特集:グリーン成長を巡る世界のビジネス動向グリーン社会目指すパキスタン
グリーン社会の到来を見据えるアジア:各国政府や企業による気候変動・環境対応の今

2021年6月8日

パキスタン政府は2016年4月にパリ協定に署名し、2030年までに温室効果ガス(GHG)排出量を2014-2015年度(注1)比で最大20%削減することを約束した。目標達成に向けて、植林から水力発電所建設、電気自動車(EV)導入まで幅広い政策を実施している。特に、産業やビル・住宅など5分野をエネルギーの効率化や省エネ化を図る優先分野に位置付けた。自動車についても、2030年までにEVなどを新車販売の30%にすることを目標に掲げている。

2030年までにGHG20%削減を約束

パキスタンでは近年、気候変動により氷河の融解や氷河湖決壊による鉄砲水、モンスーンによる豪雨や洪水、サイクロン、干ばつ、熱波などの影響を受けている。ドイツ環境NGOジャーマンウオッチのグローバル気候リスク指数2020によると、同国は181カ国中、2018年までの20年間で最も気候変動の影響を受けた上位5番目に位置付けられている。

気候変動に脆弱(ぜいじゃく)なパキスタンにとっては、GHG排出抑制の取り組みは非常に重要な政策課題となっている。1994年には国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)を批准。南アジア諸国の中では環境問題対応の重要性をいち早く認識した国の1つだ。2016年4月にはパリ協定に署名、同年に最初の「国が決定する貢献案(INDC)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(761.54KB)」をUNFCCC事務局に提出した。その中で、「国際的な支援を受けられれば」2030年までにGHG排出量を2014-2015年度比で最大20%削減することを約束した。

INDC2016のGHG排出セクター一覧(表1)によると、排出量は、2015年の405.1MtCO2e〔二酸化炭素(CO2)換算メトリックトン、以下同〕から2030年には1,603MtCO2eと15年間で約4倍に増加すると予測されている。これは、ナワーズ・シャリフ前政権が2014年に策定した「パキスタン・ビジョン2025」の2025年までの実質経済成長率(年平均7%)を2030年まで援用し、中国パキスタン経済回廊構想(CPEC)に伴うインフラ開発なども考慮に入れて計算されたものだ。同一覧では、2015年時点でエネルギー部門が45.9%と最も大きなシェアを占めている。今後は経済成長に伴う電力などの需要増大により、2030年には56%と各セクターの中でも突出して増加すると予測されている。

政府はINDC2016で、2030年までに最大20%のGHG削減を行うために必要なコストを400億ドルと試算。ただし、同時に技術的・財政的な制約により、十分に成し遂げることができるとは限らないとしている。政府は、気候変動に対応するインフラ投資も含めて、この期間に毎年70億~140億ドルが目標実現に必要とも試算している。

表1:パキスタンのGHG排出セクター一覧(単位:MtCO2e、%)
セクター 1994年 2008年 2012年 2015年 2030年
(予測)
排出量 シェア 排出量 シェア 排出量 シェア 排出量 シェア 排出量 シェア
エネルギー 85.8 47.2 168.5 51.1 171.4 45.8 186.0 45.9 898 56.0
農業 71.6 39.4 126.0 38.2 162.9 43.5 174.6 43.1 457 28.5
工業プロセス 13.3 7.3 18.5 5.6 19.6 5.2 21.9 5.4 130 8.1
LUCF(注) 6.5 3.6 9.3 2.8 9.7 2.6 10.4 2.6 29 1.8
廃棄物 4.5 2.4 7.2 2.2 10.6 2.8 12.3 3.0 89 5.6
181.7 100.0 329.5 100.0 374.1 100.0 405.1 100.0 1,603 100.0

注:土地利用用途変更および林業。
出所:INDC 2016

2030年までに水力発電を50%、2040年までに国産石炭火力を25%に

パキスタンの電源別発電については、1)国産石炭活用による大規模発電、2)水力発電のシェアを高めることで発電価格のバランスを取ること、3)輸入燃料〔例えば、石炭、液化天然ガス(LNG)、重油〕への依存度を下げること、4)再生可能エネルギーの比率が小さいことなどの特徴が挙げられる。風力、太陽光などの再エネは、天候に発電量が左右される(間欠性)ため、主力電源にはなり得ないとしている。

このうち、水力については、インダス川などの豊富な水資源を生かして2020年のシェア29%から2030年には50%にまで大幅に高める計画となっている。国産石炭を使った火力発電も現在は2%にすぎないが、2040年には25%に引き上げる計画となっている(表2)。石炭は低品質だが膨大な資源量を有する国産褐炭を活用する。

表2: 電源別発電量推移予測(計画)〔単位:メガワット(MW)、%〕 (-は値なし)
電源 2018年12月 2020年 2025年 2030年 2035年 2040年
発電量 シェア 発電量 シェア 発電量 シェア 発電量 シェア 発電量 シェア 発電量 シェア
水力 9,732 29 9,991 29 16,155 33 28,890 50 35,240 46 38,790 40
原子力 1,345 4 1,232 4 4,278 9 4,278 7 4,278 6 4,278 4
石炭輸入 2,640 8 3,642 10 5,160 11 5,160 9 5,160 7 5,160 5
石炭国産 150 0 630 2 3,333 7 3,303 6 9,914 13 24,939 25
RLNG 7,275 22 8,461 24 6,959 14 6,228 11 6,048 8 6,444 7
天然ガス 3,711 11 2,410 5 2,284 4 1,521 2 1,521 2
重油 5,887 18 4,768 14 4,568 9 1,289 2 1,289 2 919 1
ガス 4,494 13
風力 1,185 4 2,170 6 6,140 12 6,140 11 12,440 16 16,040 16
太陽光 400 1
バガス 306 1
33,414 100 34,605 100 49,003 100 57,572 100 75,890 100 98,091 100

注1:RLNGはRegasified Liquified Natural Gas。液化天然ガス(LNG)を再び気化したガスのこと。バガスとはサトウキビを搾汁した後の残りかす。バイオマス発電の燃料として使われる。
注2:本表の再生可能エネルギーのシェアは発電所新設・改廃予定を織り込んだ実態に近いものであり、後述の代替・再生可能エネルギー(ARE)政策の目標値とはずれが生じている。
出所:国営送電配電公社(National Transmission & Despatch Company :NTDC)から作成

エネルギー純輸入国のパキスタンは構造的な貿易赤字国のため、国内資源を活用してエネルギーの対外依存度を下げることは政府の喫緊の課題となっている。世界の潮流に反して石炭火力の比率を高めるのもそのためだ。

2017年、国家気候変動政策を法制化

政府は2017年、国家気候変動政策を発表し、2017年パキスタン気候変動法PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(465.98KB)というかたちで立法化した。同法は、具体的な気候変動政策というよりも、政策立案の調整や実行の監視を行う枠組みだ。首相を議長とし、気候変動と、財務、農業、開発、資源、水・電気などの関係閣僚、各州政府首相、財界人、NPO、科学者などから成るパキスタン気候変動評議会が設置された。評議会は国家適応計画やUNFCC事務局提出のナショナル・コミュニケーション(National Communication: NC)など国内外の計画の実行を監視する。また、首相が任命した科学者や学者、官僚、財界人、農業経営者などから構成するパキスタン気候変動庁も設立され、包括的な適応策と緩和策、計画などの立案、国際的な条約や合意事項の下での国の義務の実施などを担当することとなった。

政府内の政策立案と実施体制としては、気候変動省(MOCC)がトップにあり、その下に関係部局、パキスタン環境保護庁(Pak-EPA)、グローバル変動インパクト研究センター(GCISC)、国家災害管理庁(NADRA)、パキスタン動物学調査部(ZSD)などの実施機関が位置している。

政府は気候変動に関する幅広い政策・施策実施

2018年にUNFCCC事務局に提出された報告書「第2回気候変動に関するナショナル・コミュニケーション」(13.18MB)によると、政府は幅広い取り組みを行っている。これらに関連して、2019-2020年度に実施した主要な政策、取り組みなどを以下に紹介する。

  1. エコシステム回復イニシアチブ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
    環境施策を通じてレジリエント〔強靭(きょうじん)〕な環境への移行を目指したもので、パキスタンのINDC目標に合致した植林、生物多様性の保存策などを含むものとなっている。同施策の目標はエコシステム回復基金(ESRF)という包括的な金融メカニズムを確立することにある。
  2. 炭素市場設立に関する国家委員会
    排出削減の困難と機会を明らかにし、パキスタンIDNCを実行する際の炭素市場の役割と範囲を評価するために、2020年に設立された。既存市場の設計をレビューし、国内利害関係者との調整、キャパビルなどを実施する。
  3. 100億本植林ツナミ事業外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
    植林はパキスタンの環境政策の中で最も重要なものの1つとなっている。排出削減策であると同時に、雇用創出・エコツーリズム促進策でもある。北部地域を除いて乾燥地域が多いパキスタンは、森林面積が国土の5%(日本は67%)、かつ、森林減少は年間270平方キロメートル(参考:東京23区面積628平方キロ)に及ぶとされている。2019-2020年度には75億ルピー(約52億5,000万円、1ルピー=約0.7円)の予算が配分された。全国で展開される第1フェーズ(2019-2020~2022-2023年度)では、33億本の木が植樹される予定で、目標は4年間で森林被覆率を1%上げることとなっている。
  4. 2019年代替・再生可能エネルギー政策PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(291.84KB)
    2006年代替エネルギー政策が2018年3月に終了し、2019年に新たな代替・再生可能エネルギー(ARE)政策が導入された。この政策目的は、エネルギー安全保障や電力価格の適正化、全国民への普及、環境保護、持続可能な開発、社会的公平、気候変動緩和の7点にある。政策の方向性は、2025年までに全発電量の20%をARE技術によるものにし、2030年までに30%にするという(20X25 & 30X30目標)。対象となるARE技術はバイオマスや地熱、潮力、太陽光、風力、省エネシステム、バイオガス、廃棄物発電(WTE)、水素あるいは合成ガスと、これらのハイブリッドを含むこととし、水力は含めていない。

5分野を通じた削減取り組み

パキスタンのエネルギー効率の低さは、アジア開発銀行(ADB)などの国際機関の調査でかねて指摘されていた。それによると、GDP1ドルにつき、パキスタンはインドより15%、フィリピンより25%多くエネルギーを消費するという。これはエネルギーの損失というだけでなく、産業競争力の低下にも直結するものだ。こうした状況を受けて、国家エネルギー効率・省エネ庁(NEECA)は2020年4月、2023年までに3MtOe(石油換算Mt)のGHG排出削減に相当する省エネを目標とする2020-2023年戦略計画PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.49MB)を発表した。省エネを通じて1次エネルギー供給を10~15%(10~12MtOe)節約できるポテンシャルがあるとしている。

エネルギー効率化と省エネの優先分野は、1)産業、2)ビル・住宅、3)輸送、4)電力、5)農業の5つ。エネルギー損失が大きく、サプライチェーンで無駄が多く、陳腐化した技術に対する代替投資が不足し、インフラが老朽化していると認められる分野だ。具体的な内容は以下のとおり(表3)。

表3:2020-2023年戦略計画における優先分野と内容
分野 内容
産業 繊維セクター(産業用電気の27.6%と天然ガスの40%を消費)が2,150 ギガワット時(GWh)と最も高い省エネポテンシャルを有している。コンプレッサーの効率改善、熱交換回収システム、照明、モーターなどの改善の実施。セメントセクター(産業による石炭消費の68.9%を占める)も省エネポテンシャルが高く、その他では、製鉄所、製糖場、皮革産業なども省エネポテンシャルが高い。
ビル・住宅 MEPS(最小エネルギー消費効率基準)制度の普及が行われ、自主的なラベリングが実施されている。2020年1月にはLED用のMEPSのラベリング制度が実施された。
輸送 2019年の最終エネルギー消費の33.9%を占めた。(自動車排ガス)基準とラベリング制度(standard and labeling regime)の採用と、自動車燃費効率と排ガスの目標(target for vehicle fuel efficiency and emissions)の設定が必要。
自動車分野については、戦略計画は以下のように言及。
  • 先進国で採用されているCAFE(Corporate Average Fuel Economy)のような燃費基準が形成され、自動車セクターで採用される。それにより、エネルギー効率パラメーターを含み、モデルとなる車検場〔Motor Vehicle Examination (MVE) Centers〕の設立もフォーカスされるであろう。
  • 貨物や、鉄道、バスといった大量輸送モードにおいてさまざまな政府介入が行われるであろう。
  • NEECAは、EV政策により、パキスタンでEVのR&Dセンターを設立することを義務付けられている。NEECAは最近発表されたEV政策の実施において、他の利害関係者とともに中心的な役割を担う。
電力 電気と天然ガスの送配電損失は南アジアにおいてもっとも大きい。パキスタンにおける平均送電ロスは20%にも上る。38%にもなる送配電会社もある。ガスセクターにおける未計上ガス損失(Unaccounted-for-Gas, UFG)は約11.4%である。消費者がスマートメーターを使うことでエネルギーを節約できるポテンシャルは大きい。小型自家発電装置、熱交換率改善プログラム、過剰負荷のある変圧器と給電線のエネルギー監査のための送電供給サイド負荷最適化プログラムといった焦点を絞った方策が送配電会社(DISCOS)とともに開発され実装されるであろう。
農業 最終エネルギー消費の2%を占めるにすぎない。この部門では灌漑施設用の揚水ポンプと耕作用トラクターが主にエネルギーを消費している。消費されるエネルギーの90%以上は電気で、10%がハイスピードディーゼルである。しかし、設置されている揚水用の電気ポンプとディーゼルポンプの比率は20対80でディーゼルが多い。電気ポンプはディーゼルポンプよりもコスト優位性が高いが、農村地帯での電力供給があまりにも不安定で、生産に悪影響が及ぶことが多いためである。そのため、生産性向上のために灌漑でエネルギー効率を高めるためにモーター用MEPSが導入される予定である。

出所:2020-2023年戦略計画(NEECA)から作成

2030年までにEVなどを新車販売の30%に

パキスタンでは自動車排ガスに占めるCO2総量についての科学的な調査結果はないものの、政府は世界的なEV化の潮流の中で、現在の人口増加と経済成長を考慮し、対策を取らない場合、化石燃料車の増加とそれによる環境悪化は必然との認識の下、EVやハイブリッド車、燃料電池車などの環境技術の導入検討を進めていた。

産業・生産省傘下のエンジニアリング開発庁(EDB)は2020年4月に、2020-2025年EVと新技術政策PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(569.01KB)を発表した(以下、EV政策)。このEV政策はEVの二輪、三輪、四輪、小型商用車、大型商用車(トラック、バスを含む)を対象としたもので、EVのみならず、全てのタイプのハイブリッド車や燃料電池車などの電動車(以下、EVなど)も含むものとなっている。

政府は、新車販売に占めるEVなどの割合を2030年までに30%にまで引き上げることを目標にしている(注2)。ただし、この目標はEV政策の中では明示していないため、内部目標にとどまるものとみられる。メーカーに目標達成義務は課していない。

政府は消費者に購入補助金を出すことが難しいため、メーカーが支払う関税や諸税を引き下げることをインセンティブとしている。この政策はEVなどを普及させるためのメーカーへのインセンティブ集となっている。これらのうち、税金に関するものは2021年2月の2021年改正税法法令PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(3.11MB)で施行された(表4)。

表4:四輪アッセンブラー/メーカーに提供されるEVインセンティブ
輸入品 関税率 条件
四輪EVのCBU
(PTC Code 8703.8090)
25% 2026年6月30日まで。ただし、関税法別表5の条件による。
四輪EVのCBU
(PTC Code 8703.8090)
12.5% 2026年6月30日まで、EDBの承認によるメーカー/アッセンブラーそれぞれへの最初のCBU100台の輸入に適用。
EV専用コンポーネント(キットの形態問わず) 1% この税率は四輪EVメーカーに2026年6月まで適用。ただし、EDB による認定と数量決定による。
コンポーネント(キットの形態問わず) ADP 2016-2021による。
階層レベル2の項目非国産部品 10%
階層レベル2の項目国産部品 25%
その他
  1. CKDの中のEV専用部品-輸入時VAT 0%
  2. 50キロワット時(kWh)かそれ未満のバッテリー付き小型車/SUV、および150 kWhかそれ未満のバッテリー付き軽商用車のCKDの輸入については、
    • 輸入品への売上税およびVAT免税、ならびに販売時売上税1%
    • 所得税条例148条の下、源泉徴収税1%
    • EV等の軽商用車と自動車/スポーツ用多目的車(SUV)についてはGSTと輸入時GSTとVATの免税
  3. CUB輸入-VAT 0%
  4. 四輪EVは連邦物品税(FED)免税
  5. 四輪EVのCKDキットとともに輸入されるCBU充電器について1%の関税が適用。

出所:「2021年改正税法法令」から作成

2016-2021年自動車開発政策(ADP2016-2021)が市場育成や投資促進などの目的で、日系3社の寡占市場に競争を持ち込むことも視野に、2016年から開始された。EDBにステータスを認定された新規参入メーカー(グリーンフィールダー:GF)には、設備1回ゼロ関税輸入、1車種100台に限りテストマーケティング用として関税を50%削減した輸入、部品について関税20%引きで5年間輸入可能などの大きなインセンティブを与えた。

ADP2016-2021で認定されたステータスによるGFの同ADPのインセンティブは引き続き残るものの、EV政策では既存メーカー(日系3社)とGFは同じインセンティブを受けられる。

パキスタンでは現在、EVとハイブリッド車は生産されておらず、全て輸入となっている。アウディ・パキスタンは2020年3月から1年間でEVのイートロン(中型クロスオーバーSUV)を約800台販売した。

ある自動車業界関係者によると、輸入されるハイブリッド車の多くが中古車で、2019年には中古ハイブリッド車が約1,300台輸入され、車種は主にトヨタ自動車のプリウスとアクアだったという。

以上、見てきたように、イムラン・カーン首相率いるパキスタン政府は、GHG排出削減策を着実に実施してきている。政府は、中国・パキスタン経済回廊構想(CPEC)に関連する電力インフラなどへの中国からの直接投資も社会経済課題の解決に巧みに活用している。今後さらに排出削減に取り組みながら、よりバランスの取れた産業経済の発展を目指すのであれば、中国だけでなく、欧米やアジアの先進国とのパートナーシップの強化、とりわけ長年のアジアのパートナーである日本との関係をさらに強化することは重要な選択肢の1つだろう。日本政府は2021年4月、2030年のGHG目標を2013年度比46%削減と表明した中、排出権確保も今後の重要な課題となろう。クリーン開発メカニズム(CDM、注3)の活用や日本の二国間クレジット制度(JCM)パートナー国にパキスタンがなるなど、日本の先端技術と資金を活用することや、エネルギー・環境分野へ日本の直接投資を呼び込むことなどを通じて、パキスタンは中長期にわたるバランスの取れた経済発展が可能になると考えられる。


注1:
パキスタン年度は7月1日~6月30日。例えば「2019-2020年度」は2019年7月1日~2020年6月30日。
注2:
30%という数値について、政府は、国内に存在する自動車総数の30%なのか、新車生産や販売の30%なのか明言しておらず、EV政策にも記述がない。自動車総数の30%を2030年までにEVなどにすることは現実的に不可能なため、ここでは新車販売とした。
注3:
開発途上国で温室効果ガスの排出削減プロジェクトを実施し、達成した削減量に応じてクレジットを発行し,議定書における先進国の削減目標達成に活用できるUNFCCC京都議定書で規定される制度。JCMは、日本政府が本制度のパートナー国と実施している制度。JCMは、CDMと違って炭素クレジットの「国際的な取引・移転は現時点でできない」(大阪JCMネットワークHP)が、手続きなどを二国間で「スピーディー,かつ、個々の途上国の実情に応じて、より実用的で簡潔に進められる利点」(同)がある。
執筆者紹介
ジェトロ・カラチ事務所長
山口 和紀(やまぐち かずのり)
1989年、ジェトロ入構。ジェトロ・シドニー事務所、国際機関太平洋諸島センター(出向)、ジェトロ三重所長、経済情報発信課長、農水産調査課長、ジェトロ高知所長、知的財産部主幹などを経て、2020年1月から現職。

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