アフリカでのビジネス事例ヤマハ発動機、アフリカ50カ国以上でオートバイや船外機ビジネス

2025年9月10日

アフリカ沿岸部には、漁業が主要産業の地域がある。そうした船の動力になる船外機の需要がある。 また、アフリカでは公共交通機関の整備が十分ではない。そのため、二輪車が基幹的交通手段になっている国がある。日本自動車工業会によると、2023年の日本から二輪車輸出台数は全世界あわせて約52万台。前年比6.5%増だった。しかし、アフリカ向けは、シェア2.3%とまだ小さい。一方、人口増加や経済成長により、オートバイタクシーや物流会社での二輪車のニーズは高まっている。

本稿では、ヤマハ発動機が進めるアフリカでの取り組みを追う。オートバイと船外機の市場開拓については、海外市場開拓事業部の平松優グループリーダーと、渡邊基記ストラテジーリードに聞いた。また、モビリティー・サービス・ビジネス(MSB)について、MBS部の今村達哉チーフに聞いた(取材日:2025年8月20日)。


八木稔朗・海外市場開拓事業部長(右)と平松グループリーダー(ジェトロ撮影)

ガーナ出張時の渡邊ストラテジーリード(同社提供)
質問:
アフリカでどのように展開しているか。
答え:
アフリカ50カ国以上に、オートバイや船外機(ボートなど小型船の外付けエンジン)などを特約店などのビジネスパートナー経由で展開している。1960年代から事業活動している国もある。
質問:
アフリカでのオートバイの販売状況は。
答え:
アフリカ市場で当社のオートバイは、主に品質を重視する顧客層、特に政府関連や公共機関に向けて展開している。市場規模や需要は、年によって変動がある。いずれにせよ、ナイジェリアや南アフリカ共和国、ブルキナファソなどでは、特に多くの実績がある。
ナイジェリアでは現地パートナーとの協力体制下で、組み立て生産も開始。地域に根ざした事業展開を進めている。また、その他の国々に対しては、日本やアジア諸国で製造した製品を輸出するかたちで対応している。各国のニーズに応じ、柔軟な供給体制を構築している。

日本製の現地政府関連や公共機関向けモデル(同社提供)
質問:
アフリカでの船外機の販売状況は。
答え:
当社の製品は、アフリカ沿岸国の漁業分野で広く活用してもらっている。特にセネガル、ガーナ、モロッコなどで、多くの導入実績がある。また、ナイル川やビクトリア湖でも使用例があり、地域の漁業活動を支える重要な役割を果たしている。
高い耐久性と信頼性に加え、アフターサービスを含むサポート体制が整っていることから、現地のユーザーから高い評価をいただいている。

アフリカの漁師が利用する船外機(同社提供)
質問:
ビジネスの課題は。
答え:
アフリカでは政情が安定しない国々があり、販売にも影響してきた。さらに、各国の法律が不明瞭なことも多い。特に、組み立てに関する関税免除など、インセンティブについて実際の運用とギャップがみられる国もある。また、船積み前検査を要することがあり、時間とコストがかさむ要因となっている。
近年、インドや中国のブランドなど、安価な商品と競合している。コピー商品も古くからの課題だった。偽物対策などは、個別企業では対策が難しい場合も多い。そのため、公的機関も支援してもらいたい。
質問:
課題が多い中でも海外販売を継続できる理由は。
答え:
まずは、船外機とオートバイともに、現地でのニーズがあることだ。また、日本製品は耐久性が高く、アフターサービスが手厚い。それも、商品が受け入れられている理由の1つだ。
現地代理店などパートナーのアフターサービスや、メンテナンス拠点などのネットワークが重要だ。その点を理解でき、一緒に技術(メンテナンスなど)トレーニングに取り組んでもらえる相手を、パートナーに選んでいる。なお、トレーニングなどで人材を育成した後に離職率が高いことも、課題の1つだ。
質問:
今後の展開は。
答え:
アフリカ54カ国のうち、代理店がない国への展開もその1つだ。さらにサービスの質を上げて、お客さまの満足度を高める活動をしていきたい。また、政府向けに、川の水などを浄水する小型設備の展開を始めている。
なお、アフリカでは木製のボートが多い。そうした中で、繊維強化プラスチック(FRP)製のボートの輸出増加も目指している。
質問:
アフリカへの事業に取り組む企業へのアドバイスは。
答え:
アフリカではトラブルも多く、心が折れそうになることもある。それでも、あきらめずに取り組むことが重要だ。諸先輩方が長年にわたり土台を築いてくれて、今がある。
現地で、人材育成やトレーニングなどに取り組むことも重要だ。また、アフリカ向けには、修理しやすい船外機を輸出している。現場の意見で改良を長年重ね、簡単な構造になっている。
また、現地ではサッカーの人気があるため、2019年からアフリカ各国の子どもたちに向けて、10年間で1万個のサッカーボールを贈るプログラムを続けている。商品や国によって状況が異なる中で、工夫している。

モビリティー・サービス・ビジネスにも参入

ヤマハ発動機は新たに2020年から、アフリカの子会社を通じてモビリティー・サービス・ビジネス(MSB)に取り組んでいる。同社MBS部の今村達哉チーフによると概要は次のとおり。


MBS部の今村チーフ(ジェトロ撮影)

ナイジェリアで、Max(地場のオートバイタクシー会社)を経由してライダーにオートバイをリース。ライダーから使用料をもらうビジネスを展開している。バイクを購入できない開発途上国の人々がバイクと仕事を得ることができるようにするためだ。なお、インドでも、同様のモデルでビジネスに取り組んでいる。

ウガンダやタンザニアでは、ラストワンマイル物流ビジネスを行っている。ジュミア(JUMIA/アフリカの大手eコマース)の商品も配達する。さらに、ヘルスケア物流などにも取り組んでいる。

また、同社は、横浜市で開かれた第9回アフリカ開発会議(TICAD9)で、テーマ別イベントのジェトロ主催「TICAD Business Expo & Conference」(2025年8月27日付ビジネス短信参照)に出展(2025年7月24日付ヤマハ発動機ニュースリリース参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。アフリカでの販売拡大を目指している。

執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課 課長代理
井澤 壌士(いざわ じょうじ)
2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課、ジェトロ北海道、ジェトロ・カイロ事務所を経て、現職。中東・アフリカ地域の調査・情報提供を担当。

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