特集:グリーン成長を巡る世界のビジネス動向省エネなどの温室効果ガス排出削減、中小でも
世界の中小企業における排出削減の取り組み(前編)

2021年12月16日

中小企業でも、今後、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガス(GHG)の排出削減の必要性に対する認識が高まっており、取り組みが求められる。そこで、世界の中小企業が取り組む排出削減について、2回に分けてみていく。

本稿では、企業規模による取り組みの違いや、さまざまな業種における中小の排出削減の取り組み事例を紹介する。

排出量算定、英国小企業の9%

脱炭素化に向けた取り組みは、一般的に、自社の温室効果ガスの排出量を算定(算定については環境省ウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)し、現状把握を行うところから始まる。つまり、自社の排出量を算定している企業は、排出削減にも取り組んでいる(もしくは、取り組もうとしている)と推定できる。

英国商業会議所が実施したアンケート調査によると、企業規模が小さくなるほど、自社の温室効果ガス排出量を算定していると回答した企業の割合が低くなっている(図1参照)。

図1:自社の温室効果ガス排出量を算定していると回答した英国企業の割合
単位は全て%。「中・大規模企業(従業員数50人以上)」は26.0。「全体平均」は11.0。「小規模企業(従業員数10~49人)」は9.0。「零細企業(従業員数9人以下)」は5.0。

注1:回答企業総数は1,072社。企業規模別の回答企業数は公表されていないが、全体の94%が中小企業。全体の29%が製造業、32%がB2Cサービス、38%がB2Bサービス。輸出企業は全体の46%。
注2:調査実施時期は2021年7月5~23日。
出所:英国商業会議所より作成

なお、同様の傾向は日本企業でもみられる。ジェトロが海外進出日系企業に対して実施したアンケート調査(注)では、脱炭素化に「すでに取り組んでいる」と回答した企業の割合(全体平均33.9%)は、大企業が40.8%に対し、中小企業は19.8%と、大きな差がある(同設問の有効回答数は大企業が4,317社、中小企業が2,508社)。

省エネや再エネのみならず、カーボン・オフセットを利用する中小も

世界の企業は具体的にどのような取り組みを行い、脱炭素化を進めようとしているのか。代表的なものとしては、省エネやエネルギー効率化、資材などのリサイクル、再生可能エネルギーの利用、商品や容器のエコ化、カーボン・オフセット(後述)などがある(表参照)。

部品メーカーは、顧客から原料や製法などを指定されると、排出削減方法が限られる可能性があるが、生産工程を中心に省エネやエネルギー効率化を徹底させることで排出削減につなげることができる。小型精密部品成型のオット・バウクハーゲ(ドイツ)は、空気圧縮機における空気の漏洩(ろうえい)防止や熱回収など生産工場内のさまざまな省エネに取り組む。他にも、同社は防音壁や植林により工場外への騒音の減少にも努めている。

省エネや再生可能エネルギーの利用などのほかに、カーボン・オフセットを利用する企業もある。カーボン・オフセットとは、経済活動による温室効果ガスの排出をできるだけ抑え、それでも排出されてしまう分については、植林、森林保護、排出枠購入など他の手段(への投資)により、同排出分と相殺(オフセット)する手法のことを指す。アウトドア用品のオンライン販売を行うアドループ(フランス)は、2020年の夏に本社をパリから同国南東部のアヌシーに移転させ、そこで再生可能エネルギーの利用を推進。同時に、ブラジルの森林保護やフランス・アルプスにおける植林などのプロジェクトに投資をすることで、2015年の同社創業以来の排出量に相当する分をカーボン・オフセットし、2021年4月に「カーボン・ニュートラル企業」となった。なお、同社は2023年までに、取扱商品の90%をエコデザイン仕様にする目標を掲げている。2020年の本社移転を機に、たった1年足らずで脱炭素化に向けた取り組みを加速化できたのは、大企業に比べて「フットワークの軽い」中小企業だからかもしれない。

自社の顧客や利用者側での商品・サービス利用時の排出が、自社内での排出以上に大きい場合、自社の商品・サービス自体をカーボン・オフセットなどにより脱炭素化させる例もある。イベントチケットや参加者マネジメントサービスを提供するチケティノ(スイス)は、イベント参加者が自宅からイベント会場までの往復の移動や宿泊時に排出するCO2を、カーボン・オフセットの第三者認証機関によるオフセット・プロジェクトを通じて(吸収したCO2と)相殺できるサービス「カーボン・ニュートラル・チケッティング」を提供する。イベント主催者にとっては、脱炭素化に関心を持つ若年層などのイベント参加者をターゲットにしやすい。

表:世界の中小企業の排出削減方法と具体的な取り組み
排出削減方法 企業 分野 排出削減に向けた取り組み(カッコ内はその他の方法)
省エネ、エネルギー効率化 オット・バウクハーゲ
(ドイツ)
小型精密部品成型
  • 熱回収等による化石燃料消費の削減
  • 生産時の潤滑油の経済的な使用
  • センサー付自動照明使用による省エネ
  • 漏洩防止による空気圧縮機におけるロス削減
  • 〔受発注のメール等電子技術の利用(紙不使用)〕
プロコントゥア
(ドイツ)
金属板、プラスチック生産 プラスチック用の新たな機械導入によりエネルギー効率化を実現。これにより年間40トンのCO2排出を削減。
K & Co.
サステナブル・キッチン・バー
(スペイン)
レストラン
  • 調理:調理時にポットにカバーをかけ、保温を促進(省エネ)
  • 〔店舗:LEDを使用、電力は10%再生可能エネルギー、冬の室温は19~21度に設定〕
  • 〔食品:魚介類の半分以上はエコに捕獲されたもの、食品の半分以上は直接農家や協同組合から仕入れたものを使用。また、フェアトレードやオーガニックワインを使用。レストランで提供する飲み物の業務用の調達の90%は返却可能なコンテナ。「FLOSS」(Fresh、Local、Organic、Seasonal、Sustainable)をキーワードに取り組み、フードマイレージや食品廃棄削減等に貢献〕
部品・資材等のリサイクル コンタザラ
(スペイン)
水道メーター開発、生産等
  • 電子測定器の部品の再利用率を15%引き上げ(再利用部品を使った生産により材料コストを29%削減)
  • 〔95%の商品はエコデザイン仕様(環境負荷の低減)〕
    〔これらの取り組みにより、2019年までの3年間は2018年までの3年比で51.85%のCO2排出を削減〕
ハラマン・プリンティング&パッケージング
(トルコ)
印刷
  • 年間1,500トン以上の紙をリサイクル
  • 〔大豆など植物ベースのインクを使用〕
再生可能エネルギーの利用 メタフォルム-HSM
(ドイツ)
金属成型 2010年1月以降、使用する電力(グリッドからの購入)は再生可能エネルギー由来(原子力、石炭、石油は不使用)
ザ・リステル・ホテル
(カナダ)
ホテル
  • ホテル屋上に設置したソーラーパネルからの太陽熱をシャワーや洗濯などに利用。
  • 〔冷却装置からの廃熱を回収する熱回収システムを導入〕
    〔これらの導入により、ホテルの天然ガス消費量を30%削減〕
商品や包装にエコな原料を使用 ソヤ
(フィンランド)
食品加工(豆腐)
  • (輸入ではなく)フィンランド国内で生産された高品質な有機大豆を原材料に使用。
  • 〔工場屋根に設置したソーラーパネルの太陽熱を、生産時に必要なエネルギーとして使用〕
プレネア
(英国)
スキンケア化粧品
  • 完全リサイクル可能な容器(チューブ、ガラス)を採用。
  • 包装箱は100%コンポスト可能なものを使用。
  • インクは全て野菜ベースのものを使用。
自社排出分のカーボン・オフセット クオッカ・ビジョン
(オーストラリア)
サングラス製造 創業時からの生産時の排出と事務所や従業員からの排出を、パプアニューギニアの森林保護でカーボン・オフセット(同プロジェクトで2020年に9トンのCO2を削減)
アドループ
(フランス)
アウトドア用品オンライン販売
  • ブラジルの森林保護など3つのプロジェクトにより、2015年の創業以来の排出分をカーボン・オフセット(2021年4月)
  • 〔梱包にはリサイクル段ボールを100%使用〕
  • 〔2020年夏以降、100%再生可能エネルギーを使用〕
カーボン・オフセットを活用したサービスの提供 グリーン・ワールドワイド・シッピング
(米国)
物流
  • 荷物の輸送によるCO2排出量を算定し、荷主の希望に合わせた手段でカーボン・オフセットを提供するサービスを提供
  • 1件の輸送につき同社が1本の植樹を行うイニシアチブ「グリーン・ツリー」(2019年開始)により、2万4,714本の木を寄付(年間85万5,104ポンド(約388トン)のCO2を吸収)。
  • 〔本社屋上に太陽光パネル(発電量200MWh)を設置〕
チケティノ
(スイス)
イベントチケット・参加者マネジメント イベント参加時の移動や宿泊で排出されるCO2をカーボン・オフセットできるチケットをイベント主催者向けに提供するサービス「カーボン・ニュートラル・チケッティング」を展開。チケット購入者には同オフセット証明書が発行される。

出所:各社ウェブサイト等より作成

企業単体ではなく、組合などで複数社と連携して脱炭素化に取り組む中小企業もある。オランダの中小規模の野菜(トマト、パプリカ、キュウリ)農家(法人)の生産団体組合ハーベスト・ハウスは、エネルギー効率化につながる熱電併給(CHP)や地熱活用など脱炭素化につながる取り組みなどについて、組合企業へのナレッジシェアを行う。同組合企業であるツヴィングロウ(オランダ)は、オレンジ色のパプリカを生産する。同社は、CHPにおけるガス燃焼により得られる電気、熱、そしてパプリカの育成(光合成)に必要なCO2を、農場で利用している。また、同社は2012年から、周辺他社(4社)とともに開発(掘削)した地熱施設(年間約1万4,400トンのCO2排出削減に貢献)のエネルギーを農場で利用している。トマトやスナックペッパー(カラーピーマン)を生産するフレスティア(オランダ、同組合企業)も、周辺他社とともに運営する地熱施設から得られるエネルギーやCHP導入によるエネルギー効率化を行っている。なお、野菜の育成(光合成)に使うCO2は同CHPで発生するものだけでなく、近隣のロイヤル・ダッチ・シェル(英国、オランダ)の石油精製所で発生する副産物のCO2を利用している。

排出削減の取り組みにより、評判/ブランド/顧客満足で効果

前述のような脱炭素化に向けた取り組みは、企業にどのような効果をもたらすと考えられているのか。国営の英国ビジネス銀行が英国中小企業(の経営者や幹部)に対して実施したアンケート調査によると、カーボン・ニュートラルに向けた取り組みを行っても、収入/売上高(79%)、評判/ブランド/顧客満足(76%)、操業コスト(64%)、CO2排出量(53%)のいずれの項目でも、変化がないと考える回答企業が半数以上を占める(図2参照)。他方で、CO2排出量の削減(34%)や、企業の評判/ブランド/顧客満足の向上(20%)につながると認識する企業もある。カーボン・ニュートラルに向けた取り組みは、収入などの業績アップにつなげにくい一方で、企業や商品・サービスの価値・ブランド向上の面では効果があると捉える企業が一定数あることになる。

図2:英国中小企業が認識する、カーボン・ニュートラルに向けた取り組みがもたらす効果(回答企業の認識ベース)
 「増加する」、「減少する」、「変化なし、もしくは、わずかな変化」、「不明」の順に(単位は全て%)、「収入/売上高」は8、9、79、4。 「評判/ブランド/顧客満足」は20、1、76、3。 「操業コスト」は14、19、64、3。 「CO2排出量」は2、34、53、11。

注1:回答企業は4項目とも1,200社。一部の数値は、全体(100%)からの差し引きなどにより算出。
注2:調査実施時期は2021年8~9月。
出所:英国ビジネス銀行より作成


注:
同調査(ジェトロウェブサイト参照)は2021年8~9月に、海外82カ国・地域の日系企業(日本側出資比率が10%以上の現地法人、日本企業の支店、駐在員事務所)1万8,932社を対象に、オンライン配布・回収によるアンケートを実施。7,575社より有効回答。脱炭素化への取り組みに関する質問は、「すでに取り組んでいる」「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」「取り組む予定がない」から1つ選ぶ方式。
  1. (前編)省エネなどの温室効果ガス排出削減、中小でも
  2. (後編)排出削減に取り組まないことが「リスク」に
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課 課長代理
古川 祐(ふるかわ たすく)
2002年、ジェトロ入構。海外調査部欧州課(欧州班)、ジェトロ愛媛、ジェトロ・ブカレスト事務所長などを経て現職。共著「欧州経済の基礎知識」(ジェトロ)。

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