アフリカでのビジネス事例オンキヨーがエルアラビの新ブランドにサウンドシステム提供
2025年9月25日
日本のオーディオメーカー、オンキヨー(ONKYO、大阪市)は9月3日、エジプト最大手家電メーカー、エルアラビ(2025年7月16日付ビジネス短信参照)の新しい高級家電ブランド「カジト(KAJITO)」のテレビにサウンドシステム「Powered by ONKYO」を組み込むことに合意したと発表した。8月19日に開催された、第12回日本・エジプト経済合同委員会会議/投資会議(2025年9月2日付ビジネス短信参照)で覚書(MOU)を締結した。
カジトをリードするエルアラビのオマル・エルアラビ氏(2025年7月8日付地域・分析レポート参照)は今回の合意に関し9月4日、「50年以上にわたって日本の大手家電メーカーと強固なパートナーシップを築いてきた伝統を礎に、エジプトおよび周辺国市場に先進技術を搭載した高品質製品を提供する新たな日本ブランド『KAJITO』を立ち上げた。世界最高クラスの音響技術で知られるオンキヨーとライセンス契約を締結し、本格的で洗練された日本のサウンド『Powered by ONKYO』をテレビに搭載することで、ワンランク上の視聴体験を楽しんでほしい」と述べた。

オンキヨーはこれまでも、インドのリライアンス・インダストリーズ(Reliance Industries)やトルコのベステル(Vestel)の製品に、「Sound by ONKYO」や「Powered by ONKYO」と銘打つ提携で、製造販売から技術ライセンスへと経営を切り替えている。オンキヨーは、エルアラビと提携するに至った理由を、エジプトがアフリカ市場への入り口であること、トルコのベステル同様、東芝のライセンスを受けてテレビを生産していたこと、そしてエルアラビの人たちの人柄だったとしている。
エルアラビ東洋一エンジニアリング(ELTE)取締役兼最高執行責任者(COO)の南野伸之氏は、かつて2004年から2008年にかけて中国東芝情報機器杭州開発センター長を務め、東芝パソコンの中国設計事業を立ち上げた。ELTEでは、日本の顧客から組み込みソフトや基板の回路設計、実装後の稼働試験などを受注し、その一部をエルアラビへ委託している。同氏はエジプトの技術者について9月3日、「エジプトには若くてアクティブなエンジニアが多く、この5年間で急速にレベルアップした。中国の技術者と比べても何ら遜色がない。政治的に安定していることも魅力だ」と述べた。ELTEに出資した東洋一通商は1985年設立で、当初は東芝やシャープなどのテレビ製造の海外展開に伴うプラント輸出や技術協力を担っていた。2010年に香港、2014年にタイ、2020年に東京でそれぞれエルアラビと合弁で現地法人を設立してきた沿革がある。2025年7月には、エルアラビと合弁の建築・輸送機器ガラス工場も稼働した(2025年7月16日付ビジネス短信参照)。
エルアラビの研究開発(R&D)センターでは、300人超の技術者が、3Dプリンターによる試作、製品共通の耐衝撃、耐振動、耐落下、IPX防水性能(注1)、耐塩腐食、防炎性能、材料強度、電磁環境両立性(EMC)、無反響室での騒音計測、消費電力計測など、設計通りの性能が発揮されているか試験を日々実施している。機種別では、冷蔵庫やエアコンの冷却性能、洗濯機の汚れ落ち、扇風機の風力、掃除機の吸引力、アイロンの使い勝手など、設計と試作の試行錯誤が繰り返されている。
エルアラビは、日本のシャープブランドの冷蔵庫(2024年8月2日付ビジネス短信参照)やエアコンのほか、欧州の調理・白物家電ブランド製品、また自社ブランド「トルネード(Tornado)」で白物家電や映像機器を生産してきた。
エルアラビが生産するシャープブランドの冷蔵庫は、国内販売台数で4年連続シェアトップ(同社)を誇る。エルアラビ・シャープの技術開発統轄の竹内真一氏は9月2日、「シャープの信頼性基準に基づいた3D CAD設計や性能解析では、エジプトと日本の技術レベルに差はない」と述べた。
オンキヨーは1946年に創立したオーディオ製品の老舗ブランドで、1957年に東芝の子会社となり、1972年からはドイツ、米国、マレーシアに相次いで生産・販売会社を設立した。2015年に、パイオニアからホームオーディオ事業を買収。2021年には、新型コロナウィルスや半導体供給不足の影響で、オンキヨーエンターテイメントからオーディオ部門を米VOXXに売却、オンキヨーはMBO(注2)で独立した。蓄積してきた技術をオーディオ製品以外にも生かすべく、日本ではONKYOブランドの補聴器事業を展開する一方で、若年層向けにはアニメやVTuber(注3)とのコラボレーションで、声優の声をシステムボイスに用いたイヤホンなども開発、オンラインや秋葉原の自社店舗で販売している。産業用途では、建設機械のエンジン音のAI(人工知能)解析や、橋梁(きょうりょう)の劣化診断技術開発、また医療用途では、2025年8月に開催された第9回アフリカ開発会議(TICAD9)(2025年8月27日付ビジネス短信参照)でAI診断聴診器を展示した。「聞いてもらえる音、役に立つ音」が経営のテーマになっている。
シャープ、オンキヨーといった日系メーカーの技術がエジプトを基盤に成長を続け、人口1億を超える国内市場はもとより、中東、さらには欧州といった先進国市場にジャパンブランド輸出を目指すインキュベーション機能をエルアラビは与えている。
- 注1:
- IPX :電子機器の防塵(ぼうじん)・防水機能を表す国際規格IP(International Protection)の保護等級。防塵は0~6等級、防水は0~8等級。
- 注2:
- MBO: Management Buyout(経営陣による買収)。企業の経営陣が株式や一部の事業部門を買い取ることを通じて経営権を取得すること。
- 注3:
- VTuber:バーチャル・ユーチューバーの略称。アニメーションやCG(コンピュータグラフィックス)で作成されたキャラクターを通じて、動画配信プラットフォームで活動する人物を指す。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・カイロ事務所
西澤 成世(にしざわ しげよ) - 2003年、ジェトロ入構。海外投資課、輸出促進課、ジェトロ・広州事務所、麗水博覧会チーム、環境・エネルギー課、イノベーション促進課、ジェトロ福井、ジェトロ・ラゴス事務所、ジェトロ・ブカレスト事務所などを経て、2023年8月から現職。