第2次トランプ政権下の新潮流を読み解くトランプ関税後の日本企業による対米投資動向

2026年1月19日

世界最大の市場であり、日本の同盟国である米国は、日本企業の投資先として重要な位置を占める。トランプ政権発足以降も、日本企業による対米投資は、マクロ指標上、堅調に映る。一方で、政策運営を巡る不確実性が広がる中、足元では対米投資の判断に慎重になるとの声が聞かれる。こうした状況下、日本企業の対米投資はどのような実態となっているのか。2025年前半までの日本企業の対米投資動向を分析するとともに、今後を見通す。

伸びる対米投資残高、日本が引き続き最大の投資国

米国の2024年末の対内投資残高は、最終的な実質所有者(UBO)ベースで、前年比6.2%増の5兆7,077億ドルだった(図1参照)。産業別では製造業への投資残高が2兆4,161億ドルで、全体に占める割合は42.3%と最大だった。

図1:米国の対内直接投資残高推移(UBOベース)
米国の2024年末の対内投資  残高は、最終的な実質所有者(UBO)ベースで、前年比6.2%増の5兆7,077億ドル。国別では日本が最大で、2024年は前年比3.3%増の8,192億ドルとなり、2019 年から6年連続で国別首位。その後、カナダの8,117億ドル(前年比8.9%増)、ドイツの6,773億ドル(同3.2%増)、英国の6,673億ドル(同5.1%増)、アイルランドの3,897億ドル(同10.7%増)が続く。

注:投資主体を最終的に所有またはコントロールしている事業体である最終的な実質所有者(UBO:Ultimate Beneficial Owner)が所在する国を基準とした集計値。
出所:米商務省経済分析局統計(BEA)から作成

投資元国別では日本が最大で、2024年は前年比3.3%増の8,192億ドルとなり、2019年から6年連続で国別首位を維持した。その後に、カナダの8,117億ドル(8.9%増)、ドイツの6,773億ドル(3.2%増)が続いた。日本からの投資の内訳では、製造業が対米直接投資残高の約半分(47.1%)を占めた(表1参照)。2025年6月には、日本製鉄による総額142億ドル規模のUSスチール買収が実行されたため(注1)、日本の2025年末の対米投資残高はさらに拡大すると予想される。

表1:日本の対米投資残高(業種別)(単位:100万ドル)(△はマイナス値、ーは値なし)
業種 2024年 構成比(%) 前年比(%) 前年差
製造業 386,006 47.1 0.5 1,767
階層レベル2の項目食品 7,305 0.9 14.6 933
階層レベル2の項目化学 154,614 18.9 △4.0 △6390
階層レベル2の項目金属 12,090 1.5 △2.3 △290
階層レベル2の項目一般機械 25,855 3.2 12.1 2,790
階層レベル2の項目コンピューター・電子製品 45,269 5.5 3.6 1,555
階層レベル2の項目電気機械・部品 6,474 0.8 19.1 1,037
階層レベル2の項目輸送機械 76,486 9.3 0.6 493
階層レベル2の項目その他製造業 57,914 7.1 2.9 1,641
卸売業 150,161 18.3 4.3 6,210
小売業
情報産業 18,146 2.2 6.2 1,055
預金取扱機関 14,948 1.8 4.6 655
金融(預金取扱機関を除く)・保険 126,448 15.4 1.6 2,010
不動産・リース 32,684 4.0 11.4 3,355
専門サービス 11,893 1.5 7.5 825
その他産業
合計 819,210 100 3.3 25,833

注:表中の「-」は個別企業のデータ保護のため非公表。UBOベース。
出所:BEAから作成

トランプ政権発足後も堅調にみえる対米グリーンフィールド投資

2期目のトランプ政権が発足したことにより、米国の投資環境は大きく変わった。だが、グリーンフィールド投資の件数に限れば、少なくとも2025年前半(1~8月)において、日本企業による対米投資動向に大きな変化はみられなかった。フィナンシャル・タイムズ(FT)が提供するfDi Marketsによると、2025年1~8月までの日本企業による対米グリーンフィールド投資件数は136件だった。このうち、不動産投資が56件と最多で、積水ハウスによる投資が50件を占めた。2024年も同様の傾向で、174件のグリーンフィールド投資のうち不動産投資が50件と最多で、そのうち積水ハウスによる投資が34件だった。同社は、2025年までに海外市場で1 万戸の戸建て住宅供給を目標に掲げており、投資件数の増加はトランプ政権発足以前からの同社の海外戦略にのっとったものと考えられる。従って、仮に不動産に関する対米投資件数が、2021~2023年の平均値と同じだったと仮定すると2025年前半の日本企業によるグリーンフィールド投資件数は例年並みと評価できる(注2)。なお、不動産以外の業種でみても、産業機器への投資が最多であることや、化学、自動車部品、電気部品などで投資件数が多いことは例年どおりだった(表2参照)。

表2:日本企業による対米グリーンフィールド投資件数(単位:件)
項目 2021年 2022年 2023年 2024年 2025年
(1~8月)
不動産 3 3 15 50 56
産業機器 15 13 19 22 11
再生可能エネルギー 1 1 8 8 8
化学 5 6 5 9 7
自動車部品 6 6 12 10 6
電気部品 5 5 5 14 6
自動車 4 0 1 1 5
通信 4 3 2 2 5
バイオテクノロジー 6 7 4 4 4
ビジネスサービス 7 2 4 5 4
半導体 0 1 4 4 4
医療機器 2 1 1 5 3
ソフトウェア・ITサービス 8 7 5 3 3
4 4 1 4 2
医薬 2 0 6 6 2
プラスチック 2 3 7 2 2
食品・飲料 5 5 5 11 1
ヘルスケア 10 2 0 0 1
物流・倉庫 0 7 5 4 1
合計 103 106 127 175 136

注:2025年のみ1~8月までの合計。それ以外は1年間の合計。継続的に投資件数が把握できる主要な産業のみを抜粋。従って、表上の「合計」は各項目の合計値とは一致しない。
出所:fDi Marketsからり作成

足元では、不確実性を嫌い対米投資をためらう声

一方で、堅調にみえるマクロ指標とは裏腹に、足元では、日本企業から対米投資に対して慎重な声が聞かれる。通商政策や人工知能(AI)開発に関する規制、環境規制などにおいてバイデン前政権から方針転換があったほか、特に追加関税措置はその内容がたびたび変更され、ビジネス環境の先行きに不確実性が増し、長期的な見通しがたたないためだ(表3参照)。例えば、ドナルド・トランプ大統領が2025年4月に発表した、原則として全世界からの全ての品目に対して追加関税を課す相互関税は(注3)、履行されてからわずか1日で適用が一時停止された。一時停止の間、各国・地域と個別に交渉をして関税率は決められ、8月になって適用が再開された。ただし、相互関税率を巡る米国と各国・地域との交渉は適用再開を決めた後も続いた。日本に対する関税率は9月になってようやく、一般関税率(MFN税率)が15%未満の場合は一般関税率と相互関税を合計して15%、一般関税率が15%以上の場合は相互関税を課さないことで確定した。追加関税によるコストそのものよりも不確実性を嫌う大手の在米日系企業からは、「日本に対する関税率が原則15%と決まったのであれば、このままでいてほしいという思いがある。ここでひっくり返れば、また不確実性が高まってしまう」との声さえ聞かれる(注4)。なお、ベトナムやタイのように枠組み合意には至ったものの、現在も最終合意を目指して交渉が続けられている国もあり、米国が定める相互関税はまだ最終確定していない。

表3:トランプ政権(2期目)発足以降の主要な政治経済関連イベント
日付 内容
1/20 トランプ政権発足。「米国第一の優先事項」発表
1/27 政権、連邦支出の一時凍結指示。「政府効率化省(DOGE)」による補助金凍結・削減進む
2/4 国際緊急経済権限法(IEEPA)を基にした追加関税措置を発表(対中・メキシコ・カナダ)。
4/3 自動車への232条追加関税賦課。部品は5/3から
4/5 相互関税発表。これを受け、株価は一時暴落
4/10 対中相互関税が125%に
4/29 就任100日までに6.5万人超を強制送還
5/13 バイデン前政権のAI向け半導体の輸出管理を強化する「AI拡散規則(AI Diffusion Rule)」を撤回
5/14 対中相互関税引き下げ
5/28 DOGEを率いたマスク氏退任
7/4 「大きく美しい1つの法案(OBBBA)」成立。個人向け減税拡充、法人向け減税の恒久化などが柱。EV向け税額控除廃止を決定
7/23 関税措置に関する日米合意
7/23 AIに対する過度な規制の見直しなどの方針を定めた「AI行動計画」を発表
8/3 相互関税発表後の雇用の急減を示す雇用統計発表。労働統計局長を解任
8/7 相互関税適用再開
9/16 日米合意に基づく日本に対する相互関税率の適用開始
9/19 H1Bビザの申請に10万ドルを課す大統領令
10/1 政府閉鎖開始
10/21 AI輸出プログラムを開始
10/28 日米首脳会談
10/30 米中首脳会談。関税率の引き下げ、輸出管理措置や入港手数料の1年間の停止などで合意
11/4 地方選挙(バージニア・ニュージャージー州知事、ニューヨーク市長)で民主党躍進
11/5 IEEPA関税を巡る最高裁の口頭弁論
11/12 政府閉鎖解除(史上最長となる43日間)
12/3 米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)見直しに向けた公聴会開催
12/16 USMCA見直しに向けた議会報告

出所:政府発表資料などを基に作成

相互関税だけでなく、1962年通商拡大法232条に基づく追加関税措置も不確実性を高めている。232条に基づく鉄鋼・アルミニウム、自動車・同部品への追加関税措置では、対象品目が定期的に拡大するプロセスが創設された。同プロセスに基づき、2025年8月に発表された鉄鋼・アルミニウムへの232条関税の対象品目には、医薬品のアルミ包装紙など400品目超が「派生品」として追加され、その影響は広範な企業に及んだ。さらにトランプ政権は12の分野で232条調査を行っている。これまでに完了した案件は4件にとどまり、いずれも追加関税を課す結果となっている。従って、残りの分野にも追加関税が課される可能性がある。232条による追加関税は相互関税に優先して課されるため、日本のように相互関税が原則15%と相対的に低く設定されている場合、新たな232条関税が発動されることで(注5)、その優位性は狭まることになる(表4参照)。

表4:トランプ政権2期目で発動された232条調査一覧
対象産業 調査開始日 調査終了期限 調査終了日 主な対象品目および調査結果
3月10日 2025年12月 6月30日 銅鉱石、銅精鉱、精製銅、銅合金、スクラップ銅、派生製品
⇒8月1日より、銅の半製品などに50%の追加関税(銅含有量にのみ課税)
木材 3月10日 2025年12月 7月1日 木材、製材品、派生品
⇒10月14日より、木材に10%、ソファなどに25%(2027年1月から30%)、キッチンキャビネに25%(2027年1月から50%)の追加関税
半導体 4月1日 2026年1月 12月22日 サブストレート、加工前のウエハー、レガシー半導体、先端半導体、半導体製造装置の部材
医薬品 4月1日 2026年1月 ジェネリック医薬品。非ジェネリック医薬品、医薬成分
重要鉱物 4月22日 2026年1月 アルミ、コバルト、黒鉛、リチウム、マンガン、タングステン、重要鉱物を原材料として含む派生品
中・大型トラック 4月22日 2026年1月 9月末 中・大型トラック、エンジン・エンジン部品、トランスミッション・パワートレイン部品
⇒11月1日より、トラック・部品に25%、バスに10%の追加関税。USMCAによる緩和措置、部品の関税相殺制度あり。
民間航空機 5月1日 2026年2月 民間航空機・ジェットエンジンおよびそれら部品
ポリシリコン 7月1日 2026年4月 ポリシリコン・同派生品
無人航空機 7月1日 2026年4月 無人航空機(UAV)・同部品
風力タービン 8月13日 2026年5月 風力タービン・同部品
ロボット・産業機械 9月2日 2026年6月 マシニングセンタ、旋盤・フライス盤、産業用プレス機械など
医療用消耗品・医療機器 9月2日 2026年6月 外科用マスク、注射器、車椅子、ペースメーカーなど

注:「-」は、まだ調査が終了していないことを指す。トラックの具体的な調査終了日は明らかにされていない。調査終了期限は、政府閉鎖により延長される可能性がある。2025年10月から11月までの政府閉鎖の影響により、調査終了期限は延長される可能性がある。 
出所:米政府発表資料などから作成

さらに、こうした不確実性は関税に限らない。米中関係では、2025年10月30日に行われた首脳会談により、輸出管理規則(EAR)上の「関連事業体ルール」(注6)や中国船などの入港に対する手数料徴収の1年間の停止(注7)などで合意した。それぞれ2025年9月29日、10月14日から施行された措置のため、わずか1カ月程度で停止された。なお、首脳会談での合意内容の認識に両国間で隔たりがある上、米国の中国に対する希土類(レアアース)依存は解消されていないため、米中関係は1年間の「休戦状態」を待たず、再び緊張が高まると予測されている(注8)。そのほか、エネルギー政策や環境政策において、トランプ政権は前政権と真逆の政策方針をとっている。バイデン前政権下の2022年8月に成立したインフレ削減法(IRA)によって定められた、電気自動車(EV)などに対する税額控除は、トランプ政権下の2025年7月に成立した「大きく美しい1つの法案(OBBBA)」によって撤廃された。さらに将来を見据えれば、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の見直しが控えており、見直しの内容次第では北米のビジネス環境は大きく変わり得る(注9)。このようにトランプ政権下では、予見可能性の低い状態が継続しており、生産拠点の新設など、投資の決定から稼働までに3~4年はかかる大きな投資判断はできないとの声が複数聞かれている(表5参照)。

表5:トランプ政権の関税措置を受けた在米日系企業のサプライチェーン移管に対するコメント
方針 企業のコメント
米国内への生産移管は困難
  • 生産移管する場合には投資が必要になる。一時的な関税措置に対し、投資リターンを得ることは困難
  • 米国に生産拠点を移管することも考えていない。生産拠点を米国に作るような場合には、投資規模が大きく時間もかかり、トランプ政権だけを見て動くわけにはいかない
  • 米国生産をさらに増やすのは難しい。構成部品の多くは海外のサプライチェーンに依存することになる。サプライチェーンの組み替えは1~2年ではできない
  • 生産移管は米国内100%は無理。労務コストの高さで利益が出ない。行ったとしても、東南アジアの工場の拡張がメインになる
  • サプライチェーンの移管は非現実的。多少の調整はできるだろうが、大きな変更はできない
  • サプライチェーンを変更するためには、いろんな品質面の確認も含めて簡単に切り替えられない世界なので、慎重に判断する必要
米国内での生産拡大
  • ライン効率をいかに高め、米国内での生産台数を上げていくか、勤務体系の効率化、機種の入れ替え(モデルの組み替え)を含め検証を始めている
  • 米国内での生産を検討している。現在起きている関税問題以前から検討していたが、そのスピードを加速する予定
調達先の変更 技術認証が厳しいので、即座には調達先を切り替えられない

注:2025年4~11月にかけて実施。
出所:企業ヒアリングから作成

政策動向よりも需要を重視した追加投資が中心に

一方で、日本企業にとって悩ましいのが、米国の市場規模が世界最大であることだ。不確実性が続く中においても、日本企業の海外戦略にとって米国市場が重要であることに変わりはない。在米の自動車関係企業は、「米国が関税を高くし、中国車を排除するような強い規制を敷いていくと、将来的に米国市場がガラパゴス化していく可能性がある」としつつも、「それでも、1,500万台以上のガラパゴス化した市場となる。日本の450万台などと比べてはるかに大きく、依然として北米市場は重要」と指摘する(注10)。別の自動車関係企業も、 「米国市場は欠かせない。高価格帯の自動車が売れる市場」と述べる(注11)。また、在米の大手日系メーカーは、「企業としては今の関税率を前提に事業計画を立てるだけ。今の関税率でも、米国市場は重要。これほど大きな市場は他にはない」と述べる(注12)。実際に、ジェトロが毎年行っている「海外進出日系企業実態調査(米国)」において、2025年に「今後1~2年に事業を拡大する」と回答した割合は約半数の48.3%で(注13)、トランプ政権発足以前と大きな違いはない(図2参照)。

図2:在米日系企業の今後1~2年の事業展開の方向性
2025年は拡大すると回答した企業が48.3%。現状維持が47.1%。縮小が3.7%。拡大すると回答した機は、2024年に48.6%、2023年に49.9%、2022年に48.7%、2021年に48.1%。

出所:ジェトロ「2025年度 海外進出日系企業実態調査(北米編)」から作成

では、不確実性が高まりながらも重要な市場であり続ける米国市場向けの投資について、日本企業はどのように捉えているのか。在米の大手商社は、2018年から続く米中対立などを引き合いに出しつつ、「これまでの教訓から、あまりに政治に左右されるような領域でのビジネスは避けてきた」と述べる(注14)。自動車関係企業は、「規制は政権によって変わるので、政策動向や政権よりも需要を重視した判断をせざるを得ない」と指摘する(注15)。トランプ政権下において、米国内での生産能力を拡大する方向にあるとする在米大手メーカーは、その理由を「関税の影響とは関係なく、米国市場の需要の強さが背景にある」と説明する(注16)。政策動向に比較的左右されづらく、現在需要が旺盛な分野には、例えばAIブームを背景にしたデータセンターの建設が挙げられる。これに関連して、データセンターの電力需要を賄うガスタービンなどの需要が高まっている。

また投資の形態については、「政策変更のリスクが大きいことに加え、米国は高コスト体質であることから、現状で巨大な新規投資をする企業はほぼいないのではないか。自社が検討しているのは、これまでの米国への多額の投資を背景とした追加投資となっている」(注17)との指摘がある。トランプ政権の発足以降、日系企業による象徴的な投資発表を見ると、データセンターなどを除き、追加投資が多くみられる。従って、トランプ政権下ではしばらくの間、回収までに年数がかかる工場新設のような新規投資ではなく、既存施設に対する追加投資、拡張投資などが中心になると見込まれる。また、米国の製造業が慢性的な人材不足に陥っていることも、追加投資が中心となる要因になり得る。工場を新設し採用をゼロから行わなければならない新規投資と比べ、既に基盤がある工場の拡張の方が一般的に人材確保のハードルは低いと考えられるためだ(注18)。ジェトロの2025年の「海外進出日系企業実態調査(米国)」の結果では、直近2年間で人材確保の状況が悪化したと回答した割合は3割近く(27.0%)に上り、改善したと回答した割合(10.7%)を大きく上回った。状況悪化の理由には、「賃金・待遇面などの要求水準の高まり」が職種を問わず挙げられた。また、2024年の同調査において、工場作業員の人材不足が「深刻」と回答した割合は75%を超えるほか(注19)、同調査で示される在米日系企業の「経営上の課題」では、毎年、人材に関する課題が上位に挙がっている(注20)

トランプ政権下の日本企業による対米投資の現状と見通し

以上より、トランプ政権下の日本企業による対米投資の現状と見通しは、次のとおりまとめられる。(1)日本企業による対米投資は、マクロ指標上、少なくともトランプ政権が発足した2025年の1年間は堅調に映る。(2)ただし、関税をはじめとする不確実性の高まりにより、足元では対米投資に慎重な声が多い。(3)それでも、日本企業の海外戦略にとって、世界最大の単一市場としての米国の重要性は変わらない。(4)従って、しばらくは政策変更リスクを踏まえつつ、需要に重きを置いた判断の下、追加・拡張投資が中心になる。(5)対米投資にあたっては、政策変更の不確実性のほか、人材不足、人件費の高騰が引き続きハードルとなっている。

なお、米国のビジネス環境に不確実性をもたらしている関税措置は、トランプ政権が終了する2029年以降も継続され、米国が従来のWTOを基軸とした自由貿易体制には戻らない、との見通しは根強い。次期政権がトランプ政権に見る予測不可能な関税措置を発表する可能性は高くないが、共和党、民主党どちらが政権を担うとしても、いわゆる経済安全保障上の重要品目や、米国が指定する懸念国や非市場経済国に対する高関税は続くとみられる(注21)。企業はこうしたビジネス環境が向こう10年程度は変わらない前提で、対米投資戦略を検討することが重要だ。


注1:
同社プレスリリース(2025年6月18日)。 本文に戻る
注2:
2024年および2025年の不動産に関する対米投資件数が、2021~2023年の平均値である7件だったと仮定すると、2025年の投資件数は8月までに85件、2024年は88件となる。2023年を8月までの値に換算すると85件となるため、2025年前半の日本企業によるグリーンフィールド投資件数は例年並みと評価できる。なお、fDi Markets によれば、2023年に積水ハウスによる投資は確認されていない 本文に戻る
注3:
一部例外品目も設定されている。トランプ大統領は、相互関税を発表した直後の4月、スマートフォンや半導体などを相互関税の対象外品目に指定した。9月には特定の水酸化アルミニウムや樹脂、シリコン製品を対象外品目から削除した一方、地金関連製品や1962年通商拡大法232条に基づく調査対象となっている特定の重要鉱物と医薬品を対象外品目に指定した。その後11月になり、特定の農産品を対象外品目に指定した。2025年11月26日付ビジネス短信「変遷する米相互関税の対象品目、関税分類番号の見直しも対策の1つに」参照。 本文に戻る
注4:
ジェトロによるインタビュー(2025年9月15日)。 本文に戻る
注5:
その多くは2026年1月に調査期限を迎えるため、関係する品目を輸入している企業は、これら結果に留意しておく必要がある。なお、政府閉鎖の影響により、期限が延長される可能性がある。 本文に戻る
注6:
エンティティー・リスト(EL)や軍事エンドユーザーリスト(MEUリスト)に掲載されている事業体だけでなく、これらリストに掲載されている事業体が50%以上所有する事業体に対してEAR対象品目を輸出・再輸出・みなし輸出などする際に、商務省産業安全保障局(BIS)から輸出許可(ライセンス)が必要になるルール(2025年10月3日付ビジネス短信「米商務省、輸出管理強化の「関連事業体ルール」のFAQ公表、輸出者に積極確認義務」参照)。 本文に戻る
注7:
米国は1974年通商法301条に基づき、中国企業が所有・運航する船舶、中国で建造された船舶、米国外で建造された自動車運搬船などに対して、入港手数料を課していた(2025年10月14日付ビジネス短信「米USTR、自動車運搬船の入港料金算定基準を大幅引き上げ、10月14日から徴収開始」参照。 本文に戻る
注8:
詳しくは、2025年12月9日付地域・分析レポート「トランプ政権の対中政策-緊張と緩和が繰り返される米中関係-」参照。 本文に戻る
注9:
USMCA見直しの見通しについては、2025年10月17日付ビジネス短信「2026年7月のUSMCA見直し、北米3カ国の合意は難しいとの見方も」参照。 本文に戻る
注10:
ジェトロによるインタビュー(2025年7月22日)。 本文に戻る
注11:
ジェトロによるインタビュー(2025年12月8日)。 本文に戻る
注12:
ジェトロによるインタビュー(2025年7月24日)。 本文に戻る
注13:
2025年9月4~25日に在米日系企業に対して実施。有効回答率 34.8% 、回答企業数652社。調査レポート「2025年度 海外進出日系企業実態調査(北米編)」(2025年11月)参照。 本文に戻る
注14:
ジェトロによるインタビュー(2025年11月13日)。 本文に戻る
注15:
ジェトロによるインタビュー(2025年12月8日)。 本文に戻る
注16:
ジェトロによるインタビュー(2025年7月22日)。 本文に戻る
注17:
ジェトロによるインタビュー(2025年12月8日)。 本文に戻る
注18:
一般的に、工場新設の場合、雇用者側は採用プロセスが整っていないことがあり、雇用までに時間がかかる傾向がある。また応募者側は、企業に関する情報が十分でない場合があり、応募に躊躇(ちゅうちょ)するケースがある。 本文に戻る
注19:
2024年9月3~24日に在米日系企業に対して実施。有効回答率 42.1%、回答企業数 694社。調査レポート「2024年度 海外進出日系企業実態調査(北米編)」(2024年12月)参照。 本文に戻る
注20:
2025年1月15日付地域・分析レポート「外交手段としての関税政策、トランプ関税の日本への影響」参照。 本文に戻る
注21:
詳しくは、2025年9月10日付地域・分析レポート「米国が挑む新たな国際通商システム(1)高関税で守る経済覇権、(2)最恵国待遇のない世界)」参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所 調査担当ディレクター
赤平 大寿(あかひら ひろひさ)
2009年、ジェトロ入構。海外調査部国際経済課、海外調査部米州課、企画部海外地域戦略班(北米・大洋州)、調査部米州課課長代理などを経て2023年12月から現職。その間、ワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)の日本部客員研究員(2015~2017年)。政策研究修士。