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特集:グリーン成長を巡る世界のビジネス動向サプライチェーンにおける排出削減の取り組み(後編)日本の大企業が抱える排出削減の課題とは

2021年11月19日

脱炭素化に向けた企業の取り組みとサプライチェーン上の排出削減の課題について、2回に分けてみるシリーズ。「前編:先進的グローバル企業、排出削減を急ぐ」では、先進的なグローバル企業の二酸化炭素(CO2)など温室効果ガス(GHG)の排出削減に向けた取り組みを紹介した。続く本稿では、サプライチェーンを通じて排出削減を進める上での課題を論考する。

サプライチェーン含む目標設定企業は少数

サプライチェーンにおけるGHG排出量の算定は、カバーする範囲に応じて3つのスコープに分けられる。具体的には、まず「スコープ1」が、事業者自らによるGHGの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)。「スコープ2」が、他社から供給された電気や熱・蒸気の使用に伴う間接排出。さらに「スコープ3」が、スコープ1とスコープ2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)だ(環境省ウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。先進的なグローバル企業の多くは、スコープ3まで含めた「カーボンニュートラル」を宣言している。すなわち、サプライチェーン全体で排出を抑制していくということだ。

そうしたグローバル企業は、先行して気候変動対策に取り組んでいる。しかし大企業といえども、対象とする排出削減の範囲や目標年(スピード感)は個々の企業の方針や業種によっても異なる。世界の大企業を対象にした国際エネルギー機関(IEA)の分析(2021年2月時点)によると、業種(もしくは企業)によって排出削減に向けた取り組みの優先対象範囲が異なることがうかがえる(図1参照、注1)。テクノロジーなど一部の業種を除くと、サプライチェーン上の排出削減を伴うスコープ3を含めて「カーボンニュートラル」を宣言する企業は、限定的といえそうだ。

図1:「カーボンニュートラル」宣言を行った世界の大企業の割合(業種別)
【スコープ 1+2+3】、【スコープ1+2+「3の一部」】、【スコープ1+2】、【目標設定なし】の順に、冷暖房は31%、26%、16%、28%。セメントは0%、20%、48%、32%。陸上輸送は25%、27%、12%、36%。電力は0%、28%、34%、38%。テクノロジーは51%、0%、9%、40%。鉄鋼は0%、0%、50%、50%。航空旅客は0%、0%、38%、62%。航空機は0%、0%、37%、63%。船舶運航は0%、0%、34%、66%。石油・ガスは4%、7%、15%、75%。輸送物流は8%、9%、0%、83%。建設は0%、2%、6%、92%。

注1:「3の一部」は、スコープ3の一部(地域、項目など)に取り組む企業。
注2:陸上輸送、電力、航空旅客の3業種は、計上手法上、単純に合計して100%にならない。そのため、単純に足し上げた数を当該業種の全体(100%)として、そこから百分率を導き出した比率を計算している。
注3:各業種の世界の大企業10~25社の企業情報をベースに分析(2021年2月時点)。
出所:国際エネルギー機関(IEA)データを基に作成

サプライヤーとの意識の違いや排出量算定が課題

GHG排出削減に関する先進的な取り組みを行う企業数でみて、日本企業はトップグループに位置する。GHG排出削減の目標設定を促すSBTイニシアチブ(2021年9月24日付地域・分析レポート参照)によると、同イニシアチブに参加する日本企業は167社(2021年10月26日現在)。これは、英国、米国に次いで多い。このイニシアチブの下では、一定の条件を満たせばスコープ3の目標設定は必要ない。にもかかわらず、参加企業の多くがサプライチェーンを含む目標設定を行っている。また、目標を設定しないで排出削減に取り組む日本企業もある。ただ、サプライチェーンにおける排出削減に取り組むこれらの日本企業でも、サプライチェーン全体での排出削減の取り組みには課題があるようだ。

サプライチェーンでの排出削減の取り組みの難しさは、どこにあるのか。ジェトロが2021年10月に実施した各社へのアンケートによると、海外ビジネスを行う日本の大企業から、サプライヤーや協力企業への関わり方、排出量の算定(上流、下流)など、排出削減以前の段階に関するコメントが寄せられた(表1参照)。サプライヤーや協力企業の排出削減に対する意識と調達側企業の意識との間に温度差があるなど、排出削減に向けた取り組みの初期段階での課題も指摘される。

一方、排出量の算定に関する課題については、サプライチェーンにおける排出削減に取り組むために必要となるサプライヤーなど各社・各製品の排出量の現状を定量的に正確に評価できていない点が指摘されている。特に、サプライヤーなど上流での正確な排出量の算定ができていないとのコメントが目立つ。苦悩しながら取り組んでいる様子がうかがえる。また、製品・サービスの使用段階での排出が多い場合は、下流も含めた製品・サービスのライフサイクル全体で排出量をどう算定するのかなども、課題だ。

表1:日本企業のサプライチェーンにおける排出削減に向けた取り組みに関する課題
項目 課題に関する具体的なコメント
サプライヤー・協力企業への関わり方
  • 「協力企業には、ISO14001とか温室効果ガスの話をしても、なかなか自分事への落とし込みの感覚を得ていただきにくかった」(ゴム)
  • 「現在、(サプライチェーンでの排出削減の)取り組みは行っていないが、どこまでサプライヤーの中に入りこむべきか等が課題」(ガラス・土石)
排出量の算定
(スコープ3の上流での排出)
  • 「サプライチェーンのうち、上流に関しては、調達品のサーベイに限界」(電気・ガス)
  • 「(自社の)ロジスティクス部門が輸送会社に対して環境配慮を求める取り組みを行っていると思うが、設計部門として直接同様の取り組みは行っていない。また、(調達部門が)メーカーから物を購入する際に『グリーン調達』として環境に配慮した設計・製造方法であることを求めているが、これを定量化して(社内で)評価できているか不明」(機械)
  • 「サプライヤーでのGHG排出量を正確に見積もることが難しく、主要なサプライヤーに対しての調査を実施してその結果から算出している」(化学)
  • 「サプライチェーン排出削減における最大の課題は排出量が正しく算定できていないこと。算定しているが、取引先が自社の排出量を把握していない、または製品ごとの排出に分解できないことから、一般的に使われている排出係数×活動量で算出している例が多い。この排出係数が古く、実態に合っていないことが多い。特にリサイクル商流がある場合は、リサイクル材料がどのように分配されるかによるため複雑。(また、)サプライチェーンの取引先が複数の別の企業と取引関係にある場合、どのように排出量を分解すべきなのかがわからない」(飲料品)
排出量の算定
(スコープ3の下流での排出)
  • 「販売した不動産の(使用も含めた)ライフサイクル排出の把握が難しい」(不動産)
  • 「製品使用段階での排出が最も多く、取引先支援が達成に向けてのキーである」(電気機器)

出所:ジェトロが2021年10月に実施した各社へのアンケートから作成

海外でビジネスを進める日本企業の中には、新興国にサプライヤーを持つ企業もある。その中には、「(新興国も含め)海外では現地企業と必ずパートナーシップを結ぶ。ESG(環境・社会・ガバナンス)アウェアネスの高い企業に恵まれている」(不動産)と、新興国も含めた海外サプライヤーと順調に排出削減に取り組むことができている日本企業もみられる。しかし多くの日本企業は、新興国のサプライヤーとの関係で課題を抱えている(表2参照)。排出削減への取り組みを「コスト」と捉え、取り組みに理解をしてもらえなかったり、理解をしてもらえても優先順位の関係から取り組みにまで至っていなかったりという課題があるようだ。

表2:日本企業のサプライチェーンにおける排出削減に向けた取り組みに関する課題(新興国)
項目 課題に関する具体的なコメント
「コスト」との認識(またはそれによる優先順位の劣後)
  • 「日本やその他の先進国では、サプライチェーンの取り組みは理解されやすいが、新興国での理解はなかなか得られない。またコストとの問題も避けて通れない課題」(ガラス・土石)
  • 「利益につながらないと協力が得られにくい。単にESGだけでは動かない」(海運)
  • 「投資利益率(ROI)を厳密に求められることが多く、現時点では『コスト』となるESGへの意識にばらつきがある」(電気機器)
  • 「特に開発途上国においては、再エネ発電の促進もさることながら、発電量の増加とコスト低減に主眼があるように思われる」(電気・ガス)
  • 「全体を通して言えることとしては、先進国ではある程度インフラも整っており、社会に余裕がある分、環境に対する意識も高くなりますが、途上国では経済や社会の発展の方が最優先であり、環境はその次であるとの印象を受けます。これらの国々のメーカーに対して環境配慮を要求しても、なかなかその意義や重要性を理解してもらうことは難しい」(機械)
その他
  • 「高効率機器を見極める技術力、使う技術力がない」(電力、ガス)
  • 「 新興国に関しては、再エネを導入するためのオプションが少ない。また、電力のGHG排出原単位などが整備されていない」(電気機器)
  • 「国ごとの法整備やインフラ整備の進捗状況の確認など日本ではタイムリーにわからない点が多い。当社事業の関係では特に(進出国で)車両のEV化をどのタイミングでどの程度進めなくてはならないのかが不明」(物流)

出所:ジェトロが2021年10月に実施した各社へのアンケートから作成

表2のコメントにもあるように、経済成長を重視する新興国にとって、発電量そのものが不足していれば、発電量の増加の方がより優先される政策になりうる。その結果、GHG排出量が大きい化石燃料をベースに発電量の増加を進めると、排出削減の取り組みに逆行してしまう。ほかにも、乾季と雨季の気候区分の違い、未電化地域の存在など、新興国企業と先進国企業とは前提条件が異なる場合がある。「(新興国においては)エネルギー源がGHG排出の大きいものが多く、エネルギー原単位の削減をすることでGHG排出量の削減を目指す傾向にある。ただ、そのようなサプライヤーの個別企業努力には限界がある」(化学)との指摘もみられた。このように、新興国のサプライヤーの取り組みに行き詰まりを感じる企業もある。

サプライヤー企業が気候変動対応しなければ、取引関係に影響も

サプライチェーンのGHG排出削減に関する日本企業の取り組み状況と課題は、ここまで述べたとおりだ。一方で、他国企業はサプライチェーン内でどのように対応しているのか。

ドイツ商工会議所が2021年6月に実施したアンケート調査では、サプライヤーや顧客に影響を及ぼす排出削減に向けた対応方法を尋ねている。この調査結果によると、「実施済み」「実施中」「計画中」と回答した企業の割合を合わせると、「自社が提供する気候変動対応(エコ)商品・サービスへの誘導」が全体の55%に上る(図2参照)。半数以上のドイツ企業が顧客に対して、自社のエコ商品やサービスの売り込みに取り組んでいることになる。また「追加的なエネルギーコストの顧客への転嫁」(同44%)も半数近い。すなわち、排出削減への取り組みを進めた結果、再生可能エネルギー導入などによりコスト負担が大きくなる場合、その増加分(あるいはその一部)は、顧客に理解を求めて商品・サービス販価に反映させているということだ。

このほか、「気候変動に対応した(エコ)中間財の購入」(同40%)や、「(エネルギー移行による)新事業領域の開拓」(同37%)といった回答も目立った。すなわち、販売面以外でも、調達や新事業立ち上げの面から取り組む企業が、それぞれ4割程度あることになる。

サプライヤーの視点に立つと、エコな原料や部品を供給していない場合や、低炭素化に向けた新規事業にチャレンジしていない場合は、既存顧客との取引関係が将来的に縮小・終了する可能性を示唆しているともいえる。逆に、これらの対応を進めていけば、既存顧客との取引関係を継続・拡大させることになりそうだ。そればかりか、新規顧客開拓にもつなげることができる可能性も出てくる。例えば、自動車部品メーカーなど、日本企業でドイツ企業を顧客に持つ場合は今後の取引関係にも大きく影響し得る。換言すると、ドイツ企業のサプライヤー企業などにとって、そうした対応を採り得るかどうかが試金石になるとも言えそうだ。

図2:ドイツ企業のサプライヤーや顧客に影響を及ぼす対応方法
実施済、実施中、計画中、予定なしの順に(単位は%)、自社が提供する気候変動対応(エコ)商品・サービスへの誘導は16、24、16、45。追加的なエネルギーコストの顧客への転嫁は10、17、17、57。気候変動に対応した(エコ)中間財の購入は8、17、15、60。(エネルギー移行による)新事業領域の開拓は12、16、9、64。国外における新販売市場の開拓は4、9、5、82。国外への生産拠点移管/国内生産の限界は2、3、4、91。

注:エネルギー移行に関するアンケート調査(対象企業2,589社)の一部。調査期間は2021年6月7~25日。
出所:ドイツ商工会議所(DIHK)データを基に作成

グローバルに事業を展開する日本企業は、自社の排出削減に向けた取り組みを着実に進めてきた。その一方で、意識の違いや排出量算定の難しさにより、新興国を含む国内外のサプライヤーを含めた排出削減については、既述のとおり思うように進んでいない。結局、サプライヤーや協力企業に対しては、丁寧な説明やナレッジ共有、納得して取り組んでもらう工夫など、いろいろな支援の提供が有効となるだろう。そのような考え方は、「協力会社のサービスを利用するので、協力会社にさまざまな知見を提供し、協力会社の設備に負担がかからないように説明を行い、納得していただいて取り組んでいる」(海運)とのコメントに代表されている。

一方で、サプライヤー側からみると、気候変動対応を行わなければ既存顧客との取引関係に影響が出てくる可能性にも留意しておくべきだろう(注2)。例えば、日本企業が排出削減の対応が遅れる企業をサプライヤーに持ち、先進企業を顧客に持つ場合は板挟み状態になる。その点、日本企業がサプライチェーンの上流・下流のどの位置にいても、中長期的な視点で個別に調整する必要がありそうだ。そうした調整にあたっては、排出削減に関して取引先それぞれの対応状況や関係性を踏まえて検討していく必要があるだろう。


注1:
この分析の対象とされた企業数は少なく、世界の大企業の「縮図」とまでは言えない。だとしても、大まかな傾向はつかめるだろう。
注2:
ドイツ商工会議所が2021年6月に実施したアンケート調査に関しての解説も参照。
  1. サプライチェーンにおける排出削減の取り組み(前編)先進的グローバル企業、排出削減を急ぐ
  2. サプライチェーンにおける排出削減の取り組み(後編)日本の大企業が抱える排出削減の課題とは
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課 課長代理
古川 祐(ふるかわ たすく)
2002年、ジェトロ入構。海外調査部欧州課(欧州班)、ジェトロ愛媛、ジェトロ・ブカレスト事務所長などを経て現職。共著「欧州経済の基礎知識」(ジェトロ)。

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