特集:グリーン成長を巡る世界のビジネス動向水素社会に向け、外国企業も積極的な動き(中国)

2021年5月17日

2020年9月の国連総会演説で、中国は2060年にカーボンニュートラルを目指すと発表した。この目標達成に資するものとして、中国ではクリーンエネルギーとしての水素が注目されており、特に水素燃料電池自動車(FCV)や水素ステーション導入などに関する計画が盛んに発表されている。

中国自動車エンジニアリング学会は2020年10月27日、「省エネルギー・新エネルギー車技術ロードマップ2.0」(以下、ロードマップ2.0)を発表した(2020年11月5日付ビジネス短信参照)。これは、2016年10月に同学会から発表された「省エネルギー・新エネルギー車技術ロードマップ」を更新したものである。ロードマップでは、2035年までにFCVの保有台数を約100万台とし、商用車を水素動力にモデルチェンジするなど、省エネルギーや新エネルギーの導入を積極的に行う目標が掲げられている。

FCVは購入補助金からモデル都市選定へ

2020年4月23日に、財政部、国家発展改革委員会などが電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)を対象とする新エネルギー車(NEV)補助金を2022年まで延長する通知外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます を発表したが、FCVは購入補助金の対象から外れることとなった。同日に発表された通知の解説によれば、FCVや水素ステーションの導入は進みつつあるが、コアな技術力が欠けているため、購入補助金で産業サプライチェーンと基礎インフラ建設の構築を促進することに限界があった。今後は、先進的な取り組みを行うモデル都市を選定して奨励金を与える方策に切り替え、各地の有力企業を育成し、コアとなる技術や部品、素材などの開発を進め、各地におけるサプライチェーン構築を支援していくこととした。

その後、財政部など5部門は2020年9月21日、「燃料電池自動車モデル都市申し込みに関する通知外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」(以下、「モデル都市の通知」)を発表し、モデル都市の具体的な申請方法や目標などを明らかにした(2021年9月24日付ビジネス短信参照)。モデル都市への申し込みは、北京市、上海市、広東省など20前後の都市や都市グループが申し込んだとされる。現時点でモデル都市は発表されてないが、現地メディアは2021年の6月に詳細を発表予定と報道している(「新華網」2021年4月9日)。

サプライチェーンは中国企業を中心に

2017年以降、中国各地で水素導入・振興に関する計画が相次いで制定・発表されている。こうした動きは、前述のFCVへの支援が、購入補助金からモデル都市選定へと支援方式が変更された過程でも盛んになっている。これまで発表した内容について、FCVや水素ステーションの導入目標の上方修正や目標とする年度の改定がなされているものもあるが、一部の省市では水素燃料電池や関連システムなどに関する企業名を発表し、水素燃料電池に関する設備や水素エネルギーに関するインフラなどに関するモデル事業を行うことを推進している。こうした企業を中心に、サプライチェーン構築を進めていく狙いがある。2020年9月に発表された「モデル都市の通知」の解説外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます で、同通知の目的として、「国内のサプライチェーンに基づく主要部品の産業応用を加速させ、また、国内企業を中心に水素関連のサプライチェーンを積極的に構築していくため」と説明している。

外国企業も積極的な関与を示す

これに対して、日米欧韓などの外国企業も、中国での水素エネルギーに関する取り組みにおいて、中国企業との提携を進めるなど動きを活発化させている。日本企業については、2020年6月にトヨタ自動車が、第一汽車、東風汽車、広州汽車、北京汽車、北京億華通科技と商用車向けの燃料電池システム開発を行う合弁会社を設立するなどの動きが見られる。これ以外にも、2020年12月にオンラインで開催された「第14回日中省エネ・環境総合フォーラム」において、水素分野における日中企業間のプロジェクトが3件調印された。さらに2020年11月に、双日が山東省における水素サプライチェーン構築に向けた調査を実施するなど、日本企業が中国で水素エネルギー関連のプロジェクトを実施するケースも多く見受けられる(表1参照)。

表1:日本企業の関与する主なプロジェクト
発表時期 日本企業 中国企業 プロジェクト概要
2020年6月 トヨタ自動車 第一汽車、東風汽車、広州汽車、北京汽車、北京億華通科技 商用車向けの燃料電池システム開発を行う合弁会社を設立。
2020年11月 双日 — 水素の輸送・貯蔵時における課題解決のための調査を実施。
2020年12月 丸紅、日揮 巨化集団 副生水素を利用した工場低炭素化実装に関する協力を実施。
2020年12月 エネルギー・環境グローバルコンソーシアム 湖南核電 水素分野での事業促進に関する協力を実施。
2020年12月 CMI 吉林省国際能源投資 新エネルギーの利用拡大による水素発展への取り組み協力を実施。
2021年2月 東芝(中国) 鴻達興業 水素エネルギーの応用分野とチャネルを拡大。
2021年4月 長州産業 — 水素ステーション関連設備の工場を建設。

出所:各種発表よりジェトロ作成

欧米企業については、石油会社のロイヤル・ダッチ・シェルが中国で水素ステーション事業を手掛ける合弁会社の設立、ガスメーカーのエア・リキードが水素輸送に関する分野で積極的に中国企業と協力を進めている(表2参照)。一方で、韓国企業については、現代自動車がFCV乗用車の「NEXO」を販売している強みを生かし、中国におけるFCVの普及に力を入れている。同社はFCVシステムの工場を建設し、またFCVの商用車の展開を中国企業と協力して進めるなど、強みを生かして積極的な姿勢が見られる。

表2:欧米韓企業の関与する主なプロジェクト
発表時期 国名 欧米韓企業 中国企業 概要
2020年9月 米国 デュポン(中国) 上海重塑能源科技 水素燃料電池のシステム、部品材料の応用に関する分野の協力を強化。
2020年10月 韓国 現代自動車 上海電力、上海舜華新能源系統、上海栄華融資租賃 水素ステーションと水素生産設備の建設、FCVに関する金融サービス推進を通じ、2025年までに長江デルタ地区で3,000台以上の現代自動車のFCVトラックを普及させる。
2020年11月 韓国 現代自動車 中国鉄鋼集団安泰科技、河鋼集团河北鋼鉄工業技術服務 水素ステーション建設とFCVトラックのモデル運行により、2025年までに北京や天津地区で1,000台以上の現代自動車のFCVトラックを普及させる。
2020年11月 米国 エアープロダクツ 浙江省嘉興海塩経済技術開発区 水素製造からステーションまでの水素エネルギーに関するコア技術の開発を経済技術開発区で行う。
2020年11月 オランダ ロイヤル・ダッチ・シェル(殻牌(中国)) 張家口交通建設投資 水素ステーション事業を手掛ける合弁会社を設立。
2020年12月 ドイツ ボッシュ中国 慶鈴汽車 燃料電池自動車向けのバッテリー研究開発と生産販売のための合弁会社を設立。
2021年3月 韓国 現代自動車 — 広東省広州市に燃料電池システムの生産工場、研究開発センターを建設。
2021年3月 フランス エア・リキード(中国) 浙江衛星石化 浙江省平湖市に液体水素を生産するプラントを共同で建設。

出所:各種発表よりジェトロ作成

中国では、水素ステーションの建設やFCVバスの運行、燃料電池システムや部品に関する企業間の協力など、水素燃料電池や水素エネルギーを巡る状況は目まぐるしく変化している。中国企業も、「ロードマップ2.0」と呼応すべく水素導入・振興に関する計画をたてている。例えば、中国石油化工集団が第14次5カ年計画期間中に、中国全土に水素ステーションを1,000カ所建設する計画を発表するなど積極的な導入や整備に乗り出している(表3参照)。

表3:中国企業の主なプロジェクト
発表時期 企業名 概要
2020年9月 上海汽車 2025年までにFCVを少なくとも10モデル投入、FCVの生産・販売規模を1万台にする。
2020年12月 北京汽車集団、山西中徳集団 FC大型トラックとFCVの導入と開発のための協力。
2021年3月 長城汽車 2021年、FCVの大型トラックを世界で100台販売。2022年冬のオリンピックでハイエンドSUV乗用車を提供。
2021年4月 中国石油化工集団 「第14次5カ年計画」期間中に、中国全土に水素ステーションを1,000カ所建設。重慶市には5年以内に30カ所建設。
2021年4月 東風汽車 中国石油化工集団とFCV、水素エネルギー産業におけるサプライチェーン構築、広東省仏山市とFCVモデル区の運営で協力することに合意。

出所:各種発表よりジェトロ作成

中国における2020年末時点でのFCV導入台数は7,355台、運営中の水素ステーション数は101カ所となっている。「ロードマップ2.0」では、2035年にFCVの導入台数を100万台、水素ステーション数は設置数の制約を突破して、都市をまたぐ運行を可能にするという目標を掲げている。水素ステーションの数値目標は明示されていないものの、2020年末時点で167カ所が建設中および計画中とされており、2035年に向けて相当数のステーションが設置されるものと思われる。

民間団体の水素エネルギー連盟が2019年に発表した「中国水素エネルギーと燃料電池産業白書」では、中国における水素エネルギー産業の規模について、2025年には1兆元(約16兆円、1元=約16円)、2035年には5兆元に達すると見込んでいる。

今後は、モデル都市を中心にFCVの導入や水素ステーションの建設が集中的に進む可能性がある。主要企業を中心としたコア部品、関連素材などのサプライチェーンの構築なども進む可能性があり、巨大な市場を巡って、企業の動きがより一層活発になると思われる。

執筆者紹介
ジェトロ・上海事務所 経済信息・機械環境産業部長
高橋 大輔(たかはし だいすけ)
1997年経済産業省入省、国際関係、エネルギー・環境関係部署、製造産業局自動車課(2016~2018年)を経て、2018年6月よりジェトロに出向し現職。

この特集の記事

世界

アジア大洋州

北東アジア

米州

欧州ロシア

※欧州(EU)については、次のビジネス短信特集や調査レポートを参照してください。

中東アフリカ