激動の中東情勢:中東各国への影響と展望紅海およびスエズ運河に関する物流動向
ホルムズ海峡封鎖下での代替ルートの模索
2026年5月12日
中東情勢悪化に伴い、2026年3月以降、ペルシャ湾とオマーン湾をつなぐホルムズ海峡が事実上の封鎖となり、世界の物流と貿易、資源調達に大きな影響を与えている。米国のドナルド・トランプ大統領が4月8日にはイランと2週間の停戦、4月21日にはその延長を発表しているが、状況は不透明だ。海上輸送のチョークポイント(運河や海峡など地政学上重要な物流の要衝)のリスクが再認識され、ホルムズ海峡の代替ルートの模索が始まっている。
代替ルートとして、アジアと欧州をつなぐ紅海ルートにも注目が集まる。一方、紅海の欧州側に位置するスエズ運河とアジア側に位置するバブ・エル・マンデブ海峡についてはリスクもある。2023年以降、イエメンの親イラン組織のフーシ派が、イエメン沖のバブ・エル・マンデブ海峡近隣で船舶攻撃を実施し、多くの海運会社がアフリカ大陸南端を迂回する喜望峰ルートを選択していた。フーシ派は2026年4月に今回の武力衝突に関して、イランを支持し、紅海での攻撃も示唆している。
企業においては、代替ルートの模索など幅広い視野での国際的なサプライチェーンの検討のほか、在庫の確保や消費地近隣国での生産、輸送日数の増加やコスト増への対応なども求められる。本稿では、企業の対応の参考として、近年の紅海情勢とスエズ運河に関する物流について概観する。
出所:ジェトロ作成 (地図は大まかな位置を指す)
スエズ運河を巡る地政学リスク
スエズ運河はユーラシア大陸とアフリカ大陸の結節点であるエジプトに位置し、紅海側のスエズと地中海側のポートサイード間の全長約190キロの運河として、1869年に開通した。アジアと欧州の海路を結ぶ重要な物流であり、安全保障や事故のリスクもあるチョークポイントだ。
過去を振り返ると、1956年にエジプトがスエズ運河の国有化を宣言後、当時スエズ運河の権益を持っていた英国とフランスに加えてイスラエルの3カ国と、エジプトが争うスエズ動乱(第二次中東戦争)に陥った。1967年の第三次中東戦争ではイスラエルがスエズ運河東岸のシナイ半島を占領し、1973年の第四次中東戦争でもスエズ運河やシナイ半島での戦闘が行われた。スエズ運河が通航不可となった時期もあり、運河を通らずにエジプト内陸を通り紅海と地中海をつなぐ原油パイプラインSUMED(スーメド)も建設されていた。1979年、エジプトとイスラエルが国交を正常化し、以降、スエズ運河を取り巻く情勢は安定していた。一方、スエズ運河において、2021年3月にコンテナ船が座礁する事故により、約1週間にわたり通航不可となり、約400隻に影響が出た例もある。
スエズ運河通航減少と喜望峰迂回の増加
2023年10月に発生したイスラエルとハマスの武力衝突以降、紅海情勢は悪化した。2023年11月19日、ハマスを支持するイエメンのフーシ派がイスラエルを非難する意図で、船舶をイエメン沖で拿捕(だほ)した。
これを契機に、フーシ派は紅海周辺にて船舶へ攻撃を繰り返した。主要な海運企業の多くは、紅海経由航路を停止または縮小し、喜望峰ルートへと切り替えた。IMFの「ポートウォッチ
」によると、2023年まで月に2,200~2,300隻が通過していたスエズ運河の通航数は、2024年以降、月に1,000~1,300隻に減少した。一方、喜望峰ルートの通航数は前年比8割増と急増した。なお、ロシアや中国などのアジア系、中東の海運会社などが引き続き紅海ルートを選択しているという。
WTOによると、2023年まで紅海を通過する貨物は世界貿易の約15%に相当した。紅海情勢の悪化は地域内にとどまらず、国際的なサプライチェーン全体に波及したかたちだ。なお、コロナ禍のロックダウン時のような深刻な物流の混乱状況には至っておらず、また、ホルムズ海峡の封鎖と異なり、紅海ルートは喜望峰ルートでの迂回が可能だ。
出所:IMF PortWatchを基にジェトロ作成
喜望峰ルート常態化、輸送日数増も物流寸断は回避
喜望峰ルートを迂回する際は、輸送日数の増加、輸送コストの増加につながる。日本と欧州間のリードタイムは、紅海ルートで25~50日だが、喜望峰ルートでは40~65日と、およそ10~15日長期化する。また、海運会社が一斉にルート変更した直後は、コンテナ確保や港の混雑などに影響がある。一方、荷主側も2024年以降、喜望峰ルートを前提とした日程へ移行するほか、仕入れ国・仕入れ先の分散、在庫の積み増しなどを行う例もあるという。
国際的なコンテナ運賃を見ると、2024年に一時的な高騰も見られたが、コンテナ船の供給量(船腹量)の増加などもあり、2025年には落ち着きを取り戻した。2026年以降、中東情勢が悪化しており、運賃が再上昇する可能性もある。なお、2024年のコンテナ運賃上昇の背景には、パナマ運河における降雨量不足に起因する運航の削減措置の影響もあった。
これらの点から、国際物流は世界各地のチョークポイントの状況にも大きく左右されることが示唆された。
空路や陸路の代替例も
喜望峰ルートにもリスクが存在する。航行日数が延びるため、燃料コストが膨らむ。また、南アフリカ沖は天候が荒れやすく、遅延や貨物流出などのリスクもある。
アジアから欧州へ鉄道などを利用した陸上輸送や、中東から欧州に向けた航空輸送など紅海や喜望峰の代替輸送を模索する動きも2024年にみられた。IATAによれば、欧州と中東間の航空貨物量が2024年に増加し、EC需要拡大の影響もあるが、海上輸送が滞った一部を空路が補完したと指摘した。ただし、空輸はコストが高く、高付加価値・少量・緊急性が高い貨物に限定的な代替の位置付けだ。なお、アラブ首長国連邦(UAE)主要港では、各種物流の障害において、海路・陸路・空路を駆使して、中東の貿易ハブ機能の維持を目指している。
陸路としては中国と欧州を結ぶ国際貨物鉄道「中欧班列」もある。中欧班列は中国と欧州を複数の回廊で結ぶ鉄道網であり、輸送日数は12~25日程度と海上輸送と航空輸送の中間に位置する。中国から欧州までは複数の国境を通過し、鉄道の軌道基準が異なる国では積み替えが必要であり、混雑・遅延もある。日本からは中国まで海上輸送する必要があるほか、中欧班列はロシアのシベリア鉄道を利用するルートが多く、ロシアのウクライナ侵攻以降、ロシア制裁や安全上の懸念もあり、欧州や日本の企業は利用を避ける傾向だ。ロシアを通過しない回廊(中国~中央アジア~コーカサス~欧州)もあるが、やはり複数の国境があるほか、カスピ海の水路での遅延などの課題がある。
紅海ルートの代替に関しては「紅海情勢悪化に伴う陸海空の代替ルートを探る」を参照。
注:鉄道、航路は一部のみ。簡略化したイメージで掲載。
出所:物流会社ウェブサイト、各種報道、WTO等からジェトロ作成
ホルムズ海峡代替としてのサウジアラビアの可能性
原油輸送が多いホルムズ海峡の代替として、サウジアラビアでは紅海沿いのヤンブー港へのパイプラインがある一方、輸送能力は限られるという。
コンテナ貨物をみると、サウジアラビアでは、2023年以降の紅海情勢悪化に対しては、紅海を通らないペルシャ湾沿いのダンマン港などでの荷揚げを行い、トラックで仕向け地まで運ぶケースがあった。一方、2026年のホルムズ海峡封鎖を受け、紅海沿いのジッダ港(ジッダ・イスラム港)およびキング・アブドゥッラー港から輸入し、内陸部の首都リヤドやペルシャ湾沿いに輸送するケースもある。陸路でつながるバーレーン、クウェート、カタールなどにも、サウジアラビアの紅海沿いの港から輸送も可能だ。
サウジアラビアの紅海側の港から輸出するケースでは、バブ・エル・マンデブ海峡を通ってアジアに輸送するルートは距離が近いものの、前述のとおり、フーシ派の船舶攻撃のリスクも残る。他方、安全性を優先し、サウジアラビアの紅海側の港から、スエズ運河を通り、地中海に出てから、喜望峰を迂回してアジアに輸送するケースでは、アフリカ大陸を大きく遠回りするかたちになる。また、スエズ運河の幅や深さの制限により、通過する船舶はスエズマックス(2万4,000TEU、TEUは20フィートコンテナ1個分)の規模までで、超大型タンカーは通行不可だ。
なお、紅海とは別に、ホルムズ海峡を通らないオマーン湾沿いの港としては、オマーンのソハール港など、UAEでは原油積み出しのフジャイラ港や貨物などのコールファッカン港などがある。
一方、イラン側からは3月以降、UAEやサウジアラビアなどの港湾やパイプラインや貯蔵施設を含むエネルギー施設への攻撃もあり、ホルムズ海峡の代替策自体に懸念もある。
ホルムズ海峡の代替ルートについては「中東物流におけるサウジアラビアの役割」を参照。
代替ルートの長期的展望
中東地域では、代替ルートや域内物流の強化を念頭に、新たな物流回廊が複数検討されている。UAEのエティハド鉄道は、長期的に湾岸協力会議(GCC)6カ国と接続する構想だ。ホルムズ海峡を通らずにオマーン湾で荷揚げし、鉄道で運ぶ計画もある。
インド洋から海路でUAEなどの港湾で荷揚げし、鉄道でアラビア半島を横切り、欧州へ通じる物流を構築するインド・中東・欧州経済回廊(IMEC)の計画もある。また、イラクとトルコを結ぶ「開発道路プロジェクト」など、スエズ運河を通らない国際物流強化の計画などもあるが、イラクの主要港はペルシャ湾にあり、ホルムズ海峡のリスクもある。なお、イラクとトルコを接続する原油パイプラインもある。
これらのルートは地政学的リスクに脆弱(ぜいじゃく)であるほか、計画段階が多く、中東の陸路はインフラが未整備であり、国際接続性も不十分、政治・外交上の制約もあり、スエズ運河やホルムズ海峡のルートの代替となる水準には達していない。しかし、中長期的には、中東地域で陸路を活用した物流が機能する可能性もある。
特集「 地政学的影響を踏まえた中東・アフリカの物流動向」も参照してほしい。
近年は成長も、今後の状況は不透明
中東では歴史的に争いも多かったが、近年、湾岸諸国などを中心に経済成長が続いてきた。IMFによれば、2026年4月時点の経済見通しにおいても、ホルムズ海峡封鎖の影響が少ないオマーンや、代替ルートがあるサウジアラビアやUAEは経済成長が続く見通しだ(「中東・北アフリカ諸国経済の見通しは不透明、成長継続の国も」を参照)。また、人口増加や経済成長などを背景に、貨物量の増加も見込まれてきた。UNCTADの海上貨物取扱量は中東全体で増加傾向にあり、特にUAEの貨物量は2010年から2023年にかけて3割以上増加した。
一方、本稿で述べてきたとおり、中東において多くの貨物輸送が通過するペルシャ湾と紅海にはチョークポイントがある。サウジアラビアの例のように紅海の代替としてペルシャ湾の港湾、ホルムズ海峡の代替として紅海の港湾が機能する例もある。しかし、紅海およびホルムズ海峡が同時に危機にさらされる状況もある。
今後の中東情勢も不透明である。2025年10月にイスラエルとハマスが和平案の第一段階に合意し停戦となり、2026年1月には米国がガザ地区の「非軍事化、技術官僚による統治、復興」に向けた第二段階に移行すると宣言した。これらを受け、紅海ルートを再開する動きもあったが、2026年2月末、再び中東情勢が悪化した。現在のところ、フーシ派による紅海などでの船舶の攻撃は落ち着きをみせている。むろん、フーシ派は紅海での攻撃を示唆してきた。また、減少傾向ではあるが、紅海のアジア側の外側のソマリア沖での海賊などのリスクも残る。これらに対処するため欧州諸国は軍艦で船舶を護衛するケースもあるという。
国際的なサプライチェーンの検討
本稿の内容が示すように、海運会社や商社、製造業が組み立ててきた物流は、地政学リスクにより、容易に揺らぎ得る。近年、国際物流の不安定化、米中対立や貿易政策の不確実性の高まりを受け、消費地の近隣で生産するなどの物流・地政学リスク回避を検討する企業もいる。中東近隣国では、湾岸諸国での生産は限定的だが、トルコやエジプトでは日系企業が自動車の組み立てを行っており、モロッコでも自動車部品の製造が行われている。日本やアジアからの自動車部品や素材などの輸出が重要であり、中東地域の物流インフラの改善や代替ルートの開拓が期待される。
中長期的には中東は日本の輸出先としての可能性も秘めている。実際に、貿易統計によると、日本から中東向け自動車輸出額は2025年に過去最高だった。自動車輸出は紅海かホルムズ海峡を通る輸送が多く、代替ルートの模索も必要だ。
また、資源の乏しい日本において、石油の輸入や各国との貿易が必須である。特に2025年の日本の原油調達では、ホルムズ海峡への依存度が約93%に達しており、まさに生命線といえる。経済産業省は原油・石油製品の代替調達などの対応を実施している(「中東情勢関連対策ワンストップポータル
」参照)。
紅海ルートは、喜望峰迂回や、リスクをとってバブ・エル・マンデブ海峡の通過も可能であるため、ホルムズ海峡封鎖とは異なり、貿易が寸断される事態には至っていない。一方、前述のとおり、輸送日数の長期化、コスト増、在庫の積み増しといった見えにくい負担を企業が抱えている場合もある。また、ホルムズ海峡の封鎖においても今後、課題が出てくる可能性が高い。ビジネスにおいては、地政学的な影響や国際物流の最新情報を継続的に把握し、代替ルートの模索やリスク管理を戦略的に進める必要がある。
中東情勢の最新情報については特集「イスラエル・米国とイランの衝突を巡る中東情勢関連情報」、ホルムズ海峡動向は地域・分析レポート「中東情勢悪化がホルムズ海峡に与える影響」を参照。中東・アフリカのインフラや物流事情については地域・分析レポート特集「中東・アフリカにおける物流とインフラプロジェクトの動向を探る」も参照してほしい。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部中東アフリカ課 課長代理
井澤 壌士(いざわ じょうじ) - 2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課、ジェトロ北海道、ジェトロ・カイロ事務所を経て、現職。中東・アフリカ地域の調査・情報提供を担当。





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