特集:グリーン成長を巡る世界のビジネス動向排出削減に取り組まないことが「リスク」に
世界の中小企業における排出削減の取り組み(後編)

2021年12月16日

世界の中小企業が取り組む排出削減について、2回に分けてみるシリーズ。「前編:省エネなどの温室効果ガス排出削減、中小でも」では、企業規模による取り組みの違いや、さまざまな業種における中小の排出削減の取り組み事例を紹介した。続く本稿では、目標を設定して温室効果ガス(GHG)排出削減に取り組む例や、ビジネスとして排出削減に取り組む例を取り上げ、日本の中小企業が排出削減に積極的に取り組める方法を模索する。

経済合理性と「戦略」「目的」が、中小における排出削減のきっかけ

中小企業はどのようなきっかけがあれば、排出削減に取り組むのか。国営の英国ビジネス銀行が英国中小企業(の経営者や幹部)に対して実施したアンケート調査によると、カーボン・ニュートラルに向けて取り組むためのきっかけについては、「経済合理性(がある)」(51.0%)が最も大きく、「低炭素ビジネスが自社の戦略や目的の一部」(46.0%)が続く(図1参照)。なお、同銀行の分析によると、「受注機会への対応」(31.0%)や「競争力の確保」(28.0%)と回答した企業の多くは、「経済合理性」も選択していた。カーボン・ニュートラルに向けて取り組むことで、長期的に収益につながる(採算が取れる)との見通しが(取り組むにあたり)必要である、との認識が根強いといえる。

図1:英国中小企業がカーボン・ニュートラルに向けて取り組むためのきっかけ(複数回答)
単位は全て%。経済合理性(がある)は、51.0。低炭素ビジネスが自社の戦略もしくは目的の一部は46.0。その他の理由は、44.0。その他のビジネス上の利点は、33.0。受注機会への対応は、31.0。競争力の確保は、28.0。法規制や税制改正への対応は、24.0。

注1:回答企業数は1,027社。回答企業は取り組む最大要因を3つずつ回答。
注2:調査実施時期は2021年8~9月。
出所:英国ビジネス銀行より作成

一方、「低炭素ビジネスが自社の戦略もしくは目的の一部」(46.0%)は、「経済合理性」の次に割合が大きい。低炭素ビジネスを自社の「戦略」にするということは、脱炭素化に向けた中長期の目標を立てることを指す。低炭素ビジネスを自社の「目的」にするということは、本業において排出削減に貢献することを指す。次に「戦略」「目的」に該当する世界の中小企業(新興企業含む)の例をみていく。

ワインメーカー、日本酒にも当てはまる「発酵」「ガラス」で排出削減

まず、低炭素ビジネスを自社の「戦略」として、排出削減の目標を立てて取り組む企業を紹介する(表1参照)。オーガニック・ハーブティーメーカーのパッカハーブス(英国、注1)は、2030年までに自社のGHG排出を2017年比で100%削減する目標を掲げる。同社は、オフィスで消費する電力を100%再生可能エネルギー由来にするなどの取り組みなどを行うが、「2030年までの排出実質ゼロのために必要な削減量の50%分しか排出削減方法を見つけられていない。さらなる排出削減を行うための全ての対応方法を現時点ではまだ持ち合わせていないが、とにかく(排出削減に向けた)取り組みを開始した」(同社2020年インパクトレポート)と説明している。

また、同社は、スコープ3(注2)に相当する、自社以外でのGHG排出を2030年までに50%削減するとの目標も持つ。同社からのGHG排出のうち、最も排出割合が大きいのが、(消費者の消費段階である)ケトルによる湯沸かしで、全体の39%を占める。同社によると、消費者は必要量の平均2倍の湯を沸かして、紅茶を飲んでいるという。同社は、(1)ケトルでの必要量だけの湯沸かし、(2)湯沸かしに使うエネルギーを再生可能エネルギーに切り替え、(3)省エネ仕様のエコ・ケトルの使用、の3点を消費者に呼びかけている。なお、(3)の「エコ・ケトル」の考え方は、省エネを売り文句にする家電製品(メーカー)と、消費者による消費段階(スコープ3の下流)での排出を削減させたい飲食料品(メーカー)とのコラボ(によるビジネスチャンス)のヒントにもなりそうだ。

イタリア・シチリア島のワインメーカーのタスカ・ダルメリータは、シチリア島内の複数のワインメーカーとともに、サステナブルなワイン生産プログラム「シチリア・ソステイン(SOStain)基金」に参加している。同プログラムが掲げる10条件の中に、GHG排出削減につながる条件が含まれている。条件の1つに、ワインの生産工程におけるエネルギー消費量を1リットル当たり0.7キロワット時(kWh)以下にする、というものがある。タスカ社によると、ワイン生産時の電力消費で大きい割合を占めるのがアルコール発酵(41.6%)や、ボトリングと配送(18%)。ワインの発酵段階では、部屋の温度を一定に保つ必要があり、そのためにエネルギーを消費する。同社では、エネルギー効率化と、オフィスと倉庫における太陽光発電(自家発電)の導入により、(グリッドから購入する)電力消費量を抑えている。太陽光発電の導入により、2011~2020年の10年間で1,720.5トン[二酸化炭素(CO2)換算]の排出削減を実現した。

他にも、同プログラムでは、(非発泡性ワインの)ワインボトル[750ミリリットル(ml))を1本あたり年間平均550グラム以下にする、という条件がある。同社は、360グラムのガラスボトル1本を生産するのに、320グラムのCO2を排出すると指摘しており、ガラスボトル1本の生産に、ほぼ同量のCO2が排出される計算になる。そのため、同社ではガラスボトルの軽量化に努めており、軽量ワインボトルの使用割合(2020年)を2018年比で33%増の172万ボトルに引き上げ、120.52トン(CO2換算)の排出削減につなげた。また、同社で使用するワインボトルの7~8割(白ワイン用などの透明ボトルを除く)がリサイクルガラスとなっている。「(米こうじの)発酵」「ガラス(容器)」という点では、日本の清酒メーカーなどにも参考になる取り組みといえる。なお、同社のサステナビリティ・レポートの末尾数ページには「アンサステナビリティ(Unsustainability)・レポート」として、1年間を振り返り、サステナビリティに関する取り組みのうち、達成できなかったことや今後の課題についてまで、そのままさらけ出している。

サニー・フィールズ・エンタープライズ(英国)は、ベビー食品ブランド「リトル・フレディ」を展開する。同社は、2030年までの排出実質ゼロの目標達成に向け、容器のリサイクル、輸送時の排出削減、余剰食品削減などに取り組む。容器のリサイクルについては、使い終わったパウチ(容器)を消費者から回収(し、リサイクル)している。消費者は返送用の専用袋(消費者が別途購入)に、自社製品(他社製品も可能)のベビー食品容器(パウチ)を入れて、郵便ポストに投函するだけである。このリサイクルにより、埋め立ての場合と比べて90%のGHG排出削減につながるという。輸送時の排出削減については、ヨーグルト製品の英国内での輸送時に、航空機を使わず、船と鉄道(マルチモーダルシフト)を実験的に利用し、56%のGHG排出を削減した。また、同社倉庫で売れ残った食品(余剰在庫)については、英国の慈善事業団体フェリックス・プロジェクトを通じて、学校や新型コロナウイルスに感染して自己隔離中の家庭(小さい子供がいる世代)などに無償で提供した(2020年は同団体を通じて1万5,230食分を提供)。また、消費期限直前の食品については、動物飼料や(廃棄物処理工場における)エネルギー活用向けに提供した。

表1:世界の中小企業における排出削減の目標と取り組み
企業 分野 排出削減の目標 排出削減に向けた取り組み
UMC
(アラブ首長国連邦)
塗装アルミニウム・スチールコイル製造 2030年までに、自社の生産施設におけるCO2排出を実質ゼロ
  • エネルギー効率化
  • 再生可能エネルギー利用
パッカハーブス
(英国)
オーガニックハーブティー等製造販売
  • 2030年までに、自社のGHG排出(直接、間接)を100%削減(2017年比)
  • 2030年までに、自社以外でのGHG排出を(ティーバッグ100万個当たり)50%削減(2017年比)
  • 自社オフィスの消費電力を100%再生可能エネルギー
  • 消費者に対する必要量の湯沸しの呼びかけ
タスカ・ダルメリータ
(イタリア)
ワイン製造 ※シチリアSOStain基金が定める10条件
  • 生産工程におけるエネルギー消費量を1リットルあたり0.7kWh以下
  • (非発泡性の)ワインボトル(750ml)1本あたり年間平均550グラム以下
  • エネルギー効率化と自家発電(太陽光)
  • 軽量ワインボトルの使用(2020年)を2018年比で33%増の172万ボトルにし、120トンのCO2排出を削減
サニー・フィールズ・エンタープライズ
(英国)
ベビー食品等製造
  • 2030年までに排出実質ゼロ。
  • 2021年のCO2排出量を2020年比で30%削減。
  • 2025年までに、容器等をすべて再利用、リサイクル、コンポスト(堆肥)可能なものにする。
  • 自社の余剰食糧を毎年10%ずつ削減。
  • プラスチック容器のリサイクルのため、使用済み容器を郵送で回収(その他の廃棄方法に比べ90%のCO2を削減)。
  • ヨーグルト製品の英国内輸送で、航空機を使わず、鉄道と船舶を利用(これによりCO2を56%削減)。
SKFK
(スペイン)
アパレル
  • 2025年までに、スコープ1と2におけるGHG排出量を2017年比で37%削減、スコープ3を同15%削減。
※スコープ3に関する個別目標
  • 2025年までに、布や縫製等のサプライヤーの事業所における再生可能エネルギー利用比率を20%。
  • 2025年までに、無染色の布利用を20%。
  • 2025年までに、サプライヤー等の生産拠点の地域割合の比重を中国(75→25%)からインド(20→45%)や欧州・北米(5→30%)に移す(スペインから短距離に)。
  • 2025年までに、100%オンライン販売に切り替え。
  • 2019年は従来型の衣服に比べ2,132トンのCO2を削減(自社商品と従来型商品とでCO2排出削減量を比較)。
  • 同社のスペインとフランス全事業所で100%再生可能エネルギー利用を2020年に達成。
  • (航空輸送や長距離トラックを使わず)海上輸送か短距離トラックで輸出(同社は38カ国で販売)。

出所:各社ウェブサイト等より作成

大企業相手に排出削減ビジネスを行う中小の例も

次に、低炭素ビジネスを自社の「目的」として、本業において排出削減に貢献する中小企業の事例をみていく(表2参照)。ワン・クリック・LCA(フィンランド、2021年7月にビオノヴァから社名を変更)は、建物のライフ・サイクル・アセスメント(LCA)を自動で定量的に評価することで建物の排出削減につなげるソフトウエアを開発する。同社はフランス建設大手ブイグ子会社との連携や、セメント大手ラファージュホルシム(スイス)との取引など、建設業界のグローバル企業を相手に実績を積み重ねている。

ワンダーバッグ(南アフリカ共和国)は、一度沸騰させて調理した料理(煮込みなど)を鍋ごと保温調理カバーに入れることで、追加での点火なしに最大12時間の調理が可能な保温調理カバーを生産している。特に、アフリカなどの未電化地域では、調理時に電気やガスではなく、周辺の森林を伐採してまきを燃料にしているところが多い。国際エネルギー機関(IEA)によると、設備の整った台所施設を使える人口割合(2018年)はサブサハラアフリカ地域(サハラ砂漠以南のアフリカ諸国)で17.0%と著しく低い(先進国を除く世界平均は同65.1%。なお、北アフリカは同97.8%)。同カバーを使って煮込み料理を行えば、調理のための燃焼時間を圧縮でき、排出削減につながる。また、他にも(燃料となる木材の消費量が少なくて済むため)森林保護、(屋内調理で発生する煙による)健康リスクの低下、(森林伐採時間や調理時間の短縮による)生産性の向上などにもつながっている。

表2:排出削減に貢献する、世界の中小企業のビジネス事例
企業 分野 商品・サービス概要 実績等
ワン・クリック・LCA
(フィンランド)
環境配慮建物設計用ソフトウエア開発 同社開発のソフトウエアにより、建物のライフ・サイクル・アセスメント(LCA)を自動で素早く算出し、建物における排出削減を促す。LEEDやBREEAMなどの主要認証等にも対応。 フランス建設大手ブイグ子会社と連携し、同社の全世界のサプライチェーン(取引先)における排出削減を支援(2021年5月)。
エクスクール
(英国)
データセンター冷却システム製造 高いエネルギー効率でデータセンターを冷却し、冷却に必要なエネルギーや水の量を削減。 中国(深圳)のSZZTエレクトロニクスの新たなデータセンター(8MW)向けに冷却システムを納入(2020年8月)。
シェンチェン・パワー・ソリューション
(中国)
ポータブル太陽光発電製品製造・開発 ソーラーパネルを利用したランプや家電製品。ターゲットは未電化地域の低所得者層で、ろうそくや灯油ランプ等の利用を削減し、排出削減にも貢献。 創立から15年で、65カ国の514万世帯に商品を販売し、387万トンのCO2を削減。
ワンダーバッグ
(南アフリカ共和国)
保温調理カバー 一度沸騰させて調理した料理(煮込み等)を鍋ごと保温調理カバーに入れることで、火を使う時間を短縮しながら料理を作ることが可能。特に未電化地域など、調理用の燃費(木材等)を最大8割削減し、排出削減にも貢献。 同社の排出削減分で、チキン専門ファーストフードチェーンNando's(南ア)がカーボンオフセット(2021年5月)。
エンヴァル
(英国)
プラスチック容器リサイクル パウチ(プラスチック二層とその間のアルミ箔からなる袋)をリサイクル処理をする技術を持つ。これによりプラスチック容器の埋め立て回避に貢献。 クラフト・ハインツ(米国・食品)などのプラスチック容器のリサイクルを強化するプロジェクトを立ち上げ(2021年2月発表)。

出所:各社ウェブサイト等より作成

新興企業、コスト削減と排出削減を同時に実現

排出削減につながる社会課題解決に取り組むスタートアップなど新興企業も、本業において排出削減に貢献している。例えば、食品廃棄削減や建物の省エネは、排出削減に貢献するだけでなく、事業ロス(ビジネス上の「ムダ」)を抑えるため、顧客のコスト削減にもつながり、新興企業にとってもビジネスとして成立しやすい(表3参照)。食品廃棄物は、CO2の25倍以上の温室効果があるメタンガスを多く排出する。世界のGHG排出量の8%程度が食品廃棄物からの排出とされている[国連食糧農業機関(FAO)]。世界の食品廃棄物(2019年)の61%は一般家庭から排出されるが、残りの約4割は食品サービス(26%)や小売り(13%)からの排出のため、ビジネス分野における食品廃棄削減は大きな課題である。ウィノウ・ソリューションズ(英国)は、商業キッチンにおける食品廃棄削減に貢献する。残飯を廃棄する箱の上下にカメラと秤(はかり)を設置し、AI(人工知能)により廃棄される品目や重量を把握し、それを表示する。食品廃棄状況を可視化することで、利用者に廃棄量削減を促す。利用者は使用する食材の量を調整し、節約とCO2削減を同時に達成できる。イケア(レストラン)やアコーホテルズ、マリオットなど、レストランやホテルの厨房(ちゅうぼう)で利用されている。

レストランやケータリングサービスのソプシェーケット(スウェーデン)は、スウェーデンの食品スーパーマーケットICAなどで廃棄対象となる食材を使って食事を提供し、食品廃棄削減に貢献している。同社名はスウェーデン語で「ごみキッチン」という意味であり、まさに社名そのままの活動といえる。

建物や建築部門で発生するCO2の約半分は、建物使用時の電力や熱による[(国際エネルギー機関(IEA)]。冬の寒さが厳しい欧州では、中央暖房(セントラルヒーティング)が一般的だが、暖房における省エネ(を通じたCO2排出削減)は優先課題となっている。ヴィリスト(ドイツ)は、センサーを設置し、部屋に人がいないことを認識して温度を自動調整するソリューションを提供する。オフィス・エネルギー消費量を30%程度節約することが可能となる。社員はオフィスのエネルギーコスト削減には関心がない一方、人のいないオフィスでもセントラルヒーティングは稼働している点に着目。特にコロナ禍で在宅勤務者が増え、オフィスのエネルギー効率化ニーズは高まる。

表3:食品廃棄削減や建物の省エネで活躍する新興企業
取り組む課題 企業 分野 商品・サービス概要
食品廃棄(フードロス)削減 ウィノウ・ソリューションズ
(英国)
AI 食品廃棄時に、カメラと秤(はかり)を使用してAIが食品の品目と重量を把握。食品廃棄を可視化することで、利用者(レストランやホテルなど)は廃棄量削減に努め、節約とともにCO2削減を達成。
トースト・エール
(英国)
ビール生産 廃棄される大量のパンの一部をビール製造に使用。
ソプシェーケット
(スウェーデン)
レストラン、ケータリング スーパーマーケットやその他企業から調達した廃棄対象となる食材をつかうことで、同社で提供する食事の材料を50%削減することを目標。
建物の省エネ ヴィリスト
(ドイツ)
AI センサーを設置し、部屋に人がいないことを認識して温度を自動調整する。中央暖房(セントラルヒーティング)によるエネルギーを3割節約。コロナ禍で出勤者が減ったオフィスを抱える法人顧客向け等。
タド
(ドイツ)
ソフトウエア 冷暖房システムをインターネットに接続することで、部屋ごとにスマホで温度等を管理。窓の開閉や住人の住居への帰宅・出発を感知し、効率的に温度を調整する。エネルギー消費量を最大31%節約。個人客向け。

出所:各社ウェブサイト等より作成

EUの3分の2の消費者は「高くてもエコ商品を購入」と回答

排出削減などの環境面への対応により、その分だけコスト高となり、商品・サービス価格への上乗せとなる場合があるが、マーケット(地域)によっては、その状況が受け入れられつつあるようだ。欧州委員会の「消費者事情調査」によると、「価格が高くても環境にいい商品を購入するか」との質問に「購入する」と回答した人の割合が、EU平均で67.0%だった(図2参照)。図1で触れた「経済合理性」に向けて、消費者側から「歩み寄る」姿勢であるとも捉えられる。

図2:「価格が高くても環境にいい商品を購入する」と回答した人の割合(EU加盟国の一部)
単位はすべて%。マルタ、83.0。オーストリア、82.0。ルクセンブルク、81.0。アイルランド、79.0。ルーマニア、76.0。英国、75.0。ドイツ、73.0。ブルガリア、72.0。イタリア、72.0。ハンガリー、72.0。ベルギー、68.0。ポーランド、68.0。EU平均、67.0。スペイン、65.0。フランス、64.0。スウェーデン、61.0。チェコ、50.0。オランダ、42.0。

注1:回答者数は各国1,000人(一部の国を除く)。
注2:調査実施時期は2020年10月21日~12月1日。
出所:欧州委員会「消費者事情調査」より作成

前編と後編にまたがり、中小企業における排出削減の目標や取り組み、そして、排出削減のビジネスについて、できるだけ多くの業種の事例を取り上げた。排出削減への取り組みは、欧米などの先進国を中心に中小企業でも広がりをみせている。企業の業種やビジネスモデルによって排出削減の方法が限られるだろうが、場合によっては、異業種の事例を参考に、試しに取り入れてみるのもいいだろう。筆者がとある団体における講演で、表2のワンダーバッグの事例を紹介した際、参加者の1人から「保温調理カバーの発想は、金属加工にも応用できるのかもしれない」という反応をいただいたことがあった。

また、これらの事例をお読みいただいた企業(読者)の中には、「自社ですでに対応済みの取り組みがあったが、特にその事実を積極的に公表してこなかった」という企業もあるだろう。加速度的に脱炭素化にかじを切る先進国などの海外市場を目指す場合、公表しないことの方が(環境対応を行う)競合企業にマーケットを奪われるリスクが今後あることを認識する必要がある。新興国でも、気候変動対応に関心の高い若年層の人口割合が大きい分、購買力さえ追いつけば、特に現地消費者向けの商品やサービスでは先進国と同じ状況となるのは時間の問題であろう。ただ、日本国内においては、何らかの理由から、自社が排出削減に取り組んでいることを積極的に公表したくないということがあるかもしれない。その場合は、自社の外国語版のウェブサイトにだけ、排出削減に向けた取り組みについて情報公開するという手法もある。

一方、これまで排出削減に一切取り組んでいないという中小企業でも、前述のパッカハーブスのように具体的な達成手段を見つけられていなくても、先に目標を設定してみると、行動が追いつくかもしれない。もう少し地道に取り組みたいという場合は、前編の表記載の事例のように、取り組めそうな内容からひとまず着手し、取り組んでいること自体をウェブサイトなどで公開するだけでも意識が変わるかもしれない。

また、新たに取り組みに着手しなくても、実は知らない間に取り組んでいた、ということがあるかもしれない。デジタル化への対応やコロナ禍での取り組みなど、一見、脱炭素化と無関係そうな案件でも、視点を変えれば排出削減に貢献しているといえそうものが見つかることもある。過去や現在の取り組みを「棚卸」してみて、排出削減の取り組みとして示せそうなものがないか振り返ってみて、書き出してみるのも一案である。

本業で排出削減に貢献する中小企業や新興企業の中には、表2や表3で取り上げたように、ビジネス相手が大企業という事例もいくつかみられた。スピード感を持って脱炭素化に取り組む大企業にとっては、技術やアイデアを持つ中小企業やスタートアップとの連携がますます重要となってくる。大企業が抱える脱炭素化の課題にしっかりと向き合えば、中小企業や新興企業でも、大企業を相手にした排出削減ビジネスの機会をつかむことも可能だろう。


注1:
同社は、2017年に消費財大手ユニリーバ(英国)に買収されているが、2001年の創業時からサステナブルな取り組みを続けているため、本稿では中小の事例として取り上げている。
注2:
サプライチェーンにおけるGHG排出量の算定で、カバーする範囲に応じて3つのスコープに分けられるが、そのうちスコープ3は事業者の活動に関連する他社の排出を指す。詳細は2021年11月19日付地域・分析レポート参照
  1. (前編)省エネなどの温室効果ガス排出削減、中小でも
  2. (後編)排出削減に取り組まないことが「リスク」に
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課 課長代理
古川 祐(ふるかわ たすく)
2002年、ジェトロ入構。海外調査部欧州課(欧州班)、ジェトロ愛媛、ジェトロ・ブカレスト事務所長などを経て現職。共著「欧州経済の基礎知識」(ジェトロ)。

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