大の可能性を確認した。アフリカ市場での販売拡大を図るには、現地に拠点を構え、自ら市場を把握・開拓していく必要があると判断し、進出を決定した。他のアフリカ諸国と比べ、南アは空港、道路、通信、金融などのビジネスを支えるインフラが比較的整っている。既存代理店が存在し、日系企業の拠点数がアフリカ最多であることから、サブサハラ・アフリカ市場の情報収集拠点として最適と判断した。
質問:
南アの投資環境面での課題として、「2025年度海外進出日系企業実態調査 (アフリカ編)」では、「不安定な政治・社会情勢」「インフラの未整備」が挙げられ、治安への懸念もある。これらの課題をどのように評価し、駐在員事務所開設・駐在員派遣に際して具体的にどのような対策を検討したか。
答え:
進出前の準備段階では、ウェブサイトなどの一般公開情報や各種セミナーへの参加、ジェトロのアフリカビジネスデスク事業の活用、金融機関などからも情報収集を行い、南アの投資環境を分析した。その後、進出決定までの1年間で現地訪問を行い、進出済みの日系企業から現地のリアルな実情をヒアリングし、課題を整理・評価した。
「不安定な政治・社会情勢」に関しては、2024年5月の第7回総選挙で30年間続いた与党・アフリカ民族会議(ANC)の単独政権が終わり、ビジネス環境改善を掲げる民主同盟(DA)らとの国民統一政府(GNU)が誕生した(2024年7月2日付ビジネス短信参照)。南ア経済の転換期として、今後の改善に期待している。
「インフラの未整備」に関しては、物流インフラの老朽化や断水などの課題が多く、特に電力不足の深刻さについては懸念が大きい。2023年は毎日計画停電が発生し、製造業のみならず一般市民の生活にも大きな影響があったと聞く(2023年1月30日付ビジネス短信参照)。現地出張時には他社の駐在員から生活面への影響を聞き取り、オフィスや住居には発電機(ジェネレーター)付き物件を選ぶことで停電リスクに対応した。2024年以降は電力状況が改善傾向にあるが、引き続き注視している。
「治安リスク」に関しては、南アではテロや紛争は少ないものの、殺人や強盗などの犯罪率が高く、企業活動や駐在員の安全に配慮が必要である。24時間セキュリティのある物件を選び、犯罪が多い地域への立ち入りを避けるなど、安全対策を徹底している。
質問:
駐在事務所設立手続きにおいて、苦労した点は。
答え:
自社社員が常駐していない国での開設だったため、日本で入手できる情報は限られていた。事務所設立までの全体計画を立てつつも、計画どおり進むか見通しにくく、手探りで手続きを進めた。 主に苦労した点は以下のとおりだ。
登記(CIPC)申請や銀行口座開設など各種申請に際しては、必要な取締役全員のパスポートコピー認証(アポスティーユ)取得、取締役会決議書準備などに時間を要した。社内手続きを進める際、関係部署・関係者が共通認識をもって取り組むことが、迅速に手続きを進めていく上で重要だった。
ICT Visa(企業内転勤ビザ)の取得要件(2025年3月28日付調査レポート「南アフリカ共和国ビザハンドブック(2025年3月)」参照)として、技能移転を受ける現地従業員(スキル移転対象者)の身分証明書が必要とされるため、赴任前から当該対象者となる従業員の採用活動を行う必要があった。
最終的に、登記完了までに約6カ月、銀行口座開設までに約3カ月を要した。また事務所開設後には、携帯電話や社有車リースなど法人契約を申請する際、銀行口座の過去3カ月分の残高証明書の提出を求められた。口座開設後3カ月以上が経過しなければ該当書類を提出できず、契約に時間を要した。
質問:
駐在員事務所設立後の取り組みと、今後の見通しは。また将来的に南アやサブサハラ・アフリカ地域でビジネスチャンスがあると考える事業は。
答え:
アフリカでのビジネスは、グループ会社である椿本ヨーロッパ(本社:オランダ)が管轄しており、日々の業務は椿本ヨーロッパと南アの代理店が連携して行う。今回設置した駐在員事務所は、中期的な視点から将来の現地法人設立の可能性を見極めることを目的としており、現地での情報収集や市場調査に注力している。今後は、ビジネスチャンスが見込まれるアフリカ各国の優先順位を整理し、市場・物流調査を進める予定だ。
アフリカの人口増加に伴う経済成長とともに、アフリカの製造現場での設備 投資拡大も期待される。一方、現状の販売額を踏まえると、市場成長への期待もさることながら、足元では現在の市場で高付加価値商品の需要をいかに掘り起こすかが課題と考える。
南ア国内には日系・海外企業がさまざまな分野で製造拠点を置き、アフリカ最大の工業国となっている。当社が注力する業界は、製糖、自動車、食品・飲料、鉱業などの市場であり、主力製品の一般産業用機械部品(チェーン・モーションコントロール商品)への需要を把握しながら、Tsubakiブランドの浸透を狙う。

注1:
パワー・トランスミッションの略。 本文に戻る
注2:
産業機械の「動きと制御(Motion & Control)」に関わる機械部品を指す。減速機や直動機器などの部品から、これらを組み合わせたモジュールまでを含む。 本文に戻る
注3:
物流や製造現場におけるモノの移動・保管・仕分け・梱包などの作業や、それを支える機器・システム全体を指す。 本文に戻る
注4:
建物とEV間で電力を双方向にやり取りする充放電装置を指す。EVのバッテリーに蓄えられた電力を他の場所へ供給することが可能。 本文に戻る
注5:
ここではインド、インドネシア、オーストラリア、シンガポール、タイ、フィリピン、ベトナム、マレーシアを対象とする。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
多崎 央(たさき おう)
2001年、ジェトロ入構。ジェトロ・カラチ事務所、対日投資部、経済産業省出向、ジェトロ・ニューヨーク事務所、ビジネス展開支援部、イノベーション部などを経て、2025年7月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ企画部海外事務所運営課
堀内 千浪(ほりうち ちなみ)
2014年、ジェトロ入構。展示事業、ジェトロ浜松、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所を経て、2025年7月から現職。

この特集の記事

今後記事を追加していきます。

総論

2026年度

2025年度

2024年度

日本企業事例

2026年度

2025年度

2024年度

製造業のアフリカ展開

2026年度

2025年度

2024年度

全国各地からアフリカ展開

2026年度

2025年度

日系スタートアップのアフリカへの挑戦

2025年度

2024年度

アフリカ現地企業事例

2026年度

2025年度

2024年度

第三国事例

2025年度

アフリカ工業団地・フリーゾーン事例

2024年度

地域横断

2025年度

2024年度