特集:グリーン成長を巡る世界のビジネス動向大企業を中心にカーボンニュートラルへの貢献が加速(フランス)

2021年6月7日

フランスでは、2050年までのカーボンニュートラルの目標が法制化されたことを受け、大手企業を中心に目標達成に貢献する動きが加速している。食品ダノンは、環境再生型農業の普及のため畜産農家と提携し、土壌の改良・再生による二酸化炭素(CO2)の吸収に取り組む。自動車部品ミシュランや建築材料サンゴバンは、原材料調達から生産、物流、廃棄まで全工程での排出量削減を目指す。

フランス最大の経営者団体「フランス企業運動(MEDEF)」が、2017年に温室効果ガス排出削減へのコミットを呼びかけた「フレンチ・ビジネス・気候誓約(Climate Pledge)」には91社のフランス企業が参加した。2020年までに再生可能エネルギー、エネルギー効率、低炭素技術関連への研究開発などに総額600億ユーロを投資する目標を掲げたが、2017〜2018年の2年間だけで投資額は680億ユーロに達した。「フレンチ・ビジネス・気候誓約」の第2期となる2020〜2023年には55社が参加し、総額730億ユーロの投資にコミットした。

企業向けに、気候変動関連のサービスを提供するコンサルタント会社のエコアクトが2020年9月に発行した、フランスの主要株価指数CAC40上場40社の気候変動対策を評価する年次報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます の2020年版によると、カーボンニュートラルを目標に設定した企業の割合は、2019年の22.5%から2020年には43.0%へとほぼ倍増している。

CAC40上場企業40社のうち、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言に対応している企業の割合も、2018年は13%だったが、2019年には43%に増加し、2020年には50%を超えた。サプライチェーン全体の排出量を考察する、スコープ3基準(注1)に取り組む企業も32社(80%)に増えた。このうち13社は、スコープ3基準の15項目のうち少なくとも6項目について排出量を開示しており、開示する内容も年々詳細になってきている。

CAC40上場企業40社のうち、半数は「科学的根拠に基づいた排出削減目標(SBT)」の認定を受けた企業だ(注2)。再生可能エネルギー電力の調達率については、40社のうち14社(35%)で消費電力の26%〜50%を再生可能エネルギー電力が占める。再生可能エネルギー電力が75%以上を占める企業も5社(12.5%)となった。ほとんどの企業(95%)が従業員向けに排出量削減に向けた行動指針を設定しており、25%は従業員に対する表彰制度などを設けている。また、半数以上(65%)の企業が、顧客に対して排出量が少ないサービスや商品についての情報を提供し、エコ消費を促進する活動を行っている。

エコアクトの報告書において、CAC40上場企業のうち最も高い評価を受けたのは、早くから温室効果ガス排出量の抑制や再生可能エネルギー電力への移行を打ち出したBNPパリバ銀行だった。次点が食品ダノンで、これに電気・電子機器シュネデール・エレクトリック、化粧品ロレアル、情報通信アトス、高級ファッション・宝飾品ブランドのケリング、自動車部品ミシュラン、自動車PSAグループ、電子決済ワールドライン、環境ヴェオリア・アンビロヌモンが続いた。いずれも、温室効果ガスの排出抑制にとどまらず、カーボンオフセットや途上国における植林プロジェクトへの参加などにより、カーボンニュートラルに貢献している。

カーボンニュートラルに向けた大企業の取り組み

2030年までに、温室効果ガスの排出を2015年比で30%減を目標に掲げるダノンは、再生可能エネルギーの導入、環境再生型農業の促進および途上国での排出量削減活動を通じたカーボンオフセットを軸に、目標達成を目指す。

同社では、2030年までに再生可能エネルギーの導入率を100%まで引き上げることを目標としている。2019年の導入率は42.4%で、前年の34.2%から増加したとしている。

同社の温室効果ガス排出量のほぼ6割を占める農業・畜産分野での排出量削減については、米国でオハイオ州立大学、コーネル大学と提携し、2018年からの5年間に600万ドルを投資し、土壌を再生させ炭素吸収を拡大する研究プロジェクトを実施している。フランスでは2025年までに、環境再生型農業により国内生産された原料100%に切り替える。また、売り上げの一部(年間約500万ユーロ)を、環境再生型農業に切り替える畜産農家などへの支援に充てるとしている。

抑制しきれない温室効果ガスの残渣(ざんさ)は、途上国などでの活動を通じ相殺する(カーボンオフセット)。同社は、途上国における温室効果ガスの排出削減や生活改善に向けたプロジェクトに投資する生活炭素基金(Livelihoods Carbon Fund外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )とパートナーシップを結んでおり、他の企業9社とともに、これまでにマングローブ森林の再生、植林、途上国における熱効率のよい台所用機器(コンロ)の普及促進などのプロジェクトを支援した。同基金は2011年以降、1億3,000万本を植林し、4万8,000ヘクタールの森林を再生したほか、12万世帯に熱効率のよい台所用機器を供給することで、約1,000万トンの二酸化炭素をオフセットした。2017年からの第2期生活炭素基金外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます では、途上国における家族経営の小規模農家による環境再生型農業の普及プロジェクトに1億ユーロを投資し、200万人の生活改善に貢献することで、20年間で2,500万トンの二酸化炭素排出量のオフセットを目指す。

こうした手法を駆使し、ダノンは同社のミネラルウォーター・ブランドであるエビアン外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます のフランス工場(エビアン・レ・バン工場)と北米の工場で、2017年にカーボンニュートラルを実現した。

ミシュラン外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます は2014年以降、バリューチェーン全体を考慮したスコープ3基準による温室効果ガスの排出量を算定して情報開示し、再生可能エネルギーの導入のほか、持続可能な物流チェーンの構築に力を入れている。トラック輸送から鉄道、河川、海洋輸送へのモーダルシフト、排出量削減に重点を置いた在庫やロケーション管理システムの導入、トラック輸送の効率化(積載効率の改善)などを通じ、輸送に関わる排出量の削減を目指す。

例えば、南北に長いベトナムでは、北部に新たな倉庫を設置し、貨物船を使って海外の生産工場から製品を直接納入することで、同国南部に位置する倉庫からの陸路輸送による製品の供給を半分に削減。輸送距離の最適化により、温室効果ガスの排出量の抑制につなげた。ブラジルでは、中西部にあるカンポ・グランデ工場の製品保管倉庫を増強し、南東部のレゼンデ工場へのトラック用タイヤの保管を目的とする搬送を避けることで、排出量削減につなげた。

また、航空機の利用を最小限に抑えるため、運送業者と常にマルチモーダルソリューションの策定を検討している。エネルギー効率を重視する輸送業者をパートナーとして優先し、提携業者にはトラックのエネルギー効率の改善を支援する制度を設けている。さらに、エネルギー消費の10%削減につながるとしている、運転技術の向上に向けた職業訓練にも力を入れている。

さらに、ミシュランは水素モビリティの開発・普及も推進している。水素モビリティの世界市場拡大をにらみ、2019年に水素燃料電池シムビオを買収し、自動車部品フォレシアとの合弁で燃料電池の事業会社を設立した。水素・燃料電池の開発・生産に総額1億4,000万ユーロを投資し、世界屈指の燃料電池メーカーとして欧州、米国、中国で事業を展開する計画だ。また、本社があるオーベルニュ・ローヌ・アルプ地域圏において、圏内に20カ所のクリーン水素ステーションを設置し、1,200台の燃料電池車を供給する「ゼロ・エミッション・バレー」プロジェクトに参加している。

建築資材サンゴバン外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます は、2050年でのカーボンニュートラルの目標達成に向けて、2030年までに2017年比でスコープ1および2基準における排出量を33%削減し、スコープ3基準で16%削減するとしている。リサイクル素材の活用や生産工程から出る廃棄物の削減など資源の持続的な利用・管理、エネルギー消費量の削減および生産工程や物流における温室効果ガスの抑制とサプライヤーを含めたグループ全体へのグッドプラクティスの共有、排水ゼロプロジェクトの実現、生物多様性の保全・再生・強化、自然災害リスク管理などが、目標達成に向けた課題となる。

同社の生産プロセスにおける排出量削減については、イタリア・ピサ工場とインドのチェンナイ工場の板ガラスの生産過程での排熱を、電力や圧縮空気に変えて再利用する設備を導入し、年間5,000トンの二酸化炭素の排出量削減に貢献すると見込んでいる。また、生産プロセスにおいて低炭素技術の利用を促すため、グループ内に炭素賞(アワード)を導入した。

消費電力の脱炭素化に向けては、2020年に米国・イリノイ州のブルーミング・グローブ風力発電所に関わるグリーン電力(再生可能エネルギー)証書を取得し、米国における同社の二酸化炭素排出量を2010年に比べ21%削減した。

物流部門における排出量削減では、輸送距離の最適化のほか、サンゴバンにおいては、天然ガスを使った輸送機器や河川運搬、電動式運搬機の導入などに取り組んでいる。物流部門では、2012年からの5年間に2万5,000トンの排出量を削減した。さらに2024年までに、天然ガスを使ったトラックへの移行、燃料消費の効率化などで、6万トンの排出量削減を目指す。南米では、運送コントロールタワープロジェクトを開始し、グループ内の異なる部門間で物流フローを共有し最適化することで、コスト削減と生産性の向上を図るとともに、排出量の削減にも貢献する。

また同社では、より環境負荷の低い原材料を使用した建築材料の研究開発を進めている。例えば、新たに開発したタイル・石材接着剤の「ウェーバー」は、生産工程における二酸化炭素排出量を通常の50%、水の使用量を28%、再生不可能エネルギーの使用量を27%削減することに成功した。同社ではさらに、循環経済の促進に向け、再生不可能な廃棄物をゼロにするための研究開発も行っている。


注1:
サプライチェーン排出量外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます は、スコープ1(事業者自らによる温室効果ガスの直接排出)、スコープ2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出)、スコープ3[スコープ1、スコープ2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)]に分かれる。
注2:
SBTイニシアチブによれば、2021年5月時点で、「科学的根拠に基づいた排出削減目標」の認定を受けているフランス企業の数は49社、2年以内に目標設定をコミットした企業数は35社だった。
執筆者紹介
ジェトロ・パリ事務所
山﨑 あき(やまさき あき)
2000年よりジェトロ・パリ事務所勤務。
フランスの政治・経済・産業動向に関する調査を担当。

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