特集:グリーン成長を巡る世界のビジネス動向低炭素化を進めるカンボジア、太陽光発電を推進

2021年5月17日

カンボジアは、気候変動に関する国際的な枠組みへの参加を踏まえ、2013年にカンボジア気候変動戦略計画を策定。気候変動を進める温室効果ガスを削減するために、再生可能エネルギーの活用を進め、水力発電の割合を増やしてきた。一方で、水力発電は降雨量の少ない乾季には機能不全を起こすことが多い。そのため、水力発電を補う再生可能エネルギーとして注目されているのが、太陽光発電だ。カンボジアには、発電事業に対する規制が少ないため、太陽光発電所の建設や個々の企業レベルでの太陽光発電の活用が進んでいる。本レポートでは、カンボジア政府が取り組む、再生可能エネルギー普及に向けた施策と、民間企業の再生可能エネルギーの活用事例を紹介する。

低炭素化に向け、水力を活用

カンボジア政府は、1995年に国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)に参加、2002年に京都議定書を批准、2017年にパリ協定に署名するなど、地球温暖化への危機意識が高い。パリ協定において、各国は温室効果ガス排出量を削減し、低炭素化を進める意向で、カンボジアも同様である。カンボジアが成長産業として後押しする農業に気候変動が大きく影響することも、低炭素化に向けた取り組みを推進させる大きな要因となっている。カンボジア政府は気候変動に関する国際的な枠組みへの参加を踏まえ、2013年に、カンボジア気候変動戦略計画(CCCSP:Cambodia Climate Change Strategic Plan)2014~2023を策定した。持続可能な発展を支える低炭素計画や技術促進が戦略目標の1つとして位置づけられ、その目標に向けた施策として「エネルギー効率の改善、再生可能エネルギーに関する技術革新、それらの普及促進」が掲げられている。

カンボジア政府はCCCSPの中で、経済成長を遂げながら、脱炭素化を進めていくために、水力発電などの再生可能エネルギーの利用を検討する必要があると言及している。その言葉の通り、カンボジアの電力セクター(注1)は2010年以降、再生可能エネルギーの中でも、水力発電の割合を増やしてきた(図1参照)。2010~2020年の間に水力発電の割合は1.3%(2010年)から、最大の48.6%(2018年)まで増加していることからも、意欲的に再生可能エネルギーの割合を増やそうとする姿勢がうかがえる。2020年の電力エネルギーの割合は、非再生可能エネルギーが37.3%(石炭火力31.9%、ディーゼル5.4%)、再生可能エネルギーが30.8%(水力28.0%、太陽光2.2%、バイオマス0.6%)、ラオス、タイ、ベトナムからの輸入電力が31.9%であった。

図1:電力エネルギーの割合(%)
2010年~2020年の間に水力発電の割合は1.3%(2010年)から最大、48.6%(2018年)まで増加。2020年の電力エネルギーの割合は、非再生可能エネルギーが37.3%(石炭火力31.9%、ディーゼル5.4%)、再生可能エネルギーが30.8%(水力28.0%、太陽光2.2%、バイオマス0.6%)、ラオス、タイ、ベトナムからの輸入電力が31.9%であった。

出所:EAC Annual reportを基にジェトロ作成

規制の少ない発電事業にチャンスを見いだした日本企業

再生可能エネルギーを中心とした電力供給拡大を図るために、カンボジアは外国資本による投資を推奨している。国内外事業者を問わず、電力事業を行うには、カンボジア電力庁(EAC)からライセンスを取得する必要がある。事業内容に応じて 8 種類〔発電、送電、配電、複合(発送配電の組み合わせ)、派遣、卸売り、小売り、下請け〕のライセンスがあるが、外資企業に対する規制はない。参入障壁が低いこともあり、同国での水力発電の開発には、日本企業も参入している。再生可能エネルギー発電事業を行う日本企業のイーレックスは2019年10月、カンボジアにおける水力発電の活用拡大を見据え、西部ポーサット州の8万キロワット(kW)規模の新規水力発電所建設プロジェクトに2,350万ドルを出資すると発表。本プロジェクトは、同社にとって初の水力発電事業かつ海外発電事業である。これまで日本国内で培ってきた発電事業の開発、運転保守、および燃料調達の知見を生かし、カンボジアの低炭素化社会実現に貢献することを目指すという。同プロジェクトは、2023年2月に正式運用を予定している。

水力を補完する太陽光への期待

カンボジアはこれまで、石炭火力、水力発電を中心に発電量を拡大してきた(図2参照)。しかし、近年は経済成長に伴う電力需要に追いつかず停電が起き、経済に深刻な影響を与えることも少なくない。特に降雨量が少ない乾季(11月~5月)には、貯水が確保できず、主力電源である水力発電の発電能力が低下するため、電力不足が深刻となる。2019年は乾季終盤の3月~5月に、水力発電の発電能力が低下し、電力不足となったため、大規模停電が頻発した。特に、タイ・ベトナム国境の経済特区では、3カ月間で300時間以上の停電が発生したという(2020年1月22日付ビジネス短信参照)。

従って、貯水を十分に確保できない乾季があるカンボジアにおいては、水力発電だけに頼るのは現実的ではない。加えて、水力発電所の建設は、水生資源の減少や水質悪化などを引き起こす危険性があり、住民や専門家からの反対運動が伴うことが多いことからも、バランスの取れた電力のポートフォリオを考える必要がある。

図2:電力エネルギー量の推移(単位:GWh)

出所:EAC Annual reportを基にジェトロ作成

カンボジアは、水力発電を補う有効な再生可能エネルギー源として、太陽光発電に注目している。カンボジアは日照条件が良く、特に乾季には晴れた日が続くため、水力発電をカバーするのに適している。これまでは、太陽光発電に関する知識や経験を持つ人材が不足していたことや、太陽光発電に係る部品の輸入関税の高さなどから、太陽光発電のシェアが高まっていなかったと考えられる。しかし、カンボジアはパリ協定における約束草案(NDC)の中で、「2030年までに、温室効果ガスを27%削減」との目標を掲げ、水力発電のほかに太陽光発電を重点電力として位置付けたため、大規模太陽光発電事業は今後の拡大が期待される。実際に、2016年時点では太陽光発電は統計データとして使用できる割合に達していなかったが、2017年以降EACのレポートに太陽光発電の割合が記載されるようになり、2020年には電力全体の2.2%を占めている(図1参照)。

2020年末時点で、稼働している太陽光発電所は5カ所で発電量は185メガワット(MW)だったが、現在、中国企業のほか、タイ、マレーシアなどの会社による建設が進んでおり、2021年度中に20MW~60MW規模の発電所が4カ所稼働する予定である。鉱業エネルギー省(MME)によると、2030年には現在の約10倍である1,815MWまで発電量を増やす計画だという。

カンボジアには、日本のように再生可能エネルギーに対する固定価格買い取り制度はなく、原則、発電事業者がカンボジア電力公社(EDC)と個別契約を結び電力を販売している。従って、契約次第では、企業の利益を圧迫させる可能性があるが、カンボジア政府は2021年1月1日から適用している大幅な減免措置の中で、太陽光発電設備の部品13品目の輸入関税を7%から免税とし(2020年12月28日付ビジネス短信参照)、改正投資法草案の中で、再生エネルギー事業は優遇措置対象予定にしていることから、民間企業の太陽光発電への参入を後押していると考えられる。

太陽光発電所建設については、中国をはじめとする諸外国が席巻しつつあり、競争が激しくなっているが、規模は小さいながら太陽光発電事業を行う日本企業は出てきている。太陽光発電関連製品の製造・施工などを行うダブリュー・ダブリュー・ビー(東京都)は、再生可能エネルギー発電事業を手掛けるアウラグリーンエナジー(青森県)とともに、カンボジア国内において1MWの太陽光発電と0.5MWのバイオマス発電を併設した計1.5MW規模のハイブリッド発電設備を建設し、現地精米所に発電電力を供給すると発表。発電施設は、日本の環境省が温室効果ガス削減や低炭素技術の普及を目指して推進する「二国間クレジット制度」の一環で導入され、二酸化炭素の排出量を年間約1,800トン削減する計画だ(2020年5月11日付ビジネス短信参照)。他にも、再生可能エネルギーの普及を進めるアジアゲートウェイがカンボジアのインターナショナルスクールに1.1MW太陽光発電システムの導入をするなど、日本企業がカンボジアの太陽光発電の普及に一定の役割を果たしつつある。

個々の企業レベルでの太陽光の活用

太陽光の利用に関しては、個々の企業レベルでも進む兆しがある。フランス系企業のトタールが、カンボジア華僑と日本、タイの合弁会社であるプノンペン経済特区社が運営する経済特区の入居工場に、太陽光パネルをリースしていく計画をしている。同経済特区によると、世界的なカーボンニュートラルの動きを見て太陽光発電の検討を行った結果、技術革新などにより電気料金が下がることがわかってきたという。現在、産業用のカンボジアの電気料金は0.137ドル/キロワット時(kWh)だが、太陽光発電を使用した場合の電気料金は0.130ドル/kWhである(注2)。さらに、本計画では、発電した電力はEDCを介さず各企業が直接使用するため、トタールの太陽光パネルを導入すると、電気料金は0.1ドル/kWhを下回るという(注3)。各企業は、太陽光パネル含む一切の発電用機器を無料で借りることができ、かつ電力が安いため、個々の企業レベルでの太陽光の利用が進む可能性がある。実際に、同経済特区内の日系企業を含む3社が既に導入予定だ。

太陽光発電を、水力発電を補う有効な再生可能エネルギー源として位置付け、免税など各種施策により、太陽光発電の割合を増やす意向のカンボジア。今後、日本企業や諸外国の企業が太陽光発電事業への参入、または太陽光発電を積極的に活用していくことで、カンボジアの温室効果ガス削減に貢献することが期待される。


注1:
カンボジアの電力セクターは,鉱業エネルギー省(MME)、カンボジア電力庁(EAC)およびカンボジア電力公社(EDC)が主要な役割を担っている。個々の役割は以下の通り。
  • 鉱業エネルギー省(MME):電力マスタープラン策定など、政策決定を行う。
  • カンボジア電力庁(EAC):発電、送電などの事業ライセンスの付与や規制を行う。
  • カンボジア電力公社(EDC):MMEおよび経済財政省が所有する電力公社。カンボジアで唯一、発電・送電・配電のライセンスを受けている。
その他、独立系発電事業者(IPP)や地方電気事業者(REE) が電力セクターとして重要な役割を果たしている。
注2:
カンボジアの電気料金は、地域や使用量、使用場面(家庭用・産業用)などによって異なる(参考:投資コスト比較)。
注3:
トタールと15年以上の太陽光パネルのリース契約をすることで基本的に0.1ドル/kWh以下となるが、工場の電力消費量などを個別に計算する必要がある。EDCを介さない太陽光発電は工場の変圧器容量の50%まで供給可能。
執筆者紹介
ジェトロ・プノンペン事務所
井上 良太(いのうえ りょうた)
人材コンサル会社での経験(2017年~2020年)を経て、2020年7月からジェトロ・プノンペン事務所勤務。

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