アフリカでのビジネス事例双日、ナイジェリアでガス、南アでクロム事業、ケニアで即席麺を展開

2025年7月2日

アフリカでは人口が急増しており、それに合わせて食品事業の可能性も広がる。双日は、2023年にケニアで即席麺の製造・販売を開始し、即席麺文化の普及と販売の拡大を狙っている。

また、資源が乏しい日本にとって、アフリカの鉱物資源は重要だ。双日は南アフリカ共和国から、過去にマンガン鉱石を輸入していた。現在は南アでフェロクロムを生産し日本企業に供給する。一方、南アでは1990年代は電力が安価であったところ、現在ではインフラ老朽化などにより、電力供給が不安定でかつ高額なのが課題となっている。

アフリカでは、電力供給自体が行き届かない国・地域もある。例えば、ナイジェリアの現地工場では、ガスなどを燃料とする自家発電設備が必要になる。このような中、双日はナイジェリアで産業(工場)・商業(ホテルなど)向けにガス供給を行う企業に出資し、現地でのエネルギー供給にも寄与している。

本稿では、まず、双日のガス事業について、次いで、クロム事業、即席麺事業について解説する。

ガス供給事業の業績は好調

はじめに、双日のガス事業について、エネルギーソリューション事業第三部LNG・アフリカ課の三原遼大氏、日野有紗氏へのインタビューを行った(取材日:2025年6月10日)。


LNG・アフリカ課の三原氏(左)、日野氏(右)(ジェトロ撮影)
質問:
アフリカでのエネルギー事業で成功した案件は。
答え:
2022年3月に、英国のアフリカ特化型投資ファンドのヘリオス(Helios Investment Partners外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)から、同社が保有するナイジェリアのガス供給会社アクセラ(Axxela外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)の株式25%を取得した。なお、残り75%はヘリオスが保有している。業績は好調だ。ナイジェリアのガス事業はアフリカで成功した案件の1つだ。
アクセラは、ナイジェリアで最大規模の民間ガス供給企業である。ガス自体は、主に同国の国営ガス会社から仕入れている。供給用のパイプラインは、おおむね自前で設置・管理している。自社パイプラインは約350キロメートルにわたる。
供給先は、約200社以上の工場など(一部は国外向け)だ。同国では、送電インフラや大規模発電所の老朽化などにより電力供給が不安定であるため、工場では自家発電向けのガスの需要がある。なお、自家発電にあたっては、ガスの方がディーゼルよりも安価で、二酸化炭素(CO2)排出量も少ない。また、政府も天然ガスの利用を推進しており、同国の需要の追い風となっている。
アクセラは、人口も大きく産業も盛んなラゴスやポートハーコートなどで事業を展開。顧客には、国際的な大手食品・飲料メーカーも含む。そのほか現地の電力会社やデータセンターなどにも供給している。

ナイジェリアでのガス供給パイプライン
(双日提供)

パイプライン管理の様子(双日提供)

図:アクセラによるパイプラインでの供給網地図

図:PDF版を見るPDFファイル(350KB)

アクセラ社のナイジェリアおよび西アフリカ諸国周辺におけるガス供給エリアを示している。国内ではラゴスやポートハーコートなどの都市を中心にパイプラインがある。

(双日提供)

質問:
アフリカでの課題や解決策は。
答え:
日本との商習慣が異なる。重要事項(予算・投資承認など)の決裁・手続きのガバナンスなどで、現地と日本との違いを実感する。労務・法務といった各種手続きなど、現地側の受け入れで大変苦労することもある。
対策としては、アクセラに双日から1人出向者を派遣している。また、ヘリオスからも国際感覚のあるナイジェリア人マネジメントを随時派遣しており、現場との意思疎通に大きく役立っている。アフリカでの事業には地場企業のほか、アフリカをよく知るヘリオスなど第三国企業のパートナーとの関係構築も大切だ。
また、アフリカ諸国は日本から遠いので、ビジネスを始める上で必要な情報が入手しづらいという課題もある。この点でも、有力なパートナーを持ち、現地の情報や経験をシェアしてもらえることが重要だ。
ナイジェリアでのガスの仕入れ・販売とも、ドル建て現地通貨払いで行っており、為替リスクが少ない。与信リスクはあるが、与信力の高い民間多国籍企業のナイジェリア工場などと取引することで大きなリスクを回避できている。
なお、競合相手はいるが、日本の他社の案件はまだ聞いていない。
質問:
ガス事業の新たな取り組みや今後の見通しは。
答え:
国内需要の増加やガスパイプラインの故障などに備えてガスの安定調達を確立するため、圧縮ガスやLNG(液化天然ガス)などのトラック輸送も新たに試行を始めている。また、現在、トーゴ向けにも一部供給しており、海外向けを拡大できる可能性がある。
今後も、ナイジェリアのみならず、他のアフリカの国でのビジネスを模索したい。また、エネルギー事業にとどまらず広い分野で事業を展開していきたいと考えている。注目国としては、経済規模の大きいナイジェリア、南ア、エジプト、ケニア、モロッコなどだ。
双日はヘリオスと、2022年8月に開催された第8回アフリカ開発会議 (TICAD8)に合わせて、覚書(MOU)を披露締結しており、エネルギー、通信、ヘルスケアなどの分野でのアフリカ展開を目指している。
質問:
TICADへの期待は。
答え:
パートナーと一緒に、ナイジェリアのガス供給事業に続く案件を探している。TICAD9などの国際イベントは追い風になる。アフリカ全域で広い業種で案件を検討しているため、新規の種を発掘し、大きなビジネスにつなげるきっかけとすることを期待している。

日本産業に必須のフェロクロムを安定供給

次いで、双日金属原料部の越智政人課長に、クロム事業について話を聞いた(取材日:2025年6月12日)。


金属原料部の越智課長(左)、リテール事業第一部袴田副課長(中央)、八尾氏(右)(ジェトロ撮影)
質問:
アフリカにおける金属事業の概要は。
答え:
双日はヨハネスブルクに1959年に支店を設立し、かつてはマンガン鉱石を日本に輸入していた。現在は貴金属、ニッケル、フェロクロムなどを輸入している。1996年、世界有数のフェロクロム生産者であるサマンコールが複数保有するフェロクロム生産の電炉の1つに、日新製鋼(2020年に日本製鉄に吸収合併)と共同で出資し、同社にフェロクロムを供給している。場所は、ヨハネスブルクから140キロ程度離れたウィットバンクにある。なお、フェロクロムの約9割は、さびに強いステンレス鋼などの特殊鋼の原料として利用される。
1990年代、南アは電気代が安くコスト競争力があった。現在では、世界のフェロクロム生産約1,800万トンのうち中国が半分程度を占め、南アは20%弱のシェアを持っている。
質問:
現地での課題と対策は。
答え:
鉱業は主要産業でもあるため、マイニング関連全般の規制はおおむね整っている印象だ。一方で、中国が南アから膨大な量のクロム鉱石を調達してフェロクロムを生産しているため、南ア政府が輸出関税などで、現地産業保護などの対策をとることも考えられるのではないか。
近年、南アでは電気代が高騰、また、鉄道、港湾などのインフラが老朽化するなど、ビジネス環境が悪化している。現在、アフリカにおける製錬事業はチャレンジングな局面にあるが、アフリカには有望な資源が多く賦存している。
引き続き、日本産業に必須のフェロクロムなどの安定供給を担っていきたい。

日本発の即席麺文化をアフリカへ

最後にリテール事業第一部の袴田和史副課長、八尾拓磨アシスタントマネージャーに話を聞いた(取材日:2025年6月12日)。

質問:
即席麺事業の概要は。
答え:
リテール・コンシューマーサービス事業としては、ASEAN地域、特にベトナムに注力しており、食品・流通・小売りの川上から川下まで手掛けている。インドでも展開を始めた。次のターゲット国として設定しているのがアフリカだ。既に2023年からケニアで消費財製造大手のカパオイルリファイナリーズ(Kapa Oil Refineries Limited)と合弁会社(Kapa Foods Innovations Limited)を設立し、即席麺の製造・販売を行っている。また、タイで即席麺の製造販売最大手のタイプレジデントフーズ(Thai President Foods Public Company Limited)が技術パートナーとなり、ケニア向けの商品開発をしている。
質問:
商品概要と現地の食事情は。
答え:
即席麺の商品名はナラ「nala」で、これはスワヒリ語で「贈り物」という意味だ。これまでチキン味を発売しており、2025年5月末から、べジ(野菜)味とチキンココナッツカレー味の販売を始めた。現地では韓国産の辛い即席麺(輸入品)も一部見られるが、価格帯がケニアにはまだ合っていないと推測する。一方、競合のインドミーがシェアの大半を占めており、nalaのシェアは10%未満だ。このため、商品の試食販売にも力を入れている。チキン味のパッケージと同じ色の黄色のトラックで、学校などでサンプリングイベントも実施して認知拡大を図る。 また、ケニアの習慣では、まだ即席麺を食べる機会が少ない。日本では年50食を消費するというが、エジプトでは10食程度、ケニアでは数食という情報もある。なお、ケニアでは日本とは異なり、即席麺を汁なしで食べることが多い。我々の商品も汁なしでも食べられているという。

即席麺nalaのチキン味
(双日提供)

即席麺nalaのチキンココナッツカレー味(双日提供)

即席麺nalaのべジ味
(双日提供)
質問:
課題と対策、今後の展開は。
答え:
ケニアにおける生産や供給面での大きな課題は、今のところ聞いていない。国によっては外資規制もある。物流(ロジスティクス)、小売りなどにどう参入するかが課題である。パートナーやローカル企業との連携が重要だ。
現在、ケニアからウガンダ、ルワンダなどへ少量のみ輸出している。ケニアでの拡大に注力しつつ、アフリカ広域への拡大も検討したい。なお、アフリカでは即席麺以外の消費財にも、小売り、卸売りのチャンスがあると考えており、開発途上国の方々の生活水準向上に資するような事業を展開していきたい。さらに、我々としては、今後も日本発の即席麺文化をアフリカで広めていきたい。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課 課長代理
井澤 壌士(いざわ じょうじ)
2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課、ジェトロ北海道、ジェトロ・カイロ事務所を経て、現職。中東・アフリカ地域の調査・情報提供を担当。

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