アフリカでのビジネス事例ビジネスで社会課題解決
アフリカ市場に挑む日本の中小企業(前編)
2025年10月29日
ジェトロは、2025年8月20~22日に横浜で開催された第9回アフリカ開発会議(TICAD9)のテーマ別イベントとして、「TICAD Business Expo & Conference(TBEC)」を開催した。TBECを構成する4つのゾーンのうちの1つの「Japan Fair」は、日本とアフリカのビジネス関係強化と交流促進を目的に開催された。過去最多となる194社・団体の日本企業が参加し、うち106社は中小企業だった。 アフリカ地域は、市場の将来性に期待が持たれる一方で、アジアや欧米に比べて情報が少ない。日本企業にとって参入の難度も比較的高く、資金や人材面で余力のある大手企業が有利とされる。その中で、今回のTBEC参加企業の過半数が中小企業だったことは注目すべきだろう。展示会という機会を活用して、アフリカ市場への参入やビジネス拡大の足がかりを得ようとする意欲の表れを見て取れる。
本稿では、アフリカ市場に取り組む4社の中小企業から聞いた市場拡大に向けた工夫や戦略を紹介する。
公的機関と連携し社会課題を解決
カンリウ工業(長野県塩尻市)は、アフリカの低所得地域で精米機の普及に取り組んでいる。アフリカ各国が自国産米の増産を強化する中で、現地の安心・安全な食生活や地産地消の実現に貢献すべく、同社の精米機の普及を目指す。会長の藤森秀一氏によると、アフリカ向け精米機は操作が簡単で、誰でも安心して使用できることが特徴だという。コストを抑えた小型普及モデルとして設計している。
同社は1925年の創立以来、農業機械や福祉機器の開発・製造・販売を行う。2013年から海外展開に取り組み、長粒米向け精米機を開発した。日本製の海外モデルに加え、タイでノックダウン生産した精米機や石抜機をアフリカ、アジア地域を中心に販売する。
アフリカ向けの輸出において、同社の特徴は公的機関と幅広く連携していることだ。国連工業開発機関(UNIDO)のサステナブル技術協力普及プラットフォーム(STePP)に登録し、ガーナに精米機を出荷した。また、2022年から公的支援機関の農業関連プログラムに参加し、アフリカやアジアからの農業研修生に製品の実演を行うとともに、各国関係者とのネットワークを構築している。
さらに、サブサハラ・アフリカの農村地域の課題解決につながる革新性の高いビジネスにファイナンスを行うAECF(Africa Enterprise Challenge Fund)
(注)を活用して、ナイジェリアの地場企業が同社製品を購入した事例もある。この事例はナイジェリアでの技術理解や普及を後押ししている。
同社はコートジボワールの現地企業を含む3社で覚書(MOU)を締結済みで、今後はセネガルをはじめとするその他の西アフリカ地域や、モザンビーク、マダガスカル、赤道ギニア、ケニアなど複数国への展開を見据えている。

農業や精米加工、環境関連機器の開発・設計、製造、販売を行う山本製作所(山形県天童市)は、TBECの自社ブースで穀物乾燥機を紹介した。コメは、収穫後に穀物乾燥機を使って乾燥することで、安定した長期保存が可能になり、食味の低下を防ぐことにつながる。他方、アフリカでは天日乾燥が主流で、刈り取り時期を遅らせることで乾燥にかける時間を短縮する傾向が見られる。その結果、コメの品質低下を招いている。同社の製品は、精米工程で発生するもみ殻を燃料として活用することで、ランニングコストを削減し、環境負荷を抑えながら大量のもみを乾燥することができ、機械導入のハードルを下げることにもつながる。
人口規模や治安の良さ、使用言語(英語)、日本からの相対的な距離などの観点から、アフリカの中でもタンザニアを対象としている。タンザニアに農業国としてのポテンシャルも感じているという。2025年に公的支援機関のビジネス化実証事業に採択され、現地に穀物乾燥機の試験輸出を行い、地場の民間精米工場と連携して実証試験を始めている。同社取締役の結城利則氏は、2026年以降も引き続き実証試験を行い、データ収集を通じて乾燥機の有効性や経済性を明らかにして、同時に大手精米工場との連携を模索していくという。
アフリカでは穀物乾燥機の普及率は低いものの、将来的にアジアや地場のメーカーと競合になる可能性もあり、特に中国メーカーは価格面で競争力が高い。結城氏は、2025秋にも開催を予定している現地セミナーなどを通して、品質や耐久性の面で自社製品の優位性を啓発したいと話す。

アフリカ市場に注力する理由について「著しい人口増加と経済成長」と言うのは、純水装置や濃縮装置、各種ろ過装置など水処理関連システムの開発・設計・製造・販売とメンテナンスを手掛けるエムテック(神奈川県藤沢市)だ。食品工業用、工業用、海水・かん水淡水化による水の確保、医療用、災害時の飲料水など、用途に応じた最適な水処理システムを提案し、製造から保守まで一貫対応できる。
アフリカには、上下水道インフラの整備が追いついていない村や島が多い。同社の主力製品の中小規模の淡水化装置が学校や公的機関で活躍できる点に大きなポテンシャルを感じている。加えて、富裕層家庭向けの小型浄水器の展開も視野に入れる。
今後はナイジェリアの代理店を拠点に、ケニアや南アフリカ共和国への販路拡大を計画している。代表取締役の菊地俊行氏は、アフリカ市場ならではの課題として「物流、水質の多様性、資金調達力」を挙げる。現地での営業活動では日本とは異なる商慣習も課題となる。他国と比べてハードルは高いものの、「代理店や商社など、現地に精通するパートナーと協力しながら、販路を開拓していきたい」と菊地氏は意欲を示す。
独自の付加価値で新たな需要を喚起
丸富製紙(静岡県富士市)は、主にトイレットペーパーの製造・販売を行う。同社の代表商品の「超ロング芯なしトイレットペーパー」は、消費者の取り換えの手間を減らし、巻き芯のごみをなくすだけでなく、物流コストの削減にもつながる「三方よし」の商品だ。
国内の競合他社の多くが国内消費量分だけ商品を生産する中、同社は6年前から工場を増設し、商品生産体制の強化をきっかけに輸出への取り組みを本格化した。これまでにタイ、ベトナムなどのアジア地域や、ガーナ、ロシアに「100%日本製で水に流せるトイレットペーパー」を輸出している。
現在は新規市場への直接輸出に向けた販路開拓を進めており、アフリカも最有望地域の1つだ。海外では多くの国で、日本よりも高い価格でトイレットペーパーが販売されている。加えて、同社専務取締役の日向孝夫氏と海外事業本部課長の金指義和氏は「特に下水処理設備が充分に整備されていないアフリカ地域の新興国では、『水溶性で、脆弱(ぜいじゃく)な排水設備でも流しやすい』という付加価値をもった同社の商品の競争力は非常に高い」と語る。
アフリカ市場で販売活動を進めるに当たっては、現地の市場に関する情報をいかに入手するかという点が大きな課題だ。外国では日本とはトイレの様式や利用習慣が異なる国も多く、トイレットペーパーについても、紙の厚さやロール幅などの規格が日本とは異なる。特にアフリカではインフラが未整備な地域も多いため、今後、入念な市場調査が必要となる。日向氏は「今回のTBECへの出展を通じて、思いがけない業種の企業がブースを訪れることもあり、複数国の企業とコネクションができた。ぜひ今後につなげていきたい」と、今後の取り組みへの期待を強くする。
- 注:
- AECF(Africa Enterprise Challenge Fund)は、2008年に世界経済フォーラムで設立された非営利組織で、サブサハラ・アフリカの農村・周縁部の利益となるようなビジネスに対し、支援と資金提供を行う。
- 執筆者紹介
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ジェトロ海外展開支援部中堅中小企業課参事
本田 雅英(ほんだ まさひで) - 1988年、ジェトロ入構。ジェトロ鳥取事務所長、ジェトロ・ラバト(モロッコ)事務所長を経て、2025年4月から現職。
- 執筆者紹介
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ジェトロ海外展開支援部中堅中小企業課
小森 愛梨(こもり あいり) - 2025年、民間団体での国際部門、人事部門勤務を経て、ジェトロ入構。
- 執筆者紹介
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ジェトロ海外展開支援部中堅中小企業課
田中 卯月(たなか うづき) - 2024年、ジェトロ入構。




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