アフリカでのビジネス事例スペースシフト、アフリカで衛星データ利用したビジネスに取り組む

2025年9月11日

アフリカでは、貧困や農業生産性、気候変動、災害、金融システム、インフラの未整備など、さまざまな課題がある。これらの課題に政府や国際機関が取り組むほか、衛星データの活用などで解決を目指す民間企業もある。2025年4月にはアフリカ連合(AU)の長期的な開発ビジョン「アジェンダ2063」に基づき、エジプトのカイロでアフリカ宇宙庁(AfSA)が正式に発足し、宇宙技術活用の機運も高まっている。

2025年8月に横浜市で開催された第9回アフリカ開発会議(TICAD9)でも、宇宙や衛星関連のイベントが複数開催された。また、アフリカの各国企業や省庁と日本の宇宙・衛星関連企業などとの協力覚書(MOU)も交わされた。

TICAD9にあわせてMOUを締結し、ジェトロ主催のビジネスイベント「TICAD Business Expo & Conference(TBEC)」(2025年8月27日付ビジネス短信参照)にも出展したスペースシフト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(東京都千代田区)の代表取締役兼最高経営責任者(CEO)の金本成生氏に話を聞いた(取材日:2025年8月21日)。


スペースシフトの金本CEO(ジェトロ撮影)
質問:
会社概要は。
答え:
2009年に設立した、衛星データ解析システムの開発や衛星データ解析業務を行う会社だ。「Sense the Unseen from Orbit (地球上のあらゆる変化を認識可能に)」をテーマに、地球観測衛星から得られたデータをAI(人工知能)で解析するソフトウエアの開発を行っている。農業モニタリングや、インフラ管理、防災・減災、環境保全などの分野に衛星データを活用している。
質問:
海外での活動状況は。なぜアフリカに取り組むのか。
答え:
欧州では環境保全や気候変動対策などで衛星データ利用が進んでおり、米国では安全保障で大きい市場がある。一方、欧米には独自の技術を持つ企業があるほか、現地企業のプレゼンスが強い。このような中、アフリカ大陸は圧倒的に広く、他の国もまだ本格的には動いていないため、取り組む余地がある。
なお、われわれの売り上げの9割は日本市場だ。日本は技術拠点として良い環境が整っている。日本では衛星データ活用が進む一方、既にインフラが整備されているため、実際には簡単に公共交通機関でアクセス可能な場所も多い。
この点、アフリカは公共交通機関や道路などのインフラが未整備だ。また、広大な畑、サバンナ、ジャングル、砂漠など、アクセスが難しい場所も多い。
さらに、アフリカには社会課題が多く、衛星データとAIを利用したサービスにニーズがあると考える。
質問:
アフリカに取り組むきっかけは。取り組んでいる国は。
答え:
ナイジェリアで一緒に取り組むパートナーに偶然巡り合った。ナイジェリアでは3年前から農家向けのマイクロファイナンスに、日系スタートアップのスタンデージと一緒に取り組んでいる。なお、ナイジェリア展開の際には、経済産業省のグローバルサウス未来志向型共創等事業の支援を活用した。
アフリカで遠隔地の状況を知りたいときに、衛星データで見るとわかる情報もある。さらに、過去数年間をさかのぼれる。これにより、特定の畑について、実際に耕しているか、収穫ができていそうかなどの状況がわかる。もちろん、作物の品質などは実際に見ないとわからないが、現地確認や信用調査のコストを大きく削減する。アフリカの衛星データは無料で提供されており、それにAIをかけ合わせて、パートナーと信用スコアの計算を試みている。
同じくナイジェリアでは、トラクターのレンタル事業を営むハロートラクター(Hello Tractor Inc.)とTICAD9を機にMOUを締結した。どこにトラクターの需要が生まれそうか、衛星データによる収穫量や時期の予測結果を活用する。モロッコでは、政府の衛星データの需要を聞いた際、政府にパートナー候補につないでもらった。
また、アフリカ宇宙庁が創設された際に、エジプトにも出張した。さまざまなタイミングがあり、アフリカ各国で取り組みを始め、複数の国での展開を検討している。
質問:
TICADでのMOUの締結内容は。
答え:
今回、MOUを締結した持続可能な航空燃料(SAF)事業者のSatarem Americaとは、脱炭素の流れを受けて、SAFの原料となるキャッサバなどの農作物の安定供給に貢献する。コートジボワールなどの広大な農園での農作物の育成ステージや収穫状況について、衛星データを活用して解析する。
もう1件のMOUについては、先に述べたアフリカの農家にトラクターを提供しているHello Tractorと、農作物の収穫予測で協力する。さらに、収穫予測データを基に、トラクターの最適な納入時期や納入場所を判断し、農作業の機械化と収穫量の向上を図る。ナイジェリアを最初の対象地とし、その後、Hello Tractorが事業を実施している他のアフリカ諸国へ展開する。
参考:2025年8月27日付スペースシフトのプレスリリース
スペースシフト、TICAD9において署名文書披露式典に登壇-アフリカ諸国での衛星データ利活用ビジネスを加速-外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

MOUの締結披露式(ジェトロ撮影)
質問:
アフリカでの課題は。
答え:
補助金などの活用ではなく、現地企業や金融機関など民間の資金を動かしてビジネスを実施していけるかという点だ。また、アフリカも国によって状況は異なるが、ビジネス環境にも不安がある。契約書を交わしても契約書どおりにはうまくいかないなどの例もある。商習慣の違いもある。他の長年の経験を蓄積している日本企業もあるので、話を聞いて勉強していきたい。
質問:
アフリカでのビジネスに当たっての利点は。
答え:
やってみて気づいたことは、政府や社会が新しい技術を使うことに寛容であることだ。農業でもスマート農業が受け入れられやすく、スピーディーに普及する可能性がある。規制や市場がまっさらな状況のため、新たな仕組みを作れるという魅力もある。日本は軍事的なしがらみが少ないため、相手国政府としても、日本や日本企業と宇宙分野で一緒に取り組みやすいと考える。
質問:
今後の方向性は。
答え:
今後もパートナーとアフリカでの可能性と機会を探っている。ITシステムなどの代理店のように展開していくかたちも検討している。政府向けも機会があれば狙うが、基本はビジネスベースを狙っている。
TICAD9でアフリカの衛星データやAIの利用促進を支援するとの表明が出ている点は歓迎だ。TICADでのビジネスイベントや展示会など今後も開催してほしい。今回、アフリカ各国の省庁担当者や大臣などリテラシーが高い人々も集まっている印象で、さまざまな人に会えた。
また、TICAD9に合わせて、宇宙・衛星関連イベントがさまざまな企業や団体によって複数開催されている(2025年8月25日付ビジネス短信参照)。アフリカはまだこれからの市場だ。宇宙衛星関連の日本企業と競争というよりも、日本とアフリカの企業、団体、省庁と一緒に、TICAD9のテーマにもある「共創」をして、アフリカ市場を開拓していきたい。

執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課 課長代理
井澤 壌士(いざわ じょうじ)
2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課、ジェトロ北海道、ジェトロ・カイロ事務所を経て、現職。中東・アフリカ地域の調査・情報提供を担当。

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