アフリカでのビジネス事例三井物産、エジプトで養鶏事業を展開、経済性と環境対応を両立
2025年8月14日
アフリカの人口は今後数十年にわたって増加が見込まれており、安定した食料の確保は同地域の課題の1つである。アフリカに進出する日本企業においても、食料分野への関心は高く、ジェトロがアフリカ21カ国に拠点を有する日系企業を対象として実施した「2024年度海外進出日系企業実態調査(アフリカ編)」では、今後アフリカで有望視するビジネス分野として、回答企業の43%が食品分野を含む「消費市場」と回答し、「資源・エネルギー」分野(45.3%)に次いで2番目に回答割合が多かった。
三井物産は、アフリカで食料事業を手掛ける日本企業の1つであり、2018年にモロッコの大手養鶏企業ザラール・ホールディングに出資参画して、同社グループが持つ日本式のブロイラー生産ノウハウを生かしてその成長を支援してきた(2022年7月13日付ビジネス短信参照)。同社は2023年に、エジプトの同事業大手ワディ・ポールトリー(Wadi Poultry S.A.E)にも出資参画を表明した(2023年11月30日付ビジネス短信参照)。
ジェトロは、ワディ・ポールトリーのエジプトにおける食料分野の取り組みについて、同社最高戦略責任者(CSO)の瓦井政明氏と、Business Development Managerの村田龍亮氏に話を聞いた(インタビュー日:2025年6月25日)。
- 質問:
- エジプトでの事業概要は。
- 答え:
- 三井物産は食料分野において、エビと鶏をターゲットとした動物性たんぱく質事業に取り組んでいる。いずれも飼料効率性が高いうえ、生産の過程での環境負荷が小さいため、経済性と環境対応をどちらも満たすたんぱく源であると考えている。このたんぱく質分野での取り組みについては、「ウェルネス」という文脈で幅広くとらえて展開していく方針である。品種改良によるたんぱく質の生産性改善を目指す事業、配合飼料の設計、疫病対策などのアニマルヘルス事業などに至るまで、グループ会社の知見も活用しながら取り組んでいる。
- 鶏肉事業での主な出資先としては、日本のプライフーズ、インドのスネハ・ファームズ(Sneha Farms)、モロッコのザラール・ホールディング、そしてエジプトのワディ・ポールトリーの4社である。養鶏事業において、ワディは原種鶏農場、種鶏農場、コマーシャル農場を展開するエジプトで最大の事業者で、種鶏シェアは約40%に上る。エジプトで消費される鶏肉のうち、約半分は同社で取り扱っている種鶏に由来すると言える。
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カイロ近郊K49農場(ワディ・ポールトリー提供) - 鶏の飼料は自社で製造している。また、クラフトペーパーを原料に気化熱を活用した、鶏舎などの室温を下げるクーリングパットも自社で開発しており、エアコンを使わない空調を実現している。
- 自社ブランドの「ワディ・フード」では、冷凍鶏肉や冷凍野菜・果物、オリーブ、オリーブオイル、ケチャップなどの食品の製造販売も行っている。オリーブは養鶏場の周囲で栽培しており、オリーブおよびその加工品は国内でブランド力を持つほか、同社最大の輸出商品でもある。シトラスなどの果物も併せて輸出している。また、ワディ・フードのオリーブオイルは国外でも高く評価されており、「ニューヨーク国際オリーブオイルコンペティション」で金賞の受賞歴がある。
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ワディ・フードの主な製品ラインアップ(ワディ・ポールトリー提供) - 質問:
- 同事業における、エジプトのポテンシャルは。
- 答え:
- エジプトの人口は1億人を超えており大きな市場である。また、エジプトは宗教的(注1)、経済的に鶏肉以外の食肉の消費が限定的な状況である。牛肉も販売されているが価格が高く、羊肉は流通量が少ない傾向にある。鶏肉の年間消費量も1人当たり約12キログラムとされており、まだ少ないが、冷蔵鶏肉や加工鶏肉があまり普及していないことから、今後市場の深化と伸びが期待できると考えている。
- また、エジプトは外資企業の誘致に積極的であり、フリーゾーンやゴールデンライセンス(注2)、一定の条件を満たして新規事業を立ち上げると免税になる制度などのインセンティブがある。
- 質問:
- エジプトで同事業に取り組むうえでの課題は。
- 答え:
- エジプトでは、人間の居住地と鶏の飼育地の距離が近い傾向にある。また、鶏に高病原性インフルエンザが発生した際、日本では防疫措置として鶏の殺処分を行うが、エジプトではそのような処置が行われないことが多い。このような理由から、エジプトで養鶏を行うにあたっては、鳥インフルエンザやニューカッスル病など、さまざまな種類の鶏の疫病が発生しやすいという課題がある。エジプトでは鶏肉を購入する場としてウェットマーケット(生鮮食品市場)が好まれており、色々な種類の動物が生きた状態で密集して販売されていることも防疫の観点で問題がある。
- この課題に対して、鶏を飼育する農場を、現在それらがあるカイロから南に1,200キロメートル離れたトシュカに移転する計画を進めている。トシュカは砂漠地帯で周辺に人間が居住しておらず、周辺400キロメートル圏内に他の養鶏場もなく、渡り鳥も来ない地域で、バイオセキュリティーを実現することができる。
- その他、政府の許認可手続きが煩雑であることや、従業員に労働安全衛生管理を徹底してもらうことが難しいなどの課題も感じている。
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トシュカ養鶏場(ワディ・ポールトリー提供) - 質問:
- 今後の展望は。
- 答え:
- 養鶏事業では、トシュカへの農場移転を引き続き進め、養鶏インテグレーション(生産から流通までを一貫して行うシステム)の拡充を行っていきたい。大都市近郊の立地条件を生かしたコマーシャルブロイラーの生産も強化する。また、輸出にも力を入れていきたいと考えており、アフリカ大陸自由貿易圏〔AfCFTA、アフリカ連合(AU)主導の自由貿易協定(FTA)〕にも期待を寄せている。
- 注1:
- エジプトは人口の約90%がイスラム教徒で、約10%がキリスト教徒である。イスラム教の教義では、豚肉を食べることが禁じられている。
- 注2:
- インフラ整備、再生可能エネルギーなど、エジプトの国家戦略に沿った投資を行う企業が、認定を得ることで複数の省庁にまたがる行政手続きを投資・フリーゾーン庁(GAFI)で一括申請できるようになる制度。詳細はジェトロ「ビジネスの制度・手続き:外資に関する奨励」を参照。

- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部中東アフリカ課 リサーチマネージャー
久保田 夏帆(くぼた かほ) - 2018年、ジェトロ入構。サービス産業部サービス産業課、サービス産業部商務・情報産業課、デジタル貿易・新産業部ECビジネス課、ジェトロ北海道を経て2022年7月から現職。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・カイロ事務所
塩川 裕子(しおかわ ゆうこ) - 2016年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ富山、企画部(中東担当)を経て2022年7月から現職。