アフリカでのビジネス事例南ア発ユニコーン・ゴータイム・バンクが語る金融包摂と日本との協創
アジアとアフリカを結ぶ経済接点とは

2026年6月18日

南アフリカ共和国(南ア)の金融市場は、依然として同国経済の中核をなしている。2025年の実質GDPでは、金融・不動産・ビジネスサービス業が全体の約25%を占める。金融サービス需要の堅調さや電子決済・金融補助サービスの拡大を背景に、2025年もプラス成長を維持している。

一方で、南アは高度に発達した金融市場を有しながらも、経済格差の大きさから、適切な金融サービスにアクセスできない層が依然として存在する二重構造を抱えている。この二面性が革新的な金融サービスへの強い需要を生み出し、結果として競争力のある新興金融企業の成長を後押ししている。

こうした環境の中で、2019年2月に設立され急成長を遂げたのが、南ア発デジタル銀行のゴータイム・バンク(GoTyme Bank)である。グループはユニコーン企業(評価額10億ドル以上の未上場企業)としても知られる〔タイムバンク(TymeBank)として創業したが、2026年4月にリブランディングにより商号を変更〕。

物理的な支店を持たず、小売りチェーンと提携し、店舗内のキオスクから口座を開設できる仕組みを確立し、従来は銀行口座を持てなかった人々にも低コストで利便性の高いサービスを提供することに成功した。

現在はアジア展開を見据え、タイム・グループ(Tyme Group)の本社機能を南アからシンガポールへ移転しており、フィリピンでもデジタル銀行ビジネスを展開している。同国展開は、アフリカ発モデルのアジアシフトへの移植という点で、両地域を結ぶ実証的なケースとも位置付けられる。

2025年8月20日から22日にかけて横浜市で開催された第9回アフリカ開発会議(TICAD9)の併催事業「TICAD Business Expo & Conference(TBEC)」にて、ジェトロはタイム・グループ(Tyme Group)の最高経営責任者(CEO)であるクーンラード・ヨンカー(Coenraad Jonker)氏を日本に招聘(しょうへい)し、22日にファイヤーサイドチャット(くつろいだ雰囲気での対話)「南アフリカ発ユニコーン・TymeBankに学ぶ成功戦略:アジアとアフリカ、そして日本を結ぶ未来図」を開催した。

本稿では、イベント中の同氏の発言に加え、同年10月3日に実施したフォローアップインタビュー(ジェトロ・ヨハネスブルク事務所)および2026年5月の再ヒアリング内容を基に紹介する。グループ全体の顧客数は順調に増加しており、直近5月末時点で約2,000万人に達しているという。

質問:
なぜフィリピンを進出先に選んだのか。
答え:
進出先を検討するにあたり「距離」を重要視している。ここで言う「距離」とは、地理的なものだけでなく「市場間の距離」も意味する。当社のビジネスモデルは小売企業との提携に大きく支えられているが、南アとフィリピンには、進歩的で予測可能な規制当局、大規模な小売りチェーン、そして新しいものを受け入れる顧客層が存在するという共通点がある。
質問:
TBEC訪問中に行った日本企業との面談から、どのような学びを得たか。日本企業との連携可能性は。
答え:
南アやフィリピンの市場特徴は日本のそれとは異なるかもしれないが、銀行サービスを核とした強力なエコシステムを構築している日本企業とは知見や経験を相互に共有できると感じた。日本からの資金調達にも関心があるほか、例えばフィリピン人顧客が観光客として日本を訪れた際にクロスボーダー決済を利用できるような仕組みを共同で構築できるのではないか。
日本滞在中、日本の主要なデジタル銀行や決済エコシステムと交流する中で、三つの大きなテーマを感じ取った。第一に、エコシステム統合と異業種連携の力。日本では、ロイヤルティプログラム、小売りとの統合、即時決済、そして加盟店と消費者の接点構築が重視されている。日本の主要プレーヤーは皆、何らかのかたちで自社を小売り、エンタメ、ロイヤルティなどのエコシステムに組み込もうとしている。
第二は、実行力の高さと細部への徹底したこだわりだ。日本の企業文化における卓越性をあらためて実感し、リンクトイン(LinkedIn)にも投稿したほどだ。日本のカウンターパートは皆、会議の準備が非常によくできており、当社の事業内容を理解した上で議論に臨んでいた。さらに会議後のフォローアップも徹底していた。こうした細部まで妥協しない姿勢は、私自身にとっても大きな学びとなり、時間厳守のようなささいなことも含めて、自分のレベルを引き上げる必要性を強く認識した。
第三は、国際人材の積極的な受け入れだ。日本のフィンテックやデジタル銀行が海外の人材採用に積極的であることに驚いた。ある企業では50カ国以上の国籍を持つ人々が働いていた。日本は内向きだという先入観があるようだが、それは不当な偏見だと感じた。

TBECファイヤーサイドチャットの様子。右がヨンカーCEO(ジェトロ撮影)
質問:
革新的なフィンテック分野のスタートアップにとって、南アにビジネスチャンスが多い要因は何か。
答え:
第一の要因は「能力密度」だ。南アには高度に発達した金融セクターと規制環境があり、世界水準の銀行や保険会社が存在する。つまり、フィンテック分野に優れた人材が国内に豊富にいるということだ。
第二の要因は寡占的な産業構造だ。南アの銀行・保険業界は、4~5社がほとんどの分野で80%以上の市場シェアを占めている。こうした構造は安定性が高く、業界運営は非常に堅実である一方で、必ずしも革新的とは言えない。つまり、新しいアイデアが入り込む余地が大きいということだ。
第三の要因は、南ア特有の社会経済的・政治的環境、とりわけ経済格差が非常に大きい点だ。南アはジニ係数が世界でも最も高い国の1つであり、金融システムから排除されている人々が多数存在する。金融業界は彼らのニーズに十分対応できていないため、ここに大きなビジネス機会がある。
第四の要因は、経済活動の大部分がインフォーマル経済の中で行われている点であり、これもまた新しいサービスやイノベーションの余地を生んでいる。
質問:
投資家にとって魅力的なスタートアップとは。
答え:
まず重要なのは、当該分野に精通し、経験と実行力を兼ね備えた創業者および創業チームの存在だ。次に、プロダクトマーケットフィット(PMF、自社の商品が市場の需要に適合している状態)を証明できていること。最後に、まだ開拓されていない大きな市場があるかということだ。特に南アでは、現在も十分な金融サービスを受けられておらず、慢性的に資金不足にあるサブセクターが数多く存在する。こうした分野はニッチではあるものの、その一つ一つの規模が十分に大きく、大規模なビジネスを構築するだけの市場性がある。
質問:
大企業や投資家はスタートアップとどう協業すべきか。
答え:
第一に、(大企業、投資家、スタートアップの)相互の結びつきを大きく深めることが必要だ。第二に、顧客の安全、個人情報の保護、サイバー犯罪への耐性を確保することだ。この二つが実現できれば、顧客に対して最高レベルの安全性と信頼性を提供しつつ、エコシステムとも強く結びついた企業になることができる。そうした企業が勝者になる。例えば今後、国境を超えて金融スーパーアプリが登場し、日々の金融取引の80~90%を1つのアプリで完結できる時代が来る。その覇権を巡る競争は既に始まっている。
質問:
国際的な連携に対して躊躇(ちゅうちょ)している日本企業がいるとすれば、どのような助言をするか。
答え:
日本企業が保守的だと指摘されることはあるが、それは緻密さ、細部への配慮、そして関与の仕方における慎重さという強みの裏返しでもある。多くの新興国の基準から見れば日本企業は「巨人」だ。そのバランスシートのごく一部でも、より実験的で革新的でリスクの高い分野に振り向けることができれば、学習のスピードが大きく加速する。また、資産のわずか一部をリスクにさらしただけであっても、そこから得られるリターンの大きさに驚かされるはずだ。具体的な社名は挙げないが、私は東南アジア、アフリカ、そして中南米において、こうした取り組みで成功している日本企業を実際に見てきた。そうした企業に共通しているのは、最初は小規模に始めた投資が、時間とともに拡大していくという点だ。ほんの少しでもドアや窓、あるいは裏口を開けてみれば、そこから差し込む光の大きさに驚かされるだろう。良い意味で期待を裏切られることになる。
日本企業についてもう1つ言えるのは、利回りの確保に苦労しているという点だ。日本経済は多くの意味で成熟段階にあるため、投資においてより高いリターンや成長機会を見いだすことに難しさを感じているようだ。しかし、ビジネスにおける成長にはリスクが伴うものだ。グローバルサウスは確かに難易度の高い市場であるが、段階的にリスクをとることをいとわなければ、その分だけ大きな報いが得られる場所でもある。
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
西浦 梨佳子(にしうら りかこ)
ビジネス展開支援部、ビジネス展開・人材支援部、ジェトロ福岡を経て、2024年6月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
ケイツメツェ・シメラネ
2024年、ジェトロ入構。米国ニューヨーク州・セントローレンス大学卒業。南アフリカの民間企業で勤務後、来日。2年間の日本滞在を経て、現職。

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