アフリカでのビジネス事例日置電機、電気計測ソリューションでアフリカ市場に挑む
2025年7月11日
我々の日常生活や産業活動に、機械や機器は欠かせない。その多くを動かすのが、電気エネルギーだ。
特にアフリカでは、人口増加や経済成長に伴い電力需要増が著しい。エネルギーを効率的に利用していく必要がある。それだけでなく、脱炭素化は世界的な課題だ。当地ならではの地理的・環境的優位性を生かし、再生可能エネルギー(再エネ)発電への転換が今後ますます大切になる。電気計測器は「産業のマザーツール」と言われ、そのために大きな役割を果たす。
日置電機(本社:長野県上田市)は、その専門メーカーだ。電気計測ソリューションを通して社会の発展に貢献すべく、アフリカ市場への参入機会を探っている。同社はなぜアフリカに注目し、今後をどう展望しているのか。グローバル営業部の坂井栄司氏と、HIOKI MEA FZCO〔アラブ首長国連邦(UAE)に所在する同社現地法人〕社長の中山直樹氏に聞いた(インタビュー日:2025年5月23日、2025年6月11日)。

- 質問:
- 貴社製品と海外展開の概要は。
- 答え:
- 当社は、電気計測器を開発・生産・販売する創業90年のメーカーだ。
- 「自動試験装置」「記録装置」「電子測定器」「現場測定器」の4つの製品群を有し、長野県の工場で開発・生産している。
- 世界中に11の販売拠点を有し、周辺地域も含めて商品を販売している。売り上げ全体に占める海外売上率は60%以上だ。そのうち特にアジア地域の売上比率が高く、中国、韓国、台湾での認知度は既に高い。
- こうした地域と比べ、中東・アフリカ地域の当社売上比率および同地域での認知度は依然として低いものの、中東・アフリカ地域は今後の注力市場として、ドバイ事務所と長野本社で取り組みを進めている。
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電力インフラで使用する測定器全般(同社提供) - 質問:
- アフリカ市場に注目する理由は。
- 答え:
- 近年、世界的に脱炭素化への取り組みが進む中、電気エネルギーの需要はますます高まると予想される。特にアフリカは、今後も人口増加が見込まれることから、国内の電力需要も増加すると考えられる。こうした背景から、エネルギーの効率的な利用を促進する電気計測機器のニーズも拡大すると見込み、人口の多い国を中心に販路拡大を目指している。
- また、中東・アフリカ地域では、脱炭素化に向け、国を挙げてエネルギー政策転換に取り組んでいる。当社は、例えば水素製造の効率性を測る測定器や、再エネを蓄電するバッテリーに関する検査機器を開発。これらは、各国の脱炭素化社会実現に向けた取り組みに貢献できると考えている。当該地域諸国のこうした政策転換を商機と捉え、2024年7月にはドバイの駐在員事務所を販売会社に変更。ドバイ経由でアフリカ各地域に商品を届ける物流体制を整え、販路開拓を積極的に進めている。
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水電解セルの特性を測定する装置(同社提供) - 質問:
- 貴社のアフリカでの取り組みは。
- 答え:
- アフリカは、言語的・文化的類似性から、ドバイ事務所が主に北アフリカ地域を担当している。
- エジプトとモロッコでは製造業が発展し、電気計測器のニーズがある。そのため、すでに複数の具体的な案件が動いている状況だ。また、エジプトは、脱炭素社会に向け、再エネや水素へのエネルギー源転換に国を挙げて取り組んできた。当社としても同分野への参入機会を探っている。2023年と2024年に開催されたジェトロ主催の「再エネ・水素関連ミッション」(2023年10月5日付、2024年10月3日付ビジネス短信参照)には2年連続で参加。当社独自ではコンタクトが難しい相手先と、コネクションを得ることができた。まだ大きな実績が出ているわけではない。しかし、ミッションを通してつながった相手先との関係構築に今後も努めるつもりだ。
- サハラ砂漠以南のアフリカ地域にも、年に数回訪問。引き合いのあった現地企業に直接会って交渉を進めている。また、サンプル品を送るだけでなく、直接出向いて使い方を教え、実演販売や販促活動にアドバイスしている。こうした活動の甲斐もあって、すでに一部の国では実績が出始めている。今後も継続して販路開拓に取り組んでいきたいと考えている。
- 質問:
- 今後の展望は。
- 答え:
- アフリカ市場は短期的な成果を求めるのでなく、中長期的な視点での取り組みが必要と認識している。具体的な成果を創出するまでに、数年かかると見込まれる。一方で、既に競合他社はアフリカに進出しており、マーケットが成熟してから参入するのでは遅れを取る可能性がある。そのため、今こそが参入の好機と捉え、積極的に取り組んでいきたい。
- 市場開拓にあたっては、現地パートナーとの連携に加え、営業活動や関係構築を担う現地スタッフの確保と育成が不可欠だ。これまで日本からの出張ベースで営業活動やパートナー企業に技術指導してきた。今後は対象国の人材を採用し、現地に根ざした活動を展開することも検討している。
- 当社は、「人間性の尊重」と「社会への貢献」を基本理念にする。電気計測を通して安全で有効なエネルギー活用を促進し、社会の安心と発展に貢献してきた。
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アフリカでの活動は、まだ始まったばかりだ。現地との関係を深める一歩として、2025年8月開催の第9回アフリカ開発会議(TICAD9)
のサイドイベント「TICAD Business Expo & Conference」に参加することも予定している。水素関連分野を含む市場動向の把握や、現地人材採用に向けたネットワーク構築を図る貴重な機会として活用したい。

- 執筆者紹介
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ジェトロ海外展開支援部フロンティア開拓課アフリカビジネス支援班
高橋 美織(たかはし みおり) - 2023年、ジェトロ入構。アフリカビジネス支援班で、企業のアフリカ販路開拓を支援。