アフリカでのビジネス事例西アフリカでデジタルデバイドの解消に取り組むDots for

2026年7月28日

西アフリカのベナン、セネガル、ザンビアで事業を展開する日系スタートアップDots for(ドッツフォー)は、インターネットをはじめとする情報通信技術へのアクセス格差、いわゆる「デジタルデバイド」の解消に取り組んでいる。同社は通信インフラの整備そのものを目的とするのではなく、通信によって人々が必要不可欠なさまざまなサービスへアクセスできる環境を提供することを重視している点が特徴だ。アフリカで培ったビジネスモデルを世界の情報通信「未接続地域」へ展開することを視野に入れており、「アフリカ発で世界を目指す」数少ないスタートアップの1つといえる。

同社は、フランスのパリで6月17日~20日に開催された欧州最大級のオープンイノベーションの展示会「ビバ・テクノロジー(Viva Technology)」で、日本のスタートアップを集めた「ジャパン・ビレッジ」に出展した。同社は社会を変える革新的な企業に贈られる「Tech for change」賞において、500社の選出企業の中から特に傑出したファイナリスト6社のうちの1社に選ばれた。大場カルロス最高経営責任者(CEO)兼最高インパクト責任者(CIO)にインタビューした(取材日:2026年6月18日)。 


ビバ・テクノロジーの同社ブースでの
大場カルロス CEO兼CIO(ジェトロ撮影)

ジャパン・ビレッジでピッチを行う同氏
(ジェトロ撮影)
質問:
Dots forのビジネスを考えたきっかけは。
答え:
Dots forの事業アイデアは「つながることが当たり前になった社会で、未接続の人々が不利益を被っている」という問題意識から生まれた。約15年前、インターネットの利用がほぼ不可能だったキューバで、映画やドラマをUSBメモリに保存して販売することで各家庭に届けるビジネスを目にした。そこで、「通信環境がなくても、人々には情報やサービスを利用したいという強い需要がある。通信そのものではなく、通信を使って何ができるかが大事」なのだという点に着目した。当時は通信機器やスマートフォンが高価で事業化を断念したが、その後、スマートフォンやWi-Fi機器の価格が数千円レベルまで大幅に低下したことで、未接続地域向けビジネスの採算性が高まった。
また、アフリカの農村部では通信サービスへのアクセスを持たない人々が多数である一方、一定の購買力を持つ層も存在する。こうした市場環境の変化に加え、競争相手が少なく大きな社会的インパクトを生み出せることから、アフリカでの事業展開を決断した。社名の「Dots for」は、通信事業として「点と点をつなぐ」という意味を込めて名付けたもので、「Dots for Benin」のように、進出先ごとに国名を付けたブランド展開を行っている。
質問:
Dots forが提供するビジネスの概要は。
答え:
Dots forは、デジタルデバイドの解消において本当に重要なのは「通信環境」ではなく、「通信の先にあるサービス」だと考えている。そのため、単にインターネット接続を提供するのではなく、人々が必要とするサービスへアクセスできる仕組みづくりに力を入れている。
事業の中核となるのが「デジタル・ハブ」と呼ばれる持ち運び可能な装置だ。ルーター、サーバー、ソーラーチャージコントローラー(注)などを組み合わせたもので、日本製の主要部品と現地で調達した部品から構成されており、展開しているベナンやセネガルで組み立てている。この装置を各村に設置することで、短期間でデジタルサービス利用環境を整えることができる。
当社の提供サービスの中心は金融サービスだ。利用データを基に住民のクレジットスコアを算出し、その情報を活用してスマートフォンやバイク、ミシン、農業機械などの「収入を上げるために必要な機材・資材」の分割払いによる販売を行っている。収入向上につながる設備を提供することで、住民の所得と返済能力の向上を同時に実現するモデルとなっている。加えて、教育コンテンツや職業訓練動画の配信も行い、住民の知識や技能向上を支援している。金融、教育、職業支援を一体的に提供することが、Dots forの大きな特徴だ。
質問:
ベナンからアフリカ展開をスタートした理由は。
答え:
アフリカ市場全体を分析した結果、ベナンが事業展開の拠点として最も適していると判断したためだ。最大の理由は、ベナンがフランス語圏に属していることだ。英語圏のアフリカ諸国は市場参入しやすい一方で競争も激しい。これに対し、フランス語圏は言語の参入障壁が高い分、競合が比較的少ない。また、西・中央アフリカ14カ国がCFAフラン(現地の共通通貨)を採用していることも大きなメリットとなった。CFAフランはユーロとの換算レートが固定されており為替変動リスクが小さいほか、会計制度や商慣行にも一定の共通性があるため、周辺国への横展開がしやすい。さらに、ベナンは政治的に比較的安定しており、治安も良好である上、ナイジェリアという巨大市場を隣国に持つ。Dots forはベナンを単独の市場としてではなく、西・中央アフリカ全域へ展開するための戦略的拠点と位置付けている。大規模財閥やユニコーン企業が少なく、新規参入企業にとって大きな成長機会があることも、ベナンを選択した理由の1つだ。

持ち運びを考慮し木材と布でできたDots forの「デジタル・ハブ」(ジェトロ撮影)
質問:
フランス語圏以外のアフリカにもビジネスを広げる意向はあるか。
答え:
Dots forはフランチャイズモデルによる事業拡大を進めており、現在はモデルケースとしてザンビアに展開している。今後は、専用のプラットフォームやダッシュボードを活用しながら、タンザニアやケニアなど英語圏のアフリカへの進出を視野に入れている。これらの国々でも農村部が抱える課題はベナンやセネガルと共通しており、当社の製品やサービスを十分に展開できると考えている。
また、われわれはデジタルデバイドをアフリカ特有の問題とは捉えていない。インド、中国、中南米、カリブ海諸国などにも同様の課題を抱える地域が存在しており、世界規模でみれば30億人以上が対象となる。アフリカで培ったノウハウやビジネスモデルを活用することでこれらの地域にも展開可能だと考えている。Dots forはベナンやセネガルでの成功経験を基盤に、アフリカ全域、さらには世界各地の未接続地域へ事業を広げることを目指している。デジタルデバイドの解消を通じて地域経済の成長を支援するという取り組みは、将来的にグローバルな社会課題解決モデルへ発展する可能性を秘めている。
質問:
ビバ・テクノロジーのような展示会に出展する上での期待は。
答え:
最大の目的は、当社の認知度向上と、アフリカの農村には大きなビジネスチャンスがあると伝えること。資金調達も重要だが、まず市場としての魅力を理解してもらわなければ投資にはつながらない。日本の展示会ではアフリカ市場の現状説明に多くの時間を費やすが、ビバ・テクノロジーでは市場の理解は共通の前提知識であり、当社のビジネスモデルや視点そのものに興味を持ってもらえることが多く、反応も良好だ。また、ビバ・テクノロジーには「アフリカ・テック」エリアやピッチステージが設けられており、欧州にとってアフリカが有望な市場として認識されていることがうかがえる。そのため、フランスをはじめとする欧州の展示会への出展には大きな意義があると考える。これまで主に日本のベンチャーキャピタル(VC)や事業会社、エンジェル投資家から調達を受けていたが、今後は欧州を中心とした投資家を巻き込んでいこうと考え参加した。
質問:
他の企業やスタートアップとの連携は考えているか。
答え:
当社はデジタル・ハブを基盤として、多様な企業やスタートアップと連携しながらサービスを拡充していく方針だ。実際にブラザー工業と資本業務提携を結び、村ごとにプリンターを設置して有料のコピー・印刷サービスを提供している。今後は、教育コンテンツを持つエドテック(EdTech:EducationとTechnologyを合わせた造語)企業との連携や、遠隔医療、デジタルIDなどの分野でも協業を進め、村で利用できるサービスをさらに充実させたいと考えている。また、アフリカ・テックの他の出展企業と対話したところ、当社のデジタル・ハブを活用することで自社サービスを農村部へ展開できることに大きな関心を示しており、協業の可能性を感じている。

注:
太陽光発電システム内のバッテリーの過充電や過放電を防止し、バッテリーを保護するための装置。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ ・パリ事務所
渡辺レスパード智子(わたなべ・レスパード・ともこ)
ジェトロ・パリ事務所に2000年から勤務。アフリカデスク調査担当としてフランス及びフランス語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種調査・情報発信を行う。

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