アフリカでのビジネス事例荏原製作所、着実な営業と新規事業で市場開拓に手ごたえ(ケニア)
アフリカで成長中の日系製造業の取り組み

2025年5月16日

ジェトロは2024年12月、「海外進出日系企業実態調査(アフリカ編)」を発表した。その結果によると、今後1~2年の事業展開の方向性について「拡大」と答えた企業の割合はアフリカ全体で57%と半数を超えた。全世界の地域別にみると、南西アジアに次いで高い結果だ。アフリカに進出する日系企業のうち、特に製造業でその割合が高い。67.3%で約7割になり、前年調査から12.8ポイント上昇した。

アフリカには規制や法令、為替面など、課題が多い。一方で、着実に利益を出して事業拡大を進める企業も増えつつある。その一例が、Ebara Pumps East Africaだ。

同社は、ポンプなどの産業機械を手掛ける荏原製作所のグループ企業だ。同社でジェネラルマネージャーを務める乗富大輔氏に、ケニアでの取り組みについて聞いた(取材日:2025年3月17日)。


ジェネラルマネージャーの乗富大輔氏(右)とセールスエンジニアのアンソニー・ンドゥング氏(左)
(ジェトロ撮影)
質問:
ケニアでの取り組みについて。
答え:
イタリアに拠点を置くEbara Pumps Europe S.p.Aの支店として、2022年にケニアの首都ナイロビにEbara Pumps East Africa(EPEA)を設置した。荏原グループにとって東アフリカ最初の拠点だ。取り扱っているのは、定められた仕様に基づき製造する標準ポンプで、主にトルコとイタリアの工場で製造したものを輸入・販売している。ケニアでは標準ポンプの販売に加え、新規事業としてソーラー点滴灌漑設備のリース事業などにも挑戦している。
質問:
ポンプ販売について。
答え:
主力商品は深井戸ポンプと産業用陸上ポンプの2つだ。深井戸ポンプは、井戸の中に設置し地上に水を汲み上げるポンプで、用途は飲用水や農業用水など様々だ。4インチの製品が主流だが、競合との差別化およびナイロビの水源の深さに対応するため、6インチの製品にも力を入れている。
産業用陸上ポンプは比較的大型の製品で、工場のボイラーへの給水や、大規模農場の灌漑などに使用されている。これらの製品はとりわけ当社の技術力が光り、高い効率やメンテナンスのしやすさなどが強みだ。
ポンプは、主に販売代理店を通じて販売している。当社でも在庫を持ち、必要に応じてバイク便などを使い、でポンプ1台から最短当日で納品可能だ。エムペサ(ケニアで普及している電子決済)など、モバイルマネーでの支払いにも対応している。ケニアで定常的に取引がある顧客は50社以上あり、これまでに100社以上と取引がある。

ケニアで販売している製品のイメージ例(EVMS型立形多段ポンプ)(同社提供)
質問:
新規事業のソーラー点滴灌漑設備販売について。
答え:
農業はケニアの基幹産業だが、多くの農家は天水に頼り、生産性に課題がある。そこで、当社ではソーラー発電で動く点滴灌漑設備をリース販売している。この設備は未電化地域でも使用でき、ランニングコストが低いうえに限りある水資源を効率的に使うことができる。また、リースにすることで、一括払いで購入することができない顧客にも灌漑設備をお届けできる。5エーカー以上の農地を持つ中規模農家を対象に、事業を展開している。設備を導入して3年ほどで採算がとれるようになる見込みだ。このソーラー点滴灌漑設備事業では、農家に合わせたオーダーメイドのソリューションを提供している。
営業の際は、ソーラー点滴灌漑のメリットをしっかり伝えることを意識している。燃料費のかかるエンジンポンプを使用している農家が多く、関心は高いが、当地ではまだ一般的ではないリースの仕組みを理解してもらうのは簡単ではない。必要に応じ、現地スタッフがスワヒリ語で説明するよう、工夫している。

ソーラー点滴灌漑設備を設置した農場(同社提供)
質問:
ケニア以外の周辺国市場はどうか。
答え:
周辺国市場はいずれも魅力的であり、積極的に取り組んでいる。同じ東アフリカでもそれぞれに特徴があるため、市場調査を行ったうえでニーズを見極め、各国に合ったスタイルで参入する必要がある。例えば、ウガンダはケニアと比べて降水量が多く、湖や川などの表層水も豊富で、地方ではハンドポンプが主流だ。表層水が少なく地中深くに設置する深井戸ポンプの需要があるナイロビとは、このような点が異なる。
質問:
競争環境は。
答え:
主な競合は、現地市場で長年の歴史があり知名度の高い欧州企業だ。デンマーク企業が強く、ドイツやイタリア企業も競合先だ。また、欧州企業のポンプを取り扱う地場の大きなポンプ代理店もあり、競争環境はとても厳しいと感じている。
質問:
アフリカでの課題は。
答え:
アフターサービスが課題だ。他の市場とはポンプの設置環境が異なることもあり、顧客から想定外の問い合わせを受けることもある。現地市場ならではの様々な難しさがあるが、専任の駐在員(エンジニア)を配置し、ローカルスタッフと共にアフターサービスの強化に取り組んでいる。適切なポンプの選定や設置、メンテナンスなど、一貫したサービスの実現を通じて信頼を獲得し、厳しい競争を乗り切っていきたい。
質問:
今後の展開は。
答え:
これまで、幅広い製品ラインナップや高効率・高品質な製品を強みに、建築や産業向けの標準ポンプを主に取り扱ってきた。現時点では、ケニアの市場規模は決して大きくはないが、事業の成長スピードに手ごたえを感じている。
今後はケニアの地方都市や周辺国にもさらに力を入れ、より多くの人々に荏原グループのポンプをお届けしたい。また、荏原グループでは、大型ポンプやコンプレッサー・タービン、廃棄物処理施設、半導体製造装置など幅広い産業機械を手掛けている。アフリカ全体におけるビジネスチャンスを掴み、アフリカの更なる発展に貢献していきたい。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課
坂根 咲花(さかね さきか)
2024年、ジェトロ入構。中東アフリカ課で主にアフリカ関係の調査を担当。

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今後記事を追加していきます。

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