アフリカでのビジネス事例炭化水素生産能力強化
アルジェリア国営ソナトラック戦略方針(1)
2026年1月21日
従業員数約20万人、売上高約500億ドルを誇るアフリカ最大の企業、アルジェリア国営炭化水素公社ソナトラック。同社は第9回アフリカ開発会議(TICAD9)の一環で、ジェトロが8月20~22日に横浜で開催した「TICAD Business Expo & Conference(TBEC)」に「アフリカのビジネスチャンピオン」として参加した(2025年8月27日付ビジネス短信参照)。
地政学的な不確実性の高まり、紛争の激化、世界経済の減速といった国際環境の下、2024年の石油・ガスの世界市場は全体的に下落傾向を示した。ソナトラックも他のエネルギー大手と同様に、価格下落の影響を受けている。こうした状況を踏まえ、炭化水素・鉱業省の戦略方針に沿って、同社は国内の生産能力の拡大、外国企業との連携強化、石油化学分野の拡充に加え、グリーン水素を軸としたエネルギー転換の加速や炭素排出削減に優先的に取り組んでいる。
本連載はソナトラックが2025年12月4日にウェブサイト上で公表した2024年の年間報告書
(52.6MB)などを基に同社の直近の動きを概説する。前編となる本稿では、ソナトラックの炭化水素生産の実態と動向、国内生産能力拡大に向けた外国企業との連携強化、さらにアフリカ大陸での事業展開など、上流部門に関する取り組みを紹介する。また、後編では、下流部門である石油化学分野における活動強化と、グリーン水素分野における最新の取り組みに焦点を当てる。
炭化水素生産の実態と最新動向
近年増加傾向にあったソナトラックの炭化水素の一次生産量は、2024年に1億9,370万石油換算トン(TOE)となり、前年比0.1%減となった(図1参照)。また、自社需要分などを差し引いた国内外向けの販売量は1億6,290万TOEで、同年は前年比0.8%減だった。
出所:ソナトラック年間報告書統計を基にジェトロ作成
一次生産量の内訳を見ると、原油4,690万TOE(全体の約24%)と天然ガス1億2,790万TOE(同約66%)で全体の約9割を占める(図2参照)(注1)。
出所:ソナトラック年間報告書統計を基にジェトロ作成
また、ソナトラックが単独で生産した炭化水素は約1億5,190万TOEで全体の78%を占める(図3参照)。
出所:ソナトラック年間報告書統計を基にジェトロ作成
外資連携を通じたソナトラックの探鉱戦略とリスク対応
外資系企業の参入促進を目的にアルジェリア政府が2019年に導入した炭化水素法は柔軟な契約枠組みと有利な税制を規定している(2024年6月21日付ビジネス短信参照)。こうした中、ソナトラックは短期戦略として上流部門で外国企業との提携を進め、新規ガス田の開発加速を目指す意向を示した(2025年8月27日付ビジネス短信参照)。現在、外国企業との共同生産は約4,180万TOEで全体の約2割にとどまるが、今後拡大の可能性があるとみられる。
同社は新規油田・ガス田の共同開発開始に向け、既に複数の外国企業とパートナーシップを締結している。アルジェリア国家炭化水素開発庁(ALNAFT)は2024年8月、5区域での新規ガス田開発に向けた国際入札「Algeria Bid Round 2024」を実施した。これは2014年以来の国際入札となった。ソナトラックはその結果に基づき、2025年7月に中国石油化工(シノペック)、イタリアのENI、フランスのトタルエナジーズなどと、5件の天然ガス探査契約または生産分与契約(注2)を締結した。投資総額は合計約6億ドルに達する。 さらにALNAFTは、2026年初めに新たな炭化水素探査入札を開始する方針を示している。
一方、ソナトラックはALNAFTの管理外でも複数の外国企業と連携を進めている。同社は2025年2月に中国のシノペック、7月にイタリアのENI、10月にはサウジアラビアのミダッド・エナージ・ノース・アフリカと、それぞれ炭化水素の探査・開発に関する生産分与契約を締結した。サウジアラビアのミダッド・エナージ・ノース・アフリカとの契約では、探査・開発に要する総投資額約54億ドルをミダッド・エナージ・ノース・アフリカが全額負担することが明らかにされ(2025年10月22日付ビジネス短信参照)、初めて外国パートナー企業が探査・開発に係る総投資額を全額負担することが明確にされた。
炭化水素市場の変動性が高まり、原油価格が下落傾向にある中(2025年12月15日付ビジネス短信参照)、ソナトラックは投資回収の保証が乏しく、巨額の資金を要する高リスクの炭化水素探査プロジェクトへの積極投資に対しては、慎重な姿勢を強めているとみられる。こうした状況下で、同社が新規鉱区の探査・開発に係る投資資金を海外パートナーに100%負担させる方針は、最終的に自社の利益見通しを削る可能性を容認しつつ、実質的にリスクを海外パートナーへ移転することを優先していると解釈できる。
国内需要増で輸出余力縮小、ソナトラックはシェールガス開発に活路
ソナトラックの2024年の炭化水素販売量の内訳を見ると、外国市場向け輸出量は9,140万TOEで全体の56.1%、国内市場向け販売量は7,150万TOEで同43.9%を占めた。近年、国内市場向け販売量は着実な増加を示しており、2024年も前年比3.3%増となった(図4参照)。
出所:ソナトラック年間報告書統計を基にジェトロ作成
国内需要増加の背景には、経済の多様化による国内製造業の振興、天然ガス由来の発電能力の強化、さらに年間約70万人の人口増加がある。
アルジェリアの総合発電能力は現在29ギガワット(GW)に達しており、その約99%を天然ガスが占める。一方、政府方針の下で進む経済の多様化に伴い、鉄鋼やセメント工場の生産拡大が電力需要をさらに押し上げている。加えて人口の増加やエアコン普及率の高まり、生活習慣の変化がエネルギー需要を一層拡大させている。アルジェリア国営電力公社ソネルガスは、天然ガス火力発電所の新設によって発電能力の強化を図っている。
天然ガスの国内需要が増加する中、生産能力を強化しなければ、輸出余力は必然的に縮小する。ソナトラックの2024年の投資実績は約60億ドルと、前年比11%増を記録した。そのうち79%が探査(7億1,100万ドル)および石油・ガス田運営・開発(約40億ドル)に充てられている。同社は同年、18件の新規炭化水素資源を発見したものの、推定埋蔵量は合計1億346万TOEと、現在の一次生産量の約半年分にとどまる。さらに運営・開発投資の内訳を見ると、生産維持関連が大きな割合を占める。既存の油・ガス田の老朽化に伴い、井戸元圧力が低下しているため、昇圧設備の増設が不可欠となっている。
既存のガス田の操業には一層多額の投資が必要となる一方、新規ガス田の探査は投資回収の保証がなく、リスクも高い。このため、天然ガスの輸出による外貨収入を維持するため、ソナトラックは中期的戦略として「ゲームチェンジャー」とされるシェールガス開発を目指している。米国エネルギー情報局(EIA)によると、アルジェリアの技術的に回収可能なシェールガスの埋蔵量は707兆立方フィート(約20兆立方メートル)で、中国、アルゼンチンに次いで、世界3位と推定されており、確認済みの従来型資源の約4倍に相当する規模だ(2025年8月27日付ビジネス短信参照)。ソナトラックは2026年をめどに、外国企業との連携の下、国内でのシェールガス開発を本格的に開始する予定だ。同社は現在、シェールガス開発に関する合意締結に向けて、米国石油メジャーのシェブロンやエクソンモービルと交渉を進めている。
ソナトラックのアフリカ攻勢、外交的狙いと現実の壁
ソナトラックは2023年以降、アフリカ大陸での事業展開を加速させ、注目を集めている。2023年にコンゴ共和国国営石油会社(SNPC)、コンゴ民主共和国国営石油会社(SONAHYDROC)、ベナン国営石油会社、ガーナ国営石油会社(GNPC)と、人材育成分野でのパートナーシップ協定を締結した。その後、2024年と2025年には、ニジェール、リビア、モーリタニア、モザンビーク、ケニアなどの石油・ガス国営公社と、精製所建設や炭化水素の共同探査などに関する各種合意書を相次いで締結している。
しかし、ニジェールでは外交的な緊張により計画が停滞し、他国での取り組みもまだ初期段階にとどまっている。こうした「アフリカ攻勢」は、政治的孤立から脱却を目指すアルジェリア政府の外交色を強めている一方、実現には懐疑的な見方が多いとの報道もある。
ソナトラックは技術力が評価されているものの、アフリカでの事業拡大には資金力と最先端の探鉱技術を有している大手外国企業との提携が不可欠と指摘されている。炭化水素探鉱は巨額の投資を必要とし、石油メジャーの支援なしでは限界がある。そのため、高リスクの投資に慎重なソナトラックのアフリカ展開は現在、アフリカ人材への研修提供にとどまり、探鉱や開発において実質的な役割は果たせていないともいえる。
こうした状況下で、ソナトラックは移行期の基幹エネルギーとして天然ガス生産を維持しつつ、再生可能エネルギーとグリーン水素の国家戦略に沿い、持続可能な統合型エネルギー体制の構築を目指している。さらに化石燃料依存を減らすため、グリーン水素分野にも積極的に取り組み、実証事業や産業界との連携を通じて生産・輸送・販売の体制整備を進めている。後編では、これらの施策に焦点を当てるとともに、付加価値の高い石油化学分野のプロジェクトを紹介する。
- 注1:
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炭化水素(たんかすいそ)は、炭素(C)と水素(H)から構成される有機化合物の総称。うちメタンは石油や天然ガスの主成分。
- 注2:
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生産分与契約(PSA:Production Sharing Agreement)は、政府もしくは国営企業と別のパートナー企業が結ぶ契約で、主に石油や天然ガスなどの資源を対象としている。パートナー企業側は、原則探査や開発に係る費用とリスクを全て負担し、政府もしくは国営企業側は、資源の所有権を保持したまま、将来の生産物の一部を受け取る契約形態となる。この契約方式では、企業側は資源を見つけられなければ投資を失う可能性もあるが、成功すれば生産物の一部を得ることで利益を回収する。
アルジェリア国営ソナトラック戦略方針
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- 執筆者紹介
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ジェトロ ・パリ事務所
ピエリック・グルニエ - ジェトロ・パリ事務所に2009年から勤務。アフリカデスク事業担当として、フランス語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種事業、調査・情報発信を行う。




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