アフリカでのビジネス事例総論:アフリカビジネスの現在地、日本企業の動き
2025年8月15日
日本企業はアフリカで、活動が足踏みしているケースも多いのが現状だ。その背景には、現地の経済事情やビジネス上の課題などがある。その解決以前に、大きな成功や改善は、たやすく起こるものではない。それでも、アフリカで奮闘し、ビジネス上の厚い壁に穴をあけ、事業を拡大する企業もある。
本稿では、第9回アフリカ開発会議(TICAD9)の開催を前に、アフリカビジネスの現在地や日本企業の動きを概観する。
日本企業のアフリカ展開に変化の兆し
日本銀行によると、日本のアフリカにおける直接投資残高(2024年末時点)は、およそ1兆4,000億円。世界全体の1%にも至っていない。しかし、非製造業(金融・保険業や鉱業、卸・小売業など)への投資が製造業(自動車など)を上回るようになっている。
外務省の発表によると、当地日系企業拠点数(駐在員事務所などを含む)はアフリカ全体で、新型コロナ禍を経て1,000拠点を前に足踏みしている。1,000拠点というのは、英国(928拠点、2023年)やシンガポール(1,113拠点、同)の日系拠点数と同程度にとどまっている。
もっとも2010年時点では、約500拠点に過ぎなかった。そう考えると、大きく増加したとも評価できる。現在の拠点数は、南アフリカ共和国(南ア)、ケニア、モロッコ、エジプトの上位4カ国で、全体の半数を超える。ケニアでは日系スタートアップの進出、モロッコでの自動車部品企業などの進出増加が目立つ。そのほか、エジプト、セネガル、タンザニア、コートジボワールなどで、拠点数が増えている。
アフリカでのプレーヤーは、商社など大企業にとどまらない。今では、スタートアップなどがアフリカ市場に可能性を見いだして飛び込むようになった(特集「アフリカと日本の未来切り拓く、日系スタートアップの挑戦」参照)。これまでよりも幅広い事業者層が、多様な分野でアフリカ市場に取り組み始めていることがうかがえる。
さらに、ジェトロの「2024年度進出日系企業実態調査(アフリカ編)」では、これまで重視されていた資源や自動車、保健衛生以外にも「水素・再エネ」「食品」などの分野が有望とする回答も目立つ。
加えて、日本に対する好感度も、大きな力だ。これは、ポップカルチャー(アニメやeスポーツ、ゲーム、マンガなど)に親しんでもらえた結果と言える。将来の日本とアフリカのさまざまな連携の下地になり、ビジネスの共創を生み出す種となることが期待できる。日本企業の戦略として、現地若者の関心を探ることも重要だ(特集「アフリカにおける日本のポップカルチャーの可能性を探る」も参照)。
また特集「アフリカでのビジネス事例」では、アフリカ市場に取り組む日本企業の工夫が垣間見える。この特集では、アフリカでのビジネスを進めるヒントとして、(1)多様なパートナーとの協業連携、(2)対象領域の選定と市場の分散化、(3)品質や信頼性の価値を差別化、(4)中長期の目線で需要をつくる取り組みを紹介する。
ヘルスケア分野で、多様なパートナーと協業・連携
近年、アフリカのヘルスケア分野に注目が集まっている。関心を示すのは、大企業からスタートアップ、ベンチャーキャピタルなどまで多岐にわたる。
当該産業は、国ごとに規制が異なる分野の最たるものだ。製品開発からサービス展開に至るまで円滑に進めるには、現地市場を熟知するパートナーとうまく連携していくことが極めて重要だろう。丸紅、日本光電、スパイカー(フェムテックのスタートアップ)などの事例から、多様なパートナーと協業・連携している事実が見えてきた。具体的には、(1)世界保健機関(WHO)など国際機関との連携、(2)現地に根差す在アフリカ印僑への出資、(3)進出先で多国籍のエンジニアを活用した例、などがあった。
なお、アフリカでは、病院や医師が不足する中で、遠隔医療を活用する動きもある。今やヘルスケア事業が売上高の約6割を占める富士フィルムは、電源がない環境でも使える携帯型X線撮影装置によって結核検診の遠隔医療を届けている。
対象領域を選び市場の分散化を
安定した経済環境は、基本的に事業活動の前提条件になる。もっとも、国内紛争や債務不履行などがあっても、経済活動が消えてなくなるわけではないが、分散という発想も有益だ。
こうした考えから、マクロ経済環境が悪くても、常に生き残る企業や成長する現地の企業がある。現地の企業は、外資・地場資本、さらに印僑やシリア・レバノン系などさまざまだ。さらに、近隣諸国にも進出する動きもある。近年、各商社がアフリカで食肉や即席麺などの食品事業に取り組み、スーパーマーケットの運営に乗り出しているのは、今後の人口動態を背景に、ライフスタイルの変化も見据えた対象領域を見定めた上での取り組みだ。
双日は、鉱物資源の多い南アで現地企業と協力し、古くからフェロクロムを生産してきた。近年では、人口急増が続くナイジェリアで英国投資会社と協力してエネルギー供給。同じく人口増加が続くケニアでタイ企業と協力して即席麺を展開している。これらの展開から、パートナー選定とあわせて、対象領域の選定と市場の分散化の重要さも読み取れる。
品質や信頼性の価値を差別化
日本企業は、製品やサービスの品質や信頼性などを磨いてきた。そうした価値を差別化して展開する企業もある。
代表例は、荏原ポンプで、高い効率性やメンテナンスのしやすさなどが強みだ。ケニアでは深井戸ポンプや産業用ポンプを扱い、自社でも在庫をもって最短当日に納品し、アフターサービスまで一貫して提供している。同じくケニアで、商船三井は倉庫業を始めた。倉庫管理システムの運用に加え、ほこりが発生しにくい床の加工など、荷物管理にまつわる細かなニーズをすくい上げた。倉庫に詳しい顧客から評価を受け、うわさや口コミで顧客を広げている。NECも、歴史的な「日本企業への信頼」や技術の高さへの評価が、中東・アフリカ地域で特に大きい、と指摘する。
周知のとおり、日本の自動車メーカーも古くからアフリカでも品質と信頼を勝ち得ている。それを素地に、トヨタは南アで、日産はエジプトなどで、現地組立生産している。また、スズキがインドからアフリカ向けに自動車を輸出するほか、モロッコでは自動車部品など自動車関連企業の進出などが増えている(2024年7月1日付地域・分析レポート「自動車販売・生産、日本からの輸出動向(アフリカ)」参照)。
中長期の取り組みも重要
この特集では、中長期の目線で需要をつくる取り組みも紹介。例えば、(1)エプソン(教育現場で双方向型教育を提案することなどを通じて、プリンターやプロジェクター導入を働きかけ)、(2)カシオ(関数電卓のための教材作成と教員への訓練を提供しつつ、現地化した仕様でナイジェリアの州政府から推奨を受けて拡販)、(3)ヤマハ(エジプトの公立学校で音楽や楽器の楽しさを伝え、教育活動を展開)といった例がある。
また、日置電気(電気計測器の専門メーカー)は、「マーケットが成熟してから参入するのでは後れを取る可能性がある」と指摘した。既に競合他社がアフリカに進出しているためだ。アフリカでの具体的な成果を創出するまでには、数年を見込む。それを踏まえ、「中長期的な視点での取り組みが必要と認識している」という。
こうした事例は、日本企業がアフリカでのビジネス展開を考えるヒントのほんの一部だ。日本では、日常的にアフリカの経済、産業、市場や企業の情報に触れられる機会は限られ、ましてや座したまま商談が望める環境にはない。ジェトロでは、TICAD9を特別な機会ととらえ、日本とアフリカのビジネス関係者の共創を促す目的で、「TICAD Business Expo and Conference(TBEC)」を開催する。
アフリカ側も日本との連携に期待、通商環境に不確実性高く
アフリカ諸国は他地域と比べ、外生ショックに脆弱(ぜいじゃく)だ。例えば、米国の相互関税や米中経済摩擦、ロシアによるウクライナ侵攻、中東情勢の緊迫などの打撃は大きい。全体として、産業が必ずしも期待されるペースでは多角化できてなく、労働人口の増加に対して雇用も不足している。こうした状況に対処するためにも、アフリカ各国政府は、産業の発展を通じた経済的な自立や経済の強靭(きょうじん)化に向けて、取り組む意思を示している。
世界の通商環境が絶え間なく変化する中、アフリカ諸国も対応を迫られている。日本も、より複雑で不確実性の高い通商環境の変化に対応していかなければならない。また、日本もアフリカも同様に、経済的な威圧は望んでいない。いわば両国・地域は志を同じくする仲間で、輸出先を多角化する必要性に迫られている点も共通している。自由で公正な通商環境を維持・発展させながらも、地政学リスクに起因するサプライチェーンの途絶の可能性を回避することも重要だ。
これらの対応には、志を同じくする国・地域の連携とあわせて、多様な市場に足場を置くことも必要だ。いわゆるポートフォリオ管理の発想とも言えるだろう。例えば、日本酒の販路開拓に取り組んでいる岩手県の酒蔵「南部美人」は目下、関税などで米国への輸出減少を見込まざるを得ない。これを取り返すため、アフリカへの販路拡大は「時間をかける」のではなく、「急ぐ」必要が出てきたと認識。「ある程度のリスクを負いながらでも進めなければならない」とジェトロに語った。
主要国企業のアフリカへの展開も注視、連携の可能性あり
日本のアフリカ向け輸出は、自動車や船舶、鉄鋼製品が主体。輸入では、プラチナなどの偏在する鉱物資源が中心だ。投資も、自動車生産や金属資源加工などが牽引してきた。また貿易相手国には、偏りがある。輸出入いずれも、南アなど一部の国ばかりが大きい。
日本企業が伝統的に重視してきたのは、北米市場だ。また中国やアジア諸国では、生産移管を伴いながら市場開拓を進めてきた。石油・天然ガス、鉄鉱石、あるいはその他の金属資源の調達は長期契約を見通せる安定的な供給元が中東やアジアなどだった。
前述のとおり、アフリカ展開にはパートナーが重要になる。そして、アフリカ現地企業のみならず、第三国企業と連携してアフリカ展開する方法もある。例えば、豊田通商はフランスの商社CFAOに出資し、アフリカ展開を加速している。ジェトロの進出日系企業実態調査を見ると、パートナー候補として、フランスやインド、アラブ首長国連邦(UAE)、中国などの企業と答えた割合が高い。一方で、同調査では地場企業のほか、中国や欧州など第三国企業は、進出先市場での競争力が高いとの回答もあり、競合にもなりえる。第三国企業のアフリカ展開や世界主要国政府の動きは、特集「「次のフロンティア」アフリカを巡る世界各国・地域の動向」も参考になる。
アフリカで足踏みする日本企業に対して、もっと「懐に入り込め」とのメッセージを出すアフリカ現地企業もある。一方で、アフリカに粘り強く取り組み、厚い壁に穴をあけて成功に至った企業もある。日本企業の事例から成功の秘訣(ひけつ)を読みとくと、「今ある現地ニーズにあわせて日本品質を売り込む」「所得向上で生まれる新しい需要をとらえて売り込む」「現地の環境にあわせて製品をローカライズして売り込む」「自ら市場を創出して売り込む」といったポイントなどを挙げることができる。
アフリカには、なおも貧困のイメージがついて回る。まだ市場について認識が薄く、ビジネスベースで取り組むことを想定しない企業が多いのも実情だ。TICAD9を契機に、アフリカ市場での魅力が広まり、日本企業のアフリカでさらにビジネスが拡大していくことを期待したい。

- 執筆者紹介
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ジェトロ企画部海外地域戦略主幹(アフリカ)
関 隆夫(せき たかお) - 2003年、ジェトロ入構。中東アフリカ課、ジェトロ・ナイロビ事務所、ジェトロ名古屋などを経て、2016年3月からアディスアベバ事務所立ち上げのため赴任。2022年9月から現職。

- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部中東アフリカ課 課長代理
井澤 壌士(いざわ じょうじ) - 2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課、ジェトロ北海道、ジェトロ・カイロ事務所を経て、現職。中東・アフリカ地域の調査・情報提供を担当。