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特集:グリーン成長を巡る世界のビジネス動向2045年の気候中立達成へ向け、法整備や官民の取り組みが進む(ドイツ)
水素技術にも注目

2021年7月19日

ドイツ連邦政府は、2045年までに気候中立〔温室効果ガス(GHG)の排出実質ゼロ〕を達成するため、産業別にGHG排出量の削減目標を設定。化石燃料から再生可能エネルギーに移行する「エネルギー転換」を進めている。国内主要産業の自動車産業でも、政府と自動車メーカーが電動化をはじめ脱炭素化への取り組みが着実に進む。また、水素技術の実用化に向けた国レベルでの戦略策定に加え、個別企業の取り組みも幅広い。

本稿ではドイツの気候変動対策と、ドイツの主要産業である自動車業界の動きを追う。また、水素技術の活用について、政策や取り組み事例などについても紹介する。

改正気候保護法で気候中立達成目標を5年前倒し

連邦政府は2021年5月、気候保護法改正法案を閣議決定した(2021年5月24日付ビジネス短信参照)。気候保護法外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは2019年12月に、国レベルの気候保護目標の実現とEUレベルの目標の順守を目的として制定された法律だ。2030年までにGHG排出量を1990年比で少なくとも55%削減する気候目標を法制化し、法的拘束力を付与していた。気候中立の達成は2050年。(1)エネルギー、(2)製造業、(3)建造物、(4)交通、(5)農林業、(6)廃棄物その他の6分野で、GHGの年間許容排出量を規定した。改正気候保護法は、2021年6月に連邦議会(下院)および連邦参議院(上院)を通過、成立した(2021年7月6日付ビジネス短信参照)。官報掲載日の翌日に施行される。

今回の改正の最大の目玉は、気候中立達成時期の5年前倒しだ。従来2050年としていたものを、2045年とした。このほか、GHGの削減目標を2030年までに1990年比で少なくとも55%だったものを65%に引き上げた。また新たに、2040年までに少なくとも88%の削減を中間目標として定めた。また、「6分野」のGHG年間許容排出量も引き下げた(表1参照)。

表1:2020年~2030年の分野別許容排出量(CO2換算)(単位:100万トン)
分野 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年 2025年 2026年 2027年 2028年 2029年 2030年
改正前 改正後 改正前 改正後 改正前 改正後 改正前 改正後 改正前 改正後 改正前 改正後 改正前 改正後 改正前 改正後
エネルギー産業 280 257 175 108
製造業 186 182 177 172 172 168 165 163 157 158 149 154 140 149 132 145 125 140 118
建築 118 113 108 103 102 99 97 94 92 89 87 84 82 80 77 75 72 70 67
交通 150 145 139 134 134 128 128 123 123 117 117 112 112 106 105 101 96 95 85
農業 70 68 67 66 66 65 65 64 63 63 62 61 61 60 59 59 57 58 56
廃棄物その他 9 9 8 8 8 7 7 7 7 7 6 6 6 6 5 5 5 5 4

注: ―は法律に定めがない。
出所:改正前気候保護法および改正気候保護法を基にジェトロ作成

以上に加えて、森林や湿地などの二酸化炭素吸収源の保全・再生により、畜産や特定の産業プロセスで不可避のGHG排出を相殺する目標を新たに導入した。このように、目標達成のロードマップや方法をより具体的に示したことも、今回改正の特徴だ。

連邦政府主導で再生可能エネルギーへの転換を推進

GHG排出量削減の目標達成のためには、化石燃料から再生可能エネルギー(以下、再エネ)に移行することが必要不可欠だ。こうした「エネルギー転換」の推進も着実に進められている。2020年7月には石炭・褐炭火力発電を遅くとも2038年までに全廃する脱石炭法外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますが連邦議会および連邦参議院を通過し成立。2020年8月14日に施行された(2020年8月18日付地域・分析レポート参照)。2030年までに廃止が決定している大型褐炭火力発電〔出力最大150メガワット(MW)超〕については、事業者に鉱山閉鎖を含む廃炉関連費用について補償する。石炭火力発電と150MW以下の小型褐炭発電については、廃止する発電所を公募で決定。入札価格が安い発電所から、補償金を受けて廃止するという仕組みを採用した。すなわち、連邦政府が2026年まで入札を行い、落札した事業者が火力発電所を廃止するにあたり事業者に補償金を支払うことで、段階的に石炭・褐炭火力発電の発電容量を削減する。2027年以降は、法的な措置により補償金なしで強制的に廃止する。

連邦政府は、脱石炭法制定以前の石炭火力発電所と褐炭火力発電所の発電容量を、ひとまず2022年までにそれぞれ約15ギガワット(GW)に削減するとしている(現状では、石炭火力が21.6GW、褐炭火力18.1GW)。前述の入札を所管する連邦ネットワーク庁は2020年12月に第1回の入札結果を発表し、11件で合計4,788MWの落札があったとした。各落札者は、個々の落札価格に相当する補償金を受け取ることができる。その一方で、2021年1月1日以降から石炭による発電と電力の販売ができなくなる。4月には第2回の入札結果を発表、3件で合計1,514MWの落札があり、それぞれの火力発電所は2021年12月8日以降に停止予定だ。第3回の入札は4月30日を締め切りとし、その後2023年6月までに4回入札。合計で7回の入札を実施する予定だ。

石炭・褐炭火力発電所の廃止を進めると同時に、再エネ導入のための法律も整備している。改正気候保護法で気候中立を2045年までに達成することを明記したのは前述の通りだ。このほか、2021年1月1日に施行の改正再エネ法外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますでは、2050年までにドイツで発電・消費される電力について気候中立を達成するとの目標を定めた(2020年12月28日付ビジネス短信参照)。また、2030年までに総電力消費量に占める再エネの割合を65%まで増やすという目標達成のため、再エネの具体的な導入計画(注1)を示している(表2参照)。

表2:ドイツにおけるエネルギー転換の目標
項目 2020年の
目標
2030年の
目標
2040年の
目標
2050年の
目標
温室効果ガス排出量(対1990年比) 40%減以上 55%減以上 気候中立
最終エネルギー消費量に占める再生可能エネルギーの割合 18% 30% 45% 60%
総電力消費量に占める再生可能エネルギーの割合 35%以上 65%以上
(注1)
100%
(注2)
一次エネルギーの消費量(対2008年比) 20%減 30%減 50%減
建築物における最終エネルギー消費量(対2008年) 20%減
交通分野における最終エネルギー消費量(対2005年) 10%減 40%減

注1:―は目標値が定められていないこと。
注2:改正再生可能エネルギー法は2050年に国内で発電・消費される電力が温室効果ガスを排出せずに発電されることを目指している。
出所:連邦経済・エネルギー省資料「8. Monitoring-Bericht zur Energiewende – Berichtsjahre 2018 und 2019」からジェトロ作成

なお、ドイツの総電力消費に占める再エネ割合は2020年時点で46.2%(暫定値)だった。その主な電源は、陸上風力や太陽光、バイオマス、洋上風力発電となっている(図参照)。

図:再生可能エネルギーの電源構成(2020年、暫定値)(単位 %)
2020年の暫定値です。陸上風力が41.8%ですす。太陽光が20.0%です。バイオマスが17.6%です。洋上風力が10.8%です。水力が7.4%です。廃棄物が2.3%です。地熱が0.1%です。

出所:ドイツ連邦統計局、連邦エネルギー・水道事業連合会(BDEW)、バーデン・ビュルテンベルク州太陽エネルギー・水素研究センター(ZSW)、AG Energiebilanzen e.V.の発表資料からジェトロ作成

脱炭素化に向けた自動車業界と連邦政府の動き

ドイツの主要産業の1つ、自動車業界でも、脱炭素化への歩みが進む。ドイツ自動車工業会(VDA)は2020年10月、パリ協定の目標に従って、交通手段(モビリティー)に関して遅くとも2050年までに気候中立を実現させることを目標とすると発表した。実現のためには、「再エネ由来の電力を使用した最新の電気自動車(EV)」「合成燃料や再エネ由来の水素燃料を使用する低燃費の内燃駆動技術」の2つを並行して実施していく必要があるとした。EVの普及だけではなく、合成燃料や水素燃料の重要性も指摘している。

EVを中心とした低排出ガス車普及の政策として、連邦政府は2030年までにEVを700万~1,000万台市場投入することを目標として掲げる。2016年7月には連邦政府と自動車メーカーが共同でEV購入を補助する「環境ボーナス」を導入した。この制度により、バッテリー電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCEV)の購入が支援されていた。加えて2020年7月からは、新型コロナ禍に伴う景気対策の一環として、従来の「環境ボーナス」に上乗せする形で「イノベーション・プレミアム」を導入。連邦政府の補助金額をこれまでの2倍に引き上げた(2020年7月15日付ビジネス短信参照)。輸出管理庁(BAFA)によると、2021年6月1日時点で、制度導入(2016年7月)以降、合計64万1,727件の助成申請があり(2021年6月15日付ビジネス短信参照)、内訳はBEVが35万9,446件、PHEVが28万2,083件、FCEVが198件だった。

ドイツ大手自動車メーカーのフォルクスワーゲン(VW)やダイムラー、BMWも、脱炭素化を進めるべくEVの投入などに取り組んでいる(2021年6月25日付地域・分析レポート参照)。

EV普及推進と並行して、連邦政府はEV用充電設備の100万カ所設置も目標に掲げる。目下、公共・私用双方の充電インフラ整備が支援されている。2021年6月時点では公共の充電設備を約4万1,000カ所設置済みだ。設置場所はStandortTOOL外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます専用ページ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで地図上に表示されている。私用の充電設備の設置にも、合計5億ユーロが助成された(2021年5月24日付ビジネス短信参照)。

気候中立へ必要不可欠な水素の活用

気候中立を達成するため、連邦政府が必要不可欠と考えているのが水素の活用だ。連邦政府は2020年6月に「国家水素戦略」を発表。ここで、水素技術のコストを引き下げ、ドイツが世界の水素市場を牽引することを掲げた(2020年9月9日地域・分析レポート参照)。この戦略では、2023年までを第1段階の「水素市場の立ち上げ開始と機会の活用」、2030年までを第2段階の「国内・国際的な水素市場の立ち上げの強化」と位置づける。第1段階が終了するまでに取り組む38の具体的な施策を、「水素生産にかかる施策」「水素の活用分野に関する施策」「交通分野の施策」「産業利用の施策」「住宅・熱利用の施策」「水素供給のためのインフラにかかる施策」「教育・研究開発促進の施策」「EUレベルの行動のための働き掛け」「世界レベルでの市場展開と協調」の9つに分類し、行動計画を挙げている。

例えば、「世界レベルでの市場展開と協調」の活動の一環として、経済・エネルギー省は2021年6月14日、「H2グローバル財団(H2Global Stiftung)」に対し約9億ユーロの予算を拠出すると発表した(2021年6月23日付ビジネス短信参照)。この財団を通じて、ドイツ国外で生産したグリーン水素(注2)や派生製品を長期購入契約で調達、ドイツ国内に輸入する想定だ。グリーン水素の入札手続きは、2021年中に開始し、水素製品の納入は2024年からの予定としている。

企業による取り組みも進む(注3)。例えば、水素生産・供給の分野では2021年1月、閉鎖が決定したドイツ北部ハンブルク州の石炭火力発電所の跡地でのグリーン水素生産の計画が発表された(2021年2月2日付ビジネス短信参照)。三菱重工業が、スウェーデンエネルギー大手のバッテンフォール、オランダの石油大手シェル、ドイツのハンブルク熱供給公社とともに進める。公的な補助の申請などの手続きが順調に進めば、2025年から水素生産を開始する予定だ。また、シーメンス・エナジーとシーメンス・ガメサは2021年1月、洋上風力タービンを改良して電解装置を取り付け、洋上風力発電に水素生産設備を統合する開発プロジェクトを発表した。このプロジェクトは、教育・研究省(BMBF)が助成する「H2Mare」(2021年1月21日付ビジネス短信参照)の一部でもある。2社の投資総額は5年間で1億2,000万ユーロになる。一方、交通手段の分野では、BMWがFCEVの新型のスポーツ用多目的車(SUV)「アイ・ハイドロジェン・ネクスト(iHydrogen NEXT)」を開発。2022年に小規模シリーズ生産を開始する予定だ。この車種では、トヨタと共同開発した燃料電池を備える。

気候保護対策は2022年予算の重点項目に

連邦政府は2021年6月23日に、2022年の予算案の枠組みで「気候保護緊急プログラム2022」を閣議決定した(2021年7月6日付ビジネス短信参照)。2022年から2025年にかけて、建築、交通、製造業、土地利用など、農業、エネルギー産業などの分野に総額80億ユーロ以上を拠出する予定だ。ドイツの気候保護対策は、より強力に後押しされるものと見通される。


注1:
この目標値は、改正気候保護法成立前に策定された。そのため、気候中立の達成年が2045年ではなく2050年になっている。
注2:
再エネ由来の電力を利用して水を電気分解して生成される水素。製造過程でも二酸化炭素を排出しない。
注3:
水素活用事例については、「官民で活発化する水素活用への取り組み(2021年3月18日地域・分析レポート)」も参照。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所 ディレクター
作山 直樹(さくやま なおき)
2011年、ジェトロ入構。国内事務所運営課、ジェトロ金沢、ジェトロ・ワルシャワ事務所、企画課、新産業開発課を経て現職。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所
ベアナデット・マイヤー
2017年よりジェトロ・デュッセルドルフ事務所で調査および農水事業を担当。

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