特集:グリーン成長を巡る世界のビジネス動向広東省、燃料電池自動車モデル都市群の建設を加速(中国)

2022年2月7日

広東省は、中国の財政部、工業情報化部、科学技術部、国家発展改革委員会、国家エネルギー局の連名により2021年8月13日付で公布された「燃料電池自動車モデル応用事業に関する通知」において、北京市、上海市とともに、燃料電池自動車モデル都市群(以下、「都市群」)に選定された。「都市群」への選定を受け、広東省および各市では、水素産業のレベルアップに向けた取り組みを加速化している。

深セン市、仏山市、広州市が牽引役に、地域を超えた連携も志向

同通知によれば、「都市群」対象都市のモデル事業実施期間は4年間。専門家委員会および第三者機関が「都市群」形成に向けた活動の進捗について指導するとともに、取り組みを評価。評価結果を、中央政府の奨励金の支給などに反映する。

「都市群」への選定決定を受け、広東省発展改革委員会は9月2日、省内の複数の都市に加え、福建省福州市、山東省淄博市、内モンゴル自治区包頭市、安徽省六安市など他地域の都市と連合で、「都市群」を形成するとホームページ上で発表(2021年9月7日付ビジネス短信参照)。各都市の役割分担については、以下の方針を示した。

  1. 広東省深セン市、仏山市、広州市、山東省淄博市、安徽省六安市、内モンゴル自治区包頭市:燃料電池の技術と産業イノベーションに関する強みを有する地域として、「都市群」を牽引。
  2. 広東省東莞市、中山市、雲浮市など:コア材料や技術・設備の研究開発製造基地として1.と連携。
  3. 広東省珠海市、陽江市、福建省福州市、内モンゴル包頭市など:水素供給基地として水素資源の応用に向けたモデル事業を推進。

2021年12月8日に仏山市で開催された「2021年UNDP(国連開発計画)水素産業会議」の開幕式では、孫志洋広東省副省長らの立ち会いのもと、同省の「都市群」の発足式典が行われた。

直近の関連政策と主要指標

広東省は「都市群」における関連事業の推進に向け、具体的な政策の策定を急いでいる。同省発展改革委員会は2021年11月30日、「広東省燃料電池自動車モデル都市群の建設を加速する行動計画(2021~2025年)」の意見募集稿を発表。4年間の「都市群」でのモデル事業実施期間終了時の数値目標案として、広東省の燃料電池自動車の普及台数を1万台以上、年間水素供給量を10万トン超、水素ステーション建設数を約200基、水素燃料の最終小売価格(1キログラム当たり)の30元(約540円、1元=約18円)以下への引き下げなどを提示した。また、コア部品の研究開発に携わる企業への奨励金や、水素ステーションの建設への補助金の支給案なども盛り込んでいる(「第一財経」2021年11月30日、「南方日報」2021年12月24日)。

深セン市:関連技術の基盤とイノベーション力で全体を牽引

足元では、各市レベルでも政策の整備や企業との連携が進められるなど、「都市群」の形成に向けた関連の動きが活発だ。上述のとおり、燃料電池の技術と産業イノベーションに強みを有し、「都市群」を牽引する役割を担う省内の都市は、深セン市、仏山市、広州市とされている。

なかでも筆頭に掲げられた深セン市では、同市発展改革委員会が2021年12月13日、「深セン市水素エネルギー産業発展計画(2021~2025年)(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(以下、「深セン市計画」)を発表した。「深セン市計画」では、同市における水素エネルギー産業の現状(強み)を以下のとおり分析している。

  • 水素エネルギー分野におけるコア技術を一定程度、獲得しており、一部の技術は世界の先進的なレベルに達している。
  • 市内には約70社のイノベーション企業や科学研究機関が水素エネルギー技術の研究開発や製品開発に携わるなど、産業チェーンが徐々に形成されつつある。
  • 新素材や新エネルギー自動車等のイノベーションについて、同市の優位性が突出しているほか、新技術の応用、応用モデルの展開、普及面で豊富な経験を有する。

「深セン市計画」では、上述の産業基盤を強みとして生かしながら、同市の水素産業の規模を2025年には500億元へと引き上げることを目標に掲げた(同目標を達成するための具体的施策と指標は、2021年12月28日付ビジネス短信参照)。

仏山市:区レベルの取り組みが特徴

仏山市では、自動車関連産業が集積する南海区で取り組みが先行している(2019年10月18日付地域・分析レポート参照)。同区政府は2020年2月には「仏山市南海区水素エネルギー産業発展計画(2020~2035年)(中国語)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(418.45KB)」(以下、「南海区計画」)を発表。「南海区計画」では、2035年までの長期計画として3つの発展段階を設定。2020~2025年を「商業化イノベーション模索段階」、2026~2030年を「商業化普及段階」、2031~2035年を「商業化応用段階」と位置づけ、区内の水素エネルギー産業の総生産額を2025年に300億元、2030年に1,000億元、2035年には1,500億元へと引き上げる目標を掲げている。このほか、水素エネルギー自動車の生産・保有台数、燃料電池スタックの耐用寿命、水素ステーションの設置数などの具体的な数値目標を各段階で設定している。

さらに、南海区政府は2022年1月11日、中国の電力大手の国家電投集団の水素エネルギー関連子会社である水素エネルギー科技発展(本社:北京市)との間で、水素エネルギー産業基地プロジェクト協力合意書を締結した。合意書に基づき、同社は、南海区内に燃料電池の材料である膜材料やカーボンペーパーを製造する水素産業基地を建設するとしている。

広州市:都市の運営インフラへの燃料電池車の導入を加速

広州市政府は2020年7月、「広州市水素産業発展計画(2019-2030年)」(以下、「広州市計画」)を発表した。「広州市計画」でも発展段階を3つに区切り、水素産業の規模を2022年に200億元、2025年に600億元、2030年には2,000億元にするとの目標を掲げている。2022年は第1段階の目標最終年にあたり、同年末までに、新規に購入する(買い替えを含む)都市清掃車に占める燃料電池自動車の割合を10%以上、バス、物流、倉庫、港湾など施設での燃料電池自動車のモデル運行を3,000台以上、燃料電池乗用車の公用車、タクシーなどへの実用化を100台程度とすることを目指している。

第2段階の終了年である2025年は、先述の「都市群」の実施終了年にあたる。広州市は同年末までに、市内の水素エネルギーおよび燃料電池関連企業を100社超、うち年間売上高が50億元を突破する企業を1~2社育成。バスや都市清掃車における燃料電池自動車が占める割合を30%以上。燃料電池乗用車の商業化普及台数を1,000台規模とする、ことなどを目標としている。

直近では、広州市都市管理総合執法局が2021年12月17日、「水素ステーション管理暫行弁法(意見募集稿)(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を発表(同月26日、意見募集終了)。水素ステーションの建設を加速するとともに、運営管理の規範化に向けた方針を示した。

このように、「都市群」の牽引役となる3市の取り組み方針は「三者三様」だ。各都市が、「右へ倣え」ではなく、産業の賦存状況、他地域との間での比較優位性などを踏まえた特色ある取り組みを最後まで実行していくことができるかが、モデル事業の行方、成果を占ううえでもカギを握るとみられる。

執筆者紹介
ジェトロ・広州事務所
盧 真(ロ シン)
2004年、ジェトロ・広州事務所入所。これまでに総務関係、日本企業の中国進出支援、調査、対日投資、イノベーション促進、経済分析などを担当。

この特集の記事

世界

アジア大洋州

北東アジア

米州

欧州ロシア

※欧州(EU)については、次のビジネス短信特集や調査レポートを参照してください。

中東アフリカ