不確実なトランプ米政権、2026年中間選挙で民主党勝利の可能性は
2025年5月20日
米国トランプ政権の不確実性が経済に悪影響を及ぼし、(2025年5月1日付ビジネス短信参照)景気後退の可能性も高まっている。トランプ政権は各国・地域との交渉の中で、関税政策の軟化を示しつつある。対する民主党にとっては、2026年の中間選挙に向けての巻き返しの好機となるのか。
共和党にとって不安材料となる選挙結果
2025年4月に行われたウィスコンシン州最高裁判事の選挙では、ドナルド・トランプ大統領とイーロン・マスク氏が支持する候補者が民主党候補に敗れた(2025年4月3日付ビジネス短信参照)。これは、政府効率化省(DOGE)を率いて急進的改革を行うマスク氏への反発の表れとみられている。
フロリダ州では連邦下院の1区と6区の選挙が4月に実施され、共和党候補が民主党候補の得票率を10ポイント超上回って勝利した。しかし、両地区とも2024年の大統領選挙ではトランプ氏が6~7割の得票率で圧勝していた。下院選挙ではトランプ氏ほどの優位性はみられず、共和党にとって有利な地域でも、今後の選挙戦では必ずしも圧倒的優位を保てるとは限らないことが示された。
また、共和党が有力候補として2026年の連邦上院選挙への立候補を期待していたクリス・スヌヌ前ニューハンプシャー州知事、ブライアン・ケンプ・ジョージア州知事の両氏とも立候補しないと表明したことは、共和党にとって誤算だ。
マスク氏は政権から距離を置くことに
急進的改革によって反感を買うマスク氏への抗議が、同氏が経営するテスラ製自動車の世界的な不買運動につながり、一部投資家が同社株を売却する事態になった。その影響で、テスラの2025年第1四半期の純利益は前年同期の13億900万ドル(1株当たり41セント)から71%急減し、4億900万ドル(1株当たり12セント)となった。テスラの株価は2025年に入ってから41%下落した。
「ワシントン・ポスト」紙とABCニュースの4月の世論調査(注1)では、トランプ政権におけるマスク氏の仕事ぶりへの不支持率は57%と、2月の調査時(49%)より8ポイント上昇した。連邦下院の民主党議員団は、マスク氏の解任を強く求めてきた。マスク氏は、連邦政府の人員削減で1,600億ドルを節約したとしているが、当初の見込み(2兆ドル)を大きく下回っている。同氏は4月30日、政府の仕事を控えることになる、と語った。
民主主義への脅威となるトランプ氏の試み
民主主義度を数値化するブライト・ライン・ウォッチ調査(注2)では、米国の民主主義のパフォーマンスを0(完全な独裁)から100(完全な民主主義)で測った場合、2024年11月のトランプ氏の大統領選挙当選後は67だったが、2025年2月には55に急落した。民主主義と権威主義に焦点を当てる多くの学者は、トランプ氏就任後の行政権拡大の試みに深刻な懸念を抱いているという。プリンストン大学の社会学者、キム・レーン・シェッペル氏は「われわれは競争的権威主義(注3)と呼ばれるものへと急速に滑り落ちつつある」と指摘する。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校のマーク・ピーターソン教授も、トランプ氏が発令した多くの大統領令(注4)が、既存の法律の範囲を超え憲法に違反していることに懸念を示す。また、同氏は、トランプ政権が民主主義の制度的枠組み自体を揺さぶり、2026年の中間選挙自体を無意味にさせようと試みる可能性もあるという。
連邦下院での多数派を目指す民主党
連邦下院では、共和党と民主党の議席は220対213(2議席空席)と僅差になっており、民主党は2026年の中間選挙で多数派となることを目指す。民主党議会選挙委員会(DCCC)は2025年4月に、連邦下院選で奪還を目指す35の共和党議席を発表した(表参照、注5)。先のフロリダ州の連邦下院選の結果が民主党寄りに傾いたことで、トランプ氏が大統領選挙で勝利した地区となるオハイオ州第15区やケンタッキー州第6区も含み、積極的な展開が見込まれている。もし、民主党が下院で多数派になれば、トランプ氏を再び弾劾する可能性もあるという(注6)。
民主党が獲得を目指す共和党議席 |
CPR選挙予想格付け (4月30日時点) |
トランプ氏が共和党予備選での支持を表明した候補 |
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ニック・ベギッチ氏(AL全区) | かなり優勢 | 〇 |
デビッド・シュウェイカート氏(AZ1区) | 接戦 | ― |
エリ・クレーン氏(AZ2区) | かなり優勢 | ― |
ホアン・シスコマニ氏(AZ6区) | 接戦 | 〇 |
デビッド・バラダオ氏(CA22区) | やや優勢 | ― |
ヤング・キム氏(CA40区) | やや優勢 | ― |
ケン・カルバート氏(CA41区) | やや優勢 | ― |
ゲーブ・エバンス氏(CO8区) | 接戦 | 〇 |
コーリー・ミルズ氏(FL7区) | 確実 | ― |
アンナ・ポーリーナ・ルナ氏(FL13区) | かなり優勢 | 〇 |
マリア・エルビラ・サラザール氏(FL27区) | 確実 | ― |
マリアネット・ミラー・ミークス氏(IA1区) | 接戦 | ― |
アシュレー・ヒンソン氏(IA2区) | 確実 | ― |
ザック・ナン氏(IA3区) | かなり優勢 | 〇 |
アンディ・バー氏(KY6区) | 確実 | ― |
ビル・ホイジンガ氏(MI4区) | かなり優勢 | ― |
トム・バレット氏(MI7区) | 接戦 | 〇 |
ジョン・ジェームス氏(MI10区) | やや優勢 | ― |
アン・ワグナー氏(MO2区) | 確実 | ― |
ドン・ベーコン氏(NE2区) | 接戦 | ― |
トム・キーン・ジュニア氏(NJ7区) | 確実 | 〇 |
マイク・ローラー氏(NY17区) | やや優勢 | 〇 |
マックス・ミラー氏(OH7区) | 確実 | ― |
マイク・ターナー氏(OH10区) | 確実 | ― |
マイク・ケアリー氏(OH15区) | 確実 | ― |
ブライアン・フィッツパトリック氏(PA1区) | かなり優勢 | ― |
ライアン・マッケンジー氏(PA7区) | 接戦 | ― |
ロブ・ブレスナハン氏(PA8区) | やや優勢 | ― |
スコット・ペリー氏(PA10区) | 接戦 | 〇 |
アンディ・オグレス氏(TN5区) | 確実 | ― |
モニカ・デラクルス氏(TX15区) | かなり優勢 | ― |
ロブ・ウィットマン氏(VA1区) | かなり優勢 | ― |
ジェン・キガンス氏(VA2区) | やや優勢 | 〇 |
ブライアン・スタイル氏(WI1区) | かなり優勢 | ― |
デリック・バン・オーデン氏(WI3区) | 接戦 | 〇 |
注1:AL:アラスカ州、AZ:アリゾナ州、CA:カリフォルニア州、CO:コロラド州、FL:フロリダ州、IA:アイオワ州、KY:ケンタッキー州、MI:ミシガン州、MO:ミズーリ州、NE:ネブラスカ州、NJ:ニュージャージー州、NY:ニューヨーク州、 OH:オハイオ州、PA:ペンシルベニア州、TN:テネシー州、TX:テキサス州、VA:バージニア州、WI:ウィスコンシン州。
注2:選挙予想格付けは共和党にとっての優劣で、(当選)確実、かなり優勢、やや優勢、接戦の順となる。
出所:民主党議会選挙委員会(DCCC)、クック・ポリティカル・レポート(CPR)、バロットペディア
一方、全米共和党下院委員会(NRCC)は4月下旬に、下院選の激戦区での調査結果(注7)を発表した。トランプ氏が移民問題では大きな支持を集めていることや、中間選挙での共和党の優位性を強調している。トランプ氏は、僅差となる下院で共和党の議席を守るため、エリス・ステファニク下院議員(ニューヨーク州)の国連大使への指名を取りやめた。また、トランプ氏は中間選挙を意識し、予備選挙(注8)に充てる資金を節約する意図で、脆弱(ぜいじゃく)な共和党下院議員への支持を早期に表明しているという(表参照)。
トランプ氏は現在の経済状況の責任をバイデン氏に転嫁する発言をしたが、世論調査では、51%が現在の経済状況の責任はトランプ氏にあると回答し、バイデン氏(28%)を大きく上回った(注9)。中国との貿易交渉で、高関税率を棚上げし、中国にも10%のベースライン関税を適用することで、一応は決着した(2025年5月13日付ビジネス短信参照)。しかし、一部関税の90日間停止措置など不安定な部分も多く、引き続き経済への影響は懸念される。トランプ氏が行き過ぎた関税政策を調整し、早期に経済を上向きにできるのか。この不安定な状況が民主党にとっての好機となるのか、動向が注目される。
- 注1:
- 実施時期は2025年4月18~22日。対象者は、全米の成人2,464人。
- 注2:
- 500人以上の政治学者を対象とした調査。政府による報道への干渉、政敵への処罰、議会と司法による行政権の抑制力など、民主主義のパフォーマンスを示す30項目で採点する。
- 注3:
- 普通選挙が行われていても、特定政党や政治指導者の権力独占が続く政治体制。
- 注4:
- 「ワシントン・ポスト」紙(4月29日)によれば、トランプ氏が就任100日間で発令した大統領令は142に上る。ジョー・バイデン前大統領(42)、バラク・オバマ元大統領(19)を大きく上回る。
- 注5:
- 共和党が獲得を目指す民主党議席は、2025年4月7日付地域・分析レポート参照。
- 注6:
- トランプ氏は、第1次政権時(2017~2021年)の2019年、2021年に弾劾されたが、いずれも無罪となった。
- 注7:
- アラスカ、アリゾナ、カリフォルニア、フロリダ、アイオワ、インディアナ、メーン、ミシガン、ノースカロライナ、ネブラスカ、ニューハンプシャー、ニュージャージー、ニューメキシコ、ネバダ、ニューヨーク、オハイオ、ペンシルベニア、テキサス、バージニア、ワシントン、ウィスコンシン各州の激戦区で2025年4月13~18日に実施された。対象者は、投票予定者1,000人。
- 注8:
- 各党において、2026年11月の上院・下院本選の候補者を選出する予備選挙が事前に実施される。
- 注9:
- 経済誌「エコノミスト」と調査会社ユーガブの5月2~5日実施の調査。全米の成人1,850人が対象。

- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部米州課
松岡 智恵子(まつおか ちえこ) - 展示事業部、海外調査部欧州課などを経て、生活文化関連産業部でファッション関連事業、ものづくり産業課で機械輸出支援事業を担当。2018年4月から現職。