アフリカでのビジネス事例スズキ、自動車をアフリカ50カ国以上で販売、南アでシェア2位へ
日本とインドから最後のフロンティアに挑む

2025年12月5日

アフリカでは人口増加や経済成長により、徐々に自動車の普及が進む。日本からの自動車の輸出も近年は増加しているが、これらのうち多くが中古車だ(2024年7月1日付地域・分析レポート「自動車販売・生産、日本からの輸出動向(アフリカ)」参照)。このような中、スズキ(静岡県浜松市)はインドからアフリカ向けに新車の四輪車を輸出している。所得水準が高い欧米市場を狙う企業も多い中、スズキは1980年代から他社に先駆けてインドで展開を始めており、インドでの販売台数は約179万5,000台、同国乗用車市場で約4割とトップシェアを誇る(2025年12月2日付地域・分析レポート参照)。さらに近年は最後のフロンティアとも称されるアフリカ向けに輸出拡大を目指す。既に南アフリカ共和国(南ア)では、2025年9月までの販売台数でシェア2位に浮上しているという。

なお、インド政府としても、アフリカとの政治的・経済的な関係性の再構築の重要性が一層高まりつつあるという(2025年6月16日付地域・分析レポート「戦略的にアフリカとの関係強化を目指すインド」参照)。加えて、日本政府も2025年8月に開催された第9回アフリカ開発会議(TICAD9)において、「インド洋・アフリカ経済圏イニシアチブ」を打ち出すなど、同地域を重視する。

年間約300万台を販売する自動車メーカー・スズキの四輪中東・アフリカ部の岩瀬大輔部長、稲葉公彦主査、アフリカ課の長﨑崇課長にアフリカでの販売状況などについて話を聞いた(取材日:10月21日)。


スズキ四輪中東・アフリカ部岩瀬大輔部長(同社提供)
質問:
アフリカでの四輪車の展開は。
答え:
アフリカ54カ国中、51カ国で四輪車を販売している。南アには販売子会社があり、販売数がアフリカ最多だ。その他の国々では販売会社が販売およびアフターセールスを提供している。特に豊田通商の子会社でフランス商社のCFAOが30カ国以上で販売会社を担っている。なお、複数の販売会社がある国もあり、エチオピアでは4社、アンゴラでは3社が販売会社として現地で切磋琢磨しており、相乗効果で販売を伸ばしている。
2024年度の販売台数は、アフリカ中東合計で約17万台、アフリカでは約11万台だ。日本からの輸出も少量あるが、大半はインドからの輸出であり、車種15モデル以上をアフリカへ輸出している。アフリカ事業は、スズキの子会社でインドの自動車最大手マルチ・スズキと協力・連携している。
なお、中東での販売の約6万台のうちサウジアラビア向けが半分程度であり、こちらも主にインドから輸出している。中東とインドは距離が近く、中東諸国にはインドの出稼ぎ労働者も多く、関係性が深い。さらに、サウジアラビアでは、女性の運転解禁などもあり、近年、小型自動車のニーズが増えている。
質問:
主要市場の南アでの販売状況は。
答え:
南アでは、2024年度に前年から21%増の約6万3,000台を販売した。スズキとしては、インド、パキスタンに次ぐ規模の販売台数だ。パキスタンやインドネシアには工場があるが、南アはインドからの輸入完成車の販売がメイン。南ア国内でのシェアを見ると、2024年度は約11%でトヨタとフォルクスワーゲンに次ぐ3位だった。さらに、2025年の4-9月の販売ではシェアが12%超で推移し、トヨタに次いで2位になっている状況だ。なお、南アから周辺国に出荷するケースもある。
アフリカでは主にエンジン車の販売であるが、南アではハイブリッド車も販売している。
質問:
他のアフリカ諸国での状況は。
答え:
販売台数で見ると、アンゴラ、コートジボワール、モーリシャス、エジプトの順だ。コートジボワールでは2018年から中古車の輸入規制が始まり、新車でもお手頃価格のスズキの小型車が市場にマッチした。
なお、モーリシャスでは、ハイブリッド車への優遇施策があった昨年度は販売を大きく伸ばした。アフリカではまだ個人の自動車保有率が低いため、レンタカーやライドシェアなど企業向けの販売も多い。先日、トーゴとベナンに出張したが、両国でもライドシェアなどが普及しており、個人向け以外のニーズにあわせた販売も目指している。
また、コーポレートベンチャーキャピタルファンド「Suzuki Global Ventures」を通じて、日本のスタートアップ「Cordia Directions」に出資した(2025年6月18日付スズキニュースリリース参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。同社はケニアで中古車売買を仲介するプラットフォーム「Peach Cars」を展開する。ケニアなどアフリカ諸国では、所得が低いこともあり中古車の販売が多い。中古車取引の透明性を向上するために、これらの関連企業とも協業・意見交換している。
質問:
現地での組み立て生産の状況は。
答え:
2023年にガーナの豊田通商の現地車両組立会社にて、小型車「スイフト」のセミノックダウン(SKD)での組み立て生産を開始した(2023年1月31日付スズキニュースリリース参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。インドで溶接や塗装済みボディ、および部品をガーナに運び、組み立てている。一方で、政府が発表済みの自動車政策が流動的で不透明な部分もあり、まだ生産台数は少ない状況だ。
質問:
アフリカでの御社の強みは。
答え:
アフリカは、大規模な生産拠点があるインドと地理的に近いこともあり、短期間で商品を提供できる。
また、アフリカには印喬がおり、道路が未整備などの環境も似ており、インドでの知見が活かせる。スズキは燃費が良く、耐久性も高い車として評価されているほか、車種を17モデル投入し、幅広いお客様のニーズに応えている。さらに、アフターサービスの迅速な対応なども行っている。
質問:
今後の方針、注目国は。
答え:
新中期経営計画では、2030年度に世界の売上収益8兆円、四輪車販売台数は約420万台を目指している。アフリカでは2024年度時点の販売台数11万台のところ、早期にシェア10%達成を目指している。
人口が伸びる国やGDP成長が目覚ましい国にも注目しているが、多くの国に種をまくことを想定している。アフリカ諸国では政権交代や変わりやすい経済情勢、各国の法律や規制の導入・改定により状況が大きく左右されるため、特定の国にこだわるよりも、さまざまな国での販売拡大を目指す。
売り上げ拡大にあたっては、各国で投入する車のモデルを増やすほか、地道に認知度を向上していきたい。生涯顧客となってもらうために、アフリカの顧客満足度向上に力を入れている。顧客の知人、友人や家族にも紹介してもらうなど、スズキを選んでもらえるようにしていきたい。
質問:
PR方法は。
答え:
SNSなどでのデジタルマーケティング(PR)に加えて、南アではサッカー、ラグビー、クリケットのチームのスポンサーにもなっている。これらの取り組みのほか、実際のお客さんとの接点を作ることを重視している。
また、車に乗ることを楽しんでもらうために、地場密着のファンイベントを開催している。モーターショーなどへの出展のほか、南アでは2025年9月に「ジムニー」のファンに向けたイベントを開催した。ジムニー約1,500台が集まり、スズキ本社の技術者からの話や音楽 ライブなどのステージイベントを楽しんだ。2023年に南アで開催したファンイベントではジムニー約800台のライトを一斉に点灯し、ギネスに正式に認定された。2025年は約1,100台のジムニーのドアを一斉に閉め、ギネスに認定された。なお、ジムニーは50年以上の長期にわたり販売しており、広く認知されている。
継続的なPRの取り組みのおかげか、南アでは2024年にブランドオブザイヤーを受賞した。

南アでのファンギャザリングの会場(同社提供)

南アでの「ジムニー」のファンギャザリングの
様子(同社提供)

一斉にドアを閉めるギネス認定の様子
(同社提供)
質問:
アフリカでの課題は。
答え:
外貨準備高や輸入制限、為替レートの大きな変動があるほか、各国政府の政策、法律や規制と運用が異なるなどの課題がある。
国によってはサービススタッフ、エンジニアの確保が難しい国もある。良い人材はより高い給料の会社や他の産業への転身も多い。
なお、スズキとしては、中国メーカーよりもアフリカ参入時期が早かったものの、近年中国車の販売増加の勢いもあり、情報収集している。
質問:
日本企業へのアドバイスは。
答え:
現地・現物・現実が大事だ。実際に現地を見たり、人に会って話を聞いたりすることで、現実を把握できる。苦労することも多いので、アフリカで先行している日本企業に話を聞くことも重要だ。アフリカに関して、法制度は変更もあり、不明瞭なことが多く、専門家に聞くなどの情報収集が必要だ。
スピード感も大切だ。例えば、インド企業の強みの1つは走りながら考えることであり、日本企業と比べ、ビジネスでの決断のスピードが速い。参考にしながら、アフリカでも展開していきたい。
なお、販売会社などパートナー選びの際は徹底的に情報収集し、書面だけではなく、実際に対面で何回か会って判断することを心がけている。欧州や湾岸諸国から遠隔で活動する販売会社もいるが、現地で根を張った販売会社を選んでいる。スズキとしては販売会社のネットワークも重要だ。販売後のアフターサービスを丁寧に行い、首都や最大都市のみならず、第2、第3の都市でもサービスを提供することを目指している。
質問:
TICAD9での状況は。
答え:
前回横浜で開催された6年前のTICAD7よりも盛況で、取材も多く、アフリカへの関心の高さがうかがえた。アフリカ関係者への情報発信の機会となった。また、TICAD9において、商船三井および貿易情報連携プラットフォームを提供するトレードワルツと、インド・アフリカ間の自動車商流での協業に関する協力覚書を締結した(2025年8月21日付スズキニュースリリース参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。インドから中東、アフリカへの当社の自動車輸送は商船三井が担うことが多い。貿易手続き・輸送がさらにスムーズになるよう連携していく。
日本政府がTICAD9で発表したインド洋・アフリカ経済圏の構想は、まさに、スズキが先行して取り組んできたことであり、今後もアフリカを第二のインドにという気持ちで挑んでいきたい。

なお、スズキはインタビュー後の11月11日、アフリカサッカー連盟とのスポンサー契約を締結したと発表した(2025年11月11日付スズキニュースリリース参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課 課長代理
井澤 壌士(いざわ じょうじ)
2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課、ジェトロ北海道、ジェトロ・カイロ事務所を経て、現職。中東・アフリカ地域の調査・情報提供を担当。

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