アフリカでのビジネス事例中東・アフリカからバイオ燃料の国際サプライチェーンを支える(エジプト)
SAFにも活用、廃食油を資源へ
2025年11月14日
バイオ燃料のサプライチェーンが過渡期を迎えている。エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によれば、もともとバイオ燃料は「地産地消」の色が濃かったが、化石燃料の代替エネルギーとしてバイオ燃料の商品価値が上がり、「国際コモディティー」に変容しつつあるという。特に脱炭素化が困難な航空機や大型トラックの燃料として、持続可能な航空燃料(SAF)やバイオディーゼルの利用が拡大している。SAFやバイオディーゼルは、ヤシや菜種などの植物油、もしくは廃食油が原料となる。しかし、食料市況への影響、また価格の面から廃食油を利用するケースが多い。一方、廃食油には効率的なサプライチェーンの構築が難しい、調達量に限りがあるといった課題もある。
2013年に創業したTAGADDOD
は、廃食油の収集・国際取引を手掛けるエジプト発のスタートアップだ。バイオ燃料の原料として需要が高まる廃食油のサプライチェーン拡充ニーズを背景に、2025年9月には2,630万ドルのシリーズAの資金調達成功を発表した。この資金調達ラウンドは中東産油国が設立した、エネルギー分野に特化した多国間ファンドのアラブ・エネルギー基金(The Arab Energy Fund)が主導し、オランダ起業開発銀行(FMO)、Verod-Kepple Africa Ventures〔VKAV、アフリカのベンチャーキャピタル(VC)ファンド〕、A15 Ventures(エジプトのVCファンド)が参画した。
ジェトロはTAGADDOD
の共同創業者兼最高経営責任者(CEO)のヌール・エルアサール氏に、同社のビジネスおよび今後の展望について話を聞いた(取材日:2025年10月26日)。
- 質問:
- 事業概要は。
- 答え:
- 廃食油や獣脂などの再生可能原料を供給している。我々の市場価値は安定的で追跡可能な原料供給網により、バリューチェーンを支えることである。エジプトのほか、ヨルダン、サウジアラビア、オランダに拠点があり、実施している事業は国・地域によって異なるが、廃食油など原料の収集、取引、貯蔵を行っている。廃食油については収集したものの販売だけでなく、アジアや米国を含む世界各地での国際取引も手掛けている。廃食油など原料の販売先はSAFやバイオディーゼルの製造業者や石油メジャーなどで、輸出がメインだが、エジプトにもパートナーがいる。
- エジプトとヨルダンにおいては、一般家庭および飲食店・ホテルなどからの廃食油収集事業がメインで、自社の収集網のほかに、他の収集業者とも協業している。廃食油の提供者には、アプリケーションを通じて現金還元、新しい食用油やその他日用品の提供といったインセンティブを設けている。一般家庭については、一部の家庭ではインセンティブの代わりに「寄付」という選択肢がとられているが、1カ月に2万世帯ほどから回収が実現している。飲食店・ホテルなどの事業者に対しては、現金還元が強力なインセンティブとして働いている。
- 収集の最適化および拡大のため、人工知能(AI)を用いたデジタルプラットフォームを構築している。事業拡大と同じくらい大切なのが、ユニット・エコノミクス(1ユーザーあたりの採算性)を確保することで、この査定にもAIを活用している。収集業者にとっての課題は、事業拡大のために新たな土地で先行投資が必要なことだ。我々はデジタル化により先行投資を最小化して、採算性を確保している。
- 質問:
- 創業の経緯は。
- 答え:
- エジプトのカイロ大学で石油工学を学んでいた時に、エジプトのアクセラレーターであるFlat6Labs(注1)が来校し、交流の機会があった。Flat6Labsに、卒業プロジェクトをベースとした廃食油再利用の事業アイデアを説明したところ評価され、1万ドルの出資を受けたのが創業の経緯だ。
-
「廃棄物を資源に変える」という点をビジネスチャンスと捉えた。2016年に、国際民間航空のためのカーボンオフセットおよび削減スキーム〔CORSIA
(注2)〕の詳細が策定され、SAFの利用が国際的に推進されるようになった。技術革新により、様々な原料からSAFが製造できるようになったが、なお原料不足が課題で、安定的な供給源へのニーズが高まっている。バイオディーゼルについても、2018年にEUで再生可能エネルギー指令(RED)IIが採択され、食料や飼料に使用される資源作物を利用するバイオディーゼルの混合上限が7%と定められた。また、これに呼応して、ISCC(国際持続可能性・炭素認証)の温室効果ガス(GHG)削減基準が強化され、バイオ燃料分野での認証制度として重要になった。このような背景から、国際展開を志向するようになるとともに、石油メジャーをはじめとする国内外の投資家から注目されるようになった。
- 質問:
- エジプトでのSAF関連の取り組みについて。
- 答え:
- 2024年にエジプトの国営SAF製造業者として創立したESAFに対して、原料供給やマーケティングのサポートを行い、エジプトにおけるSAF普及拡大に貢献している。エジプトの国営航空会社としてエジプト航空もSAF導入義務を負っており、このイニシアチブを当社としてもサポートしている。現在、EUの規制によりエジプト航空は一部SAFを利用しているが、エジプト産のSAFではない。
- 現状ではEUの規制がもっとも確立されているが(注3)、日本をはじめSAF比率を2030年までに10%に引き上げる目標を掲げている国もある。SAFの導入拡大は国際的な政策になりつつある。ブック・アンド・クレーム方式(注4)により、航空事業者が直接カーボンクレジットを購入できるようになった。これらがエジプトでのSAF生産拡大の追い風にもなっている。
- 質問:
- 2025年9月に発表したシリーズA資金調達完了について。
- 答え:
- 2024年半ばから、シリーズA資金調達ラウンドを開始した。目的は、国内外での事業拡大と、技術基盤強化によるバリューチェーンの最適化、より自律的な食廃油収集モデルの確立だ。これにより、収集パートナーに対しても、オフテイク(供給取引)の確約、ファイナンス支援、ノウハウ提供などサポートを強化する。
- 質問:
- 将来の展望は。
- 答え:
- 廃食油を燃料に転換する前の事前処理を、自社で行うことを検討している。また、技術革新により、収集に関する温室効果ガス排出を低減できると考えている。さらなるパートナーシップや投資により、国際的にも事業を拡大したい。日本企業との協業可能性も高いと思っており、エジプト企業との協業による地域展開や米州への展開も検討している。「適切な場所に適切な時期に展開する」のが重要と考えており、アジア、中東・北アフリカ(MENA)地域が目下のターゲット市場だ。
- 注1:
- MENA地域最大のアクセラレーター兼アーリーステージ投資ファンド(2019年7月12日付地域・分析レポート参照)。
- 注2:
- ICAO(国際民間航空機関)が定めた、国際航空による二酸化炭素(CO2)排出量を2020年以降増加させないことを目指す制度。SAFの導入、新技術の活用、運航改善、カーボンクレジットによるオフセットを達成手段として定めているが、SAFがもっとも効果的な手段として位置づけられている。2016年に合意され、2017年に詳細が策定された。
- 注3:
-
EUは2023年4月にReFuelEU Aviation
を採択し、域内の空港で供給される航空燃料について、SAFを2025年から2%以上混合することを義務付けている。
- 注4:
- SAF製造への投資促進、製造加速化を目的として、SAFの環境属性のみを切り離し、貨物運送事業者や荷主メーカーなどが直接、その環境属性を購入できるもの。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・カイロ事務所
塩川 裕子(しおかわ ゆうこ) - 2016年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ富山、企画部(中東担当)を経て2022年7月から現職。




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