アフリカでのビジネス事例技術と品質で販路開拓
アフリカ市場に挑む日本の中小企業(後編)
2025年10月30日
第9回アフリカ開発会議(TICAD9)のテーマ別イベントとして開催された「TICAD Business Expo & Conference(TBEC)」の「Japan Fair」では、全出展者194社・団体のうち106社が日本の中小企業だった。前編に続く本稿では、これからアフリカ市場に挑戦する4社の取り組みを紹介する。
技術力を強みに環境問題の解決に挑む
千葉県市川市の平和化学工業所の展示ブースには、たくさんのボトルサンプルが並び、同社は足を止めたアフリカなどからの来客への対応に追われていた。同社は、廃棄物として扱われるもみ殻や木粉、卵殻などを原料とするバイオマスプラスチックや生分解性プラスチックなど、環境に配慮した素材でボトルを設計・製造している。
同社製品は原料に植物由来の廃棄物を活用するため、石油由来のプラスチック削減に貢献できる点に強みがある。植物本来が持つ優しい手触りも特徴となっている。

常務取締役の畠山治昌氏は、「アフリカにはルワンダや南アフリカ共和国などプラスチック使用に関して厳しい規制を設けている国があり、市場性を見込んでいる」という。同氏はアフリカでの合弁会社設立を視野に入れて、「アフリカの若者の産業人材育成イニシアチブ(ABEイニシアチブ)」を活用して、ルワンダやウガンダ、ケニアなどの人材育成や、将来の現地ネットワークの強化に取り組んでいる。現地政府や企業との将来的な関係構築も見据えた先行投資だ。アフリカでビジネスを今後推進するに当たり、資金調達や現地ニーズを把握するためのフィージビリティースタディーが必要と話す。
日本原料(神奈川県川崎市川崎区)は、高品質のろ過材(ろ過砂)と、ろ過材の洗浄技術を搭載した浄水装置の製造・販売・工事を行っている。上水道施設や緊急災害時の復旧活動で利用される可搬式浄水装置、製造業向けの工場用浄水装置などだ。日本国内にある浄水場の8割以上で同社のろ過砂が導入されている。
同社の武器はろ過砂の洗浄技術だ。従来、汚れた際に廃棄されてきた浄水用のろ過砂を水と物理の力だけで洗浄し、新砂と同じレベルにまでよみがえらせ、再利用可能とする。この技術力を武器に、海外展開にも積極的で、2000年代から輸出先の開拓に取り組んでいる。同社取締役副社長の江嶋洋氏は「グローバリゼーションの波に取り残されないために、海外展開という新しい挑戦が必要だ」と語る。
アフリカをはじめとするフロンティア市場への進出に当たっての課題は「価格設定」だ。同社の浄水装置は特に新興国では高価なため、進出に当たっては価格帯の検討が必要だが、ろ過材や浄水装置は日本だけでなく、外国にも競合の少ないニッチな製品だ。加えて、同社は技術力で受注先の異なるニーズに対応できるという大きな強みがある。江嶋氏は「価格を下げるのではなく、あくまで商品の付加価値を高めることで、今後の実績につなげていきたい」と、今後のフロンティア市場での販路開拓に意欲を示す。
品質訴求でフロンティア市場開拓
エイト(大阪市生野区)は、六角レンチなどの各種作業工具を製造・販売している。自動車、鉱工業、航空・宇宙、スマートフォンなどの電子機器・部品、医療と、その供給用途は幅広い。
40カ国を超える国々に輸出しているものの、営業部海外営業課長の吉川友朗氏は「地政学リスクなどを勘案し、空白地帯のアフリカや中央アジア、中南米、欧州地域の開拓が急務」とする。これら地域には日本製の作業工具がまだ浸透しておらず、先手を打つことが重要だ。中でもアフリカを成長可能性の大きいフロンティア市場と位置づけ、重点的に取り組む。50年以上取引のある南アフリカ共和国の総代理店を中心に、まずは南部アフリカ地域を面で捉え、供給体制の確立を狙う。2025年に入りザンビアの地場企業への販売交渉が成約し、アフリカでの販路開拓の第一歩となった。
アフリカ市場では安価な中国製品に加え、同社製品と価格帯が重なる台湾製や欧州製の作業工具も広く流通している。欧州は日本に比して経済連携協定(EPA)交渉で先行しており、日本製には15%の関税がかかる点で不利な面はあるが、品質への理解が進めば、勝機はあると踏んでいる。
同様に、フロンティア市場としてアフリカに注目するのが、喜一工具(本社:大阪市西区)だ。海外開拓部海外販売促進課長の藤田将澄氏と、同課の早川謙治氏は「市場の規模が大きくて高度化が先行している南アフリカ共和国やナイジェリア、ケニアを重点としたい」と語る。
同社はプライヤーやペンチなどの作業工具を中心に、国内外の機械工具の卸販売と輸出入を手がける。北米、東南アジアなど幅広く海外展開を進めている。今新たに挑戦するのが、アフリカや中東の市場だ。主に電気・配管工事向けの作業工具を扱う卸会社や、関連の小売店が商談相手となる。
同社の海外展開では、性能面で差別化を図り、廉価な製品の代替財として市場獲得を目指す。例えば、ペンチでは、切断に必要となる力や切削断面の仕上がりで、同社製は中国製より明らかに優れているため、その点を訴求していく。一方で、アフリカ市場の開拓に向けては、情報収集の難しさも課題だ。両氏は特に販売チャネルや競合他社の状況が不透明だという。今後、市場調査と現地ニーズの把握を行い、アフリカ市場での事業展開を本格化させる方針だ。

アフリカ市場の特徴を営業に活用
シーエフワイヤーロープ(大阪府泉佐野市)は、アフリカについて着実な経済発展に伴って建設事業が広がる可能性の大きい市場とみている。最終的にはアフリカ全域でのビジネス展開を視野に入れつつ、まずはケニア、タンザニア、セネガル、コンゴ民主共和国(DRC)を目下の重点国とする。
代表取締役の中野弘祥氏と海外営業の清水彬博氏は、アフリカ訪問を通じて「価格と品質のバランスのみならず、人脈が重要視される市場だ」と、アフリカと他国・地域との違いを認識している。TBECでも、積極的にアフリカから訪日した政界やビジネス界の関係者と対話を重ね、ネットワークを広げた。
創業1970年の同社は、顧客の多様な用途にきめ細かく応じることを経営理念として、クレーンやエレベーター用などの各種ワイヤーロープの製造、販売、加工を行う。国内市場にとどまることなく、新型コロナウイルス禍の前から海外市場の獲得に挑戦している。海外展開ではどの市場でも安価な中国製品との闘いとなる。アフリカ市場では、品質の高さを理解してもらう策の1つとして、信頼関係に基づく人脈形成を目指す。ワイヤーロープは、長さや最低破断荷重(注)、端末加工など、用途に応じて製品の種類が多い。日本との距離が遠いアフリカでは、顧客のニーズに応えるための在庫配備でも工夫が必要だという。
TBECに参加した中小企業への聞き取りから、環境・都市問題や産業の高付加価値化など、アフリカが抱える社会課題の解決に、時には公的機関と連携して、ビジネスベースで貢献する試みがみえた。
ジェトロが実施したアフリカに進出する日系企業の実態調査「調査レポート『2024年度 海外進出日系企業実態調査(アフリカ編)』」で、「今後1~2年後の事業展開を拡大する」と回答した企業が挙げた理由で最も多かったのは、「現地市場ニーズの拡大」だった。独自の技術、品質、付加価値を強みに、市場ニーズに応えようとする取り組みがみられた。
アフリカの人材育成プログラムへの参画を契機に、アフリカ事業に取り組む企業もある。折しも、政府はTICAD9の横浜宣言で人材育成や日アフリカの若者の相互交流をうたっている。アフリカでの中小企業の円滑なビジネス展開に向けて、人的ネットワークの構築と活用は有効な手段といえよう。
ジェトロは海外展開を目指す全国の中堅・中小企業向けの伴走型個別支援(新輸出大国コンソーシアム)を年間約800社に提供している。今回話を聞いた企業もこのサービスを利用中だ。アフリカビジネスのノウハウや商材に精通する専門家がマンツーマンで海外展開を支援する。加えて、特にアフリカ地域向けには、現地コーディネーターと連携してマッチング支援を行うアフリカビジネスデスクのプログラムもある。ジェトロはアフリカに9つの拠点を有し、国内外の支援機関や、各国の政府機関ともネットワークを持つ。「Talk to JETRO First-アフリカでの市場開拓」に関心のある中堅・中小企業はまず最寄りのジェトロ事務所にコンタクトしてほしい。
- 注:
- 製品が破断するまでに耐えられる最低限の力
アフリカ市場に挑む日本の中小企業
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- 執筆者紹介
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ジェトロ海外展開支援部中堅中小企業課
溝田 聖真(みぞた しょうま) - 2020年、ジェトロ入構。国内事務所運営課、ジェトロ栃木を経て、2024年9月から現職。
- 執筆者紹介
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ジェトロ海外展開支援部中堅中小企業課
砂川 朝博(すながわ ともひろ) - 2025年、ジェトロ入構。
- 執筆者紹介
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ジェトロ海外展開支援部次長
小野澤 麻衣(おのざわ まい) - 1996年、ジェトロ入構。海外産業人材育成協会バンコク事務所、ジェトロ新潟事務所長、ジェトロ・クアラルンプール事務所長などを経て、2025年5月から現職。




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