アフリカでのビジネス事例豊田通商、アフリカ54カ国で未来に向けて積極的にビジネス展開

2025年2月28日

日本とアフリカの関係の深化は、医療支援などの援助のほか、基礎的なインフラ整備などでの協力でも進む。昨今は、日本企業のアフリカへの進出も増え、投資やビジネスにも関心が集まる(本特集「日本企業のアフリカへの進出動向、拠点数は増加傾向」参照)。なお、日本のアフリカ向け輸出は主に自動車であり、一部の国では自動車の現地生産が徐々に進む(2024年7月1日付地域・分析レポート「自動車販売・生産、日本からの輸出動向(アフリカ)」参照)。

このような中、豊田通商外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、アフリカにおいて、モビリティ、インフラ、ヘルスケア、コンシューマー分野のビジネスを展開している。また、同社は、日本政府が主導するアフリカ開発会議(TICAD)などの機会も利用して、政府向け案件の商談も進めている。

同社のアフリカ事業の概要と今後の展開について、アフリカ電力・インフラ部長の大原広海氏(写真中央)、アフリカモビリティバリューチェーン事業部長の金子鋭一氏(同右)、アフリカ企画部課長補の倭浩司氏(同左)に話を聞いた(取材日:2025年2月10日)。


インタビュー 対応者の写真(ジェトロ撮影)
質問:
これまでの経緯とアフリカ事業の概要は。
答え:
世界各国・地域でビジネスを展開しているが、2012年にフランスの商社CFAOへ資本参画し、2016年12月に完全子会社化、2017年よりアフリカ本部を設置するなど、特にアフリカに力を入れている。連結社員合計の約3分の1を占める2万3,000人がアフリカ関連の社員だ。また、アフリカ大陸のすべての国である54カ国に展開しており、174の拠点がある。同地域での売り上げは約1兆6,000億円(2024年3月期)だ。
豊田通商としてのアフリカでのビジネスは約100年前の東アフリカからの綿花の輸入に始まり、長期的なものだ。CFAOのアフリカでのビジネスの歴史は更に古く、既に170年以上が経過している。アフリカ各国の変化を経験しながらビジネスを継続してきた知見も強みの1つだ。
質問:
TICADに向けた期待は。
答え:
TICADは政府首脳が一堂に集まるため、政府向け(BtoG)案件などの形成・推進に良い機会となる。前回のTICAD8では、各国政府との案件を含め25件のMOU(覚書)を結んだ。相手国の事由により中断を余儀なくされるMOUはあるも、20件のMOUについては実現済み、あるいは議論が継続している。例えば、TICAD8の開催国だったチュニジアにおける50メガワット(MW)の太陽光発電事業(IPP)2案件(合計100MW)への参画は、MOU締結後の動きが早かった事例の1つだ。
2025年に横浜で開催されるTICAD9に向けて、TICAD9のテーマである「共創」を踏まえて、「for the future children of Africa」をキーメッセージに、アフリカの未来の子供たちのために、官民で何ができるか考えつつ準備を進めている。
質問:
アフリカでのヘルスケア、コンシューマー分野での取り組みは。
答え:
ヘルスケア分野では、フランス語圏アフリカを中心に信頼のある高品質な医薬品の卸をおこなっている。フランス語圏アフリカの多くは、医薬品の取り扱いがフランスに準じた規制となっており、CFAOの知見を生かした展開が可能だ。また、医薬品小売(薬局)事業にも、東アフリカ、南アフリカ共和国で参画を進めている。
2024年12月にコートジボワールで開催された、日アフリカ官民経済フォーラム(2024年12月19日付ビジネス短信参照)においては、現地政府およびGAVIワクチンアライアンスと、ワクチン保冷輸送車を活用した乳幼児用マラリア新ワクチンの安全かつ最適な輸送の実現に関するMOUを発表した。
コンシューマー分野では、カルフール(Carrefour)とのパートナーシップにより、30店舗のスーパーマーケットをコートジボワール、カメルーン、セネガルで運営している。市場の成熟を待つのではなく、経済発展、購買層の拡大を見据え、モダンリテールの市場形成に注力している。
質問:
アフリカでのインフラに関する取り組み事例は。
答え:
BtoB(法人向け)とBtoG(政府向け)のビジネスがあるが、現状、規模的にはBtoGが大きい。
例えばエジプトにおいては、2019年から風力発電のIPP(独立系発電)事業(262.5MW)を実施している。今年(2025年)の8月には現在建設中の第2期プロジェクトが完工し、発電容量が916MWを超える大規模プロジェクトだ。
またケニアでは、これまでに発電容量で合計280MW分の地熱発電所を建設・引き渡し(EPC)しており、現在も35MWの地熱発電所を建設中だ。
港湾分野では、現在アンゴラの南部、ナミベ州で港湾の拡張工事を東亜建設と共同で実施している。JBIC(国際協力銀行)の支援による6億ドル規模のプロジェクトだ。

インフラ事例:エジプトでの風力発電事(同社提供)
質問:
インフラ関連で今後の注目国・事業は。
答え:
アフリカではまだまだ基礎インフラが不十分な国が多く、その中でも国民の生活や経済に密接に結びつく電力分野(再エネ発電、送変電)、港湾分野、水分野の3つに当社として特に力を入れている。再エネ発電や港湾についての取り組みは前述の通り。一方、電気は作るだけでなく届けることも重要。再エネ発電が増えると系統が不安定になることも、今後解決すべき課題だと感じている。
また、セネガルにおいては、JICA(国際協力機構)の円借款による海水淡水化プラントの建設事業を実施している。アフリカでは深刻な水不足に悩む国が非常に多く、今後は他国においても力を入れたい分野だ。
注目国は分野によって違うが、インフラ部門としては現在、エジプト、ケニア、アンゴラ、コートジボワール、セネガルに駐在員を配置しており、これらの国がまずは注力国となる。更にこれらの国の周辺国での案件開発も積極的に行っており、東部ではウガンダやタンザニア、また北西部ではチュニジア、ベナンなどのフランス語圏でも積極的に案件開発している。
質問:
アフリカでのモビリティ事業の現状は。
答え:
2019年にトヨタ自動車からアフリカ市場の事業の移管を受けているほか、自動車ビジネスにおいては、マルチブランドの取り組みがあり、スズキ、日野、ヤマハなどの日系の四輪・二輪に加えて、フォルクスワーゲン(VW)なども販売する。特に現地への輸出のみならず、自らがネットワークを持ち、卸・小売販売を実施している。また、南アなどでの現地生産も重要な事業である(ピックアップトラックのHilux、SUVのフォーチュナーなど)。さらに、架装やアクセサリー、リースやレンタカー、そして販売時の金融・保険関連ビジネス、部品・アフターサービスの提供はもとより、良質な中古車の提供、経年車に対応するアフターサービス、そして将来のELV(使用済み自動車)への対応に向けた取り組みなど、顧客のカスタマージャーニーに沿った自動車ビジネスの包括的なサービスに挑戦している。

アフリカで自動車をマルチブランド展開(同社提供)
さらに、中古車事業も展開している。現地には、マイレージメーターが巻き戻された車や、事故車、水没車など品質上の問題がある中古輸入車が流入している事例が見られるが、我々では独自のチェックを行い、質の高い中古車を主に東アフリカの国々で展開している。大切だと感じているのは、中古車においても、安心・安全をいかに確保できる仕組みにできるかである。既存のアフターサービスで十分な質のサービスの提供が受けられない場合向けに、経年車に対するサービス体制も強化している。通勤や子供さんの送迎で車を頻繁に使われる皆さんが、安心して車を使い続けることに寄与していきたい。
質問:
モビリティ事業の今後の展開は。
答え:
主に2つの側面がある。1つ目は、既存のビジネスで粘り強く継続していくべき取り組みだ。アフリカに適した商品のラインアップ強化、産業の育成による国の発展への寄与、そしてお客様がどこにいても当社の持つネットワークへアクセスできる体制を構築することである。2つ目に、進化すべきこととして、(1)カーボンニュートラルへの貢献、(2)DX(デジタル化)、(3)バリューチェーンへの取り組みだ。
カーボンニュートラルにおいては、お客様のニーズに応じた「マルチパスウェイ」を進めている。アフリカでは、電力供給が十分にカバーできていない地域もある。そうした地域特性を加味した商品の提供が重要であり、特にハイブリッドの普及・展開は、カーボンニュートラルの促進と顧客から見たモビリティの利便性の両方に対するソリューションとして重要な位置づけと言える。
DXについては、アフリカでモビリティ関連のスタートアップなどに投資する当社のCVCである「Mobility 54モーダルウィンドウを開きます」で、ユニークなデジタルソリューションを提供するパートナーとともに取り組んでいる。それぞれの国で新たなサービスの提供を行い、かつ当社とのシナジーを創出するパートナーを発掘している。パートナーの例としては、セネガルでタクシー事業の運営を行う「KAI Senegal」があげられる。Mobility 54以外でも、パーソナライズ・サービスの提供を可能とするDXへの取り組みを加速している。
バリューチェーンについては、お客様のカスタマージャーニーに沿ったアクセスポイントを形成していくことが重要である。お客様との接点の一つ一つを大切にすることで、お客様の需要を丁寧に把握し、バリューチェーン全体を俯瞰(ふかん)して事業の拡大・統合に取り組む。
質問:
アフリカでの製造業全般の課題は。
答え:
一般的に、製造業で競争力を保つためには、必要な基礎インフラが整備されていること、政府の産業政策や制度的整備、そしてその一貫性が明確であることが重要かと思う。また、現地生産を検討する上では、現地市場が規模の経済を充足していることも重要となろう。特に裾野の広い産業であれば、産業クラスターが蓄積されうる規模の経済の充足がないと、単純なコストの上昇につながり、場合によっては質的な課題を抱える可能性もある。さらに、一定の投資を伴う場合には、法整備や為替などの面で、ある程度の安定的な環境があることも大切である。
質問:
自動車産業における課題は。
答え:
新車の市場規模が相対的に小さく、また中古車の規制が緩やかな場合、整備が不十分な車が円滑な人や物の輸送を妨げる要因の1つとなる。規模の経済を促進するような政策や法的規制が必要であり、長期的な取り組みが求められる。各国政府の中長期の政策において今後の方向性を明確にし、それに基づく制度作りや人材育成、法整備を行うことが重要になろう。例えば日本の車検制度のように、車齢に応じた「健康診断」ができる仕組みや、車齢の高い車両の輸入制限を検討することが具体策として考えられる。
質問:
アフリカを目指す日本企業へのアドバイスは。
答え:
まずは、現地・現物・現実でしっかりとその国を理解することが重要だと考える。案件の開発には多大な時間を要することも多いが、粘り強く相手に寄り添いながら一歩ずつ進むことを心掛けている。また、テロやクーデターが発生する国もある。安全面への配慮は非常に重要で、何よりも最優先すべき事項だ。
アフリカには、日本から遠いという距離の壁がある上、英語以外の言語が公用語の国も多く、これまで日本企業の進出はあまり多くなかったが、ポテンシャルは非常に大きい。もっともっと多くの日本企業にアフリカへ進出していただきたい。我々も少しはノウハウやネットワークがたまってきているので、ぜひ活用いただければと思う。強みは、多様なアフリカ人材と国家元首を含む各国とのネットワーク。54カ国で展開しており、欧州企業などとの協業の経験も豊富だ。
質問:
積極的にアフリカビジネスに取り組む理由は。
答え:
当社では案件形成の際に、収益性ももちろんだが、なぜ他社ではなく我々が取り組むのかということを常に問うている。グループのビジョンである「Be the Right One」(代替不可能・唯一無二の存在)になれるかどうか。
アフリカは決して1カ国ではなく、多様な国の集合する大陸であり、さらに2050年には世界人口の4分の1がアフリカ人となる。特に若年層の増加は大きい。その中で、市場の形成がおのおのの特性を踏まえながら徐々に進んでいるが、若い世代の需要も広がっていくことになる。そうしたアフリカでは、ビジネスの創出を可能にする幅や奥行きの広がりが相対的に大きい。他方、それをビジネスチャンスに結実させるためには、超えるべき課題も多いのが現実である。しかし、踏み込んで、掘り下げていく中で見いだせる新なビジネス創出の種は、アフリカビジネスに関わる一人ひとりにとって大きな魅力がある。
こうした経済的価値の創出の観点のみならず、社会的価値の創出という点でも、アフリカの魅力は大きい。当社では「With Africa For Africa」のスローガンのもと、アフリカと共に成長していきたいと考えている。企業の成長は社会やコミュニティー、そしてアフリカの人たちの成長と不可分であり、中長期を見据えたアフリカとの関りを大切にしている。「for the future children of Africa」をメッセージに、アフリカのために何ができるのか、アフリカと共にどう次の未来を切り開いていけるのかという社会的価値の創出への視座と、前述の経済的価値の創出への地道な取り組みを、車の両輪のごとく一体感をもって進めている。 アフリカはこの2つの価値の創出により直接、そして広い分野で関われる大陸として、大切な地域であるといえよう。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課 課長代理
井澤 壌士(いざわ じょうじ)
2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課、ジェトロ北海道、ジェトロ・カイロ事務所を経て、現職。中東・アフリカ地域の調査・情報提供を担当。

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