特集:グリーン成長を巡る世界のビジネス動向温暖化加速のスリランカで日本の技術に期待
グリーン社会の到来を見据えるアジア:各国政府や企業による気候変動・環境対応の今

2021年5月18日

スリランカでは近年、国内全域で気温が徐々に上昇し、温暖化が加速している。集中豪雨の頻繁な発生は、中央高地での地滑りや低地での洪水発生の一因となっている。また、乾期の日数が増加している結果、干ばつが引き起こす水不足や農作物の不作も深刻な課題になっている(注1)。熱帯に位置するスリランカは気候変動の悪影響に脆弱(ぜいじゃく)で、官民による早急な対策が必要となっている。これらの状況を背景に、同国で民間や自治体レベルで進められるグリーン社会に向けた取り組みを紹介する。

2012年に国家主導の対策策定

スリランカは2012年に国家気候変動政策PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます) (163.10KB)を策定し、気候変動対策の理念と目標、主要方針に加え、適応策や緩和策、持続可能な消費・生産の推進、知識管理などについての政策を示している。この中で、クリーンで再生可能なエネルギー源開発や、エネルギー利用の効率化、二酸化炭素(CO2)排出量の少ない交通システムなどを導入するとしている。

これらの政策を実現するために、2025年を目標年とした気候変動の影響に対する国家対応計画PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます) (2.73MB)も策定している。これは、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)が国家適応計画の策定のために定めたガイドラインに沿って作成された。同計画では、食料安全保障、水、沿岸地域、保健、居住、生物多様性、観光・娯楽、輸出開発、産業・エネルギー・運輸を脆弱セクターとして特定し、対応ニーズや行動計画、達成指標を示している。

環境省の傘下にある気候変動事務局(Climate Change Secretariat)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます が政府内の気候変動に関する対応の中心的役割を担っている。同事務局は気候変動に関する政策実施メカニズムの構築や、国内外の関連機関との連携、研究と研究結果の普及、UNFCCC事務局との連携、クリーン開発メカニズム(CDM)プロジェクトの承認といったさまざまな事案を実行している。

カーボンクレジット制度を運用

スリランカ気候基金(SLCF)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます は2008年に設立された環境省傘下の組織だ。既存施設の炭素排出性能の最適化や、新規の低炭素化ソリューションの検討を行っており、国際的な気候変動金融(注2)や外国企業の投資の窓口ともなっている。

同基金はスリランカの気候変動対策プロジェクトの実施を奨励するため、CO2削減量を検証して登録を行い、クレジットを発行するスリランカカーボンクレジット制度(SLCCS)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます を運営している。この制度は、民間企業などが提案するCO2削減のプロジェクトを同基金が検証し、認証レポートと組織内でのカーボンオフセットや取引に活用できる排出削減量認定書(CER)を発行する仕組みだ。SLCCSのウエブサイトによると、これまで民間企業の実施する4件の小規模水力発電プロジェクトが登録されている。

セイロン紅茶栽培でもCO2削減

政府だけでなく、スリランカ企業もCO2削減に取り組んでいる。以下では、スリランカで有名なセイロン紅茶の企業ディルマ・セイロンティー社と、国内外で500以上の建設事業の実績を有するグローバル企業MAGAエンジニアリング社の事例を紹介する。

スリランカが世界に誇るセイロン紅茶の栽培・加工でも、CO2削減へのさまざまな取り組みが行われている。これは、欧州諸国をはじめとした各国の紅茶バイヤーがクリーンな製品や持続可能な開発目標(SDGs)への貢献を求めるニーズにも応えるものだ。

世界150カ国に販売網を持つディルマ・セイロンティー社はCO2削減に積極的に取り組んでおり、2018年11月には自社製品の完全なカーボンニュートラル化を実現した。この取り組みは、同社が所有する2カ所の茶園での小規模水力発電と、コロンボにある本社の屋根置きソーラー発電によるCO2削減によっている。茶葉の摘み取り・加工、輸送・梱包(こんぽう)を経て、完成品が工場の敷地を出るまでに発生するCO2排出量を抑制し、気候変動に関する国連枠組み条約により認証PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます) (204.73KB)された。この認証には、前述のSLCFが発行したSLCCSの認証レポートとCERが活用されている。

ディルマ・セイロンティー社はジェトロのインタビューの中で、生産や加工過程でのカーボンフットプリント(温暖化ガス含有量)削減にも努めていると強調した。例えば、茶畑にバイオ炭を敷き詰めることによって農地を活性化させ、土地の炭素吸収を促している。茶葉の乾燥工程におけるまきの消費量を削減するため、太陽熱集熱器の導入にも取り組んでいる。環境と生物多様性の保護、温室効果ガスの抑制という長期的な効果を目指し、国際自然保護連合(IUCN)スリランカ委員会やセイロン商工会議所とともに、森林再生プロジェクトや、カシューナッツの植林による緑化も実施している。生物多様性や気候変動などに関する啓発プログラムも実施し、若い世代が国家的・地球的課題に対応してより積極的な行動を取るように促している。


カシューナッツ植林に使用された苗木(ディルマ・セイロンティー社提供)

現在、海中でCO2吸収・固定の機能を有するなど海藻(ワカメ)の持つポテンシャルに対する認識が世界的に高まっており、国連グローバル・コンパクト(UNGC)でも、「安全な海藻連合(Safe Seaweed Coalition)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」を立ち上げる計画だ。ディルマ・セイロンティー社の持続的開発部門の責任者へのインタビューでは、同社も現在、スリランカの北部地域で海藻養殖の普及による海洋汚染防止と漁民の生計向上に取り組んでいることがわかった。同社はグリーン投資や技術面で理念を同じくする日本をはじめとした外国企業がこのような新しい取り組みに参画することを期待していると言及した。

グリーンビルディングの建設進む

MAGAエンジニアリングは、1984年の設立以降、国内外で500以上の建設事業を手がけてきたスリランカの大手建設会社だ。創業者の理念を受け継ぎ、環境や社会、ガバナンスを考慮した持続可能な事業運営を目標としており、事業を通じた環境保全やカーボンフットプリント削減に全社的に取り組んでいる。サステナビリティーを測る世界基準を目指す指標の1つグローバル・リポート・イニシアチブ(GRI)にも参加している。

MAGAはグリーンビルディングを建設しており、その代表例として、高級タワーマンションの「クリアポイント・レジデンス」がある。この集合住宅はコロンボ郊外に位置し、建物全体が草木に覆われたような外観が特徴的だ。これは、マンションの各戸の広々としたバルコニーに、セルフ・サステイニング・ガーデンと呼ばれる緑地エリアを設けているためだ。この緑地エリアはバルコニーに広範囲な日陰を作ることで冷却効果を生み、酸素を発生する空気清浄効果が期待され、さらに、防じんや防音の効果を生み出すとされる。居住者はここで花や野菜を栽培することもできる。この緑地エリアにはマンションの雨水・排水リサイクルシステムから自動で水が散布されるため、住居者は水やりをする必要がない。

この集合住宅は、室内に直射日光が当たらないよう設計されており、全室に電気に頼らない自然換気システムが採用されているため、クーラー使用が最小限に抑えられる。屋上にはソーラーパネルが設置され、ロビーや廊下、エレベーターの照明、共同エリアの電源として使用されている。余剰電力はセイロン電力庁に売電し、得られた収入はマンションの維持管理費に充当されている。このような工夫により、住居者は住みながらにして電力使用やCO2排出の削減と、環境保全に貢献する責任ある市民になることができる。また、都会にいながら涼しい風を受け、バルコニーで栽培した果物や野菜を楽しむ豊かな生活を送ることもできる。


クリアポイント・レジデンス屋上に設置された大型ソーラーパネル(MAGA社提供)

MAGAはこれまで、環境保全や社会的貢献に関する数々の実績が評価され、全国グリーン大賞、省エネ大賞などさまざまな賞を受けている。前述のクリアポイント・レジデンスの建設でも、アジア・プロパティー賞の持続的開発部門で表彰された。

国連と韓国と共同でスマートシティー事業も

スリランカの自治体が国際協力を得て気候変動対策をしている事例としては、国連工業開発機関(UNIDO)の気候技術センター・ネットワーク(CTCN)と韓国環境研究所の支援による、スリランカ・クルネーガラ市のクライメイト・スマート・シティー事業を挙げることができる。

クルネーガラ市は同国北西部州の産業や行政の中心だ。「クルネーガラ」は現地語で「大きな牙を持つ象の岩」を意味する。市内にある巨大な岩々の1つで、象の形をした岩が都市名の由来になっている。同市では、この巨大な岩々が熱されて日中の気温が上がり、近年は40度近くまで上昇することも珍しくない。気候変動の影響で干ばつや洪水、地滑りなども頻発しており、人命や産業への被害が深刻となっている。

クルネーガラ市役所の「クライメイト・スマート・シティー外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」事業は2018年に開始され、気温上昇と水資源欠乏の課題解決に焦点を当てている。成果を測る要件となるデータの収集、気候変動脆弱性の度合いの評価、これらデータと評価を踏まえたアクションプランの立案が完了している。現在は、保健や水資源管理、都市インフラ、住居など多岐にわたる分野のステークホルダーがアクションプランを念頭に置いた気候変動対策を実際の都市開発計画に取り込み、実行に移していくために、能力強化ワークショップが実施されている。

日本企業に参入の機会

スリランカの民間や自治体による気候変動や環境保全に対する取り組みについてみてきた。日本・スリランカの2国間クレジット制度(JCM)は現在協議中だが、JCMの実現可能性を探る調査は実施されている。日本企業には、JCMの実現を見据えて、ビジネス機会を探る動きもある。これまでの取り組みの代表例には、環境省の支援を受けて2014年に日本のゼネコンが現地企業と共同で実施したバイオマス発電によるグリッド電力代替プロジェクトがある。同社はその後、スリランカでバイオマス発電を事業化している。日本企業はさまざまな省エネ技術を活用した省エネで快適な住宅、いわゆるゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)を造ることにおいては、一日の長がある。スリランカのような年中夏の熱帯地域では、断熱や遮熱、通風技術、建築資材などに加えて、日本の高度な省エネ技術が生かせる余地は大きい。スリランカがこれまで継続してきた活動と方向性を把握しつつ、そこに日本技術をうまく寄り添うかたちで導入していければ、考えられるビジネス機会は多い。


注1:
National Adoption Plan for Climate Change ーImpacts in Sri LankaPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2.44MB)
注2:
温室効果ガスの排出抑制・吸収強化を目的とした投資や、気候変動に起因する社会的な悪影響・変化に対するダメージの軽減、回復力の維持を目指した投資や金融トランズアクションの総称、もしくは、これら金融を扱う機関。
執筆者紹介
ジェトロ・コロンボ事務所 所長
糸長 真知(いとなが まさとも)
1994年、ジェトロ入構。国際交流部、ジェトロ・シドニー事務所、環境・インフラ担当などを経て、2018年7月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・コロンボ事務所
ラクナ―・ワーサラゲ―
2017年よりジェトロ・コロンボ事務所に勤務。

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