アフリカでのビジネス事例日本の技術×エジプトの人材で製造業を支援

2026年7月8日

欧州・中東・アフリカの結節点に位置し、1億900万人を超える人口を有するエジプトは、安価で豊富な労働力を持つ製造拠点として注目が高まっている。同国のGDPに占める製造業の割合は約16%で、主要産業として成長が続く。

製造業に関わる人材育成にも積極的だ。エジプト・日本高専(2025年10月7日付ビジネス短信参照)など、製造業に関する実践的な技術を学ぶ教育施設の整備が行われ、地場の大手製造業では職業訓練校の設立や教育・研究機関との連携を通じて独自の人材育成を行っている。

また、育ちつつあるエジプトのエンジニア人材と、日本が持つ高度な技術やものづくりのノウハウを掛け合わせたビジネスも生まれている。日本の東洋一通商とエジプトの家電製造最大手エルアラビ(ELARABY Group)は2020年、日本でエルアラビ東洋一エンジニアリング(ELTE)を合弁で設立した。エルアラビの研究開発(R&D)部門からスピンアウトしたPhotonXと連携し、日本をはじめ各国の顧客から、組み込みソフトウエアや基板の回路設計、実装後の稼働試験などを受注している。

ジェトロはELTE取締役兼最高執行責任者(COO)の南野伸之氏および渉外・戦略提携マネージャーのイブラヒム・モハメド・エルアラビ氏、PhotonXの最高経営責任者(CEO)のモハメド・マグディ・エルアラビ氏に、ELTEとPhotonXの各事業内容や両社の連携について話を聞いた(取材日:2026年5月21日)。

PhotonX、社内R&D部門から地域の製造業支援へ

エルアラビの創業は1964年にさかのぼる。当初は東芝などの製品の輸入・販売のみを手掛けていたが、輸入代理店としてマーケティングを行ううちに、エジプトの消費者のニーズを製品に反映することの重要性に気がついた。そこで、自らエジプト市場向けに製品仕様を考えるようになった。

2000年代に入って東芝より技術者を招聘(しょうへい)し、本格的な技術移転と、自社の製品開発能力の強化を始めた。エルアラビはエジプトの顧客の嗜好(しこう)をよく理解しているため、東芝の技術と組み合わせることで、より消費者に受け入れられやすい製品を開発することを目指し、R&D部門を立ち上げた。当初は、東芝の設計をベースにエルアラビがエジプト市場に合わせた仕様の調整を東芝に依頼し、東芝の承認を受けて製品化していた。

中国の美的集団(Midea)による東芝の家電部門買収により東芝とエルアラビの関係が解消した後は、自社で独立して製品開発を行う必要に迫られた。研究施設と設備、人材に積極的な投資を続けた結果、社内のR&D部門は工業デザイン、機械工学・電子工学分野、組み込みソフトウエアの開発、製品の試作、完成品のテストを担う本格的な製品開発エコシステムに成長した。近年では、シャープ(SHARP)など海外ブランドとの間で、エルアラビで開発設計を行い、認可を得てそのブランド名で販売するODM生産を実施するようになった。現在もシャープとの協力は深化しており、共同開発の取り組みも進んでいる。

こうしたR&Dの能力やノウハウを社外にも展開するため、2025年、PhotonXを設立した。PhotonXはエルアラビの研究開発資源とエンジニアリングのノウハウを統括する独立企業だ。現在PhotonXは、製品設計、電子回路・ソフトウエア設計 、IoTソリューション、シミュレーション、試作、試験、パッケージング、製造支援までの一貫したエンジニアリングサービスを提供し、地域の技術・エンジニアリング拠点となることを目指している。

PhotonXが目指すのは、学術研究と産業応用のギャップを埋め、エジプトに知識基盤型産業を構築することだ。エジプトの学術研究機関では多くの研究成果があるものの、大学と産業の連携不足により市場化されないケースが多い。PhotonXは大学と企業を結びつけ、知識を産業価値へと転換するプロセスを加速させることを目指している。

ELTE、日本の優れた技術を若いエンジニアに継承

エルアラビ東洋一エンジニアリング(ELTE)は、エルアラビと東洋一通商が合弁で設立したエンジニアリング企業だ。「日本の技術を若いエンジニアに継承する」ことをビジョンとしており、東芝などの熟練技術者と、京都大学、大阪大学などで学ぶ世界各国出身の若いエンジニアがチームを作っている。所在地は日本だが、完全な成果主義や在宅勤務の積極的な導入を行っており、日本の技術を持つグローバル企業といった様相だ。日本企業を中心とする顧客の要望に応じ、工業デザイン、組み込みソフトウエアや基板の回路設計、試作品の製造、実装後の稼働試験などを受注している。

日本の技術とエジプトの人材、双方の強みを生かす

ELTEとPhotonXは緊密に連携しており、両社は日本の高度なエンジニアリング技術と、エジプトにおける人材の豊富さや中東・欧州市場へのアクセスの良さといった、それぞれの強みを生かして事業を拡大している。エルアラビやPhotonXのネットワークが強い中東や欧州の顧客に対しては、ELTEが抱える、日本の高度かつ専門的なスキルを持つ熟練の技術者ならではのサービスを提供することができる。ELTEの顧客の中心である日本企業に対しては、ELTEの事業規模では手が回らないサービスを、PhotonXが持つエジプトの若いエンジニアの力や研究開発施設を使ってコストを抑えながら提供できる。

例えば、日本企業がエジプト市場向けの製品を開発する際、ELTEとPhotonXはエジプトの顧客ニーズの把握、現地市場に適合する製品のコンセプトづくり、設計・エンジニアリング、試作品製作、完成品の市場対応まで全行程を支援できる。日本企業とエジプト市場の橋渡しを行い、エルアラビが培ってきた顧客ニーズの理解を実用的な製品仕様に反映可能だ。また、市場からのフィードバックも迅速に得られるため、製品のローカライゼーションと市場参入の成功をより効果的に支援できる。このほかにも、両企業の協力関係は機械設計、ソフトウエアおよびハードウエア設計、シミュレーション、パッケージ設計など複数の工学分野にまたがり、製品全体の設計、試作、試験に及ぶ。

エジプトを地域の製造業ハブへ

エルアラビはエジプトに地域の製造業ハブを構築することを目指している(ジェトロ「J-Twende」参照)。エルアラビが持つ製造インフラ、ELTEとPhotonXが提供する設計、製品開発の付加価値を組み合わせることで、エジプトで設計、開発、最適化、製造を一貫して実施し、市場競争力のある製品を生み出す体制が実現する。

日本の卓越した先進技術とエジプトの豊富なエンジニア人材の相乗効果により、エジプトを地域のR&Dおよび製造のハブとして成長させたい。この取り組みは、エジプト国内の知識産業の強化と、国際協業を通じたエンジニアリングビジネスのグローバル展開の双方を目指している。

執筆者紹介
ジェトロ・カイロ事務所(執筆当時)
塩川 裕子(しおかわ ゆうこ)
2016年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ富山、企画部(中東担当)を経て2022年7月から現職。

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