アフリカでのビジネス事例 YKKエジプトに聞く、アパレル製造拠点としてのエジプトの強み

2026年3月11日

エジプトがアパレル産業の製造拠点として熱視線を浴びている。特に近年、中国やトルコからの製造移管の動きが増えている。欧州市場への近さという地理的優位性や相対的に低い労務費といった強みに加え、米国トランプ政権の関税政策も影響している。本稿では、アパレル産業におけるエジプトの現在地と今後の展望について概観する。同国で主に輸出向け製品のファスナー製造を手掛けるYKKエジプト(YKK EGYPT S.A.E)にインタビューした内容を基に、縫製拠点としてのエジプトの現在地と今後を探る。マネージング・ダイレクターの福田周平氏とファクトリー・ダイレクターの高橋務氏に話を聞いた(取材日:2026年1月13日)。

エジプトで欧米向けアパレル製品のファスナー製造を手掛けるYKK

YKKエジプトは、私設フリーゾーン〔外資に関する奨励(エジプト)参照〕として、テンス・オブ・ラマダン市に製造拠点を構える。加工貿易が中心で、当地で製造したファスナーをフリーゾーン内外の縫製工場向けに販売し、ジャケットやジーンズに加工して輸出する。最終製品の輸出先は欧米が中心だ。

フリーゾーンには免税措置などの投資インセンティブがある一方で、運用面での課題も残っており、各種許認可において投資・フリーゾーン庁(GAFI)に加え地元政府からの承認も必要となるなど、手続き面で一定の時間と労力がかかる状況だという。

サプライチェーンに関しての課題もある。2023年末から続くイエメンのフーシ派による船舶攻撃の影響で紅海航路が利用できなくなったことから、喜望峰回りの航路に切り替えた。これにより材料輸入が従来より約1カ月以上遅延する状況となり、在庫を1カ月から2カ月分増やして対応している。ただし、急な材料不足が生じた場合には、空輸で補う必要がある。空輸の場合、現地からの直輸入ができず中継地を挟むため、輸送コストが上昇している。

外部環境が変わる中、エジプトに集まる熱視線

福田氏は、「スエズ運河経済特区(注1)やそのほかのフリーゾーンへのアパレル関連の海外投資はかなり増加している」と指摘する。特に、トルコや中国からの製造移管の動きが目立っている。製造拠点の立地を考える上で重要な要素として、福田氏は(1)消費国への距離と納期、(2)労務費を挙げた。トルコ企業のエジプトへの製造移管の動きは、この2点から説明できる。

(1)消費国への距離と納期:エジプトを含む北アフリカ諸国は欧州に近接していることが強みだ。欧州ブランドの縫製拠点としてニアショアリング需要が高まっている。EU向けでは、エジプト・EU連合協定も有利に働く。ただ、欧州への近接性ではトルコの方が優位だ。海上・陸路・鉄道など複数ルートが確保できる点や、EUとの関税同盟の存在もトルコの強みに挙げられる。ここで差別化要因となるのが、(2)の労務費だ。

(2)労務費:トルコでは、ワーカーの賃金がエジプトよりも圧倒的に高い。2025年に実施したジェトロの投資関連コスト比較調査では、トルコ(イスタンブール)のワーカー(一般工職)賃金は月額1,024~1,716ドル、エジプト(カイロ)では平均216ドルだった(注2)

「欧州向け×労務費のコストメリット」という優位性から、トルコからエジプトへの製造移管が徐々に進んでいる。以前からこの動きはあったものの(2025年7月16日付地域・分析レポート参照)、トルコでは物価高騰に伴う賃金の大幅なベースアップが続いていることもあり、さらに移管が加速しているとみられる。「欧州向け×労務費のコストメリット」は、中国からエジプトへの移管についてもプル要因の1つだ。しかし、中国企業に関しては別の要因も考えられる。

エジプトは2004年に米国・イスラエルと資格産業区域(Qualifying Industrial Zone:QIZ)協定を結んだ。これは付加価値の少なくとも35%がエジプトQIZ内で創出され、うち少なくとも10.5%がイスラエルからの投入分である製品については、米国に無税で、かつ無制限に輸出できるスキームだ。この協定を背景に、エジプトの縫製業は米国向けを中心に拡大してきた歴史がある。このように、元々米国市場との結びつきが強かったエジプトだが、トランプ政権による関税政策の影響を受け、特に中国企業にとって、製造拠点としての優位性がさらに高まっている。というのも、中国は米国から高関税を課されており、対米輸出のコストが増加している一方で、米国がエジプトからの輸入品に課す追加関税率は10%と世界的に見ても最低水準なのだ(インタビュー時点の関税率に基づく)。従って、中国からの製造移管に関しては、大部分が米国市場向けを念頭に置いた関税回避の動きと考えられる。

QIZ協定を背景に、米国向けの簡単な縫製品(ジーンズやコットン製品など)の製造から始まったエジプトのアパレル産業。しかし、中国やトルコから移ってきている生産ラインは、ジャケットなど、より難易度が高くコストがかかる製品向けをメインとしていると福田氏はいう。今後エジプトのアパレル産業は、生産の量的拡大だけでなく、製造する製品ラインアップの拡充にも挑戦していくことになりそうだ。

拡大するエジプトのアパレル輸出、背景には対内投資増

ここで、エジプトのアパレル産業において製造移管が進みつつあることをデータから確認する。エジプトアパレル輸出評議会(AECE)によると、2025年1~8月のエジプトのアパレル製品輸出額は前年同期比22.9%増の22億1,500万ドルに達した。国別に見ると、輸出額首位の米国向けは前年同期比13.6%増、続くトルコ向けは85.8%増、サウジアラビア向けは2.0倍となった(表参照)。4~9位を占める欧州諸国向けも軒並み増加している。さらに、今後5年間でエジプトのアパレル製品輸出額は年間20~23%のペースで成長し、2030年には50億ドルに到達するとAECEは予測している(注3)。輸出増の背景には、前述の中国やトルコからの製造拠点移管の動きがあるとみられる。

表:エジプトのアパレル製品輸出額(上位10カ国、2024年1~8月、2025年1~8月)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)注:2025年1~8月の輸出額上位10カ国と全世界計を掲載。
国名 輸出額 前年同期比
2024年1~8月 2025年1~8月
米国 772 877 13.6
トルコ 141 262 85.8
サウジアラビア 111 224 101.8
スペイン 103 147 42.7
オランダ 82 137 67.1
ドイツ 90 123 36.7
英国 64 73 14.1
イタリア 28 47 67.9
フランス 43 46 7.0
スーダン 31 30 △ 3.2
全世界計 1,803 2,215 22.9

注:2025年1~8月の輸出額上位10カ国と全世界計を掲載。
出所:エジプトアパレル輸出評議会(AECE)

テキスタイル分野(アパレル含む)についてエジプトへのグリーンフィールド海外直接投資(FDI)件数を確認すると、中国やトルコのプレゼンスの大きさが見て取れる。2025年に発表されたエジプトへのグリーンフィールドFDI案件は25件で、そのうち12件が中国企業、6件がトルコ企業によるものだった(図参照)。中国企業による12件の投資案件のうち、発表ベースの投資額が最大だったのは、エバーファーテキスタイル(EVERFAR Textile)によるものだ。スエズ運河経済特区庁(SCZone)によれば、同社は1億3,000万ドルを投じ、スエズ運河経済特区に製造施設を建設する。3,200 人以上の雇用を創出し、100%輸出向けの製造拠点になるとされている。トルコ企業による6件の投資案件の中では、ボニーソックス(Bony Socks)によるものが最大だった。同社は1億ドルを投じ、テンス・オブ・ラマダン市に所在する「Industria Asher」工業団地に製造拠点を建設すると報じられている。

図:エジプトに対するテキスタイル分野のグリーンフィールドFDI件数推移
(2022~2025年、投資元国・地域別)
2022年はトルコから5件だった。2023年は中国から7件、トルコから3件、その他の国・地域から2件だった。2024年は中国から1件、トルコから3件、その他の国・地域から3件だった。2025年は中国から12件、トルコから6件、その他の国・地域から7件だった。

注:グリーンフィールドFDIのみ。件数は発表ベース。
出所:fDi Markets(Financial Times)

このように、輸出拠点に対する直接投資が増加していることを踏まえると、前述のAECEの予測のとおり、今後エジプトのアパレル製品輸出はさらに増加するだろう。

欧米水準での生産・管理体制がカギ

欧米向けの生産が拡大する場合、必須になるのは、顧客である欧米ブランドが要求する品質や安全性、人権・環境配慮などの基準に対応していくことだ。YKKエジプトでは、品質・安全管理などに関して、顧客監査に対応している。高橋氏によると、「こうした動きはエジプト特有のものではなく、グローバル全体で進んでいる。新しい話でもない。ただ、欧米ブランドを中心に、監査基準が年々厳格化している」という。ジーンズ、スポーツ、キッズ分野では特に高い水準が求められている。きっかけの1つとして、国際環境NGOであるグリーンピースが2011年に開始した「デトックス・キャンペーン」の影響が大きかったのではないかと高橋氏は指摘する。これは、衣料品製造に使用される有害化学物質による河川の汚染を防ぐための活動で、大手アパレルブランドによる有害化学物質の使用・排出ゼロに向けた取り組みを促進することになった。YKKエジプトでも、製造過程で使用される化学物質について、規制対象物質の管理と監査対応を継続的に実施している。

高橋氏によると、「顧客監査は点数制で、基準を満たすことでサプライチェーンに参入できる仕組みとなっている。項目によって優先順位が異なるが、総合的な評価向上のためには、現地法令以上の対応が求められることもある」。今後、エジプトが輸出競争力を向上していく上では、グローバル基準に沿った生産体制を整えていくことが重要だろう。

なお、YKKでは顧客からの要請にしたがうだけでなく、品質・安全管理やサステナビリティに関して、自主的な取り組みも行っている。全社共通で設定している独自のコンプライアンス基準に基づき、各海外拠点も対応している。例えば人権分野では、YKKエジプトとして、本社方針に基づく人権デューディリジェンスを実施しており、現地従業員の労務管理や安全衛生の確保に努めている。工場への定期的な内部監査を実施しており、日本の本社からも監査に訪れることがある。また、人権リスクが高い鉱物(紛争鉱物(注4)やコバルト、ニッケルなど)については、グローバル基準に沿って購買部門を中心に管理体制を整えている。

内需拡大と中東市場にも期待

YKKエジプトでも、引き続き欧米向けが主力になる見込みだが、内需拡大にも期待している。福田氏は、「エジプトでは人口増と経済成長が目覚ましい。エジプトでも将来的に労務費が上がり、現在よりは輸出競争力が下がるかもしれない。そこで地産地消を推進する流れになれば、マーケットは十分にあると思う」と述べた。

また、エジプト拠点からは、地理的に近い中東市場もねらっていきたい考えだ。中でも、ヨルダンは米国と自由貿易協定(FTA)を結んでいる。トランプ政権の関税政策により、現状では免税メリットが損なわれているものの(米国の対ヨルダン関税率はインタビュー時点で15%)、米国向けを中心に「高付加価値製品を製造している」(福田氏)というヨルダン。エジプトと同じアラビア語圏ということもあり、注目している販売先の1つだ。YKKとしては、縫製工場のサプライチェーンの動きに合わせ、検討していく予定だ。


ローカルブランドを取り扱うカイロ市内のアパレルショップ(ジェトロ撮影)

注1:
スエズ運河経済特区については、調査レポート「エジプトにおけるスエズ運河特別経済区について(2016年8月)」参照。 本文に戻る
注2:
ジェトロ「投資コスト比較」から、執筆時点の最新データに基づく。 カイロの平均値には、物価上昇率手当、資格・技能手当、営業手当、皆勤手当、家族手当などを含む場合がある。 本文に戻る
注3:
Forbes Middle East “Turkish, Chinese Investments Boost Egypt’s Garment Industry As US Tariffs Reshape Global Trade外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます”(2025年10月10日付) 本文に戻る
注4:
採掘・取引によって得られる利益が武装勢力や軍など紛争当事者の資金源となり、紛争の継続を助長する鉱物。例えば米国のドッド=フランク法1502条では、スズ・タンタル・タングステン・金の4種が紛争鉱物とされている。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課
宮島 菫(みやじま すみれ)
2022年、ジェトロ入構。調査部調査企画課を経て、2023年6月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課 リサーチマネージャー
久保田 夏帆(くぼた かほ)
2018年、ジェトロ入構。サービス産業部サービス産業課、サービス産業部商務・情報産業課、デジタル貿易・新産業部ECビジネス課、ジェトロ北海道を経て2022年7月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・カイロ事務所
塩川 裕子(しおかわ ゆうこ)
2016年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ富山、企画部(中東担当)を経て2022年7月から現職。

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