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特集:グリーン成長を巡る世界のビジネス動向グリーン成長分野でも、スタートアップはボーン・グローバル(イスラエル)

2021年5月27日

温室効果ガス排出削減に向けたイスラエル政府とスタートアップ企業の動きを追う当記事。前編では、政府の施策とその現状・課題について概観した。一方、スタートアップが盛んなイスラエルでは、太陽光発電や電気自動車(EV)の分野などでグローバル展開が進む例も見られる。後編では、その動きを追う。

太陽エネルギーの有効活用に向けてソリューション

ハイテク先進国のイメージが強いイスラエル。その担い手の企業は、ほとんどがスタートアップだ。スタートアップは、国内に合計約6,000社あると言われ、データベース(DB)に登録されている。大半が創業後数年以内で、人員の規模も数人から数十人程度だ。しかし、小さな国内市場にとどまらず、創業時から北米や欧州、アジア太平洋など規模の大きいグローバル市場を目指す「ボーン・グローバル」な傾向が強い。グリーン成長分野もその例外ではない。

DBで「Solar Energy」というキーワードを入力し検索すると、98社がヒットする。ただし、このうち休業中または廃業済みの企業が25社含まれる。このことから、浮き沈みが激しいことも垣間見える。

イスラエルのスタートアップの特徴の1つは、急速な成長と拡大だ。例えば、ソーラーエッジは2006年に創業し、太陽光発電装置を開発。10年足らずで世界規模で市場展開し、2015年に米国ナスダックに上場した。エアタッチソーラーは、発電パネル表面を無水で自動清掃する技術を開発。2016年の創業からわずか5年の2021年、テルアビブ証券取引所に上場した。

エルサレムに本拠を置き、太陽熱発電装置を開発するのがブライトソースだ。同社は、米国ゼネラル・エレクトリック(GE)とパートナーシップを締結した。イスラエル南部のネゲブ砂漠アシャリム地区で政府が主導する発電所計画の一部にも、参画している。この計画で同社が関わるのは、太陽光の反射熱を利用した発電装置だ。この装置では、砂漠の平地に太陽光を反射するパネルが円周状に敷き詰められる。その中央にパネルが反射した光を集める機能がついたボイラー付きのタワーを建設。タワーは、高さ約250メートルに及ぶ。光熱でボイラー内の水を沸騰させ、タービンを回し発電する仕組みだ。この仕組みで、121メガワットの供給能力を生み出す。敷き詰められた5万枚を超えるパネルはすべてコンピュータ制御され、太陽の軌道を追跡して駆動する。そのため、常に最適な角度で太陽光を反射しタワー上のボイラーに集光することができる。2004年の創業から2013年7月のラウンドFまでに、合計5億8,700万ドルの資金を調達した。すでに北米、中国、欧州などの主要市場に進出済みで、国内での取り組みは事業の一部という位置付けだ。

ソーラーバッテリーとチップを組み合わせたユニークなソリューションを開発するのが、北部の中心都市ハイファを拠点とするソルチップだ。2009年に創業した同社はラウンドBで総額750万ドルを調達。内蔵されたソーラーバッテリーで自動的かつ安価に電源を確保し、屋外などのハードな環境においても超長期にわたってメンテナンス不要なIoT(モノのインターネット)デバイスを機能させることができるチップを開発した。広大な農場など、頻繁なメンテナンスにコストがかかる環境下で、作物の生育モニタリングデバイスなどへの使用が期待されている。

EV普及のカギを握る技術開発例も

電気自動車(EV)の分野で活躍するスタートアップもみられる。EVの普及に伴い、しばしば指摘される課題の1つが、全体的な電力の供給能力強化だ。加えて長い充電時間、不足する充電ステーション、依然として高価な車体価格などが、解決すべき問題点として挙げられる。

こうした中で、わずか数分間という短時間で充電可能な充電池を開発したのが、テルアビブ北方の近郊都市ヘルツェリヤに本拠を置くストアドットだ。従来の電池に使用されていたリチウムの代わりに有機化合物を含む同社独自仕様の素材を使用することで、安全かつ短時間での充電を実現した。この有機化合物は、充電時に金属化しにくい特性がある。充電器内部の電気ショートのリスクを避けることができるため、充電器の寿命を延ばすことにも貢献するという。ストアドットは2012年の創業以来、ラウンドCで合計1億3,000万ドルを調達。オイルメジャーの英国BPやドイツ・ダイムラー、韓国サムスン電子、日本のTDKなどの大企業や、コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)が出資者に名を連ねる。

テルアビブ近郊、ホッド・ハシャロンに立地するドライブズは、2012年に創業。充電ステーションの運営やEVユーザー向けのサービスを最適化するソリューションを提案する。同社が提供するソフトウェアは、クラウドベースだ。そのソフトウェアを通じて、充電ステーションを運営する事業者(オランダのEVネットNLなど)は、オペレーションやエネルギー効率マネジメントや決済機能など得ることができる。同時に、ユーザーのドライバーにも、セルフサービスで使える機能を提供する。英国大手ガス・電力会社セントリカは、1万4,000台あまりの社用車をEV化した際、ドライブズのソリューションを活用した。各車両が都度必要とする最適な充電可能なステーションの位置情報が提供されるとともに、車両の運行スケジュールや充電状況に鑑みてどの車両の充電を最優先すべきかなどの助言が提供される。一方で、充電を急がない車両は、従業員が帰宅した際に自宅で充電させ、その経費は自動で精算できる。その処理も、クラウドベースで進められるのだ。これによってセントリカは、限られた充電ステーションを最大限に有効活用し、充電待ち時間を最小化し、社用車の稼働率を上げたという。なお、ドライブズはラウンドCで、協業したセントリカのCVCを主要出資者として、合計2,300万ドルを調達したともされている。

EVの量産に向け、規格化されたEV専用のシャーシを提供するのは、テルアビブを本拠とするリー・オートモーティブだ。同社は、完全に上部がフラットで、モジュール化されたEV専用シャーシを開発する。シャーシのキットには、モーター、ステアリング、サスペンション、ドライブトレイン、センサー、ブレーキ、車輪につながるエレクトロニクス回線が含まれている。メーカーなどのEV製造を担う事業者は、規格化されたシャーシを安価に調達することができることになる。このシャーシに載せる車体は、自由に設計することができる。なお、この製品は、主に商用車向けの供給を戦略として想定しているようだ。同社の創業は2011年。これまでに日本の武蔵精密工業などを出資者に、ラウンドCで合計4,000万ドルを調達した。2021年2月には、特別買収目的会社(SPAC)によって米国ナスダックへの上場を果たした。また、2021年4月27日には日野自動車との間で業務提携契約を締結したことを発表。今後、日本市場でも成長が期待される。

これまで見てきたように、イスラエルは、国内で課題を抱えながらも、カーボンニュートラルに資する政策立案とその実行に向けた動きが活発化している。その背景で、有力なスタートアップがグローバルに活躍する姿が印象的だ。従来のビジネスモデルを改良する企業だけでなく、革新的で新しいソリューションを市場に提案する企業も相次ぐ。今後もイスラエルのスタートアップ動向に注目が集まるだろう。

執筆者紹介
ジェトロ・テルアビブ事務所
吉田 暢(よしだ のぶる)
2004年、ジェトロ入構。アジア経済研究所、ERIA支援室、英サセックス大学開発研究所客員研究員、デジタル貿易・新産業部を経て、2020年8月から現職。

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