アフリカでのビジネス事例産業集積地のネルソン・マンデラ・ベイ商工会議所に聞く(南ア)
工業化の進む南アフリカ、地方都市にも注目

2025年8月15日

南アフリカ共和国(以下、南ア)は、アフリカ諸国の中で最も工業化が進んでいる国だ。実際、2024年11月に国連工業開発機関(UNIDO)が発表した「国際産業統計年鑑2024外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(International Yearbook of Industrial Statistics 2024)」では、10年間、競争力ある産業パフォーマンス指数(CIP Index)で、南アはアフリカ域内で首位を獲得、モロッコ、エジプト、チュニジア(2022年)が続いた。

南アの産業別GDP比割合において、製造業は全体の14%を占める。これは、金融業(24%)、個人サービス(16%)に続いて3番目に大きい(2024年第4四半期)。さらに、南アはアフリカ最大の自動車製造拠点でもある。

製造業の主要拠点としては、経済都市ヨハネスブルクが位置するハウテン州、ダーバン港のあるクワズール・ナタール州、東ケープ州があげられる。この3州の中で東ケープ州はあまりなじみのない地域だが、南アの南部に位置し、旧ポート・エリザベスにあるデェベハ(Gqeberha)が最大都市だ。自動車産業が集積しており、いすゞ自動車のほか、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)やメスセデス・ベンツなど完成車メーカーが工場を構える。2023年には、欧州・米国のステランティスが生産拠点開設を発表した。

表:南ア国内、日系企業が生産拠点を構える地域
製造拠点を有する主な日本企業
ハウテン州 関西ペイント(注1)、日産、ブリヂストン 
クワズール・ナタール州 アドヴィックス、住友電装、デンソー(注2)、住友ゴム、トヨタ、豊田合成、豊田紡織、矢崎総業(注3)
東ケープ州  いすゞ 

注1:国内に複数拠点を持つが、同地域の工場が最大規模。
注2:スミス(Smiths)との合弁会社。
注3:メットエアー・インベストメントとの合弁会社ヘストハーネスを操業(2022年9月30日付ビジネス短信参照)。
出所:ジェトロ作成

ジェトロ・ヨハネスブルク事務所は、今回、東ケープ州に注目した。日本企業との連携を探るため、ネルソン・マンデラ・ベイ商工会議所のチーフエグゼクティブオフィサーのデニス・ヴァン・ヒュイスティーン(Denise Van Huyssteen)氏に話を聞いた(取材日:2025年5月19日)。同氏は、ジェトロが実施する「J-Twende(Japan-Africa Collaboration Hub)」に参画し、8月20日から横浜で開催されるアフリカ開発会議「TICAD Business Expo & Conference」のステージイベント(8月21日)にも登壇する。


デニス・ヴァン・ヒュイスティーン(Denise Van Huyssteen)氏(本人提供)
質問:
商工会議所の概要について教えてください。
答え:
ネルソン・マンデラ・ベイ商工会議所は、160年の歴史を持つ非営利団体で、約700社の会員企業を擁する。会員にはフォルクスワーゲン・グループ・アフリカ、コカ・コーラ、アスペン製薬、いすゞなどの大企業から中小企業まで幅広く含まれている。以前、当地はポート・エリザベスという地名だったが、民主化後初の大統領に就任したネルソン・マンデラ氏の名前にちなんで、現在はネルソン・マンデラ・ベイと呼ばれる。マンデラ氏は東ケープ州の出身である。地名の変更に伴い、商工会議所の名前もポート・エリザベス会議所から、ネルソン・マンデラ・ベイ商工会議所へと改称した。現在のネルソン・マンデラ・ベイは、旧ユーテンヘーグ地域も含み広範囲に及ぶ。
質問:
他地域に比べて、ネルソン・マンデラ・ベイの優位性は。ポテンシャルのある業種は。
答え:
優位性は多岐にわたる。例えば地理的な観点では、当地は海辺に位置し、ハウテン州のように内陸ではないため、港へのアクセスが容易だ。貿易でも、ハウテン州であれば、製造された製品を輸出する場合はダーバンなど他の都市へ輸送する必要があるが、当地は貿易港も備えるため、すべてがこの域内で完結する。国際空港もある。人材では、若年層の人口が多いことも魅力だ。
当地は自治体、企業コミュニティ、市民社会の横のつながりが強固で、それぞれに属する人々の協力体制、連携が確立している。異なる業種での連携も見られ、例えば、港湾に関する課題に取り組む際は、企業間で解決策を模索し、一丸となって港湾当局に働きかける。また、クーハ経済特別区(Coega IDZ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)があり、企業の拠点設立などの支援スキームも多い。
我々は、どの分野に将来性があるかを検討するため、地域経済再構築に向けたシンクタンクを設置した。注力分野の1つが水素だ。大規模なグリーン水素・アンモニア製造プラントの設置が計画されている。自動車分野では、水素やアンモニアを燃料にした自動車や電気自動車への展開も視野に入れる。水素経済および低炭素経済の構築を目指す過程で、派生ビジネスにもビジネスチャンスがあると考える。
サステナブルな素材として注目される「麻(ヘンプ)」のプロジェクトも多数進行しており、農業分野や自動車分野と連携している。
従来、ネルソン・マンデラ・ベイには、成長分野の自動車産業が集積している。当地ではいすゞを含めた複数の完成車メーカーが生産活動を行い、サプライチェーンが存在するため、部品の現地調達やローカライゼーションも実現可能である。
質問:
商工会議所の活動概要は。
答え:
活動の柱は2つあり、1つは「Resurging the Bay(湾の再生)」である。これは電力、水道、衛生などのインフラ分野において、我々のような企業コミュニティが技術支援を行い、自治体や関係機関と連携して課題解決に取り組むものだ。
我々は、11の地理的クラスターにおいて企業コミュニティを組成し、各地域の課題に対処している。例えば、下水の不具合、外来植物除去対策不足による保険問題が発生しないよう積極的に対応している。電力セクターにも介入しており、計画停電の管理に力を入れている。具体的には、技術タスクチームが、自治体に対してインフラの懸念箇所と対応方法について助言し、自治体の整備計画スケジュール作りも支援している。そのほか、清掃活動や、インフラ状況の確認(道路標識の未整備など)も各地域で実施。我々は、自治体の活動を補完し、更なる連携を目指している。
最近、災害管理部門も設立した。国内の保険業界と連携し、会員向けにリスク管理デスクの設置も進めている。製造業の企業らはこのデスクに資金提供を行っており、専門家から技術的な専門知識を入手している。
もう1つの柱は「Bay of Opportunity(機会の湾)」であり、当該地域の潜在力を最大限に活かすことを目的とする。太陽光という自然資源、2つの港、ビジネスに必要なインフラが整備されている。ネルソン・マンデラ・ベイは南アでも珍しい2港都市であり、うち1つは深水港のため、大型船の受け入れも可能である。これは自動車産業にとって極めて重要な要素である。クーハ港に隣接する経済特区には、広大な土地があり、年間300日以上の晴天が見込まれるため、再エネ発電のポテンシャルもある。教育水準が高く、住宅価格や生活費も他の都市圏に比べて安価で、生活環境もよい。我々は、企業コミュニティと市民社会が一体となって、都市のさらなる再生に取り組めるよう努めていく。
質問:
商工会議所に加盟するメリットは。
答え:
情報収集や専門家へのアクセスのしやすさ、会員同士の交流を促進するイベントや商談会への参加の機会が得られる点は、同所に加盟する大きな利点である。輸出関連企業向けには「原産地証明書」の発行も行っている。 「Bay of Opportunity」というコンセプトのもと、貿易・投資デスクを通じて都市の魅力を積極的に発信しており、欧州をはじめとする多くの国々から関心を集めている。毎週異なる国との対話が行われており、会員企業も適宜その議論に参加することが可能である。
会員企業に話を聞くと、多くの企業が地域社会とのつながりを持ち、課題解決の一翼を担う存在であることを意識し、それを使命として捉えている。我々は、単なる情報共有の場ではなく、行動を重視し、協働による力の結集を重要視している。例えば、最近では運輸大臣および警察大臣との会合が開催されたが、業種を超えて会員企業が団結し、重要課題に対して共通の立場を示した。個社ではなかなかとりあってもらえない相手に対しても、団結することで強力な発言力を持てた好例である。我々が行う政策提言やロビー活動、そして企業が直接参加可能な各種介入策をとおして、単なる傍観者になることなく「解決の一部」に関与できる点に大きな意義がある。
質問:
そのほか重要視している取り組みは。
答え:
我々は、若年層の人材育成の取り組みの一環として、技能開発デスクを新設した。会員企業であるステランティスがパートナーとなり、若年層向けの技術技能育成に注力している。現在、50人の若者を対象に「デジタルプロセス技術者」育成プロジェクトを展開しており、工場のデジタル化に対応する人材の育成を進めている。また、製造業の企業に対しては技能監査も実施しており、既存技能の確認と将来的な人材ニーズの把握に努めている。
本育成プロジェクトには、製造現場の組立ライン設計などに強みを持つ企業のジェンダマーク(注)の南ア拠点が協力している。このプロジェクトはパイロット的な取り組みではあるが、今後さらに強化していく方針である。ジェンダマークは、製造業での人材育成に長い経験と実績のある日本企業との連携を望んでいる。我々としても日本企業との連携案件を作っていきたい。

注:
ジェンダマークはJ-Twendeに参画。彼らが抱える課題、日本企業との連携を期待するポイントは「自動車産業における人材育成とエネルギー問題への対応(南アフリカ)」で言及。
執筆者紹介
ジェトロ企画部海外事務所運営課
堀内 千浪(ほりうち ちなみ)
2014年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ浜松、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所などを経て、2025年7月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
ケイツメツェ・シメラネ
2024年、ジェトロ入構。米国ニューヨーク州・セントローレンス大学卒業。南アフリカの民間企業で勤務後、来日。2年間の日本滞在を経て、現職。

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