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特集:グリーン成長を巡る世界のビジネス動向再エネ電力、自動車、建設など、幅広く省エネを推進(イスラエル)

2021年5月27日

イスラエル政府は2015年9月、温室効果ガス排出削減に向けた具体的な数値目標を設定。以来、再生可能エネルギー利用や省エネルギーを推進してきた。具体的には、大規模な太陽光発電施設の建設や、グリーンビルディングおよび電気自動車(EV)の普及に向けた各種規制の導入、助成金の付与などの施策が実施されている。

本レポートでは、グリーン成長に向けたイスラエルの動きについて、2回にわたり報告する。前編では、政府施策とその現状・課題について概観。続く後編では、企業の取り組み事例などを追う。

2030年までに再生可能エネルギー電力比率を30%に

政府による先述の目標設定は、パリ協定の採択(2015年12月)に先立つ。この目標には、温室効果ガス(GHG)の排出を削減し、経済活動での効率的なエネルギー消費実現に取り組むことが盛り込まれた(政府決議542号外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。具体的な数値目標として、再生可能エネルギーによって発電された電力の比率を2020年に10%、2025年に20%(当初の設定は13%、2020年10月に改定)、2030年に30%(同17%)とした。また、主要なGHGの二酸化炭素(CO2)排出量については、2005年時点の1人当たり10.4トンから、2025年までに同8.8トン、2030年までに同7.7トンまで削減することとした(注1)。省エネルギーに関する数値目標も定められた。電力使用量は、何も対策をしなかった場合の将来予測値(Business as Usual)と比較して、2030年までに17%を削減するという。

1996年に成立した電力事業法(Electricity Sector Law)により、イスラエル政府は民間開放を含め電力事業改革を目指している。2002年ごろからは、民間事業会社の市場参入を活用し、太陽光を中心に再生可能エネルギーによる発電施設の建設が奨励されるようになってきた。国際エネルギー機関(IEA)によると、イスラエル国内産業別のCO2排出は、2018年時点で電力部門が全体の約64%と大きな割合を占めている。一方、実質的な国有企業、イスラエル電力公社(IEC)が電力市場全体に占める構成比は、2016年でも71%に及んでいたとされる。こうしたことから、電力事業改革のためには、特に発電部門における民間企業参入を奨励し、再生可能エネルギー開発を進めるべきとの声が根強かった。

太陽光・熱発電に高いポテンシャル、現状に課題も

イスラエルでは、2000年代前半からベースロード電源(注2)に占める天然ガスの割合が急増。現在は、石炭火力を抜いて第1位を占める(図参照)。同国は近年、東地中海ガス田の開発に成功し(2021年1月6日付ビジネス短信参照)、天然ガスの輸出国に転じた。しかし、大規模なガス田の発見や開発が始まったのは2000年代後半以降だ。このため、豊富なガス供給に安易に依存せず、再生可能エネルギー開発を進めることができるかどうかも注目点だ。

図:エネルギー源別発電量の推移(イスラエル)
1990年から2019年のイスラエルにおける電源別発電量の推移を表す。 2005年まで石炭が首位、石油が第2位であったが、その後、急速に天然ガスの割合が上昇し、2019年現在64%で首位。再生可能エネルギーはソーラーを中心に2010年以降発電が始まっているが、その割合は依然として5%程度に留まる。

出所:IEA統計を基にジェトロ作成

イスラエルは、国土の南半分が砂漠地帯だ。すなわち、豊富な日照量が期待できる。そのため、再生可能エネルギー電源として、とくに太陽光・太陽熱が重要だ。政策自体には風力やバイオマスなども列挙されるものの、段違いの注目度と言える。実際、競争入札による政府調達を通じて、大規模な太陽光発電施設が相次いで建設されている。また、2021年に入り、国交正常化したアラブ首長国連邦(UAE)のファンドがイスラエルの再生可能エネルギープロジェクトに出資参画する(2021年1月26日付ビジネス短信参照)など、一定の進展が見られる。

しかし、2019年時点での全発電量に占める太陽光発電の割合は3.6%にとどまる。現地紙(3月19日付「グローブス」紙)によると、「風力など他のエネルギー源をすべて合わせても、2020年の再生可能エネルギー比率は6%程度」だ。2020年の目標「10%」を達成できなかったことになる。太陽光・太陽熱の発電拠点が主に南部砂漠地域にあるのに対し、電力の主要消費地は中部から北部の大都市圏(エルサレムやテルアビブなど)だ。このことから、両者の間を結ぶ大規模送電線網の建設も課題とされる。また、電源の性質上、日中に集中する発電ピークと、夜間の需要ピークとのギャップを埋めるための蓄電能力も必要だ。現地紙(2020年11月19日付「グローブス」紙)によると、新たに政府調達にかかっている発電施設には、蓄電能力を同時に装備することが要件として盛り込まれている。

省エネ推進施策は、建設や自動車分野にも

GHG削減と省エネの推進を期し、省エネ事業への助成や投融資への政府保証付与など、政府は具体的施策の立案・運用を進める。例えばグリーンビルディング建設について、イスラエルでは「SI5281」と呼ばれる国内基準が設けられている。これは、米国を中心に世界で普及しているLEED認証(注3)とおおむね同水準といわれる。政府は2020年3月、2022年3月以降に新規着工される全ての建造物はSI5281を満たすことを求める規制を承認した。

また、電気自動車(EV)の普及に向けて、政府は総額3,000万シェケル(約10億円、1シェケル=約33円)を拠出して全国に充電ステーションを整備するとした。あわせて、2030年以降はガソリン・ディーゼル車の輸入を禁止。EVまたは圧縮天然ガス(CNG)車だけを許可する方針も示した(注4)。加えて、政府は2009年から、環境配慮車を優遇するための税制措置を導入済みだ。当地では、自動車を輸入する際、「自動車購入税」が課せられる。その税率は、一般のガソリン車だと最大90%に上る。これに対して、EVは8%、ハイブリッド車については30%に抑え、普及を図っている。他方で、現地紙(4月4日付「CTEC」紙)によると、輸入車業界には、走行距離が短いなど、EVの現行性能に対して不信感があるという。報道では、内燃機関系のパーツ交換をはじめとするメンテナンスビジネス(注5)の将来性を不安視する声も紹介された。EV普及に向けては、なおも一定の課題があるようだ。


注1:
2021年4月、環境保護省は気候変動対応法案を発表した。この法案が成立した場合、目標値がさらに高くなる可能性がある。
注2:
季節、天候、時間帯を問わず、一定量の電力を安定的に低コストで供給できる電源。
注3:
環境に配慮した優れた建築物を作るため先導的な取り組みを評価する国際的な認証プログラム。建材や空調など、多くのプロセスについて省エネ化要件が規定されている。1998年から、米国グリーンビルディング協会が開発・運営。
注4:
イスラエルでは自動車の国内生産はなく、純輸入国。
注5:
内燃機関パーツは、言うまでもなく、従来のガソリン・ディーゼル車では必須ながら、EVでは不要になる。
執筆者紹介
ジェトロ・テルアビブ事務所
吉田 暢(よしだ のぶる)
2004年、ジェトロ入構。アジア経済研究所、ERIA支援室、英サセックス大学開発研究所客員研究員、デジタル貿易・新産業部を経て、2020年8月から現職。

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