アフリカでのビジネス事例モロッコ再エネ市場に挑む日本企業
三井物産に聞く市場の可能性と課題

2026年8月10日

モロッコ政府は、総設備容量に対する再生可能エネルギー(再エネ)比率を2030年までに52%以上とすることを目指しているが、この目標値は前倒しでの達成が見込まれている。国内では風力、太陽光、太陽熱、水力の分野で多くの関連発電施設が稼働しており、2050年までに再エネ比率を80%以上に引き上げる目標の達成に向け、増強計画が進行中だ。併せて、大学機関などの研究施設のほか、再エネの国際的な産学官連携施設なども稼働している。

また、モロッコ政府は2024 年に再エネ分野の投資促進策「モロッコ・オファー(グリーン水素投資計画)」を公表し、政府としてグリーン水素や同関連品の国内外向け生産に関心を持つ投資家や投資家グループを歓迎している。モロッコはすでに国外から複数の投資を呼び込んでおり、特に欧州に近接する地理的環境から、欧州向け再エネ供給拠点として注目されている。そのため欧州金融機関や複数の企業が、ビジネスや共同研究の実施に名乗りを上げている。

今回、三井物産から、サフィ石炭火力発電事業およびタザ風力発電事業の運営・管理支援を行うMIT Safi Morocco(三井物産の100%子会社)に出向している柘植裕充氏、山下顕資氏に、モロッコでの同社の取り組みについて話を聞いた(取材日:2026年5月4日)。


MIT Safi Moroccoの柘植氏と山下氏(ジェトロ撮影)
質問:
現在モロッコで取り組んでいるエネルギー事業について。
答え:
三井物産では、2011年にジョルフ・ラスファールの石炭火力発電プロジェクト(モロッコ)にEPC事業者として参画したことを皮切りに、現在は二つの事業に参画中だ。
1つ目はエンジー(Engie、フランス)、ナレバ(Nareva、モロッコ)と共同出資しているサフィ石炭火力発電事業だ。総事業費は約26億ドル、当時の換算で3,000億円相当で、国際協力銀行(JBIC)や邦銀(NEXI海外事業貸付保険付)、地場銀行等から融資を調達した。2014年に着工し2018年から運転を開始、現在に至るまで約8年間稼働している。発電容量は約1,400メガワット(MW)で、モロッコの重要な基幹電源の1つになっている。
2つ目が、EDFパワーソリューションズ(旧EDFリニューアブルズ、フランス)と合同で行っているタザの風力発電事業だ。発電容量は87MW、総事業費は約1億4,000万ユーロ、当時の換算で約170億円相当で、こちらもJBICや邦銀(NEXI海外事業貸付保険付)、地場銀行から融資を調達した。発電所は2020年に着工し、2022年から運転を開始しており、現在4年が経過した。
質問:
石炭から風力など再エネへ事業を広げている背景は何か。
答え:
モロッコは天然資源が豊富な国ではなく、発電燃料(石炭、ガスなど)の多くを輸入に依存している。サフィ石炭火力発電所では、石炭火力発電の高効率化技術である「超々臨界圧」をアフリカ大陸で初めて採用し、二酸化炭素(CO2)排出量の抑制を図りながら、モロッコ国内の電力の安定供給に貢献している。
一方、モロッコは天然資源には乏しいものの、風力や太陽光の条件に非常に恵まれている。政府としても2030年までに総発電容量の52%を再生可能エネルギーにする目標を掲げる中、こうした政策に沿って、当社も再エネ事業に参画した。
質問:
風力発電は天候などの外部要因によるリスクがあり、また、将来的な設備の劣化の可能性もあると思うが、どのようなリスクヘッジを講じているか。
答え:
モロッコでは、再エネ発電と石炭火力発電で、オフテイカーである電力・水道公社(ONEE)からの料金支払いの仕組みが異なる。石炭火力に関しては発電の有無にかかわらず、発電設備を常時稼働可能な状態に維持することに対して対価の支払いがある一方、再エネは実際に発電・売電した電力量に応じて収入が得られる。このため、風況についてはONEEが入札時に提供する風況データと自社での風況調査をしっかりと分析した上で、料金を設定することが重要だ。また、設備劣化の観点については、風車のメーカーとパフォーマンス保証付きのメンテナンス契約をして対応している。
質問:
数ある市場の中で、なぜモロッコだったのか。
答え:
最大の理由は安定性だ。モロッコは、アフリカの中でも限られた投資適格国の1つであり、支援機関からの融資が引き出しやすく、政治的にも安定していた。また、2000年代当時の中東では発電事業の入札競争が過度に激化していたが、モロッコを含むアフリカ市場については日本企業の進出が限定的で、競争環境が相対的に穏当だった、といった複合的な要因があった。
質問:
モロッコでの事業参画の形式は。
答え:
入札が一般的だ。エネルギー系の事業権入札はONEEやモロッコ持続可能エネルギー庁(MASEN)が実施している。一方、最近一部の大規模案件では随意契約のニュースなども聞こえてくることもあり、必ずしも入札だけではない。
質問:
モロッコの投資環境をどうみているか。
答え:
発電事業に関して言えば、契約枠組みに基づく政府支援が付く点は非常に大きい。万が一の場合には政府が最終的にサポートするという枠組みが定められており、また投資適格であり、政治的にも安定していることから、契約上の権利義務が履行されないリスクも相対的に低く、投資判断における安心感につながっている。
また、近年はモロッコ投資貿易開発庁(AMDIE)などの投資促進機関を中心に投資憲章などの整備が進められており、制度面の透明性、明確性も改善してきている。こうした枠組みに基づく補助金制度についても、制度に沿って適切に運用されており、投資家にとって信頼性の高い事業環境が整備されていると考えている。
また、モロッコは現在ユーロと米ドルを中心としたバスケット通貨(注1)を採用しており、他のアフリカ諸国に比べ為替リスクが相対的に安定していることも魅力の1つだ。
質問:
一方で、モロッコでビジネスを行う上での課題は何か。
答え:
海外送金に係る外国為替兌換(だかん)局(Office des Changes)(注2)との調整だ。間にいる地場銀行とのやり取りが主になるが、書類や確認で手続きに時間がかかる場合がある。投資事業においては、事前に海外送金や為替兌換に関する承認を受けるようにしているが、それでも時間がかかることもある。
また、大型事業においては、用地取得の問題もある。土地所有権が不明確なケースや、住民移転などの調整が課題となるケースもある。
質問:
今後注目している分野は。
答え:
再エネ分野を中心としたモロッコの電源開発に引き続き注力していきたい。グリーン水素やアンモニアにも注目しているが、本格的な事業化にはまだ時間がかかると見ている。
また、南部地域は風況・日射ともに非常に良く、将来的なエネルギー輸出拠点となる可能性があると考えている。
質問:
最後に、モロッコ市場の評価について。
答え:
アフリカの中で非常に有望な市場の1つだと考えている。安定性があり、再エネポテンシャルも高い。一方で、外貨規制や用地取得など、実務上のハードルは依然として存在する。そうした点を理解した上で取り組めば、十分に魅力のある投資先だと思う。

注1:
モロッコはユーロ60%、米ドル40%で構成される通貨バスケットを基準とする為替バンド制を採用しており、モロッコ・ディルハムは基準レートの上下5%の範囲で変動する。これは変動相場制への段階的移行の一環である。 本文に戻る
注2:
外国為替取引の規制・監督および貿易統計の作成・公表を行う財務省傘下の公的機関。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・ラバト事務所
鈴木 優香(すずき ゆうか)
2023年、ジェトロ入構。海外展開支援部販路開拓課にて展示会、商談会支援等を担当。2025年9月から現職。

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