アフリカでのビジネス事例電動二輪ビジネスで交通・エネルギー課題の解決へ、武蔵精密工業

2026年8月31日

国連の世界人口推計によると、アフリカの人口は2025年の約15億人から、2050年には約25億人に増加する見通しだ。一方、人口増加に対応する交通やエネルギーなどのインフラ整備が課題となっている。国連環境計画(UNEP)と国連人間居住計画(UN-Habitat)の報告書によると、アフリカで公共交通に徒歩圏内でアクセスできる人口は2020年時点で31.7%と推定されており、世界平均の51.6%を大きく下回り、世界で最も低い水準にある。また、世界銀行によると、サブサハラ・アフリカの電化率は2024年時点で55.1%にとどまる。

こうした中、電動二輪を軸にアフリカの交通・エネルギー課題の解決を目指すのが、武蔵精密工業(本社:愛知県豊橋市)だ。ケニアやエチオピアで現地スタートアップと連携して事業を展開する同社の執行役員兼CIO(最高イノベーション責任者)の伊作猛氏に、アフリカでの取り組みについて聞いた(取材日:2026年7月3日)。


執行役員兼CIOの伊作氏(ジェトロ撮影)
質問:
事業の概要は。
答え:
当社は、自動車部品、二輪車部品を主力とするメーカーだ。四輪車向けでは欧米・中国などの自動車大国、二輪車向けでは東南アジアや南米を中心に事業を展開してきた。1984年に米国で初の海外工場を設立して以降、海外展開を拡大し、現在は14カ国に37の製造拠点を有する。主な顧客は大手メーカーであり、各地域のOEMの生産に合わせて部品供給を行ってきた。
質問:
アフリカ事業に取り組むことになったきっかけは。
答え:
当初からアフリカを目指していたわけではない。背景には、2010年代半ば以降、自動車産業でコネクティッド(Connected)、自動運転(Autonomous)、シェア&サービス(Shared & Services)、電動化(Electric)といった「CASE」と呼ばれる分野で技術革新が進み、「100年に1度」といわれる大きな変化に危機感を覚えたことがある。当社が主力とする駆動系部品は、特に電動化の影響を大きく受ける。そのため、既存事業にとどまらず、新たな事業領域を開拓しながら、社会課題の解決にもつながる取り組みを模索していた。そのような中で、2020年に米国ニューヨークで知り合ったベンチャーキャピタルから、ケニアで電動二輪を展開するスタートアップ、アーク・ライド(ARC Ride)を紹介され、2022年5月に出資を実行した。
質問:
アーク・ライドへの出資を決めた背景と、出資を決断するまでのプロセスは。
答え:
アーク・ライドはお互いの持っているリソースをかけ合わせられる、技術的シナジーの大きな会社だった。普段は出資先候補とは酒を酌み交わすなど直接会談することで信頼関係を築くが、当時はコロナ禍でそれが難しかったため、何度もウェブ会議を重ねた。社内の意思決定に関しては、当社が会社を設立して直接事業を実施するわけではなく、現地パートナーへの出資という形態であったことが、決断のハードルを下げた。
質問:
ビジネスを行う上でケニアにはどのような利点があったか。
答え:
ケニアは発電に占める再生可能エネルギーの割合が9割を超え(2025年3月10日付ビジネス短信参照)、電動モビリティとの親和性が高い市場だ。電動二輪が普及すれば、ガソリン輸入に伴う外貨流出の抑制や都市部の環境負荷低減、カーボンクレジットの創出などにもつながる可能性があると考えた。2022年にチュニジアで開催されたアフリカ開発会議(TICAD8)のビジネスフォーラムに出展し(2022年9月6日付ビジネス短信参照)、ケニアの閣僚からグリーンテックを求めているとの声を直接聞けたことも後押しとなった。
質問:
ケニアでの具体的な事業内容は。
答え:
電動二輪の駆動ユニットの販売とバッテリースワッピングを組み合わせた事業を実施している。駆動ユニットの販売では、電動二輪向け駆動ユニット「イーアクスル(e-Axle)」を、コスト競争力のあるものづくりが可能なインドで製造し、供給している(2026年6月23日付地域・分析レポート参照)。

電動二輪向け駆動ユニット「イーアクスル(e-Axle)」(ジェトロ撮影)
また、車両を普及させるだけでなく、利用者が必要なときに充電済みのバッテリーへ交換できるステーションを整備し、利用量に応じて課金する仕組み(バッテリースワッピング)を構築している。バッテリーは電動二輪の車両価格の大部分を占めるため、車両とバッテリーを切り離すことで初期費用を抑え、二輪車を使って仕事を始める人の参入障壁を下げる狙いがある。単なる移動手段の提供ではなく、雇用や所得機会の創出にもつながり得る。

取材に同席した同社のe-Mobility戦略企画グループ
マネージャー姫嶋康輔氏とバッテリーステーション
(ジェトロ撮影)

座席下に交換可能なバッテリーを収容する電動二輪
(ジェトロ撮影)
アーク・ライドが取得する走行データやバッテリーステーションの利用データを活用し、どの地域に何台の車両を投入し、どこにステーションを置けば事業性が成り立つかの検証も行っている。
このような取り組みは、従来の海外展開と大きく異なる。従来は、完成車メーカーなど既存顧客の海外展開に合わせて進出するケースが多かった。一方、アフリカの電動二輪事業では、すでに確立された市場や顧客が存在するわけではない。駆動ユニットだけを持ち込んでも事業は成立せず、現地パートナーとともに、車両、バッテリー、バッテリーステーション、販売、メンテナンスを含むエコシステムを構築する必要がある。ケニアでの事業は、当社にとって、一から「市場をつくる」初めての取り組みだ。
質問:
ケニア以外での展開は。
答え:
2024年から、日本人の佐々木裕馬氏が設立したエチオピアの電動二輪事業のスタートアップであるドダイ(Dodai)との協業を開始した。2024年に採択された経済産業省のグローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金をきっかけに、エチオピアでのバッテリーステーション設置を開始した。エチオピア政府は2024年にガソリン車・ディーゼル車の輸入を禁止しており、政策面でも電動化への追い風がある。
質問:
アフリカ事業での課題は。
答え:
課題の1つは、制度やインフラの未整備である。国によっては電動車というカテゴリーが十分に整っておらず、輸入や関税手続きで時間を要するケースがある。また、バッテリーステーションなどのインフラ整備には時間と資金が必要で、投資回収まで5~7年程度かかる可能性もある。短期的な収益性だけでは事業価値を評価しにくく、環境・社会インパクトを投資判断にどう組み込むかも課題となる。
もう1つの課題は、エコシステムをともにつくる仲間を増やすことだ。電動二輪を普及させるには、車両やバッテリーだけでなく、バッテリーステーション、エネルギー、ファイナンス、メンテナンスなど、多様な領域のパートナーが必要になる。アフリカ事業では、当社単独で市場を開拓するのではなく、現地企業、政府関係者、投資家、異業種企業との連携を広げることが欠かせない。こうした連携づくりの一環として、ジェトロのJ-Bridge(J-Bridgeユーザーインタビュー参照)やTICADの機会も活用してきた。
一方で、中東情勢に伴うガソリン価格の上昇は、物流費上昇などのマイナス面はあるものの、中長期的には電動化の追い風になるとみている。
質問:
この先の展開は。
答え:
アーク・ライドとは、ケニアでの経験を踏まえ、南アフリカ共和国やガーナへの展開を検討している。もっとも、目指しているのは、電動二輪の販売だけではない。電動二輪を入り口に、交通、エネルギー、雇用、教育、農業など、複数の社会課題の解決につなげることである。例えば、車載用として数年間使用したバッテリーは、二次利用によって無電化地域の家庭用電源として活用できる可能性がある。夜間に照明が使えるようになり、タブレット端末などを通じて教育や農業技術へのアクセスが広がれば、地域の生活改善にもつながる。今後は、エネルギー、農業、バッテリー二次利用などの分野で連携できるパートナーを増やし、電動モビリティを核としたエコシステムを広げていく考えだ。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課
天神 和泉(てんじん いずみ)
2015年、ジェトロ入構。ビジネス展開支援課、ジェトロ静岡、企画部海外地域戦略班(アフリカ担当)を経て、2022年7月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課
波多野 瞭平(はたの りょうへい)
2025年10月から現職。中東・アフリカ地域の調査業務を担当。

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今後記事を追加していきます。

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