マイナス60度の超冷凍技術で広がる食品輸出の可能性(日本)
マグロとともに世界へ混載

2026年9月1日

日本産食品の輸出拡大に向けて、品質を維持したまま海外へ届ける物流や冷凍技術の重要性が増している。中でも、長年マグロ業界で培われてきたマイナス60度で冷凍保持する超低温冷凍技術は、マグロや水産物だけではなく、他の農産物や加工食品への応用が期待されている。さらに、マグロ輸出で培った超冷凍技術を活用した混載は、水産物や農産物、加工食品を効率的に輸送する手段として、日本産食品の輸出拡大につながる可能性を秘めている。

本稿では、三崎港の老舗マグロ問屋である西松外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(本社:神奈川県三浦市)の相原宏介代表取締役社長にインタビューし、海外展開への取り組みにおける超冷凍技術の可能性を探る(取材日:2026年6月19日、7月23日)。

三崎マグロとともに、冷凍技術が発展

神奈川県三浦市の三崎港は、昔から地形に恵まれた港として沖合・沿岸漁業の拠点として発展し、昭和初期よりマグロ類の水揚げで全国有数の遠洋漁業基地として栄えた。大正11年(1922年)に三崎水産物地方卸売市場が開設され、入札方式によるマグロの市場取引が開始された。市場に参加する仲卸業者などが、長年の経験やノウハウで培った「目利き」(注1)によって、高品質なマグロを適正な価格で取引する市場として信頼を築き、「三崎マグロ」ブランドを形成してきた。


三崎マグロ(ジェトロ撮影)

さらに、2018年には全国初となる冷凍マグロ専用の低温卸売市場を新設し、徹底した温度管理と品質衛生管理を行うとともに、市場機能を効率化した(注2)

三崎港では、長年の経験やノウハウである「目利き」に加え、冷凍技術の発展によって高品質なマグロの流通を支えてきた。マグロは変色が激しく味が落ちやすいデリケートな食材だ。遠洋漁業でマグロ漁船が長距離を長期間にわたり適切に温度管理し、冷凍することで新鮮な状態を維持しつつ輸送する必要があった。マグロ漁船では、マグロの捕獲後、血抜きなどの適切な処理をした後、船内で急速凍結する。港で水揚げ後、卸売市場や流通の過程では、超冷凍温度帯でのコールドチェーンにて運ばれている。一般的な冷凍庫のマイナス18度よりも低温のマイナス60度で保管することにより、通常の冷凍温度帯と比べてマグロの変色や品質劣化を抑え、長期間の品質保持が可能となる。


三浦市低温卸売市場(ジェトロ撮影)

三浦市場の様子(ジェトロ撮影)

現地ネットワークを広げ、三崎マグロの輸出拡大

三崎港でマグロ問屋として、近年積極的にマグロを輸出する企業の1つが西松だ。同社は、三崎港開港とともに明治27年(1894年)に創業した老舗マグロ問屋だ。水揚げから一元管理した天然マグロを「西松の三崎まぐろ」としてブランディングし、国内外に展開してきた。

マグロの国内消費が減少する中、海外での需要拡大をビジネスチャンスと捉え、「日本の三崎マグロを世界へ広めたい」という思いから、2014年頃に海外展開を開始した。2016年からは、ジェトロの専門家による伴走型支援「輸出プロモーター事業」を活用し、積極的に海外展示会や商談会に参加して現地での販路を拡大していった。現在では、フィリピン、クウェート、タイ、米国、オーストラリアなどへ、マグロを中心とした水産物を輸出している。

「海外展示会や商談会に参加するだけではなく、現地でのネットワークや人とのつながりをいかに構築するかが重要だ」と相原氏は語る。例えばタイでは、神奈川県のプロサッカーチーム「横浜F・マリノス」とともに、2016年から3年連続でタイ国際旅行博TITF(Thai International Travel Fair、バンコク)に出展した。プロモーション活動を通じて、現地でのマグロの認知度向上とともに、インバウンド観光客に向けて三浦の観光資源の魅力を発信した。こうした縁を大事にしながら、現地でのネットワークを活用しつつ、マグロの輸出を徐々に拡大させている。

そのほか、同社独自の教育認定プログラム「まぐろコンシェルジュ」(注3)や食育活動(注4)、「まぐろフレッシュハム」などの新商品の開発を通じて、地域資源の活用や六次産業化の推進に向けた取り組みを積極的に進めてきた。


2016年ジェトロ食品商談会(バンコク)(同社提供)

2016年タイ国際旅行博出展ブース(同社提供)

マグロで培った冷凍技術の応用

近年、同社は、冷凍マグロで長年培ってきた超冷凍技術を他の水産物や農産物に活用し、海外への輸送において「混載」の取り組みを進めている。

同社の超低温冷凍冷蔵庫には、地球環境に配慮したノンフロン次世代型空気冷媒システムが導入されており、徹底した温度管理でマグロなどの商品の品質を保持できる。また、同社は対米輸出向けの水産食品加工施設HACCP認定を取得し、徹底した衛生管理を行っている。これらの技術や設備、長年培ったノウハウを生かし、三崎にある自社の超低温冷凍冷蔵庫でマイナス60度帯にて保管し、出荷まで品質を保持している。海外輸出の際には、これらの商品をまとめて混載し、低温リーファーコンテナを使用して輸送している。

こうした取引を進める中で、海外の取引先からマグロのみではなく、他の水産物などもまとめて注文されるようになった。マグロのみでコンテナを積載するのは時に難しく、他の商品とともに混載することがコスト面でも理にかなう。また、日本食材をまとめて混載することは、海外からのニーズにも合致してビジネスや信頼につながるという。

「海外展開を進める中で、日本から売りたい商品を売り込むプロダクトアウトには限界があると感じた。現地ニーズに柔軟に対応するマーケットインの発想が重要だ」と相原氏は話す。時間をかけて海外の取引先とのネットワークを築き、現地市場のニーズに対応することで、信頼関係を強めていくことが重要だ。

例えば、マグロとともに、日本食材としてニーズの高いキンメダイやカキ、ハマチなどの水産物のほか、青果物や加工食品などを超冷凍コンテナに混載して輸送してほしいという要望を受ける。冷凍に適さない農産物や食品はあるものの、ニーズがある品目については、マイナス60度での急速凍結や冷凍の実証実験を行うことも可能だ。

また、同社の主導で関連企業とともにフードテック流通推進協議会を設立し、水産庁の補助金を活用して水産物のバリューチェーン(企業活動の価値連鎖)の構築に取り組んでいる。同社の超低温冷凍庫を活用して高鮮度の国産水産物を冷凍輸送し、マレーシアを中心とする東南アジア向けの販路開拓を実施した(注5)

このように、いろいろな食材を超冷凍技術で混載することは今後の日本産食品の輸出拡大につながる可能性を秘めている。超冷凍技術は、新鮮な状態で凍結することで高品質を維持したまま長期間の保管や輸送を可能にする。また、冷凍によって品質を保持できれば、品目によっては食品添加物や保存料などを使用せずに長期輸送できる可能性がある。ただし、輸入規制や必要な手続きは国・地域や品目によって異なるため、輸出先ごとの確認が必要となる。 (注6)。こうした特性を生かすことで、輸送面での制約が軽減され、多様な食品の混載による効率的な物流の実現が期待される。


冷凍マグロの水揚げ(同社提供)

西松の超低温冷凍倉庫(同社提供)

超冷凍技術で新鮮な日本産食材を世界へ

一般的に、生鮮品の方がとれたてで新鮮、質が良いというイメージがある。しかし、近年の冷凍技術の進歩によって、新鮮な状態のまま冷凍し、遠隔地の市場や消費者に高品質な食材を届けることが可能になった。また、遠隔地への輸送では、リードタイムの問題から生鮮品は空輸が前提となる一方、冷凍品は海上輸送が可能であり、コスト面でのメリットが大きい。

マグロで培った超冷凍技術を他の水産物や農産物に応用し、複数食品をまとめて輸送する「混載」は、生鮮品輸出の課題解決策の1つとなる。これにより輸送効率の向上やコスト削減、海外ニーズへの対応が可能になる。このように既存の輸出インフラを活用することで、多様な日本産食品の輸出拡大につながることが期待できる。 また、農林水産省は、フードテック分野において日本が強みを有する技術領域の1つとして、品質保持・冷凍技術を挙げている(注7)。超冷凍技術は、日本産食品の輸出拡大の重要なカギとして、今後さらなる活用が期待される。


注1:
一般的に、冷凍マグロの取引では、尾の部分を裁断して解凍した断面を目視することで、脂乗りや身質などを見極め、一尾ずつ目利きする。また、魚種やサイズ、産地情報などによって判断される。最近では一部、人工知能(AI)による判定技術などのデジタル技術も活用されている。 本文に戻る
注2:
三崎港は、高度衛生管理とともに、海外輸出や観光資源などの観点から、三崎魚市場の競争力強化と三崎ブランドの拡大・発展を目指している。 課題としては、三崎魚市場の取扱量と取扱金額が減少していることが挙げられる。主力取扱品目である冷凍マグロ類や養殖魚の減少、沿岸漁業や沖合漁業における取扱高の低迷が要因だ。年次別取扱高は、最盛期の1989年には取扱数量6万4,269トン、取扱金額620億円だったが、2025年には1万6,041トン、170億円まで大幅に減少した。詳細は、三浦市三崎水産物地方卸売市場管理事務所「令和7年水揚高統計」を参照。 本文に戻る
注3:
同社独自の教育認定プログラム「まぐろコンシェルジュ」を通じて、日本国内の売り場にマグロの専門知識を持つプロの販売員を育成するなど、マグロの価値向上に取り組んでいる。 本文に戻る
注4:
食育は、さまざまな経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実現できる人間を育てること。 本文に戻る
注5:
水産庁「水産物輸出拡大連携推進事業(令和4年度補正)」を活用し、同社を中心とするフードテック流通推進協議会が、「革新的な冷凍技術を活用した水産物の輸出促進」に採択された。超低温冷凍庫を活用して製品を保管することで、高鮮度の国産水産物の安定供給を実現し、マレーシアを中心とする東南アジア向けの販路開拓を実施した。詳細は、水産庁「水産バリューチェーンの構築関連の取組」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参照。 本文に戻る
注6:
水産物に関する日本からの輸出規制や手続きについては、ジェトロ「日本からの輸出に関する制度」を参照。 本文に戻る
注7:
フードテックの詳細については、農林水産省「フードテックワーキンググループ」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ農林水産食品部 市場開拓課調査チーム 課長代理
古城 達也(ふるじょう たつや)
2011年、ジェトロ入構。人材開発支援課、ジェトロ横浜、ジェトロ・ニューヨーク事務所、ジェトロ諏訪を経て、2024年11月から現職。現在、農林水産物・食品の輸出に関して、各国の輸入規制、法令や市場情報などの調査や、日本企業からの輸出相談窓口を担当。