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不退転の決意で臨む「エネルギー改革(Energiewende)」(ドイツ)

2020年8月18日

ドイツは脱炭素社会の実現に向け、水素技術の活用や再生可能エネルギーの拡充に中長期的に取り組む方針を掲げている。7月には、石炭・褐炭火力発電を2038年までに全廃する法案が連邦議会で可決された。新型コロナウイルスの影響を大きく受ける中、国を挙げてエネルギー改革を進めるドイツの動きを紹介する。

新型コロナウイルス禍でも気候変動対策を重視

新型コロナウイルスによる危機は、国内経済に大きな悪影響を与えている。にもかかわらず、ドイツでは多くの人がコロナ危機下でも気候変動対策を重要視しているようだ。連邦エネルギー・水道事業連合会(BDEW)が6月3日に発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます した調査(回答者数:1,200人)によると、「気候変動対策は以前と同様に継続すべき」または「気候変動対策はこれまで以上に行うべき」と回答した比率は81.6%にのぼった。また80.4%は、ドイツが国策として進める「エネルギー転換(Energiewende)」が「重要」または「非常に重要」とした。

表1:新型コロナウイルス禍における気候変動対策について
項目 回答率
気候変動対策は減速すべき 15.2%
気候変動対策は以前と同様に継続すべき 44.7%
気候変動対策はこれまで以上に行うべき 36.9%
分からない/無回答 3.2%

出所:連邦エネルギー・水道事業連合会(BDEW)

表2:エネルギー改革の重要性
項目 回答率
非常に重要 38.7%
重要 41.7%
そこまで重要でない 11.8%
まったく重要でない 4.3%
分からない/無回答 3.4%

出所:連邦エネルギー・水道事業連合会(BDEW)

ドイツでは再生可能エネルギーの導入が着実に進んでいる。BDEWによると、2019年の電力総消費量に占める再生可能エネルギー発電の割合は43%を占める。2018年から4.8%ポイント上昇したことになる。主な内訳をみると、陸上風力発電が18%、バイオマス発電と太陽光発電がそれぞれ8%、洋上風力発電と水力発電がそれぞれ4%、廃棄物発電が1%だった(注)。

国を挙げてエネルギー転換を推進

中期的な再生可能エネルギー導入の計画も定められている。6月10日には国家エネルギー・気候計画(NECP)を閣議決定外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます した。NECPは、EUが加盟国に策定を求める計画だ。狙いは、EUが掲げる2030年の再生可能エネルギーおよびエネルギー効率の目標を達成するところにある。計画には、2021年から2030年に達成すべき目標やそのための政策などが盛り込まれている。

なお、EU は(1)温室効果ガスの排出量を1990年比で少なくとも40%減少、(2)最終エネルギー消費量に占める再生エネルギーの割合を少なくとも32%へ引き上げ、(3)エネルギー効率を少なくとも32.5%向上という3つの目標を掲げてきた。また、2019年12月には2050年までに気候中立を目指す方針を提示(2019年12月12日付ビジネス短信参照)。2030年の目標についても、さらなる引き上げを検討中だ(2020年3月6日付ビジネス短信参照)。

今回決定した計画では、(1) 2030年までに2008年比で1次エネルギー消費量の30%を削減することを通じ、エネルギー効率化を高める、(2) 2030年までに最終エネルギー消費量に占める再生可能エネルギーの割合を30%に拡大する、ことが明記された。また、温室効果ガスの排出量を2030年までに1990年比で55%以上削減し、2050年までに気候中立を目指す目標(2019年6月21日付ビジネス短信参照)をあらためて確認している。

表3:ドイツにおけるエネルギー転換の目標
項目 2020年 2030年 2040の目標 2050年の目標
推定値 目標 推定値 目標
温室効果ガス排気量(対1990年比) n.a. 40%減以上 n.a 55%減以上 70%減以上 80%~95%減
最終エネルギー消費量に占める再生可能エネルギーの割合 18.4%
(17.9%‐18.8%)
18% 22.6% 30% 45% 60%
総電力消費量に占める再生可能エネルギーの割合 43.4%
(41.3%-45.1%)
35%以上 52.9% 50%以上 65%減以上 80%減以上
1次エネルギーの消費量(対2008年比) 10.8%減
(10.3%減-11.2%減)
20%減 21.0%減 n.a(注) n.a. 50%減
建築物における最終エネルギー消費量(対2008年) 7.7%減
(6.8%減‐9.0%減)
20%減 17.4%減 n.a n.a. n.a
交通分野における最終エネルギー消費量(対2005年) 5.4%増
(5.0%増-5.8%増)
10%減 4.0%増 n.a n.a. 40%減

注:NECPで30%減と設定。
出所:経済・エネルギー省資料「Zweiter Fortschrittsbericht "Energie der Zukunft"」からジェトロ作成

ドイツは7月から、EU理事会(2020年下半期)の議長国を務めている。理事会では、EUレベルでの2030年の目標達成に向け、(1) 暖房および輸送部門での排出量取引価格の設定、(2) エネルギー効率上昇を念頭に置いた建築部門でのEUの枠組みを通じてのリノベーション促進、(3) 再生可能エネルギープロジェクトへの投資を促進するための支援枠組み、などを議題とする意向だ。

経済刺激策の下、水素の活用や再エネのさらなる導入を推進

新型コロナウイルス感染拡大で景気の冷え込みが懸念されるのは、ドイツでも同様だ。一方で、連立与党は6月3日、約1,300億ユーロ規模の経済刺激策に合意した(2020年6月10日付ビジネス短信参照)。この中で、ドイツの経済基盤を長期的に強化する施策の一環として、電気自動車(EV)の普及推進(2020年7月15日付ビジネス短信参照)や充電ポイントの拡大などを通じたインフラ整備のほか、水素技術の積極的な活用や、太陽光や洋上風力発電などの再生可能エネルギーの拡大、エネルギー効率の高い建物へのリノベーション推進プログラムの拡充などを挙げている。

水素技術の活用については、「国家水素戦略(NWS)」が6月10日に発表された。この戦略では、エネルギー転換で脱炭素化のカギとなる技術として、水素技術が位置付けられている(エネルギー転換は、特に鉄鋼や化学などの主要産業と運輸分野を想定したものだ。また、再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」に重点が置かれた)。政府は同戦略に90億ユーロの予算を投じ、新型コロナウイルス危機からの経済回復にも寄与する成長産業分野として期待感を示した。あわせて、将来的なドイツの輸出産業として育成する方針を示している。

洋上風力発電の促進について、政府は6月3日、洋上風力発電法改正を閣議決定した。これにより、2030年までに達成すべき洋上風力の発電容量の目標を、15ギガワットから20ギガワットに引き上げた。また、2040年の目標を40ギガワットに設定した。

洋上風力発電設備の増設には国を超えた連携や調整が必要となるが、7月6日には、ドイツを含む10カ国・地域が参加する北海エネルギー協力(North Seas Energy Cooperation、NSEC)の閣僚級会合で、北海での洋上風力のさらなる拡大に向けた共同宣言を採択した。宣言では、欧州委員会が掲げる2050年までに二酸化炭素ネット排出量をゼロにする「カーボン・ニュートラル」実現のために洋上風力発電が大きな役割を果たすことを確認した上で、欧州委員会に対し、今後拡大が予想されるクロスボーダープロジェクトに関してEUレベルの枠組みの構築を要求している。12月には再度の閣僚級会談を予定し、協議を継続するとしている。

このほか、再生可能エネルギーのさらなる拡大に向け、規制緩和や手続きの軽減などを積極的に行っている。例えば、陸上風力発電所については、風力発電所と住宅などとの間で確保すべき距離について、各州が地域の状況に合わせ、最大1,000メートルまでの間で柔軟に設定できるとした。このほか、太陽光発電システムについても、2012年に決定した再生可能エネルギー法(EEG)で設定した助成に当たっての上限値を撤廃するとした。これまでは導入する太陽光発電の発電容量の合計が52ギガワットを上回った段階で助成を停止していた。また、エネルギー効率の悪い建物のリノベーションや省エネ化についても、経済エネルギー省と内務省が提出した建築物エネルギー法が6月18日に連邦議会で可決された。これにより、複数分野にまたがっていた建築物のエネルギー効率や再生可能エネルギー熱の利用に関する規制が包括的に一元化された。これについて、ペーター・アルトマイヤー経済・エネルギー相は「事務手続きが顕著に軽減されるほか、幅広い分野で規制が簡素化される。再生可能エネルギーの導入に向け、さらなる刺激となるだろう」とコメントしている。

石炭・褐炭火力発電所の段階的な廃止を決定、脱炭素社会に向け加速

7月に入り、ドイツのエネルギー政策は1つのターニングポイントを迎えた。石炭ベースの発電を段階的に削減し、遅くとも2038年までに廃止する法案が7月3日に可決外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますされたのだ。BDEWによると、石炭や褐炭に由来する火力発電は2019年に総発電量ベースでそれぞれ9%、19%を占めているが、これを20年弱で全て廃止する。具体的な削減スケジュールとしては、2022年までに稼働する石炭・褐炭火力発電所の発電容量を21.6ギガワット、18.1ギガワットからそれぞれ約15ギガワットにまで削減する。さらに、2030年までには石炭火力発電所の発電容量を約8ギガワット、褐炭火力発電所を9ギガワットに低下させる。2026年、2029年、2032年にそれぞれ進捗を確認し、3年前倒しの2035年の石炭・褐炭火力発電所の廃止が可能か検討する。ドイツでは既に2022年末までの原子力発電廃止を決定しており、再生可能エネルギーへの依存を高めることになる。

なお、今回の決定によって、多くの事業者や雇用、地域経済にも影響が出ることにもなる。そのため、最終的な決定に至るまでに国内で多くの議論が行われた。2030年までに廃止する褐炭火力発電については、事業者に補償を行うことを決定している。名目換算した補償額の合計は43億5,000万ユーロに上る。内訳は、大手エネルギー会社RWEに26億ユーロ、同じくLEAGに17億5,000万ユーロだ。補償については、RWEには2020年から、LEAGには2025年から15年間にわたって支払われる。2.7ギガワット分の褐炭火力発電所については一時停止後、4年間は電力不足時の緊急電源として待機状態とし、事業者にはこれに関連する費用も追加で支払われる。

一方、石炭火力発電と出力最大150 メガワット以下の小型褐炭発電については、2020年から2026年にかけて入札を実施。廃止する発電所を公募で決定する。入札価格が安い発電所から、補償金を受けて廃止される。落札されなかった発電所や入札対象となる廃止総量に満たなかった部分については、2027年以降、法的な措置により、補償金なしで強制的に廃止する。また、ノルトライン・ウェストファーレン(NRW)州やザクセン州、ザクセン・アンハルト州、ブランデンブルク州など、国内で特に石炭関連産業に依存する地域に対しては、産業構造の変化や未来へ向けた投資支援のため、2038年までに最大400億ユーロの支援を決定している(2020年1月31日付ビジネス短信参照)。

産業界や主要経済研究所からは、「脱炭素社会のみならず、再生可能エネルギーへの勇敢な切り替えが重要」(BDEW)、「現在想定されるスケジュールでは、パリ協定で定められている目標が達成できる可能性が低い。その上に、電力会社への補償が高過ぎる」(ドイツ経済研究所(DIW))といった声も聞かれる。

国内産業の発展をこれまで支えてきた石炭に別れを告げようとするドイツ。同時に、脱炭素社会の実現に向けて着実に歩を進めている。水素技術や再生可能エネルギーのさらなる導入に巨額の投資を行う中、これらの技術が将来的な産業競争力向上につながるか、注目が集まる。


注:
新型コロナウイルス感染拡大を受け、ビジネス活動も抑制されている。このため、2020年上半期は電気消費量が前年同期比で5.7%減少。これを受けて、消費電力量に占める再生可能エネルギー由来の電力のシェアが、50.2%まで上昇した。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所
ベアナデット・マイヤー
2017年よりジェトロ・デュッセルドルフ事務所で調査および農水事業を担当。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所 ディレクター
森 悠介(もり ゆうすけ)
2011年、ジェトロ入構。対日投資部対日投資課(2011年4月~2012年8月)、対日投資部誘致プロモーション課(2012年9月~2015年11月)を経て現職。

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