アフリカでのビジネス事例甲殻類の殻をアップサイクルするチュニジアスタートアップ
2026年7月13日
欧州最大級のオープン・イノベーションとスタートアップの展示会「ビバ・テクノロジー2026」が、6月17日~20日にパリで開催された。会場には、アフリカのテック・エコシステムに焦点を当てる特設コーナー「アフリカ・テック」が設けられ、アフリカ地域のスタートアップ企業が出展した。その中で、海外展開を視野に入れたものづくり系スタートアップとして注目されるのが、チュニジアの「キテリックス(CHITELIX)」だ。
同社は甲殻類加工から生じる副産物をアップサイクル(注1)し、キチン(注2)やキトサン(注3)などの高付加価値バイオポリマー、さらに食品・農業分野向けの機能性成分を製造している。ビバ・テクノロジー2026においては、社会・環境課題の解決に資する技術系スタートアップとして「Tech for Change」企業にノミネートされている。
同社の共同創設者兼最高執行責任者(COO)のカイス・アウアイエブ氏(Kais Aouaieb)に話を聞いた(取材日:2026年6月17日)。
- 質問:
- 創業の経緯と現在の事業は。
- 答え:
- チュニジアでは毎年5,200トン以上のブルークラブ(ワタリガニの一種)の産業廃棄物(殻)が発生しており、深刻な環境問題を引き起こしている。キテリックスは、こうした廃棄物を資源と捉え、持続可能で環境に優しい製品へと転換する循環型経済モデルを構築することで、環境負荷の軽減と資源の有効活用、そして社会的・環境的価値の創出を目指して設立した。
- 2022年に研究室レベルでの実験を開始し有効な成果を得た後、チュニジア北部ビゼルトの食品産業クラスター内にあるパイロット工場で、ブルークラブやエビの廃棄物からキトサンとクエン酸カルシウムの生産を開始した。こうした実績が評価され、チュニジアのスタートアップ法に基づくラベル認証(2019年7月12日付地域・分析レポート参照)を取得し、2024年4月に法人登録をした。これまでにチュニジアのベンチャーキャピタルであるエスティービー・インベスト(STB Invest)、エスティービー・マネージャー(STB Manager)、ビーエイチ・エクイティ(BH EQUITY)から、合計120万ドルの資金調達に成功している。原料1トンから約150キログラムのキトサンが抽出可能で、現在は主に農業資材や化粧品原料として供給している。持続可能なバイオポリマーおよび機能性原料への需要拡大に応え、今後も事業を拡大していく考えだ。
-

キテリックス共同創設者兼COOのカイス・アウアイエブ氏(ジェトロ撮影) - 質問:
- どの分野に注力しているか。
- 答え:
- キトサンはさまざまな産業分野で幅広い用途に活用できる。農業、水処理、食品・飲料、医薬品・化粧品、バイオテクノロジー・生物医学、バイオマテリアルなど幅広い分野で1,200種類以上の用途があり、合成化学成分に代わる次世代の代替品、石油系プラスチックの代替材料として注目されている。
- さまざまな用途がある中で、現在事業の柱としているのは、農業分野と化粧品分野の2つだ。農業分野ではカルシウムや各種栄養素を豊富に含む製品を展開しており、輸出に向けた認証取得を進めている。化粧品分野では、しわの軽減や創傷治癒の促進、皮膚・毛髪ケアに用いる有効成分をキトサンから開発している。さらにバイオプラスチックや高吸水性ポリマーの開発にも取り組んでおり、将来的には紙おむつ用の化学材料や水処理用薬品の代替となる、持続可能な素材の実用化を目指している。
-

同社製品(ジェトロ撮影) - 質問:
- どのような企業・機関と連携しているか。
- 答え:
- 資源回収の面では、カニやエビの加工を行う現地および外資企業と提携している。研究開発の面では、チュニジアのパスツール研究所(IPT)や国立農業研究所(INRAT)などの研究機関、農業生産者に加え、フランス、モロッコ、マレーシア、タイ、オーストラリア、カナダ、韓国のパートナーとも連携を進めている。当社は20名のスタッフで構成されており、その多くがエンジニアや博士課程修了者だ。チームの過半数を女性が占めており、これは当社が掲げる包摂的(インクルーシブ)なイノベーションの理念を反映している。また、農業分野でのキトサン活用を促進するため、チュニジア最北部のビゼルトや、首都チュニスに隣接する北東部のボン岬およびベン・アルースの各地域で、農家向けの啓発活動も実施している。
- 質問:
- 競合他社と比較したときの貴社の強みは。
- 答え:
- チュニジアでキトサンを製造することで、原材料費がほぼゼロに抑えられ、人件費も安価なため、採算が取りやすいことが強みだ。欧州市場への展開を見据え、欧州基準を満たす高品質な製品づくりに取り組んでいる点も強みといえる。製造過程での環境配慮を含め、持続可能な産業の創出という当社の理念に共感する投資家も多い。日本企業や投資家とのパートナーシップにも強い関心を持っている。
- 執筆者紹介
-
ジェトロ ・パリ事務所
渡辺レスパード智子(わたなべ・レスパード・ともこ) - ジェトロ・パリ事務所に2000年から勤務。アフリカデスク調査担当としてフランス及びフランス語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種調査・情報発信を行う。





閉じる





