激動の中東情勢:中東各国への影響と展望ホルムズ海峡危機に揺れる湾岸諸国
MENA主要港湾動向(1)

2026年8月25日

中東情勢の不安定化により、紅海、ホルムズ海峡という海上輸送の要衝に同時に危機が生じている。英国海事機関(UKMTO)の公表資料を基にジェトロが集計したところ、2026年7月に紅海およびアデン湾、ホルムズ海峡で発生した船舶に対する不審活動や未遂を含む海上保安上の事案は17件、うち攻撃と分類されたものは12件に上る。周辺の港湾施設にも被害が及んでおり、同海域の海上輸送正常化には程遠い状況だ。

世界銀行の報告(2025年2月発表)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(6.4MB)は、2023年11月以来の紅海危機は単なる航路変更ではなく、欧州・アジア間の物流の構造変化を引き起こし、一部港湾の取り扱い機会を増やす一方、別の港湾では寄港や積み替え需要を減少させたと分析する。エジプトのポートサイード港など東地中海の港湾は、スエズ運河の通航量減少により、大型船の寄港数減少や積み替え機会の縮小に直面している。一方、喜望峰経由の船舶増加により積み替え港、燃料補給拠点としての需要が高まったモロッコのタンジェMED港など西地中海の港湾は、迂回貿易の恩恵を受けているとされた。

本連載では、重層化する紅海危機、ホルムズ海峡危機が中東・北アフリカ(MENA)地域の物流ネットワークに与える影響について、各国の主要港湾とその勢力図の変化に焦点を当てながら論じる(図1参照)。第1回の本稿では、ホルムズ海峡情勢の影響が大きいペルシャ湾沿岸諸国、第2回では、紅海情勢の影響が大きい地中海沿岸諸国について考察する。

本稿は2026年7月末時点までの情報に基づいている。その後の運航状況や港湾、船社の対応については、各港湾および船社の最新情報を確認されたい。また、中東情勢の最新動向については、ビジネス短信特集「イスラエル・米国とイランの衝突に関する中東情勢、各国の反応」も参照されたい。

図1:本稿で取り上げる港湾の位置関係

図1:PDF版を見るPDFファイル(266KB)

本稿で触れる港湾の位置関係を図示。地域最大のUAEのジュベル・アリ港はペルシャ湾内に位置しており、湾外のコールファッカン港、フジャイラ港、オマーンのソハール港などで代替を進める。

注:地図上の港湾はおおよその位置を示す。
出所:GlobalDataを基にジェトロ作成

港湾立地が左右する湾岸諸国の物流レジリエンス

湾岸諸国の物流の状況は、ペルシャ湾外に港湾を有するかどうかで明暗が分かれている(表1参照)。インド洋に面するオマーンがホルムズ海峡を回避する貨物の代替ルートとして注目を集める一方、ペルシャ湾外に港湾を持たないカタール、クウェート、バーレーンは湾外の港を利用した代替物流網への依存が高まっている。地域最大のジュベル・アリ港を擁し、物流ハブとして発展してきたアラブ首長国連邦(UAE)は、東岸オマーン湾沿いに位置するフジャイラ港や陸上輸送を活用し、ジュベル・アリ港の代替ルートの整備を進める。サウジアラビアも、ジッダ港、キング・アブドゥッラー港など紅海側の港湾への振り替えや陸上輸送の活用を進めるが、フーシ派の活動により紅海情勢が不安定化する中、今後の動向が注視される。一方、イランのバンダル・アッバース港は、軍事リスクと制裁リスクが重なったことで、湾岸地域の主要港湾の中でも特に大きな物流制約に直面した。

表1:ペルシャ湾沿岸諸国主要港湾とホルムズ海峡情勢の影響注1:コールファッカン港、フジャイラ港のデータはUAE政府の国家発展戦略「We The UAE 2031」による。 注2:評価は、危機前後の貨物取扱動向、代替港としての利用状況、混雑、航行・制裁リスクを総合して筆者が判定した。取扱量の変化には設備増強や船社のネットワーク再編など、情勢以外の要因も含まれる。
所在国 2024年
世界順位
2024年取扱量
(TEU、20フィートコンテナ換算)(注1)
立地 ホルムズ海峡情勢の影響評価(2026年7月時点)(注2) 理由(注2)
ドバイ(ジュベル・アリ) UAE 9位 15,536,000 ペルシャ湾 ▲ややマイナス GCC最大ハブ港。貨物の一部をフジャイラ・コールファッカンへ分散。
アブダビ UAE 40位 5,421,201 ペルシャ湾 ▲ややマイナス 東岸港湾との連携強化で補完。
ジッダ サウジアラビア 55位 3,722,865 紅海 ◎プラス サウジアラビア向け貨物の代替ゲートウェイとして需要増。ただし紅海リスクあり。
サラーラ オマーン 66位 3,304,700 アラビア海 ◎◎大幅プラス GCC向け貨物再配分拠点。危機対応ネットワークの中核。
ダンマーム サウジアラビア 67位 3,290,538 ペルシャ湾 ▲マイナス 東岸港で海峡依存。貨物の一部が紅海側へ転換。
バンダル・アッバース イラン 84位 2,388,600 ペルシャ湾 ×大幅マイナス 軍事攻撃、海運制裁、保険制裁の影響を最も強く受ける港。
ハマド カタール 圏外 1,421,000 ペルシャ湾 ▲マイナス 国内中核港だが、サラーラ・ソハールなどへの依存増加。
コールファッカン UAE 圏外 約1,200,000 オマーン湾 ◎プラス UAEの代替ゲートウェイ。ジュベル・アリ機能を補完。
ソハール オマーン 圏外 942,051 オマーン湾 ◎◎大幅プラス ランドブリッジの起点。湾岸向け代替物流の中核。
シュワイク クウェート 圏外 613,093 ペルシャ湾 ▲マイナス 外部物流網への依存度上昇。
ハリーファ・ビン・サルマン バーレーン 圏外 409,382 ペルシャ湾 ▲マイナス GCC共同物流体制への依存が高まる。
フジャイラ UAE 圏外 約400,000 オマーン湾 ◎大幅プラス エネルギー・物流双方の戦略的重要性が大幅上昇。

注1:コールファッカン港、フジャイラ港のデータはUAE政府の国家発展戦略「We The UAE 2031」による。
注2:評価は、危機前後の貨物取扱動向、代替港としての利用状況、混雑、航行・制裁リスクを総合して筆者が判定した。取扱量の変化には設備増強や船社のネットワーク再編など、情勢以外の要因も含まれる。

出所:ロイズ・リスト「One Hundred Ports」(2025年8月19日公表)、各国政府発表を基にジェトロ作成

代替ルート確保を急ぐUAE、サウジアラビア

世界有数の港湾であるジュベル・アリ港を擁するUAEは、原油輸出経路の確保と物流ハブ機能の維持の両面からホルムズ海峡に代わる輸送ルートの確保を急ぐ。ジュベル・アリ港への集中リスクを軽減するため、オマーン湾側に位置するコールファッカン港とフジャイラ港を代替ゲートウェイとして活用し、貨物をドバイやアブダビへ道路・鉄道輸送する体制を構築している。さらにUAE政府は、この危機を一時的な対応ではなく物流インフラ再編の契機と位置付け、フジャイラ経由の原油輸出能力拡大、東岸港湾の増強、エティハド鉄道ネットワークの拡充を進めることで、長期的なホルムズ海峡依存の低減と物流網の根絶時にも輸送を維持・回復できる能力(物流レジリエンス)の強化を目指している(2026年7月21日付地域・分析レポート参照)。

ホルムズ海峡周辺の航行リスク上昇を受けて、サウジアラビアでは東岸のダンマーム港向け貨物の一部が紅海側のジッダ港やキング・アブドゥッラー港(KAP)へ振り替えられた。その結果、ジッダ港では船舶の沖待ちやコンテナ滞留、陸送能力不足による混雑が発生した一方、紅海側港湾や周辺国との陸上物流ネットワークの活用が進み、ホルムズ海峡への依存を低減する動きが加速した。また、今回の危機はサウジアラビアが推進する「国際物流ハブ」構想の重要性をあらためて浮き彫りにした。港湾と内陸物流拠点、将来の鉄道網を結ぶ広域物流回廊の整備を通じ、同国の「国際物流ハブ」構想を加速させている(2026年4月28日付7月16日付地域・分析レポート参照)。

他方、サウジアラビアの物流を考える上ではホルムズ海峡情勢だけでなく、紅海情勢にも引き続き留意が必要だ。2026年7月には、イエメンの反政府組織で親イラン勢力のフーシ派がサウジアラビア向け海上輸送の禁止措置の発動を表明し、実際に紅海を航行中のサウジ関連タンカーが攻撃を受ける事案が発生したほか、複数の船舶が航路変更や待機を余儀なくされた。サウジアラビアが紅海側港湾の活用によるホルムズ海峡依存の低減を進める一方で、紅海ルートも安全保障上の不確実性を抱えており、チョークポイントであるバブ・エル・マンデブ海峡やスエズ運河の通航量も2023年末以来低調が続いている(図2参照)。

図2:バブ・エル・マンデブ海峡およびスエズ運河の船舶通航量の推移
バブ・エル・マンデブ海峡およびスエズ運河の1日あたり通貨隻数は、2023年11月までは60~80隻程度だったが、2023年末に急減し、その後2026年7月に至るまで20~40隻程度で推移している。

注:本統計はAIS(船舶自動識別装置)に基づいており、AISを停止して航行している船舶は含まれない。
出所:IMF「ポートウォッチ」を基にジェトロ作成

代替物流ハブとして存在感高めるオマーン

インド洋沿いに位置するオマーンは、ホルムズ海峡を通過せずに湾岸諸国との物流を可能とする代替ルートとして注目されている(2025年12月26日付地域・分析レポート参照)。オマーンはGCC加盟国として湾岸諸国との関係を維持すると同時に、イランとも比較的良好な関係を保つ中立外交を特徴としている。このため周辺国との政治的対立に直接巻き込まれにくく、湾岸地域の物流拠点として一定の安定性を有している。

同国最大の港であるサラーラ港のコンテナ取扱量は、2021年から2024年にかけて減少傾向にあったが(表2参照)、中東海運専門メディアThe Maritime Standardによれば、2025年には前年比約30%増の430万TEUに回復した。2026年第1四半期は109万TEUで、前年同期比20%増と、2026年に入っても貨物取扱量が伸びているという。海運大手のA.P.モラー・マースク(A.P. Moller - Maersk)とハパック・ロイド(Hapag-Lloyd)が展開する東西基幹航路における運航協力「ジェミニ」のネットワークにおいて、サラーラ港は主要ハブ港の1つに位置付けられている。両社によれば、オマーンのみならず、クウェート、カタール、バーレーン、UAE向けの貨物はサラーラ港を経由して再配分されており、危機対応ネットワークの中核拠点として利用されているという。こうした動きに加え、インド洋の主要航路上に位置する東西航路の結節点という地理的優位性や、2025年に完了した150万TEUのターミナル容量拡張工事もあり、中東情勢の悪化後も貨物取扱量を順調に伸ばしている。

表2:サラーラ港のコンテナ取扱量推移
コンテナ取扱量(TEU)
2021 約350万TEU
2022 約370万TEU
2023 約380万TEU
2024 約330万TEU
2025 約430万TEU

出所:サラーラ港ウェブサイトおよびThe Maritime Standardを基にジェトロ作成

UAE国境に近いソハール港は、ホルムズ海峡を回避する貨物の受け皿として存在感を高めている。オマーン運輸・通信・情報技術省の発言を引用した報道では、2026年3月時点でソハール港の寄港船数、貨物取扱量は米国・イスラエルとイランの紛争勃発後に急増しているという。2026年7月現在時点でも、ソハール港は重要な代替港として機能しているが、ソハール港から湾岸諸国へトラックなどで貨物を運ぶ陸上輸送ルート(ランドブリッジ)の予約が一時停止されるなど、急激な需要の高まりを受けて混雑管理も行われている。現状、ソハール港のキャパシティーは246万TEU、年間寄港船数は3,000隻超だが、港湾当局は「ソハール・イースト」と呼ばれる拡張計画を進めており、陸送・海運・鉄道など複数の輸送手段を組み合わせるマルチモーダル輸送能力強化や、将来的な国際物流ハブ化を目指している。一方、代替港の取扱能力が十分であっても、港から最終仕向け地までの道路・鉄道輸送、国境通関、倉庫やトラックの確保が追いつかなければ、新たなボトルネックが生じる。今回の危機では、物流レジリエンスを左右する要因が、港湾の地理的位置だけでなく、港湾と内陸部を結ぶ一連の輸送能力に広がっている。

湾外の代替物流網への依存高まるクウェート、カタール、バーレーン

ペルシャ湾内に位置するクウェート、カタール、バーレーンはいずれも、紅海危機では主に輸送コストの上昇と航海日数の長期化、ホルムズ海峡危機では輸出入そのものの停止・制約という異なる影響を受けた。

世界最大級の液化天然ガス(LNG)輸出ターミナルであるカタールのラスラファン港は2026年3月に直接ドローン・ミサイル攻撃を受け、LNG生産を中止し、カタール・エナジーは天然ガスや関連製品の購入者に対して不可抗力事態を宣言した。2026年5月時点で、カタールは攻撃の被害を受けていない一部の施設でLNG生産を再開してはいるものの、船舶の通航や輸出量は限定的だと報じられている。コンテナ港として同国最大のハマド港もペルシャ湾内に位置するため、ソハール港(オマーン)、サラーラ港(オマーン)、コールファッカン港(UAE)といったホルムズ海峡外側の港湾を活用したマルチモーダル輸送への依存が高まっているという。

輸入貨物の大部分を海運に依存するクウェートでは、紅海危機を受け、2024年に港湾と鉄道を連結する物流強化を物流レジリエンス向上策として打ち出した。湾岸協力会議(GCC)鉄道(GCC Railway)(注)の一環であるサウジアラビア・クウェート連絡鉄道と、現在国家戦略港湾として整備が進むムバラク港を含むクウェート北部の鉄道網整備を通じて、輸送手段の多様化を目指す試みだ。なお、いずれもいまだ構想・設計段階にあり、ホルムズ海峡危機時点で実用には至っていない。

島国であり、域内貨物の中継地点であるハリーファ・ビン・サルマン港を擁するバーレーンは2026年3月、GCC加盟国の関係閣僚らによる緊急会合を主催した。会合では、イランによるGCC加盟国への攻撃とホルムズ海峡の事実上の封鎖を受けて、加盟国間の優先通関制度を活用した食料・医薬品・燃料など戦略物資の輸送路確保や、ホルムズ海峡に依存しない代替港の活用、物流ボトルネックを迅速に把握・解消するための共同監視体制の構築などで合意した。その後もGCC加盟国は協議を重ね、加盟国間の国境における通関手続きの簡素化や代替港の活用が実現しつつある。また、GCC鉄道計画の加速や統一デジタル物流プラットフォームの構築などについても検討が進んでいる。

ホルムズ海峡危機で大きな打撃を受けるイラン港湾

イランは、世界の石油消費量の約2割に相当する石油が通過するホルムズ海峡を臨み、アジアと欧州を結ぶ戦略的な要衝に位置している。加えて、ロシアとインドを結ぶ複合輸送網である南北輸送回廊の中核も担う。

同国最大の港湾であるバンダル・アッバース港は、2026年のホルムズ海峡危機の影響を特に大きく受けた港の1つだ。2月25日、米国はイランの原油、石油製品、石油化学品の輸送にかかわる個人、企業、船舶を制裁対象に加え、海上輸送網への圧力を強化した。米国・イスラエルとイランの間で紛争が勃発すると、バンダル・アッバース港は軍事的・物流的な重要拠点として攻撃対象となったほか、ホルムズ海峡の航行制約に伴い、湾岸向け貨物は先述のとおりソハール港、サラーラ港、コールファッカン港、フジャイラ港などへ迂回した。7月29日には、米国による海運・保険分野への追加制裁により船会社の寄港回避圧力が強まり、イラン港湾の国際物流機能はさらに大きな制約を受ける状況となっている。


注:
湾岸協力会議(GCC)加盟6カ国を、クウェートシティからマスカットに至る単一の鉄道ネットワークで結ぶ計画。2021年にGCC鉄道庁が設立され、2030年12月までの全線開通を目標として掲げている。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課 リサーチ・マネージャー
塩川 裕子(しおかわ ゆうこ)
2016年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ富山、企画部(中東担当)、ジェトロ・カイロ事務所を経て、2026年7月から現職。中東・アフリカ地域の調査・情報発信を担当。