アフリカでのビジネス事例進出欧州企業に聞く
ニューフロンティア、モーリタニア(1)
2025年6月3日
日本ではまだ、アフリカ諸国の中で知名度が低いモーリタニアだが、近年の政局安定、サヘル地域で数少ない安定した治安、2025~2027年の平均GDP成長率が5.1%と予想(世界銀行)される堅実な経済成長を背景に、アフリカにおけるニューフロンティアとして注目されている。2022年以降、欧州を中心にモーリタニアにおけるグリーン水素開発に関心が高まる中(2024年4月8日付地域・分析レポート参照)、2025年2月17日に、同国のモハメド・ウルドモハメド・マラニン・ウルド・ハレド・エネルギー・石油相とデンマークのグリーンゴー・エナジーのカールステン・ニールセン最高経営責任者(CEO)との間で、「メガトン・ムーン・グリーン水素変換プロジェクト」開発のためのモーリタニアの首都ヌアクショット近郊の土地利用契約が締結された。
モーリタニアの現状を紹介する連載第1弾は、グリーンゴー・エナジーPower-to-X(注1)・洋上風力プロジェクト主任のアンダース・ヘイネ・イェンセン氏との上記プロジェクトに関する取材を紹介する。同社のビジネスモデル、プロジェクトの展望、モーリタニアを選択した理由、日本企業との連携の可能性などについて聞いた(取材日:2025年4月14日)。

- 質問:
- グリーンゴー・エナジーとメガトン・ムーン・グリーン水素変換プロジェクトの概要は。
- 答え:
- デンマークで2011年に創立されたグリーンゴー・エナジー(以下GGE)は現在、130人の従業員を抱え、デンマーク、スウェーデン、フランス、ドイツ、ポーランド、バルト諸国で事業を展開し、これまで契約に基づき6.5ギガワット(GW)以上の電力を販売してきた。また、過去7年間、米国南東部でも再生可能エネルギープロジェクトに取り組んでいる。特にアフリカ大陸において高い潜在性を持つと考えられる分野は、バッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)(注2)と太陽光発電であると考える。
- モーリタニアのメガトン・ムーン・プロジェクトは、太陽光、風力、蓄電池、そしてPower-to-Xの4つを開発するもの。2031~2033 年の間に、市場の需要とサプライチェーンの状況との整合性を確保しつつ、段階的に拡張する。第1フェーズは2031年末の完成を予定しており、500メガワット(MW)の電気分解、600MWの陸上風力発電、600メガワットピーク(MWp)の太陽光発電を導入し、年間約33万9,000トンのグリーンアンモニアを生産予定だ。
- 質問:
- GGEのビジネスモデルは。
- 答え:
- GGEが適切なパートナー、すなわち潜在的な投資家や技術サプライヤーとの協業を積極的に進める。GGEは、構想から開発、建設および運用の管理まで、プロジェクトの様々な側面を担うことができる。通常、25~75人のエクイティパートナーが参画することを希望しており、個人投資家や投資家コンソーシアムとの協業も積極的に行っている。
- 質問:
- メガトン・ムーン・プロジェクトの進捗状況は。
- 答え:
- 2025年2月、GGEとモーリタニア政府は、GGEにグリーン水素プロジェクト開発のライセンスを付与する最終譲許契約を締結した。プロジェクト用地は11万3,000ヘクタールに及ぶ。モーリタニア政府と共同で、2年をかけて選定した。プロジェクト用地は、モーリタニアのグリーン水素法(注3)に準拠しており、ヌアクショット港にも比較的近い場所に位置している。この施設は、グリーンアンモニアとグリーン水素の工場として機能する予定だ。GGEはまず、2年間の土地リース契約を締結している。この用地は当初、研究開発目的に使用され、実施段階において、さらに5年間有効な建築許可を取得する。それぞれの用途について、30年と10年の延長オプションがある。
- 本プロジェクトは現在、共同開発者、サプライヤー、投資家の選定段階にあり、これまでに中国、インド、欧州、米国、中東の企業と協議を行ってきた。これまで日本企業と提携した経験はないが、グリーン燃料やその他製品の共同開発、供給、投資、または引き取りに関心のある企業があれば、ぜひ協議したい。本プロジェクトの条件は良好で、この地域の太陽光および風力資源は両方とも世界でも最高水準にあり、低コストでエネルギーを生成できる。太陽光および風力からグリーンアンモニアを生成し、最終的には輸出を目指している。グリーンアンモニアのコストは1トンあたり485ユーロと低く、アフリカの他国と比較して競争力がある。一方、GGEは現在、第1フェーズの代替案として、鉄鋼業界を対象としたグリーンHBI(ホットブリケットアイアン)(注4)オプションを検討している。予備的なフィージビリティー調査も実施しており、その結果は2025年5月に公表予定だ。同オプションでは、アンモニアのオプションよりも多額の投資額を要すると見られる。
- 質問:
- GGEはモーリタニアのメガトン・ムーン・プロジェクトの敷地内に淡水化プラントを建設する計画があるか。
- 答え:
- モーリタニアは、計画発電量の少なくとも10%に相当すると推定される余剰電力を活用したい意向を示している。GGEは、淡水化プラントの余剰電力を、家庭用水や砂漠での農業・養殖用の水製造に活用することを検討している。
- 質問:
- GGEは、モーリタニアにおける他のグリーン水素プロジェクトと比較して、どのようなポジショニングを取っているのか。
- 答え:
- GGEは既存のプロバイダーの製品と提案を調査・検討し、その結果に基づきニッチな製品の提供を目指している。これは、立地の選択、より少ない資源とターゲットを絞ったインフラでエネルギーを生産するという方針によって裏付けられている。ヌアクショットと港湾施設に近いため、建設段階の物流が容易になり、人材へのアクセスも容易であることで、競争上の優位性を高めている。
- 質問:
- なぜモーリタニアなのか。
- 答え:
- 欧州諸国など供給先への近さ、理想的な太陽光・風力エネルギー資源といった重要な基本条件がカギ。その点で、西アフリカは大きな優位性がある。さらに、モーリタニアは砂漠地帯で、大部分が平坦(へいたん)な土地であるため建設コストが低く、人口も少ないため、計画のための土地の確保が容易だ。また、国内で最大の労働市場であるヌアクショットにも近接している。戦力となる労働力を確保するため、職業訓練施設と契約を結んでいる。
- 質問:
- 国の安定性をどのように評価しているか。
- 答え:
- 官僚主義が比較的少なく、行政システムも、意思決定の迅速化が図られ、組織的かつ効率的であるとの印象を持っている。大規模な石油・ガスプロジェクトの承認手続きの経験も豊富だ。政治的にも安定しており、モハメド・ウルド・エルガズアニ大統領は2024年6月に再選された。モロッコと緊密な協力協定を締結しており、EUのグローバル・インパクト・プロセスの一環としてEUとも協力し、国家の安定性、行政システム・手続きの向上、そして地元住民の雇用創出に務めている。
- 注1:
- Power-to-X(PtX)は、エネルギー変換における革新的なアプローチ。PtXテクノロジーの核となるのは、再生可能電力を水素、合成燃料、化学物質、熱などの他の形態のエネルギーキャリアに変換すること。「X」は、産業、輸送、エネルギーの様々なニーズに合わせて多様な最終製品を生産できる柔軟性を表している。
- 注2:
- Battery Energy Storage Systemの略称。蓄電池と電力制御システムを組み合わせて電力系統に連系し、状況に応じて電力の貯蔵や放出を行うシステムのこと。太陽光発電や風力発電のように天候によって発電量が左右される分散型電源は、電力系統に連系した場合に出力が不安定になる。この不安定さを、蓄電池によって吸収または補うことで安定した出力として供給できるようにする。
- 注3:
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グリーン水素法2024-037号(フランス語)
(1.1MB)は2024年10月8日に発効。
- 注4:
- HBIは、天然ガス(CH4)を改質した還元ガスで鉄鉱石を直接還元して造る。すでに鉄鉱石を天然ガスや水素で還元した材料である「HBI」を、高炉へ投入する鉄鉱石に混ぜることで、還元剤として使うコークスの量を減らし、発生する二酸化炭素を通常の高炉に比べ抑えることができる。

- 執筆者紹介
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ジェトロ ・パリ事務所
渡辺レスパード智子(わたなべ・レスパード・ともこ) - ジェトロ・パリ事務所に2000年から勤務。アフリカデスク調査担当としてフランス及びフランス語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種調査・情報発信を行う。