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特集:グリーン成長を巡る世界のビジネス動向2030年までに温室効果ガス9%削減へ、再生可能エネルギー重視(ベトナム)
太陽光発電はブレーキ、風力とガス火力を拡充へ

2021年4月28日

安定して高い経済成長を続けるベトナム。それとともに、エネルギー消費量や温室効果ガスの排出量は右肩上がりで増えている。環境に対する国民の意識はまだまだ高いとはいえないが、南部メコンデルタの海面上昇がもたらす問題や中部の台風被害など、ベトナムでも気候変動の影響とみられる事象が取り上げられている。国際協定への参画もきっかけとなり、国家として気候変動対策の行動計画策定も進んでいる。本稿では、ベトナムにおける気候変動対策の国家計画や企業の動きを通じて、今後の動向を探る。

経済成長に伴い、環境規制の整備目指す

ベトナムの経済は、新型コロナウイルス感染拡大を受けて2020年こそ成長が鈍化したものの、2010年から2019年まで毎年5~7%台の成長を記録した。国内外の企業による投資は加速し、国民の生活水準も向上した。その半面、環境に対する意識を問われる機会も増えている。2016年には台湾系製鉄所の違法排水によって海洋汚染が発生。大量の魚の死骸が見つかり、国民の注目を集めた。2017年にも中国系繊維企業の排水による問題が発生するなど、企業の投資が招いた環境汚染が顕在化している。このほかにも、大気汚染や廃棄物処理、土壌汚染など、経済発展の裏でさまざまな環境問題が浮き彫りになっている。こうした中、ベトナム共産党は2019年8月20日付の政治局決議50号(50-NQ/TW)で、外国投資誘致で環境配慮型の先進技術を有する企業を優先する方針を示した。さらに、2020年11月には環境保護法を改正し、環境保護対象分野の拡大や情報開示の強化、環境アセスメントの手続き見直しなどを規定した。

パリ協定に参画、温室効果ガス削減目標を9%に上方修正

さまざまな環境問題が顕在化する中、ベトナムは気候変動の問題にも向き合っている。政府は2012年にはグリーン成長戦略を制定し、今後の行動計画を示した。さらに、国際的な枠組みへの参加に向けて、2015年9月には気候変動へのベトナムの努力目標をまとめた約束草案(INDC:Intended Nationally Determined Contribution)を作成。同年12月の気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)でのパリ協定の採択、ベトナムの2016年の協定署名を経て、INDCはベトナムの「国が決定する貢献」(NDC:Nationally Determined Contribution)として位置づけられた。このNDCでは、気候変動対策を実施しなかった場合(注1)と比べて、2030年までの温室効果ガスを国内の自助努力で8%削減するとの目標を定めた。併せて、2国間クレジット制度(JCM)を含む国際支援を加えた削減目標を25%に設定した。

NDCは5年ごとに見直す必要があり、ベトナムは2020年7月にNDCの改定を実施した。改定NDCでは、温室効果ガスの削減目標を上方修正し、2030年までに国内の自助努力で9%削減する目標を定めた(表1参照)。これは、8,390万トンの温室効果ガス削減に相当する。国際援助を加えると、削減率は27%で、2億5,080万トンの削減を目指すことになる。

表1:NDC改定前後の2030年までの温室効果ガス削減目標の比較(単位:%、100万トンCO2相当)
項目 国内努力 国際支援を含む
削減率 削減量 削減率 削減量
NDC(2015年9月) 8.0 62.7 25.0 198.2
改定NDC(2020年7月) 9.0 83.9 27.0 250.8
改定による増加 1.0 21.2 2.0 52.6

出所:ベトナムの改定NDCに基づきジェトロ作成

削減目標はエネルギーや、農業、LULUCF(土地利用、土地利用変化および林業)、廃棄物、工業プロセスごとに設定されている。このうち、エネルギー部門が温室効果ガス削減の中心となる(表2参照)。

表2:改定NDCにおける部門別の2030年までの温室効果ガス削減目標(単位:%、100万トンCO2相当)
部門 国内努力 国際援助を含む
削減率 削減量 削減率 削減量
エネルギー 5.5 51.5 16.7 155.8
農業 0.7 6.8 3.5 32.6
LULUCF(注) 1.0 9.3 2.3 21.2
廃棄物 1.0 9.1 3.6 33.1
工業プロセス 0.8 7.2 0.9 8.0
合計 9.0 83.9 27 250.8

注:温室効果ガスの吸収を含む。
出所:ベトナムの改定NDCに基づきジェトロ作成

再生可能エネルギーの開発を促進、LNGの活用も

温室効果ガスの削減に向けてベトナムで開発の勢いが増しているのが、再生可能エネルギーだ。政府は2017年から固定価格買い取り制度(FIT)を採用することで、国内外の投資家の関心を集めてきた。2020年2月11日には、共産党が政治局決議55号(55-NQ/TW)「2030年までの国家エネルギー発展戦略と2045年までのビジョン」を発出し、再生可能エネルギーや温室効果ガス削減の目標値を定めた(表3参照、2020年8月5日付ビジネス短信参照)。

表3:政治局決議55号における環境関連の目標(抜粋)
項目 2030年 2045年
一次エネルギー総供給量に対する再生可能エネルギーの比率 約15~20% 約25~30%
エネルギー分野で排出される温室効果ガスの削減率(通常の発展シナリオとの比較)(注) 15% 20%
最終エネルギー総消費量に対する省エネルギーの比率(通常の発展シナリオとの比較)(注) 約7% 約14%

注:決議では「通常の発展シナリオ」について定義の記載はない。
出所:政治局決議55号(55-NQ/TW)に基づきジェトロ作成

この政治局決議を踏まえ、商工省は現在、第8次国家電力マスタープラン(PDP8)の公布に向けて準備を進めている。2021年2月に公表したPDP8第3草案では、2030年までに太陽光発電の割合を13.5%(2020年は24.0%)に減らす一方、風力発電を13.1%(同0.9%)、バイオマス発電を2.3%(同0.8%)に増やし、総じて再生可能エネルギーを30%近くまで高める計画を示している(表4参照)。さらに、2045年には再生可能エネルギーの割合を40%以上まで高める計画だ。これは政治局決議55号で設定された目標値(表3参照)を10ポイント近くも上回る計画となっている。また、PDP8第3草案における2030年の発電容量は、直近の2016年に改定された第7次国家電力マスタープラン(改定PDP7)と比べて、風力発電が約3倍、太陽光発電が2倍弱の値に設定されている。再生可能エネルギー拡充の方針が強まっていることは明らかだ。

表4:PDP8第3草案における電源別の発電容量構成の基本シナリオ(単位:MW、%)
電源 2020年 2030年 2045年
発電容量 構成比 発電容量 構成比 発電容量 構成比
石炭火力発電 20,431 29.5 37,323 27.1 49,918 18.0
ガス火力発電 7,097 10.2 28,733 20.9 66,504 24.0
水力発電 20,685 29.9 24,792 18.0 25,692 9.3
風力発電 630 0.9 18,010 13.1 60,610 21.9
太陽光発電 16,640 24.0 18,640 13.5 55,090 19.9
バイオマス発電 570 0.8 3,150 2.3 5,310 1.9
合計(その他発電と輸入を含む) 69,258 100.0 137,662 100.0 276,601 100.0

出所:ベトナムのPDP8第3草案(2020年2月)に基づきジェトロ作成

ここ1、2年で急激な伸びを見せる太陽光発電には、懸念の声も上がっている。太陽光発電は、地域や時間帯によって需給バランスが崩れやすく、電圧変動や送電網への過負荷といったリスクが伴う。実際に、ベトナム南部では太陽光発電の開発が一定の地域に集中したことで、送電網の整備が間に合わず、出力抑制が必要となる事態が起きている。政府は太陽光発電への偏向を避けたい意向を示しており、2021年以降の太陽光発電の買い取り価格は引き下げの方向で検討している。そのため、太陽光発電の開発は今後10年間、落ち着く可能性が高い。

出力変動が大きい再生可能エネルギーの割合が増えるのに連れて、調整電源の確保が必要となる。PDP8第3草案では、環境負荷の大きい石炭火力発電の新規開発を抑制する代わりに、二酸化炭素(CO2)排出量の少ない液化天然ガス(LNG)による火力発電を拡大する方針だ。ベトナムでは国内のガス開発に加え、LNG輸入の計画が相次いで立ち上がっている。石炭火力発電所の計画をLNGによるガス火力発電所に切り替える事例も出ている。


南部ニントゥアン省の太陽光発電と風力発電の施設(ジェトロ撮影)

地場企業の環境対策、屋上太陽光発電が中心か

地場企業の環境対策として、国内乳業最大手ビナミルクの事例を紹介する。ビナミルクは資源循環の取り組みとして、家畜の排せつ物を作物や牧草の肥料に変えて活用している。同時に、メタンを生成して水を加熱し、機器の洗浄や子牛のミルクの低温殺菌に使っている。また、ビナミルクが運営する国内12カ所の酪農場のうち、5カ所で太陽光発電システムを稼働している。その総電力量は1,900万キロワット時(kWh)以上と推定され、1,730万キログラム以上のCO2排出量の削減に貢献しているという。ビナミルクが作成したロードマップによると、12カ所の酪農場の全てで太陽光発電システムを稼働できれば、発電容量は54メガワットピーク(MWp)以上に達し、年間7,000万kWh近くの電力を生み出す。これにより、年間6,200万キログラム以上のCO2が削減できるという。このほかにも、FIT制度を背景に、ビルや工場に屋上太陽光発電を導入する企業が増加した。

外資企業もベトナムの気候変動対策に参入、課題はコスト面

経済成長とともに環境対策の導入が期待できるベトナムは、気候変動対策とビジネスの両面で注目の市場だ。EUはエネルギー分野を中心に、ベトナムの気候変動への対応に約2億5,000万ユーロ相当の支援を行っている(ベトナム計画投資省機関紙「ダウ・トゥ」2020年12月14日)。中部ダナン市では米国のUSAIDと協力して、屋上太陽光発電など再生可能エネルギー導入やエネルギーの効率化を進めている。デンマーク政府はベトナムのエネルギー政策の策定を支援するとともに、洋上風力発電の開発計画を促進している。

環境分野への日本企業の参入はODAやJCM(二国間クレジット制度)の枠組みを活用した案件が多い。日本企業はベトナムでの新たなビジネスチャンスを模索しており、3月17日にベトナム商工省と日本の経済産業省の支援を受けて開催された「省エネと再生可能エネルギーに関する日越ビジネスフォーラム」では、廃棄物発電やヒートポンプ、水素コージェネレーションシステム、高効率ボイラー、省エネ建材などの日本の技術を紹介。ベトナムでの導入を踏まえ、ベトナム側との意見交換を行った。ベトナム側からは、日本の技術を評価する声とともに、コスト高に対する指摘が多かった。

ベトナムの環境対策はまだ発展途上にあるため、新しい環境ビジネスの期待が膨らむ。その半面、環境関連の法令面や運用の曖昧さが懸念要因となる。ジェトロが2020年に実施した調査では、在ベトナム日系企業の48.9%が投資環境上のリスクとして、法制度の未整備・不透明な運用を指摘している(注2)。また、外資企業の設備やサービスは技術力が評価される一方、導入コストの高さが障壁になっている。多くの地場企業では、環境対策は単なるコスト増として見られる傾向もある。引き続き官民共同による環境意識の向上、環境規制と運用の整備を目指す取り組みが必要だ。

ベトナムに進出する外資企業も増えており、外資工場での環境技術導入の拡大も期待できる。外資企業の協力を含めた環境対策がベトナムでの環境ビジネスの成功、ひいてはグリーン社会の実現の近道になる。


注1:
BAU(Business As Usual)シナリオのこと。2015年9月のNDCでは2010年を基準年として作成。2020年7月のNDCでは、2014年を基準年として作成している。
注2:
調査の詳細は「2020年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」を参照。
執筆者紹介
ジェトロ・ハノイ事務所
庄 浩充(しょう ひろみつ)
2010年、ジェトロ入構。海外事務所運営課(2010~2012年)、横浜貿易情報センター(2012~2014年)、ジェトロ・ビエンチャン事務所(ラオス)(2015~2016年)、広報課(2016~2018年)を経て、現職。

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