アフリカでのビジネス事例エジプトで輸液シェアトップのエジプト大塚
政府機関からの信頼背景に事業拡大

2026年2月24日

経口補水液「オーエスワン(OS-1)」など身近な製品で知られ、日本国内で輸液のリーディングカンパニーである大塚製薬工場(本社:徳島県鳴門市)の現地関連会社エジプト大塚製薬(以下「エジプト大塚」)は、政府機関との信頼関係や現地のニーズに合わせた商品展開を背景に、約50年間の長きにわたりエジプトにおいて輸液をはじめとする医薬品を製造・販売している。

「中東に大塚グループ(注1) の拠点を作る」という大塚正士会長(当時)の方針のもと、カイロのパブリック・フリーゾーン進出第1号の企業として、1977年に前身の「アラブ大塚製薬」が設立された。その後、1992年7月に大塚グループ出資会社として、エジプト大塚がカイロ近郊の工業都市テンス・オブ・ラマダンにて設立された。

現在は3万3,000平方メートルの工場敷地内で6製造ラインが稼働しており、小容量・大容量輸液、治療薬を製造している。2014年には製造能力拡大のため現地の輸液製造販売会社アテコファーマを買収し、2021年には現地製薬会社のジプトファーマと共同出資で輸液販売事業を行う新会社を設立するなど、事業は着実に成長を続けている。2025年6月末現在の従業員数はエジプト大塚グループ全体で1,000人を超える。

ジェトロは、医薬品事業、特に輸液製造におけるエジプトの製造拠点・市場としての魅力や課題、エジプトでの成功の要因について、エジプト大塚の岡田康一副社長に話を聞いた(インタビュー日:2026年1月14日)。


工場の外観(エジプト大塚提供)
質問:
エジプト大塚の事業概要は。
答え:
輸液や治療薬などの医薬品の製造・販売、メディカルフード(栄養不足の患者向けの経腸栄養剤)の輸入販売を行っており、収益の約8割を輸液事業から上げている。輸液は大きく基礎輸液(水分・電解質・糖質などを補給するためのもの)とアミノ酸輸液(食事がとれない場合にたんぱく質などの栄養素を補給するためのもの、肝性脳症など特殊な病態の治療用のもの)に分けられるが、基礎輸液はエジプト国内市場シェアの約60%、アミノ酸輸液では約90%を占めている。

エジプト大塚が製造するアミノ酸輸液(エジプト大塚提供)
質問:
現在のサプライチェーンの概況は。
答え:
輸液の原材料や容器は医療品に使用可能な高い品質のものが求められるが、それらはエジプト国内で生産できず、欧州やアジア、日本からの輸入に頼っている。現状エジプトで調達できるのは包装の段ボールやラベルなどだ。販売先については9割がエジプト国内市場向けであり、そのうち7割が統一調達機関(UPA)(注2) へ納入され、政府系病院で消費されている。そのほかの3割をエジプト国内の私立病院向けに販売している。取扱量が大きいため、エジプト国内の輸送は全て自社で行っている。
輸出は全体生産量の1割であり、うち9割が政情不安で医薬品製造がままならない隣国リビアへの輸出だ。こちらも政府機関に納品している。そのほか、アラブ首長国連邦(UAE)やモーリシャス、モーリタニアに対する輸出や、WHOや赤十字を介しての輸出も行っている。
質問:
生産された輸液のほとんどがエジプト国内で消費されるとのことだが、輸液市場としてのエジプトの特徴は。
答え:
エジプトの輸液市場は、感染症による脱水症などへの対応をはじめとする生命維持に不可欠な基礎輸液の需要が大多数だ。近年ではアミノ酸など栄養輸液の需要も増加傾向にあるが、他の先進国と比べるとまだまだ需要は少ない。
質問:
エジプト大塚のビジネスにおけるエジプトの優位性は。
答え:
輸液製造は多額の初期投資が必要で、かつ製造に高い技術水準を要することから参入障壁が高い。そのため、エジプト国内に強力な競合相手は少なく、収益基盤が盤石なことが挙げられる。また、物流や関税の観点から中東およびアフリカ大陸への輸出において利便性が高い。リビアへの輸出にはGAFTA(大アラブ自由貿易地域)を活用している。
質問:
エジプトの中でもテンス・オブ・ラマダンの優位性は。
答え:
製造業において最も重要といえる電力・水道などの基礎インフラが安定しているのが強み。エジプトの他地域では瞬間的な停電が見られることもあるが、テンス・オブ・ラマダンではそういったことはない。人口が多く、雇用面で大きな困難がないことも利点だ。
質問:
エジプトでビジネスを行う上での課題・留意点は。
答え:
前述のとおり原材料を輸入に頼っているところ、2022年以降エジプト・ポンドの下落の影響で原料コストが高騰している。インフレにより政府が定める公定薬価も上昇したが上昇幅は十分ではなく、薬局やディストリビューターの取り分も法律で決まっていることから、医薬品業界は利益を出しにくい構造がある。
質問:
人材採用・育成の状況は。
答え:
採用は公募、第三者からの紹介などさまざまなルートで行っているが、特に優秀な人材が求められる管理職などについては、既存のコネクションを基に採用するのが最も確実で信頼のおける方法だ。
人材定着の観点では、やはり賃金が最も重要な要素となる。品質管理など汎用(はんよう)性のあるスキルが身につく部門における若年層の離職率が高く、より高給な現地の製薬企業との人材獲得競争がある。しかし、前述のとおりテンス・オブ・ラマダン周辺では労働力が豊富なため、人員補充にあまり苦労はしない。福利厚生として医療保険は全社員に加入させている他、一部の幹部候補生に対しては、海外大学の研修プログラムや、日本での研修を含めた種々の能力開発を実施している。
質問:
エジプトにおいてこれまでビジネスを継続できている要因は。
答え:
UPAからの大塚ブランド・品質への信頼は厚いと感じる。しばしばUPAから急な納品依頼があるが、それにしっかりと対応できていることも信頼を得られている要因として大きいのではないか。また、エジプト国内の私立病院への認知度はUPAほどではないが、品質や製品ラインアップの豊富さが評価されていると感じる。
質問:
現地企業の買収や現地企業との共同出資を積極的に実施していると認識しているが、同国におけるビジネスパートナー選びのポイントは。
答え:
当地でビジネスを行う上では、可能であれば100%子会社の設立が望ましいと思うが、現地企業とジョイントベンチャーなどを設立する際は、連携先が品質やコンプライアンスを重視しているか確認する必要がある。エジプトに製品を輸出するビジネスの場合は、ディストリビューターの財務状況も非常に重要だと思う。
質問:
昨今の中東情勢が経営に与えた影響は。
答え:
イスラエル・ハマスの武力衝突を受けたフーシ派による紅海での船舶攻撃の影響で、スエズ運河航路が使用できなくなり、輸送コストが増大した。輸液の原材料は3~5年間の保存が可能なため、一回の注文量を増やして在庫を多めに確保しつつ、緊急時には空輸も活用した。
質問:
今後のビジネスの展望は。
答え:
周辺国への輸出も拡大していきたいが、現状ではエジプト国内の需要を満たすことを優先している。ただし、エジプト国内でも需要過多になっているので、まずは輸液の製造キャパシティーを増やす予定だ。
輸出に関しては、既存の大口輸出先のリビアを引き続き重視していくが、新たな市場として、特にヘルスケア産業が発展しているUAEにも注目している。今後も事業の拡大や新製品の開発を積極的に進め、中東・アフリカ地域において人々のヘルスケアにさらに貢献していきたい。

注1:
持ち株会社である大塚ホールディングスの傘下に、大塚製薬や大塚製薬工場をはじめとする多くの会社が存在する。大塚グループ内の別法人「アラブ大塚ニュートラシューティカルズ」はエジプトにおいて炭酸栄養ドリンク「オロナミンCドリンク」の輸入販売などを行っている(2024年5月16日付ビジネス短信参照)。本文に戻る
注2:
UPA(Unified Procurement Authority)は、エジプトで公共病院の医療機器などの調達を一括して行う政府機関。本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課
波多野 瞭平(はたの りょうへい)
2025年10月から現職。中東・アフリカ地域の調査業務を担当。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課 リサーチマネージャー
久保田 夏帆(くぼた かほ)
2018年、ジェトロ入構。サービス産業部サービス産業課、サービス産業部商務・情報産業課、デジタル貿易・新産業部ECビジネス課、ジェトロ北海道を経て2022年7月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・カイロ事務所
塩川 裕子(しおかわ ゆうこ)
2016年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ富山、企画部(中東担当)を経て2022年7月から現職。

この特集の記事

今後記事を追加していきます。

総論・地域横断

日本企業事例

日本企業のアフリカビジネス

製造業のアフリカ展開

地方からアフリカ展開

日系スタートアップのアフリカへの挑戦

アフリカ現地企業事例

アフリカ工業団地・フリーゾーン事例

第三国事例