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特集:グリーン成長を巡る世界のビジネス動向「水素国家戦略予備ガイドライン」を発表(イタリア)
長距離トラック、鉄道、化学・石油精製の3分野に注力

2021年5月17日

前回のレポートでは、イタリアのエネルギー戦略の概略を取り上げた(2021年5月17日付地域・分析レポート参照)。イタリアでは、再生可能エネルギーの活用拡大やエネルギー効率の向上などを通じて、気候変動対策を推し進めるとしているが、2050年のカーボンニュートラル達成では、環境負荷が少なく、次世代のエネルギーとして期待が集まる水素の利活用も1つのカギとなる。

水素の活用拡大のための指針として、イタリアでは、2020年11月に経済開発省が「水素国家戦略予備ガイドライン」を発表した。ガイドラインは、国家の脱炭素化に向けて水素が果たし得る役割を列挙したもので、政府が2020年に発表したエネルギー戦略「エネルギーと気候に関する国家統合計画(PNIEC)」と、EUの「水素戦略PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(652.13KB)」、(2020年7月10日付ビジネス短信参照)も踏まえて内容を構成している。なお、このガイドラインはステークホルダー間の議論のために導入するもので、イタリアとしての水素国家戦略の詳細は2021年中にあらためて発表する予定だ。以下、同ガイドラインの内容を解説する。

3分野での活用拡大に重点

「水素国家戦略予備ガイドライン」では、水素は長期的かつ短期的な観点の双方で重要な役割を果たすものと明示している。短期的には、2030年までに、特に化学やモビリティー、石油精製などの分野で水素活用を価格競争力あるものにすることが期待されている。長期的には、2050年までに、特に温室効果ガスの排出削減が困難なセクター(航空部門、その他製造過程でエネルギーを多く消費する産業分野)で、他の低炭素技術とともに脱炭素化に裨益(ひえき)する存在となることを目指している。

水素の利活用拡大の具体的な方針として、本ガイドラインでは、今後10年間で、(1)交通輸送(特に長距離運搬トラックなどの重量輸送車両による輸送)、(2)鉄道、(3)産業(化学や石油精製)の3つの分野での水素活用を促進するとしている。また、これらの取り組みを通じて、2030年までに最終エネルギー需要の2%を水素で賄うこと、水素利用を通じて2030年までに最大8メガトン(二酸化炭素相当)を削減することなども数値目標として掲げている。以下、3分野での活用について紹介する。

長距離トラック

長距離トラック部門は、特に温室効果ガスの排出が多い部門で、交通輸送部門全体の排出量の5~10%を占めている。他方、トラック製造業者(OEM:Original Equipment Manufacturer)に対して新たな排出規制が設けられるなど、脱炭素に向けた取り組みが進められている。EUの新規則により、新規販売車両の排出削減は2025年に15%、2030年には30%を求められることになる。

これらの目標達成のためには、現在、重量輸送車両で一般的に利用されているディーゼル燃料からの段階的な移行が必要になるとみられ、水素をはじめとする低炭素排出の燃料への切り替えが肝要となる。なお、燃料電池トラックは総保有コスト(注)の高さが課題となっているが、航続距離の伸長やエネルギー補給の迅速さを考慮すると、今後10年間でトラック自体の価格と水素コストが下がるにつれて、ディーゼル車両と比較してコスト競争力を増すものと期待されている。

数値的な目安としては、2030年までに、国内の約20万台の長距離トラックのうち、少なくとも2%を燃料電池トラックにすることを目標としているほか、そのための技術進歩と関連インフラへの投資が今後求められるとしている。

鉄道車両

鉄道部門では、特に旅客車両の3分の1がディーゼル列車で、温室効果ガス排出の一因となっている。脱炭素に向けて、この分野でも水素利用が期待されており、今後10年間で燃料電池列車がディーゼル列車と比較してもコスト競争力を持つようになることが見込まれている。

ドイツなど欧州の幾つかの国では、既に水素を燃料とする旅客鉄道車両が運行しているが、イタリアでは、現段階で電力化されていない鉄道区間の半分を2030年までに水素列車に移行することを目標としている。幾つかの州では、ディーゼル列車が老朽化して近い将来に切り替えが必要とされているため、水素を新たに導入するには適した状況となっている。水素列車への移行にあたっては、まずはディーゼル列車と旅客数が多い州(サルデーニャ、シチリア、ピエモンテなど)、あるいは脱炭素化のためや、ローカル鉄道輸送を改善するために、水素利用に広く同意している州から始めることが検討されている。

化学産業と石油精製

水素の利活用にあたっては、特に化学産業と石油精製の分野など、大量のエネルギーを必要とするために電力での代替が難しく、温室効果ガスの排出削減が困難なセクターでも拡大が期待される。この2分野では、化学品の製造や精製プロセスで原料として水素が既に使われている。ただし、現在は製造過程で二酸化炭素を排出する「グレー水素」が主に利用されており、今後の脱炭素化に向けて低炭素水素への移行に期待がかかっている。

イタリアの場合、化学プラントや石油精製所は中・北部あるいは島しょ部に集中しているが、プラントの規模や土地の条件なども多種多様なため、低炭素水素への移行には個々の事情に合わせた対応が必要になるとしている。

参考:「水素国家戦略予備ガイドライン」で示されている主な項目

長距離トラック 現在はディーゼルトラックが一般的。2030年までに、国内の約20万台の長距離トラックのうち、少なくとも2%を燃料電池トラックに切り替えることを目指す。
鉄道 現在は旅客車両の3分の1がディーゼル車。現段階で電力化されていない鉄道区間の半分を、2030年までに水素列車に移行することを目指す。
産業 (化学・石油精製) 現在、製造過程で二酸化炭素を排出する「グレー水素」が主に用いられている。今後低炭素水素の利用への移行を目指す。

出所:経済開発省「水素国家戦略予備ガイドライン」を基にジェトロ作成

徐々に進む水素の利活用、今後の動きに注目

水素の実際の活用に当たっては、依然としてコストや技術の面で克服すべき課題はあるものの、具体的な取り組みは徐々に進んでいる。2020年11月、鉄道交通を運営するFMNとトレノルドは水素列車のプロジェクトに共同で取り組むことを発表した。フランスのアルストムが製造する水素列車を購入し、既存のディーゼル車を代替する。納入は2023年までに行われると予定しており、ロンバルディア州ブレーシャ県内のブレーシャ・イセオ・エドロ間を走行する。投資額は1億6,000万ユーロを超える見込みだ。

次世代エネルギーとして期待が高い水素の、イタリアでの具体的な活用に引き続き注目が集まる。


注:
購入時の支出のみでなく、維持・メンテナンス費などを含む総費用のこと。
執筆者紹介
ジェトロ・ミラノ事務所
山崎 杏奈(やまざき あんな)
2016年、ジェトロ入構。ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課・途上国ビジネス開発課、ジェトロ金沢を経て、2019年7月より現職。

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