石油発見で潤う国内経済
急成長を遂げる南米の新興国ガイアナ(1)

2025年12月12日

2020年の石油生産開始以降、急速な勢いで発展を遂げている南米の新興国ガイアナ。近年、目覚ましい成長を続ける同国における日本企業の新たなビジネス機会の創出を目指し、ジェトロは2025年10月22~23日、ガイアナにビジネスミッションを派遣した。本稿では、成長著しいガイアナの概要と経済の実態、政府の投資誘致政策などについて紹介する。また次稿では、ジェトロが実施したビジネスミッションの様子や、実際にガイアナを訪問して浮かび上がった、現地のビジネス環境の実態について報告する。そして最終稿では、ガイアナで豊富なビジネス経験を有する日系企業へヒアリングを実施し、現地での経験や、ガイアナの評価、ビジネスを進める上での課題などについて紹介する。

南米にありながら英語圏、カリブ諸国との結びつきが強い国

ガイアナ協同共和国(Co-operative Republic of Guyana、以下、ガイアナ)は、現地住民の言葉で「水が豊富な土地」を意味しており、国土の大半が熱帯雨林に覆われ、豊かな生態系を有している国だ。南米北部の大西洋沿岸に位置し、ブラジル、ベネズエラ、スリナムと国境を接している(図1参照)。面積は21万5,000平方キロメートルで、日本の本州(約22万8,000平方キロメートル)より少し小さい。ガイアナは1966年の独立まで英国の植民地だったことから公用語は英語である。一部でクレオールガイアナ語が話されているが、日常的には英語での会話に支障はない。英国領だった影響は人種構成にも表れている。約4割が東インド系と、南米では珍しく印僑が最大で、次いでアフリカ系が約3割を占める(表1参照)。これは他の中南米諸国がたどった歴史と同様に、ガイアナにおいても砂糖プランテーションの労働力としてアフリカから奴隷を連れてきたこと、その後の奴隷制廃止によって、ガイアナではインド移民を労働力として受け入れた歴史に由来する。街中では、インド風の家屋やインド料理レストラン、小売店などがみられ、ヒンドゥー教の祭日も祝われている。南米はスペインやポルトガルに支配されてきた歴史から両国との言語・文化・宗教的な結びつきが強いが、ガイアナは南米にありながら旧英国領のカリブ海地域諸国との結びつきが強い。カリブ海地域の経済統合を目指すカリブ共同体(CARICOM、通称カリコム)にも加盟しており、その本部はガイアナの首都ジョージタウンにある。

図1: ガイアナの位置
ガイアナは南米北部の大西洋沿岸に位置し、ブラジル、ベネズエラ、スリナムと国境を接している。

出所:ジェトロ作成

表1:ガイアナの基礎情報
指標 内容
人口 82万5,051人
首都 ジョージタウン
公用語 英語
宗教 主にキリスト教、ヒンドゥー教、イスラム教など
面積 21万5,000平方キロメートル
民族 東インド系(39.8%)、アフリカ系(29.3%)、混血(19.9%)、先住民族(10.5%)、
名目GDP 247億米ドル(2024年)
実質GDP成長率 43.6%(2024年)
1人当たり名目GDP 3万654.6米ドル(2024年)
インフレ率 2.9%(2024年)
為替レート 1米ドル=217.4ガイアナ・ドル
(2025年第2四半期期中平均)
失業率 12.4%(2024年)
輸出額(FOB価格) 197億9,000万米ドル(2024年、暫定値)
輸入額(CIF価格) 68億2,000万米ドル(2024年、暫定値)
主な輸出相手国 オランダ、米国、英国(2024年上位3カ国)
主な輸入相手国 米国、トリニダード・トバゴ、中国(2024年上位3カ国)
主な輸出品目 原油、金
主な輸入品目 燃料および潤滑油、鉄鋼製品、機械
対内直接投資額(フロー) 86億3,000万米ドル(2024年)

出所:ガイアナ投資庁「INVESTMENT SNAPSHOT」、IMF「World Economic Outlook database」、ガイアナ統計局(Bureau of Statistics)、ガイアナ中央銀行「Annual Report 2024」、国連貿易開発会議(UNCTAD)「World Investment Report 2025」、ガイアナ統計局「Population and Housing Censuses 2012」からジェトロ作成


ショッピングモール内にあるインド系の衣服を
販売する店舗(ジェトロ撮影)

ジョージタウンにあるカリコム本部(ジェトロ撮影)

石油生産開始を機に急成長、1人当たり名目GDPは日本と同水準に

続いて、ガイアナの経済状況について見ていく。2024年の名目GDPは247億ドルで他の中南米諸国と比べると未だ規模は小さく、ボリビアの半分だ(表2参照)。一方、近年の経済成長のスピードは目を見張るものがある。石油生産が始まった2020年以降、前年比2桁の経済成長を続けており、2022年は63.3%と驚異的な数字を記録した(図2参照)。この5年間で経済規模が約5倍にまで成長した(注1)が、2025年の成長率は10.3%との予測値が出ており、いったん10%台に落ち着くとみられている。1人当たりの名目GDPは3万962ドルで、比較的人口が少ないため、他の中南米諸国よりも高い金額となっており、日本(3万2,443ドル)とほぼ変わらない。また、ガイアナの1人当たりGDPを購買力平価で換算すると、8万3,604ドルとさらに高くなり、世界で11番目に高い国・地域になる(表3参照)。これにはガイアナ・ドルの対米ドル為替レートが実態よりも低く評価されたり、石油による急速なGDP成長で、実質的な購買力が高く反映されたりしている可能性がある。

表2:中南米諸国の名目GDPと1人当たり名目GDP(2024年)(単位:10億米ドル、米ドル)
国名 名目GDP 1人当たり名目GDP
ブラジル 2,179.4 10,252
メキシコ 1,856.4 14,034
アルゼンチン 637.2 13,523
コロンビア 418.8 7,948
チリ 330.2 16,439
ペルー 294.7 8,650
エクアドル 124.7 6,939
コスタリカ 95.4 17,909
パナマ 86.5 19,187
ウルグアイ 81.0 23,186
ボリビア 47.0 3,822
パラグアイ 44.5 6,456
ガイアナ 24.7 30,962
日本 4,019.4 32,443

出所:IMF「World Economic Outlook database」からジェトロ作成

図2:中南米主要国の経済成長率(2016年~2025年)
ガイアナは2016年3.8%、2017年3.7%、2018年4.4%、2019年5.4%、2020年43.5%、2021年20.1%、2022年63.3%、2023年33.8%、2024年43.6%、2025年10.3%。ブラジルは2016年-3.3%、2017年1.3%、2018年1.8%、2019年1.2%、2020年-3.3%、2021年4.8%、2022年3.0%、2023年3.2%、2024年3.4%、2025年2.4%。ペルーは2016年4.0%、2017年2.5%、2018年4.0%、2019年2.2%、2020年-10.9%、2021年13.4%、2022年2.8%、2023年-0.4%、2024年3.3%、2025年2.9%。チリは2016年1.8%、2017年1.4%、2018年4.0%、2019年0.6%、2020年-6.1%、2021年11.3%、2022年2.2%、2023年0.5%、2024年2.6%、2025年2.5%。コロンビアは2016年2.1%、2017年1.4%、2018年2.6%、2019年3.2%、2020年-7.2%、2021年10.8%、2022年7.3%、2023年0.7%、2024年1.6%、2025年2.5%。メキシコは2016年1.8%、2017年1.9%、2018年2.0%、2019年-0.4%、2020年-8.4%、2021年6.0%、2022年3.7%、2023年3.4%、2024年1.4%、2025年1.0%。アルゼンチンは2016年-2.1%、2017年2.8%、2018年-2.6%、2019年-2.0%、2020年-9.9%、2021年10.4%、2022年6.0%、2023年-1.9%、2024年-1.3%、2025年4.5%。

注:2025年は予測値。
出所:IMF「World Economic Outlook database」からジェトロ作成

表3:世界の1人当たりGDP(購買力平価換算)ランキング (単位:米ドル)

順位 国名 金額
1 リヒテンシュタイン 195,977
2 シンガポール 150,908
3 ルクセンブルク 149,987
4 アイルランド 133,987
5 マカオ 128,211
6 カタール 116,616
7 ノルウェー 103,733
8 スイス 95,155
9 ブルネイ 91,437
10 米国 86,145
11 ガイアナ 83,604
12 デンマーク 81,806
13 オランダ 81,354
14 サンマリノ 80,358
15 台湾 80,091
16 アラブ首長国連邦 79,253
17 アイスランド 78,937
18 香港 75,541
19 マルタ 75,339
20 ベルギー 73,609

出所:IMF「World Economic Outlook database」からジェトロ作成

急速な発展を遂げているガイアナの経済構造はどうなっているのか。ガイアナの産業別GDP構成比率(2024年)(表4参照)を見ると、「石油・ガス・関連サービス」がGDP全体のうち66.7%を占めており、石油関連産業が現在のガイアナ経済を支えていることがわかる。ただし、歴史的に石油産業が盛んだったわけではない。直近10年の産業別GDP比率の推移(図3参照)を見ると、2015年にはGDPの約5割を「サービス」が、約3割を「農業・林業・漁業」が占めていた。石油生産が開始された2020年以降、「石油・ガス・関連サービス」は右肩上がりにその比率を拡大し、極めて短期のうちに国の経済を支える基幹産業となった。石油産業の足元の成長スピードも驚異的で、直近2024年の「石油・ガス・関連サービス」の成長率は前年比67.1%の伸びを記録している。

表4:ガイアナの産業別GDP構成比率と前年比成長率(2024年)(単位:%)
産業 GDP全体に占める割合 前年比
農業・林業・漁業 7.8 14.2
階層レベル2の項目サトウキビ栽培 0.2 22.6
階層レベル2の項目米栽培 1.3 16.4
階層レベル2の項目その他の作物栽培 4.3 9.3
階層レベル2の項目畜産 1.2 46.9
階層レベル2の項目林業 0.5 △ 3.3
階層レベル2の項目漁業 0.4 7.6
鉱業・採石 71.4 65.0
階層レベル2の項目ボーキサイト 0.2 107.2
階層レベル2の項目 2.3 26.3
階層レベル2の項目その他の鉱業・採石業 2.1 51.8
階層レベル2の項目石油・ガス・関連サービス 66.7 67.1
製造業 1.7 7.4
階層レベル2の項目砂糖 0.1 16.7
階層レベル2の項目 0.4 △ 9.1
階層レベル2の項目その他製造業 1.2 13.5
電気供給 0.3 38.3
上下水道 0.1 10.3
建設 4.7 28.4
サービス 14.8 12.0
階層レベル2の項目卸売・小売・修理業 2.5 12.7
階層レベル2の項目輸送・倉庫業 1.1 11.0
階層レベル2の項目宿泊・レストランサービス 0.2 16.0
階層レベル2の項目情報・通信業 0.7 3.8
階層レベル2の項目金融・保険業 1.5 19.8
階層レベル2の項目不動産 2.1 4.9
階層レベル2の項目専門技術サービス 0.2 32.8
階層レベル2の項目管理・サポートサービス 2.6 11.2
階層レベル2の項目公共サービス・行政 2.1 10.5
階層レベル2の項目教育 1.2 21.9
階層レベル2の項目福祉・社会事業 0.5 11.5
階層レベル2の項目芸術・娯楽 0.1 14.6
階層レベル2の項目その他サービス 0.1 7.7

出所:ガイアナ中央銀行「Annual Report 2024」

図3:ガイアナの産業別GDP比率の推移
農業・林業・漁業は2015年27.6%、2016年22.2%、2017年24.9%、2018年21.7%、2019年19.7%。2020年18.1%、2021年14.4%、2022年10.4%、2023年10.0%、2024年7.8%。金は2015年7.2%、2016年12.7%、2017年10.5%、2018年9.4%、2019年11.0%、2020年10.3%、2021年6.4%、2022年3.2%、2023年2.7%、2024年2.3%。石油・ガス・支援サービスは2015年0.3%、2016年0.3%、2017年0.6%、2018年1.1%、2019年1.9%、2020年17.0%、2020年12月に石油生産開始後は2021年35.0%、2022年59.0%、2023年58.5%、2024年66.7%。サービスは2015年47.8%、2016年48.1%、2017年48.5%、2018年51.1%、2019年50.1%、2020年41.9%、2021年33.0%、2022年20.0%、2023年19.3%、2024年14.8%。

出所:ガイアナ中央銀行「Annual Report 2024」

石油産業発展を支える米・エクソンモービル

ガイアナの石油産業を語る上では、米国系石油メジャー、エクソンモービルがカギとなる。エクソンモービルは、2019年にガイアナ沖合のStabroek鉱区の権益を取得、同鉱区において、最初のLiza油田が発見され、2019年12月から同社最初のプロジェクト「Liza Phase 1」として、ガイアナでの石油生産が始まった。2025年8月に、同社は4番目のプロジェクト「Yellowtail」での石油生産を開始したことで、現在4つの油田において石油が生産されている(表5参照)。また2026年以降は、最終投資決定を終えている「Uaru」「Whiptail」「Hammerhead」の3つのプロジェクトが生産開始を控えている。そのほか、8番目のプロジェクト「Longtail」は、ガスやコンデンセート開発が主力で、2030年の操業を目指し、現在は環境影響評価を受けている。エクソンモービルは、これら8つのプロジェクトによって、2030年までに日量約170万バレルの石油生産を見込んでいる。

表5:エクソンモービルのStabroek鉱区におけるプロジェクトの概要
プロジェクト名 ステータス 生産開始 生産能力(当初⇒生産最適化後)
Liza Phase 1 生産中 2019年12月 約12万⇒約16万バレル/日
Liza Phase 2 生産中 2022年2月 約22万⇒約26.5万バレル/日
Payara 生産中 2023年11月 約22万⇒約26.5万バレル/日
Yellowtail 生産中 2025年8月 約25万バレル/日
Uaru 最終投資決定済み 2026年 約25万バレル/日
Whiptail 最終投資決定済み 2027年 約25万バレル/日
Hammerhead 最終投資決定済み 2029年 約15万バレル/日
Longtail 環境影響評価中 2030年 約25万バレル/日(注)

注:「Longtail」プロジェクトではガスとコンデンセート開発が実施される予定で、表に記載の生産能力はコンデンセートの生産能力。
出所:エクソンモービルの各種発表、報道を基にジェトロ作成(2025年11月11日執筆時点)

ガイアナでは、石油生産の収益を天然資源基金(Natural Resources Fund, NRF)で管理、運用している。2021年天然資源基金法によれば、同基金は天然資源から得られる富を、現在および将来の国民の利益のために、効果的かつ効率的な方法で管理することを目的に設立され、インフラ整備、教育、医療、気候変動対策、中小企業支援、現金給付など国家開発の優先事項に利用される。天然資源基金の四半期レポートによれば、2024年の原油およびロイヤルティー収入は約5,354億ガイアナ・ドル(約3,962億円、1ガイアナ・ドル=約0.74円で計算)とされ、2025年は6,847億ガイアナ・ドルの収入を見込んでいる。ガイアナ政府による国民への還元の例として、現政権が復活させた学童向けの現金給付プログラム「Because We Care」がある。同プログラムでは、全国20万5,000人の学童を対象に、1人当たり年間5万5,000ガイアナ・ドル(制服手当を含む)を支給する。2025年の1人当たりの支給額は、前年から1万ガイアナ・ドル増加したが、イルファーン・アリ大統領は2025年8月に同プログラムの1人当たり支給額を10万ガイアナ・ドルに引き上げ、加えて交通費として10万ガイアナ・ドル、合わせて学童1人当たり年間20万ガイアナ・ドル(約14万8,000円)を支給すると発表した。2025年9月に控えていたガイアナ大統領選挙を見据えた選挙戦略だった可能性もあるが、大胆な支給額の引き上げができるほど、石油収入の恩恵を受けていることが読み取れる。

物価は先進国並みの水準

急速な発展を遂げるガイアナでは、物価が先進国並みの水準になっている。筆者がガイアナを訪問した2025年10月23日時点では、マクドナルドが進出していないため、ビッグマック指数(注2)で比較できないが、物価の参考例として世界中に店舗を構えるケンタッキー・フライド・チキン、バーガーキング、スターバックスの商品の値段を比較する。まず、フライドチキンを好む国民性から、ガイアナで人気が高く店舗数も多いケンタッキー・フライド・チキンのハンバーガー単品で比較すると、日本では「チキンフィレバーガー」が440円(2025年11月13日時点)、ガイアナでは1,280ガイアナ・ドル(約947円)と倍以上の値段で販売されている(表6参照)。一方で、「オリジナルチキン2ピースセット」で比較すると、日本は1,030円、ガイアナでは1,680ガイアナ・ドル(約1,243円)だが、ガイアナではサイドメニューが日本より1点多く選択できるため、サイドメニュー1点の差(日本のケンタッキーでは290円分)を加味すると両国にそれほど大差はない。バーガーキングの「ワッパー」は日本では590円、ガイアナでは1,340ガイアナ・ドル(約992円)、スターバックスコーヒーの「カプチーノ(トールサイズ)」は日本で495円、ガイアナで1,200ガイアナ・ドル(888円)だ。商品によっては日本と同程度のものもあるが、実際に筆者が現地に出張した際の体感として、ガイアナの物価は日本よりもかなり高いと感じる場面が多かった。

表6:ガイアナの物価例
商品名 ガイアナ・ドル 円貨換算
ケンタッキー・フライド・チキン「チキンフィレバーガー」単品 1,280 947
ケンタッキー・フライド・チキン「オリジナルチキン2ピースセット」 1,680 1,243
バーガーキング「ワッパー」単品 1,340 992
スターバックスコーヒー「カプチーノ(トールサイズ)」 1,200 888
スターバックスコーヒー「キャラメルフラペチーノ(トールサイズ)」 1,400 1,036
日本食レストラン「チキンラーメン」 3,600 2,664
水(500ml) 75 56
ビール(CORONA EXTRA、 355ml) 500 370
リンゴ 320 237
ポテトチップス(Ray's Classic 6.5oz) 1,000 740

注:1ガイアナ・ドル=0.74円で円貨を算出。
出所:現地の店舗で記載されていた金額(2025年10月23日時点)


ガイアナで人気のケンタッキー・フライド・チキン(ジェトロ撮影)

日本の自動車が走り、建機が稼働する国

日本は現在、ガイアナに在外公館を設置しておらず、在トリニダード・トバゴ日本大使館がガイアナを兼轄している。同様に、日本にガイアナの在外公館もなく、中国から日本を兼轄している。外務省の海外進出日系企業拠点数調査の2024年調査結果(令和6年10月1日現在)によると、ガイアナに進出する日系企業の拠点数は1社とされている。進出日系企業の主な活動として、三井海洋開発がエクソンモービルの「Uaru」と「Hammerhead」の2つのプロジェクト向けにFPSO(注3)プロジェクトを受注している。2025年7月には同社ガイアナ拠点の開所セレモニーが開催された。オニージ・ウォルロンド前観光・産業・商業相が出席し、「国家建設におけるパートナーとして歓迎する」と述べ、同社の事業に期待を寄せている。

そのほかに目立った日本企業の動きはないが、街を歩くと、道路には日本の自動車が走っていたり、工事現場には日本のメーカーの建機が稼働していたりと、日本製品が国民の生活を支えている様子がうかがえる。旧英国領だった名残から道路交通は左側通行で、右ハンドルの日本車がよく走っており、ガイアナの対日輸入の貿易統計を見ても、乗用車やトラック、バスなどの輸入が多い(表7参照)。

表7:ガイアナの対日貿易品目上位10品目(HSコード6桁ベースで抽出)

(単位:米ドル)
日本からの輸入
順位 品目 金額
1 乗用車(シリンダー容積1,000㎤~1,500㎤、HS:870322) 113,415,886
2 乗用車(シリンダー容積1,500㎤~3,000㎤、HS:870323 25,276,524
3 貨物自動車(車両総重量5トン以下、ディーゼル/セミディーゼルエンジン、HS:870421) 15,127,735
4 10人以上の人員の輸送用自動車(ディーゼルエンジン搭載、HS:870210) 13,678,814
5 貨物自動車(車両総重量5トン~20トン、HS:870422) 11,118,566
6 鉄鋼製の管および中空の形材(その他ステンレス鋼、HS:730424) 5,326,553
7 貨物自動車(車両総重量5トン以下、ガソリンエンジン、HS:870431) 4,309,043
8 鉄鋼製の管および中空の形材(その他、HS:730429 4,165,619
9 乗用車(シリンダー容積3000㎤~、HS:870324) 3,816,708
10 10人以上の人員の輸送用自動車(その他、HS:870290) 3,658,979
日本への輸出
順位 品目 金額
1 アルミニウム鉱(HS:260600) 4,042,507
2 液体の流量または液位の測定、検査用機器(HS:902620) 37,341
3 生きている動物(霊長類、HS:010611) 10,742
4 木材(HS:440929) 10,151
5 生きている動物( その他、HS:010619) 6,989
6 生きている動物( 爬虫類、HS:010620) 2,453
7 マイクロメーター、パスおよびゲージ(HS:901730) 2,110
8 コック、弁その他これらに類する物品(その他、HS:848180) 1,558
9 不特定品目(HS:999999) 1,160
10 床用敷物およびマット(HS:401699) 594

出所:Global Trade Atlasからジェトロ作成


左側通行のガイアナでは日本車が多く走っている(ジェトロ撮影)

戦略的に産業の多角化を図るガイアナ政府

石油産業で急速な発展を遂げるガイアナだが、ガイアナ政府は石油に依存しない持続可能で戦略的な経済発展に向けた産業の多角化・強靭(きょうじん)化を目指し、あらゆる産業の投資に前向きな姿勢を示している。政府は自国の気候安全保障、食料安全保障、エネルギー安全保障、グローバライゼーションを促進するため、農産品加工などのアグリビジネス、高付加価値品の製造業、再生可能エネルギー関連、デジタルトランスフォーメーション、物流、インフラ、エコツーリズムなどさまざまなセクターを、優先的な投資誘致分野としている。また、ガイアナの投資誘致機関である、ガイアナ投資庁のウェブサイト上では、各カテゴリーの具体的な投資機会についても触れられている(表8参照)。

表8:ガイアナ政府が発表する各カテゴリーの投資機会
カテゴリー 高いポテンシャルが見込まれる投資機会
気候安全保障
  • 高付加価値の木材製品(家具など)
  • 木材加工
  • 土砂
  • 観賞魚
  • バイオテクノロジー
食料安全保障
  • 家禽(かきん)生産および加工
  • キャッサバ製品
  • ココナッツ製品
  • スパイスの栽培、フレーク加工
  • エビの養殖、加工
  • 柑橘(かんきつ)類の果樹園、果物の缶詰施設
エネルギー安全保障
  • 水力発電
  • 天然ガスインフラ
  • ガラス、ソーラーパネル生産工場
  • 製造業用の機械、設備
  • 医薬品製造
  • 家具製造
グローバライゼーション
  • 通信インフラ
  • エコツーリズム
  • フィンテック
  • 物流インフラ
  • 食品、飲料の輸出

出所:ガイアナ投資庁ウェブサイトからジェトロ作成

セクター別に、投資優遇措置(インセンティブ)も用意されている(表9参照)。内容を見ると、ビジネス活動で使用する物品に係る付加価値税(VAT)や輸入関税などの免税措置が設けられている。一方で、重点投資誘致セクターには、税制優遇や補助金が設定されている。例えば、農業加工関連、再生可能エネルギー、ICT(情報通信技術)関連、石油・ガス関連機器に関する投資は、税制優遇が受けられるようだ。基幹産業であるエネルギーセクターでは補助金の支給があり、エネルギー関連の小規模事業者や、石油・ガス関連機器の現地製造工場の設立に適用される。

ガイアナ政府は、急速に発展する産業を下支えする現地人材の育成にも注力している。例えば現政権の政策として、2025年1月から、ガイアナ大学(University of Guyana)の学士、修士、博士課程に在籍する全てのガイアナ人学生の授業料は廃止され、国民に質の高い高等教育が受けられる環境を整備するとともに、現地の産業界に必要とされる人材を送り込んでいる。実際に、同大学の優秀な学生を取り込むため、進出日系企業の三井海洋開発はガイアナ大学と協定を締結し、正式雇用につながるインターンシップの機会を同大学の学生に提供するなど、優秀な現地人材確保に向けたリクルート活動を行っている。このようにガイアナ政府は、豊富な石油収入をテコにして、重要セクターへのインセンティブ提供や、現地人材の開発を両輪で進め、自国産業の多角化と強靭化を戦略的に進める姿勢を見せている。

表9:セクター別のインセンティブの例
セクター インセンティブの例
林業
  • 全地形対応車の付加価値税(VAT)撤廃
  • 輸出時のVAT撤廃
  • 機械、設備、丸太、製材品に対するVAT撤廃
  • スキッダ、バンドソー、チェーンソー、のこぎり刃、木工旋盤、サンダー、ルーター、のこぎりなどの関税免除
鉱業
  • 重機や機械に課される税金の撤廃
  • 鉱業活動に使用される機械、設備の輸入関税免除
  • 近代的な採掘技術へ投資する企業、環境に優しい採掘活動に従事する企業への税制優遇措置
農業
  • 電気と水道のVAT免除
  • 製造後8年以上経過した車両の輸入許可
  • 農業用の工具を含む、土地の準備、耕作に使用する機械、設備への輸入関税とVATの免除
  • 農産物加工施設、冷蔵倉庫、パッケージングなどの農業関連投資への税制優遇
  • 農産物加工設備への輸入関税とVATの免除
  • 農薬(殺虫剤、除草剤、殺菌剤など)の輸入関税の免除
  • 開発や耕作によって発生した支出に対する税額控除
  • 大規模畜産業に対する優遇措置
エネルギー産業
  • 太陽光、風力、水力など再生可能エネルギープロジェクトへの投資に対する法人税免除
  • バックアップ発電機に対するVATを廃止
  • 再生可能エネルギー関連の機器(太陽光パネル、バッテリー、インバーター)に対する輸入関税の免除
  • 水力発電および風力発電機器に対する免税
  • 中小企業庁を通じたエネルギー関連の小規模事業者向けの助成金の支給
製造業
  • 石油・ガス関連機器の現地製造工場を設立する投資家へ税制優遇措置、補助金支給
  • エネルギー集約型企業に対する工業用地の割り当て、土地取得のインセンティブ、インフラ支援
  • ボイラー、フォークリフト、連続計量器、コンベアなどの補助設備を含む、パッケージング機械、果物加工機械、ミシン、食品加工・養鶏飼料製造設備、幅広い加工機械・設備に対する免税
  • 免税品の製造に使用される包装資材に対する輸入関税およびVATの免除
  • 電気自動車(新車)に対する14%のVAT撤廃
  • 排気量1500cc未満の新車および中古車の輸入関税引き下げ
  • 製造業における電気および水道に対するVATを撤廃
  • 燃料に課せられる物品税の免税
観光業
  • 新たに建てられたホテル、ゲストハウス、旅館、ロッジ、リゾートの法人税免税
  • 旅行事業者の法人税免税
  • 2000cc未満のダブルキャブピックアップトラック(新車)の輸入関税の免税
  • ホテル、リゾート、ラグジュアリー観光プロジェクトに対する、建設資材、家具、エコツーリズム関連機器の輸入関税の免除
情報通信技術(ICT)、サービス業
  • ICT関連投資に対する税制優遇
  • 個人所得税の減税
  • ICT関連機器のVAT免除
  • ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)およびICT企業は、コンピュータ機器、サーバー、ソフトウエアに課せられる輸入関税の免税または減税措置を受けられる

出所:ガイアナ投資庁ウェブサイトからジェトロ作成


注1:
2024年の名目GDPは2019年比で4.8倍になった。
注2:
世界各国で販売されているマクドナルドの商品「ビッグマック」の値段を比較することで、各国の経済力、物価水準、為替レートの適正水準などを比較できる指標。
注3:
Floating Production, Storage & Offloading system(浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備)の総称。
執筆者紹介
ジェトロ企画部企画課海外地域戦略班(中南米担当)
小西 健友(こにし けんゆう)
2022年、ジェトロ入構。調査部米州課中南米班でメキシコや、ブラジルを中心とするメルコスールの政治・経済の調査を担当。2024年9月から現職。