アフリカでのビジネス事例グリーン水素部門強化
アルジェリア国営ソナトラック戦略方針(2)

2026年1月21日

アルジェリア国営炭化水素公社ソナトラックの取り組みを紹介する本連載の前編では、同社の炭化水素生産の現状と動向、国内生産能力拡大に向けた外国企業との連携強化、さらにアフリカ大陸での事業展開など、上流部門に関する取り組みを紹介した(「アルジェリア国営ソナトラック戦略方針(1)炭化水素生産能力強化」参照)。もっとも、上流部門への投資が今後どの程度成果を上げ、生産量の拡大による業績改善につながるかは依然として不透明である。後編となる本稿では、新たな商機の創出に直結する下流部門の石油化学分野における活動強化と、次世代資源であるグリーン水素分野における最新の取り組みに焦点を当てる。

精製・石油化学投資による下流部門生産拡大戦略

ソナトラックは中期開発計画の下、精製産業、石油化学、天然ガス液化産業の発展に向けて多額の投資をし、付加価値の高い下流部門の開発を加速させている。国内主要精製所は1970年代前後から稼働しているが、近年は精製施設の近代化および再整備のための投資を通じて、新規の建設に頼らず、既存の施設の生産能力の最大化に努めてきた。その結果、生産量は増加傾向を示している(図参照)。2024年における国内6つの製油所の総生産量は前年比4.1%増の3,040万トンを記録した。

図1:ソナトラックの石油精製製品生産量の推移
2023年は29.2(100万トン)、2024年は30.4(100万トン)。

出所:ソナトラック年間報告書統計を基にジェトロ作成

その結果、現在アルジェリアは、ガソリン、軽油などの石油精製製品に関しては、ほぼ自給自足を達成している。2024年の同製品の輸入量は60万トンで、国内総消費量の約2%に過ぎない。輸入される製品は、アルジェリア産原油の物理化学的特性上、抽出が不可能な品目に限定されている。

一方、メタノールや高密度ポリエチレンを製造している2つの石油化学コンプレックスの生産量も近年安定しており、2024年に合計14万8,900トンに達した。

さらに、ソナトラックは2025年~2029年の5カ年投資計画の下、約70億ドル規模の複数の新規精製・石油化学プロジェクトを推進している(表参照)。同社は、現在32%にとどまる国内炭化水素の高付加価値製品への転換率を、2029年までに50%へ引き上げることを目標としている。

表:ソナトラックの石油化学・石油精製プロジェクトリスト
プロジェクト名 所在地 生産内容 年間処理能力 落札企業 契約
形態
投資額 契約年月 稼働開始予定年月
メチル・ターシャリーブチルエーテル(MTBE)コンプレックス アルズー MTBE 20万トン CNTIC/LPEC(中国) EPCC 5億ドル 2022年5月 2025年12月
ハッシ・メサウド新製油所 ハッシ・メサウド 製油 500万トン テクニカス・レウニダス(スペイン)
中国石油化工(シノペック、中国)
EPCC 40億ドル 2020年1月 2027年10月
エチレンコンプレックス スキクダ エチレン 85万トン n.a. n.a. n.a. n.a. 2027年末
リニアアルキルベンゼン(LAB)コンプレックス スキクダ リニアアルキルベンゼン 10万トン テクニモント(イタリア) EPCC 11億ドル 2024年3月 2027年12月
重質ナフサの水素化処理拠点 アルズー ガソリン 73万 8,000トン 中国石油化工 (シノペック)
広州エンジニアリング(中国)
EPCC 4億 3,500万ドル 2025年11月 2028年5月
燃料油クラッキング ユニット スキクダ 軽油ビチューメン 175万トン
25万トン
n.a. n.a. n.a. n.a. 2029年1月

注1:EPCC:設計・調達・建設・試運転。 
注2:ハッシ・メサウド新製油所計画は2020年、スペインのテクニカスがサムスン・エニジニアリングと共同で落札したが、2024年11月にテクニカスの合弁パートナー企業をサムスンからシノペックに変更したことでプロジェクト再始動。
出所:ソナトラック、各社プレスリリース、報道を基にジェトロ作成 "

グリーン水素の展開

ソナトラックは移行期の基幹エネルギーとして天然ガス生産を維持する短期戦略の下、化石燃料の開発を継続する一方、中長期的な戦略として、グリーン水素の開発を促進している。

これは、アルジェリアのエネルギー・鉱業省(当時)が2023年9月に策定したブルーおよびグリーン水素の振興に関する国家戦略(フランス語)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(5.8MB)に基づき行われている。同ロードマップは、2030年をめどにグリーン水素の大規模な製造販売を開始し、2040年には欧州市場の水素需要の10%に相当する30~40テラワット時(TWh)の供給を目標に掲げている(2024年10月29日付地域・分析レポート参照)。同ロードマップでは、水素を資源の一種に位置付けているため、ブルーおよびグリーン水素の開発において、ソナトラックが中核的な役割を果たすとしている。

こうした中、ソナトラックは2024年10月、アルジェリア国営電力公社ソネルガス、ドイツの天然ガス企業VNG、イタリアの天然ガス輸送企業スナム、イタリアとアルジェリアを結ぶ2本のガスパイプラインを管理しているイタリア企業シーコリド、オーストリアのグリーン水素企業フェーブンド・グリーン・ヒドロゲンと、アルジェリアでのグリーン水素開発に関する合意書を締結した(2024年10月21日付ビジネス短信参照)。同合意書はソナトラックにとって、グリーン水素の展開に当たっての主要な取り組みとなる。

同合意書の下、グリーン水素製造の統合プロジェクト事業化の可能性と収益性を評価するため、グリーン水素のバリューチェーン全体を対象とした調査を共同で実施する。また、2030年をめどに開通予定の北アフリカとイタリア、オーストリア、ドイツを結ぶ専用パイプライン「SoutH2回廊(注1)」を通じて、欧州市場にグリーン水素を供給することを目指している。2025年も、同計画の進展が見られた。ソナトラックは同年11月、ドイツのベルリンにおいて、ドイツ、イタリア、オーストリアの官民エネルギー関係者とともに、水素を生産し欧州へ輸出することを目的とする「Algeria to Europe Hydrogen Alliance(ALTEH2A)(注2)」および「SoutH2回廊」プロジェクトの進捗(しんちょく)状況を確認した。

アルジェリアにおけるグリーン水素製造の開発を後押しする要素として、再生可能エネルギー発電の巨大なポテンシャルに加え、主要輸出先となる欧州諸国との地理的な近さが挙げられる。アルジェリアからは、既存のパイプラインを活用すれば、低コストでグリーン水素の供給が可能になると予想されている。

一方で、2024年のアルジェリアの再エネ発電能力は601メガワット(MW)で発電能力全体の2.1%にとどまる中、グリーン水素製造を開始する前に、国内の再エネ発電能力を大きく拡大することが不可欠である。ソネルガスは国家再エネ発電計画を実施しているが、その進捗によってグリーン水素製造能力が大きく左右される。同計画の下、国内の太陽光発電能力を2035年までに1万5,000MWへ拡大することが見込まれるが、現時点では20カ所、合計発電能力3,000MWの太陽光発電所の建設開始にとどまっている(2024年3月26日付ビジネス短信参照)。

さらにグリーン水素は、現時点では価格競争力に劣るため、世界的に需要の見通しが不透明である。アルジェリアが輸出先として想定している欧州の水素需要が、今後どのように推移するか注視が必要である。

海外における水素の需要がまだ見えていない中、ソナトラックは国内鉄鋼業の脱炭素化に向け、水素の利用促進に取り組んでいる。同社は2025年6月、首都アルジェにて、米国の再エネ開発企業のヘカテエナジーとトルコの鋼板・鋼管製造大手トスヤリとともに、アルジェリア国内のトスヤリ製鉄所向け統合型グリーン水素製造プロジェクトを対象とした共同研究の実施に関する覚書を締結した。

また、複数のグリーン水素関連プロジェクトも同時に進行している。その中に欧州での規制需要が見込まれる持続可能な航空燃料(SAF)の生産に向けたパイロットプロジェクトと、クリーンかつ持続可能な肥料として、また、海上輸送向け代替燃料としても利用可能なグリーンアンモニアの生産プロジェクトもある。ソナトラックは2024年10月、スペイン総合石油会社セプサ(現MOEVE)と、欧州市場向けにグリーン水素およびグリーンアンモニア、グリーンエタノールといった派生製品の生産を目的とした統合プロジェクトのフィージビリティースタディーに関する覚書を締結した。

ジェトロは、外国企業との協力に前向きなソナトラックに対して日本企業のソリューションをアピールすべく、2025年2月にアルジェリアで再エネ・グリーン水素ミッションを実施した。日本の企業14社、3機関が参加した同ミッションは、アルジェリア側の日本企業のプロジェクト参入への期待や、再エネ、海水淡水化における日本の設備機器・技術への関心の高さがうかがえた(2025年4月1日付地域・分析レポート参照)。

しかしながら、今後、国際的なエネルギー市場での活躍が期待されるソナトラックにはトップ人事の慢性的な不安定さがある。モハメド・アルカブ炭化水素・鉱業相は2025年10月、アブデルマジド・テブン大統領の指示に基づき、2023年10月からソナトラックの最高経営責任者(CEO)を務めていたラシッド・ハシシ氏を解任し、後任に国家炭化水素開発庁(ALNAFT)の元長官ヌーレッディン・ダウディ氏を任命した。 解任理由は公表されていないものの、2019年以来、ソナトラックはCEOが5度交代している。管轄省は同社の戦略方針に大きな変更はないと強調しているが、各プロジェクトの運営や新規事業の立案に対する影響については、引き続き注視する必要がある。


注1:
SoutH2回廊プロジェクトは、イタリア、オーストリア、ドイツ企業が主導する3,300キロに及ぶ水素専用パイプライン回廊建設計画で、北アフリカ、イタリア、オーストリア、ドイツを結び、北アフリカで生産した低コストのグリーン水素を欧州の主要な需要家群に供給できるようにするもの。 本文に戻る
注2:
ALTEH2Aは、アルジェリアと欧州諸国(ドイツ、イタリア、オーストリアなど)のエネルギー企業・機関が連携して進めている戦略的枠組みである。 このプロジェクトは、アルジェリア国内でのグリーン水素の生産拠点の開発、欧州への輸送ルート(パイプラインなど)の検討、欧州市場における水素需要への対応を柱としており、持続可能なエネルギー供給とエネルギー転換の推進を目的としている。 本文に戻る

アルジェリア国営ソナトラック戦略方針

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執筆者紹介
ジェトロ ・パリ事務所
ピエリック・グルニエ
ジェトロ・パリ事務所に2009年から勤務。アフリカデスク事業担当として、フランス語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種事業、調査・情報発信を行う。

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