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特集:グリーン成長を巡る世界のビジネス動向水素とCCUSで産業の脱炭素化を目指す、自動車EV化も加速(英国)
2050年ネットゼロに向けた英国の取り組み(2)

2021年6月15日

英国では、2050年ネットゼロに向けた取り組みが進む。その1つが、前回紹介した洋上風力の拡大だ(2021年6月10日付地域・分析レポート参照)。加えて、水素や二酸化炭素(CO2)の回収・有効利用・貯留(CCUS)や、自動車の電動化に注力。企業の取り組みも加速している。

産業の脱炭素化の取り組みを強化

政府は2020年11月、「グリーン産業革命のための10項目の計画外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(2020年11月20日付ビジネス短信参照)を発表。その中で、2030年までに5ギガワット(GW)規模の低炭素水素製造能力を開発することを定めた。また、再生可能エネルギー(以下、再エネ)、CCUS、水素製造施設の集積拠点を創設し、技術開発する。さらに低炭素水素製造を支援する「ネットゼロ・水素基金」を通じて2億4,000万ポンド(約372億円、1ポンド=約155円)を投資するとした。こうした低炭素水素分野の成長を促すことで、2030年までに40億ポンドを超える民間投資を呼び込む考えだ。

水素と並行して、CCUSの開発も進める。2025年までに最大10億ポンドを投資し、2020年代半ばまでに2カ所の産業クラスターにCCUSを導入。2030年までに4カ所に増やし、年間1,000万トンのCO2を回収する考えだ。また、同時期までに関連産業で5万人の雇用を目指す。

2020年12月に発表された「エネルギー白書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」でも同様の内容が記載されていた(2020年12月18日付ビジネス短信参照)。続く2021年3月発表の「産業脱炭素化戦略外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」では、製造業と建設業の脱炭素化に向け、(1)産業界からのCO2排出量を2035年までに2018年比で67%削減、(2) 2050年までに2018年比で少なくとも90%削減、することを期待するとされた。英国研究・イノベーション機構(UKRI)は同時期に、産業の脱炭素化向けに「産業戦略チャレンジ基金」から1億7,100万ポンドを、水素とCCUSに焦点を当てた9プロジェクトに割り当てたことを発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(表、図参照)。さらに政府は前述のエネルギー白書の中で、2021年早くにクリーン水素の製造・利用の拡大に向けた広範な施策を示した「水素戦略」を発表するとしている(2021年5月3日現在未発表)。

表:産業の脱炭素化向け「産業戦略チャレンジ基金(フェーズ2)」獲得プロジェクト
No プロジェクト名 場所 CCUS/水素(注) 提供資金
(ポンド)
運開予定
1 ハイネット(洋上)– 水素とCCUS – イングランド北西部
マージーサイド
CCUS
ブルー水素
約1,332万 2025年
2 ハイネット(陸上)– 水素とCCUS – 約1,945万
3 スコットランドのネット・ゼロ・インフラストラクチャ(洋上) スコットランド北東部
セント・ファーガス
アバディーンシャー
CCUS
ブルー水素
グリーン水素
約1,135万 2020年代半ば
4 スコットランドのネット・ゼロ・インフラストラクチャ(陸上) 約1,996万
5 ネット・ゼロ・ティーズサイド(NZT)(陸上) イングランド北東部
ティーズサイド
CCUS 約2,805万 2026年
6 ノーザン・エンデュランス・パートナーシップ(NEP) イングランド北東部
ティーズサイドハンバー
CCUS 約2,400万 2026年
7 ゼロ・カーボン・ハンバー(ZCH) イングランド北東部
ハンバー
CCUS
ブルー水素
約2,150万 2026年
8 ハンバー・ゼロ イングランド北東部
ハンバー
CCS
ブルー水素
グリーン水素
約1,269万 2020年代半ば
9 サウス・ウェールズ産業クラスター(SWIC) サウス・ウェールズ CCUS
ブルー水素
約2,000万 2030年

注:水素には製造過程により以下の分類がある。
・グリーン水素:再生可能エネルギーを利用して製造される水素。
・ブルー水素:化石燃料を原料とする水素。製造過程で発生するCO2はCCSまたはCCUSを行い、有効利用または地中に貯留される。
出所:英国政府、英国研究・イノベーション機構(UKRI)などの資料を基にジェトロ作成

図:産業の脱炭素化向け「産業戦略チャレンジ基金(フェーズ2)」
獲得プロジェクトの位置図
イングランド北西部のマージ―サイドに「ハイネット(洋上)、(陸上)」、スコットランド北東部のセント・ファーガス、アバディーンシャーに「スコットランドのネット・ゼロ・インフラストラクチャ(洋上)、(陸上)」、イングランド北東部ティーズサイドに「ネット・ゼロ・ティーズサイド(陸上)」と「ノーザン・エンデュランス・パートナーシップ」、イングランド北東部ハンバーに「ゼロ・カーボン・ハンバー」と「ハンバー・ゼロ」、サウス・ウェールズに「サウス・ウェールズ産業クラスター」が位置。

出所:英国政府、英国研究・イノベーション機構(UKRI)などの資料を基にジェトロ作成

CCUSと水素製造の開発で欧州大手石油会社が協力

脱炭素に向け、企業によるCCUSと水素製造の開発が進んでいる。欧州の石油大手〔BP(英国)、エニ(イタリア)、エクイノール(ノルウェー)、シェル(英国、オランダ)、トタル・エナジーズ(フランス)〕と英国の送電事業者ナショナル・グリッド、計6社は2020年10月、「ノーザン・エンデュランス・パートナーシップ(NEP)」を設立。北海の英国領海でCO2数百万トンを安全に輸送・貯留するための洋上インフラを開発することを発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。このインフラは「ネット・ゼロ・ティーズサイド(NZT)」と「ゼロ・カーボン・ハンバー(ZCH)」に接続され、両クラスターで回収したCO2を北海海底地中に輸送・貯留する。運営はBPが担当する。

NZTは脱炭素産業クラスターで、ナショナル・グリッドを除くNEP参加5社の共同事業だ。イングランド北東部ティーズサイド地域でCCUS施設を開発する。2020年代半ばから年間最大1,000万トンのCO2を回収し、早ければ2030年までの同地域の産業の完全脱炭素化を目指すという。

ZCHもイングランド北東部ハンバーの脱炭素産業クラスター。英国エネルギー大手SSEの火力発電事業子会社SSEサーマル、英国エネルギー大手セントリカ、エクイノール、三菱パワーなど12の企業・組織が参加する共同事業だ。低炭素水素の製造やCCUS技術の活用により、2040年までにハンバー地域でネットゼロの産業クラスターを構築することを目指す。CO2回収は、2030年代半ばまでに年間1,700万トン以上を見込む。

両プロジェクトとも2026年までの稼働を目指している。CO2の回収、水素、燃料転換などの組み合わせやNEPとの接続によって、英国の産業部門の排出量の約50%を脱炭素化できるとする。NEPは約2,400万ポンド、NZTは約2,805万ポンド、ZCHは約2,150万ポンドの資金を、「産業戦略チャレンジ基金」から獲得した。

BPが英国最大のブルー水素製造施設を建設

企業は、今後利用が拡大していく水素の製造にも力を入れる。BPは2021年3月、ティーズサイドに英国最大のブルー水素(注1)製造施設「H2ティーズサイド」を建設する計画を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます。2024年初頭に最終的な投資判断を行い、2027年までの稼働を目指す。同社は水素製造プロセスで排出されるCO2の最大98%を回収する技術を開発するため、プロジェクトの実現可能性調査を開始した。当初の水素製造は500メガワット(MW)を見込み、2030年までに1GWまで拡大する予定。年間最大200万トンのCO2を回収し、北海海底に貯留する計画で、BPが運営主体として主導する先述のNEPとNZTのCCUSプロジェクトに統合するとしている。

BPはクリーンな水素を大規模かつ低コストで製造することで、周辺の産業が使用するエネルギーを天然ガスから水素に転換することを支援。ティーズサイドの産業クラスターの脱炭素化につなげる考えだ。製造された水素はこの地域の住宅にも供給される。

大規模なグリーン水素製造施設の計画も

再エネを利用して製造されるグリーン水素への取り組みも生まれてきた。スペインエネルギー大手イベルドローラの傘下で英国エネルギー大手のスコティッシュ・パワーは2021年4月、「グラスゴーのためのグリーン水素(Green Hydrogen for Glasgow)」計画を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます。グラスゴー近郊に、再エネを用いてグリーン水素を製造する施設を建設する。当該施設は、同社のホワイトリー風力発電所(陸上風力発電所として英国最大)の近くに設けられる。製造施設の主要構成物は20MWの水電解装置だ。この装置により1日あたり最大8トンのグリーン水素を製造できる。装置への電力供給は、出力539MWの同風力発電所に加え、新たに計画されている40MWの太陽光発電と50MWの蓄電池を組み合わせたエネルギー貯蔵システムから受ける。2023年までの水素の商用供給開始を目指すという。これにより、同地域にCO2排出ゼロの輸送手段を提供するとともに、産業用水素需要を賄い、2030年までにグラスゴーを英国初のネットゼロ都市とする考えだ。この「グラスゴーのためのグリーン水素」は、スコットランド全土にグリーン水素とその燃料補給ステーションを普及させる同社の構想「スコットランドのためのグリーン水素外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(Green Hydrogen for Scotland)」の最初のプロジェクトに位置付けられている。なお、「スコットランドのためのグリーン水素」は、スコティッシュ・パワー、ドイツのガス会社リンデ傘下の英国ガス会社BOC、英国水電解装置メーカーITMパワーとの共同事業だ。グリーン水素製造設備の運営は、BOCが担当する。

世界初の水素専焼発電所を建設

発電に水素を利用する計画もある。SSEサーマルとエクイノールは2021年4月、ハンバーで英国初のCCS技術を導入した天然ガス火力発電所「キードビー第3発電所」と、世界初の100%水素を燃料とする水素専焼発電所「キードビー水素発電所」を共同で建設する計画を発表。2027年までの稼働開始を予定しているキードビー3発電所は、設備容量900MWで、年間150万トンのCO2回収を見込む。これは、政府が「グリーン産業革命のための10項目の計画」で示した回収目標の年間1,000万トンの15%に相当する。一方、キードビー水素発電所は、設備容量900MW、水素需要最大1,800MWで2030年までの稼働を予定。さらに、SSEサーマルが建設中の天然ガス火力発電所「キードビー第2発電所」では、水素混焼を検討するとしている。同発電所の設備容量は、840MWだ。

また、キードビー第3発電所とキードビー水素発電所の両プロジェクトは、SSEサーマルとエクイノールが参画するZCHの水素・CO2輸送インフラ、エクイノールが参画するNEPのCO2輸送・貯留インフラを利用する。また、エクイノールの「H2H Saltend」プロジェクトの水素、CO2輸送インフラとも接続される予定だ。同プロジェクトでは、CCSを組み合わせて天然ガスからブルー水素を製造。2026年までの稼働を予定する。両社は、英国内の他の地域でも同種のプロジェクトに取り組む意向を明らかにしている。

EV化が加速、バッテリーを活用したサービスも

洋上風力や水素と並んで政府が力を入れているのが、電気自動車(EV)の普及だ。「グリーン産業革命のための10項目の計画」でも、EVの項目が立てられている。その中で政府は、ガソリン車とディーゼル車の新車販売を2030年までに禁止する方針を示した。ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)の販売は、2035年まで認める。

こうした目標を受け、英国企業のEV化対応が2021年に入って加速している。インドのタタ・モータース傘下のジャガー・ランドローバー(JLR)や、ドイツBMWの小型車ブランド「ミニ」はそれぞれEV化の目標を発表した。さらに、英国バッテリーメーカーのブリティッシュボルトは、国内初のEV向け超大型バッテリー工場「ギガファクトリー」を建設する計画を発表した(2021年5月13日付地域・分析レポート参照)。

日本企業では、ホンダが2021年4月、再エネの活用と充電コストの低減を両立するEV向けエネルギーマネジメントサービス「e:PROGRESS(イープログレス)」の提供を英国で開始したことを発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます。このサービスは、同社のEVである「ホンダe」の所有者向けに提供される。電力需要が少なく電力コストの低い時間帯にEVを充電することで、電力需要を平準化し再エネ由来の電力使用拡大に貢献するのが狙いだ。同サービスは、スマート充電・リソースアグリゲーション(注2)を専門とするモイクサ、電力会社オクトパス・エナジーが共同で提供し、充電器設置をブリティッシュ・ガスが実施する。

日本企業の実証実験も英国で行われている。丸紅は3月、グループ会社や英国のエネルギー関連サービス企業のオリガミエナジー、グリッドエッジ、ビルタと提携。EVの車載蓄電池を利用した建物・電力系統向けサービスの実証実験を開始すると発表した。太陽光発電といった分散型電源の余剰電力をEVの蓄電池に貯め、建物に随時電力を供給するVehicle to Buildingサービスと、電力系統向けに周波数を制御し需給調整するVehicle to Gridサービスの商業化を検討する。

英国は、11月にグラスゴーで開催される第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)の議長国を務める。これに向けて政府は、これまでに見たような積極的かつ具体的な目標や計画を相次いで打ち出している。気候変動・環境の分野で世界をリードしたい考えだ。産業界もこれに呼応する形で動き出している。今後も「グリーン産業革命のための10項目の計画」の各項目で取り上げられた分野で、さらに投資や開発が加速していくだろう。


注1:
水素には製造過程により以下の分類がある。
  • グリーン水素:再エネを利用して製造される水素。
  • ブルー水素:化石燃料を原料とする。ただし、製造過程で発生するCO2をCCSまたはCCUSを行い、有効利用または地中に貯留する。
  • グレー水素:化石燃料を原料とする水素。製造過程で発生するCO2は大気中に放出される。
注2:
ホンダによると、需要家と発電事業者をつなぐことで電力供給・需要のバランスを最適化し、安定供給を実現できる。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
宮口 祐貴(みやぐち ゆうき)
2012年東北電力入社。2019年7月からジェトロに出向し、海外調査部欧州ロシアCIS課勤務を経て2020年8月から現職。

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