激動の中東情勢:中東各国への影響と展望ホルムズ海峡封鎖後の中東におけるエネルギー動向

2026年6月19日

中東情勢悪化により、ホルムズ海峡が事実上封鎖されている。また、エネルギー関連施設への攻撃も発生しており、中東産油国の資源輸送や原油生産に影響を与えている(2026年4月10日付地域・分析レポート「中東情勢悪化がホルムズ海峡に与える影響」参照)。IMFによると、ホルムズ海峡では通常、世界の石油供給量の約5分の1、液化天然ガス(LNG)貿易量の約4分の1が通過していたが、2026年3月以降、輸送は停滞している。

本稿では、2026年6月9日時点での中東情勢悪化伴うエネルギー事情と、中東および世界経済への影響を概観する。

内容
中東情勢悪化により原油生産・輸送が減少
OPEC諸国で原油生産減も、減産緩和を議論
UAEがOPEC脱退、増産へ
中東情勢が世界の石油需要にも影響へ
原油や関連商品の価格が上昇
エネルギー関連投資は増加の見通し
再エネや省エネなどにも注目
中東諸国の経済が悪化へ
ホルムズ海峡代替策がある国では成長継続へ
アジア諸国を中心に世界経済にも影響

中東情勢悪化により原油生産・輸送が減少

原油生産は、ホルムズ海峡が封鎖される以前と比べて減少していると、エネルギー関連機関が発表している。例えば、米国エネルギー情報局(EIA)は、イラク、サウジアラビア、クウェート、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、バーレーンなどにおいて、合計で日量1,050万バレルの原油生産が停止されたとの推計を発表した(2026年5月15日付ビジネス短信参照)。加えて、国際エネルギー機関(IEA)は、ホルムズ海峡の封鎖の影響を受けた湾岸協力会議(GCC)6カ国(バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、UAE)の原油生産量は、中東情勢悪化前の水準を日量1,440万バレル下回ったとの推計を発表している(2026年5月13日付石油月報)。

GCC諸国のうち、サウジアラビアやUAEは代替ルートを持ち、オマーンではホルムズ海峡を通らずに輸送が可能だ。ペルシャ湾に面するGCC諸国やイラクのみならず、イランにおいても、原油輸出は米国やイスラエルによるインフラ施設などへの攻撃や、ホルムズ海峡の封鎖などにより減少が見込まれる。

OPEC諸国で原油生産減も、減産緩和議論

ホルムズ海峡の封鎖を受け原油生産が急減した3月と比べても、翌月4月の原油生産は減少した。OPECは5月版「石油市場月報」にて、OPECプラスの4月の原油生産は3月比で日量174万バレル減の日量3,319万バレルとなり、2025年平均の日量4,193万バレルと比べても減少したと報告している。OPECの中でも、サウジアラビア、クウェート、イラク、イランなど中東諸国で大幅な落ち込みを示したという。

一方、OPECは5月3日付プレスリリースで、2023年以降に「追加自主減産」を実施してきたOPECプラス加盟の7カ国(サウジアラビア、ロシア、イラク、クウェート、カザフスタン、アルジェリア、オマーン)が、減産方針を緩和し、さらなる緩和の議論や柔軟対応の重要性を再確認したと発表した。

UAEがOPEC脱退、増産の方向

OPECで減産など生産調整の方針を進めてきた中、UAEが5月1日付でOPECおよびOPECプラスから脱退したと発表された(2026年4月30日付ビジネス短信参照)。近年、OPECプラスは原油価格を保つために協調減産に取り組む一方、UAEは増産を主張していたと報じられてきた。UAE政府の声明によると、国益と市場の差し迫ったニーズを満たすためにより効果的に対応するためだという。

UAEは、OPECの中で第4位の生産量を有していた。UAEのほぼ全ての原油を生産するアブダビ国営石油会社(ADNOC)は、2027年をめどに日量500万バレルまでの生産能力拡張を目標としている。

現在、OPECはイラン、イラク、クウェート、サウジアラビアなど中東諸国、ベネズエラ、リビア、アルジェリア、ナイジェリア、ガボン、赤道ギニア、コンゴ共和国の11カ国で構成される。OPECプラスは、OPEC加盟国に加え、中東のバーレーン、オマーンのほか、アゼルバイジャン、ブルネイ、ブラジル、カザフスタン、マレーシア、メキシコ、ロシア、スーダン、南スーダンなどの産油国で構成される。

なお、アンゴラが2024年、カタールが2019年にOPECを脱退している。

中東情勢が世界の石油需要にも影響へ

これまで原油生産側について見てきたが、原油の需要側の動向を見ると、OPECの5月月報では、2026年の世界の石油需要(年間平均)は前年比で日量117万バレル増の日量1億633万バレルと予測した。2027年には、さらに日量154万バレル増と、需要が増加する見通しだ。

一方、IEAは、5月13日付石油月報において、2026年の世界の石油需要が減少するとの予測を示した。月報によると、石油需要は前年比で日量42万バレル減少し、日量1億400万バレルになるとした。また、現在、石油化学産業や航空燃料などに大きな影響を与えているが、今後は油価高騰や経済悪化、需要抑制策が石油消費にさらに影響を与えるという。

なお、米国エネルギー情報局は5月時点の予測で、ホルムズ海峡の通航量が年内に中東情勢悪化前の水準に戻ると見込んでいる。

原油や関連商品の価格が上昇

世界銀行が6月2日に発表したコモディティー(国際商品)の価格動向によると、5月の原油価格(平均)は1バレル当たり100.43ドルとなり、前月比で3.3%下落したが、前年同月比では60.0%上昇した(2026年6月3日付ビジネス短信参照)。5月の天然ガス指数は前月比4.9%増、前年同月比21.2%増となった。

また、国際航空運送協会(IATA)は中東情勢悪化により、4月の航空機用のジェット燃料価格は121.1%上昇し、急騰したと報告している(2026年5月29日付ビジネス短信参照)。一方、米国エネルギー情報局は6月9日、アジアなどでの石油需要の減少が、ホルムズ海峡の混乱による原油価格上昇を抑制するとの見通しを示した。

国連は、エネルギー供給制約や価格高騰に加え、運賃・保険料の上昇により、世界的な生産コスト増を招いていると報告した(2026年5月20日付ビジネス短信参照)。2026年のインフレ率は、先進国で2.9%、新興国で5.2%との予測だ。

なお、世界銀行によると、中東からの輸出も多い肥料について、5月の世界の肥料価格指数は前月比4.3%減だったが、前年同月比では49.9%増と上昇した。中東でも生産されるアルミニウム価格は、前月比1.8%増にとどまったが、前年同月比は49.7%増となった。

エネルギー関連投資は増加見通し

次に、今後の石油・天然ガスや再生可能エネルギー(再エネ)、および関連産業を含むエネルギー投資動向について、IEAの報告書「世界エネルギー投資2026」に基づいて述べる。2026年の世界のエネルギー投資額は前年比5%増の3兆4,000億ドルと見込まれる。一方、中東情勢悪化により、世界のエネルギー安全保障や供給網への懸念が高まり、各国・企業は投資戦略の見直しを迫られていると指摘している(2026年6月4日付ビジネス短信参照)。

中東では、一部の国の油田事業などは情勢悪化の影響を受けている。しかし、操業の維持などに向けた支出は継続しており、2026年のエネルギー投資は前年比5.5%増となるが、石油・天然ガスの上流部門への投資は前年比約1%減になる見通しだ。

なお、2026年の中東のエネルギー投資額を2015年と比較すると、石油・天然ガスを含む化石燃料の供給関連も、再生可能エネルギーなどを含む低排出電源・供給も増加している。中東の2026年のエネルギー投資推計額は次のとおり(かっこ内は2015年との比較)。

  • 化石燃料供給:1,390億ドル(2015年比60億ドル増)
  • 化石燃料発電:160億ドル(同40億ドル減)
  • 送電網・蓄電:130億ドル(同60億ドル減)
  • 最終需要(注1):130億ドル(同70億ドル増)
  • 低排出電源(注2):100億ドル(同50億ドル増)
  • 低排出供給(注3):20億ドル(同20億ドル増)

注1:最終需要:産業・建物・輸送などのエネルギー消費部門。
注2:低排出電源:太陽光・風力発電など、二酸化炭素(CO2)排出が少ない電源。
注3:低排出供給:水素やバイオ燃料など、低炭素燃料の供給。

再エネや省エネなどにも注目

IEAの報告書では、再エネなど低排出電源による発電や供給への投資の増加が示唆された。加えて、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)も、中東からのエネルギー輸送が混乱する中、石油やガスに代わるエネルギーとして、再エネにも注目が集まると指摘した(2026年4月6日付ビジネス短信参照)。

IRENAによると、中東の2025年の再エネ発電容量は前年比28.9%増の59ギガワット(GW)となり、世界の地域別で最も成長率が高かった。特にサウジアラビアでは太陽光発電などが増え、前年比約2倍の12GWに達した。

世界で燃料不足への懸念が広がる中、IRENAは再エネが国内で生産可能であり、国によっては低コストで迅速に導入できるため、再エネ導入を増やすことで、化石燃料への依存度を低減できると言及している。

また、IEAは3月20日、中東情勢の悪化による石油市場の混乱が消費者に与える影響を緩和するため、政府や企業、家庭が実施可能な石油・ガス使用量の削減など、省エネルギーに関する10の措置を提案した(IEAウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

中東諸国の経済が悪化へ

次に、エネルギー輸送混乱の中、経済への影響について述べる。IMFの4月時点の経済見通しによると、2026年の経済成長率は中東・北アフリカで1.1%(10月時点予測は3.7%)、GCC諸国で2.0%(同4.3%)に落ち込むとの予測されている(2026年4月17日付ビジネス短信参照)。

中東では、イランなどからGCC諸国の港湾やエネルギー施設への攻撃もあり、カタール、バーレーン、クウェート、イラクなど産油・産ガス国では、代替ルートがなく輸出が滞り、マイナス成長と予測されている。特にカタールではエネルギー施設への攻撃の影響により、成長率は10月時点の予測から14.7ポイント減のマイナス8.6%まで落ち込む見込みだ。

ホルムズ海峡代替策がある国では成長継続へ

IMFの4月の予測では、UAEやサウジアラビアでは2026年の成長率が3.1%と世界と同水準となる見通しだ。両国は、イランなどからの攻撃に関する報道もあるが、前述のとおり、代替ルートもある。

ホルムズ海峡を通らずに輸送可能なトルコは3.4%成長、オマーンは3.5%成長と、経済的な影響は少ないとの予測されている。中東周辺国で経済規模が大きいトルコ、サウジアラビア、イスラエル、UAEでは、今回の情勢悪化による経済への影響は、コロナ禍による落ち込みよりも小さい。一方、イランでは経済が低迷するとの予測されている(2026年5月1日付地域・分析レポート「中東・北アフリカ諸国経済の見通しは不透明、成長継続の国も」参照)。また、原油高を背景に、一部の産油国やエネルギー企業では、収入の増加も見込まれている。

中東・北アフリカ諸国では、2027年に経済は持ち直し、特にイラクで11.3%、カタールで8.6%と高い成長を見込まれている。

なお、北アフリカのアラブ諸国では、経済への影響は比較的軽微とみられる。さらに、地中海に面する産油国のアルジェリアやリビアでは、エネルギー輸出拡大の機会もある。

アジア諸国中心に世界経済にも影響

ホルムズ海峡封鎖は、世界経済にも影響を与える。ASEANでは、エネルギーの中東依存度が高く、影響を受けやすい構造にある。中東諸国からアジア向けのエネルギー供給は、2024年に原油の84%、LNGの83%がホルムズ海峡経由であり、同海峡への依存度が高かった(2026年3月12日付ビジネス短信参照)。

資源価格上昇はASEAN経済全体に波及しやすい。肥料についても中東地域への依存度が高く、燃料価格問題にとどまらず、食料安全保障にも直結するリスクを抱えている(2026年5月11日付地域・分析レポート「エネルギー供給の脆弱性が顕在化」参照)。

また、日本も原油の9割以上を中東に依存しているため、影響が懸念される(2026年4月14日付地域・分析レポート「日本と中東の貿易とホルムズ海峡封鎖の影響」参照)。一方、日本政府は、情勢の沈静化に向けた外交活動や資源の代替調達の模索、国内の石油製品供給に関する「目詰まり」の解消、企業向け支援などを行っている。さらに、IEAは3月、32加盟国が石油備蓄から4億バレルを放出し、影響の緩和に取り組むことで合意したとしている。

なお、欧州では北海油田からの資源調達も多いが、ジェット燃料不足の懸念もある。EUは加盟国間での資源調達協力や原子力活用拡大を進める方針を示した。サブサハラ・アフリカでは、産油国には影響は少ないとみられるが、石油輸入国では備蓄が少なく、燃料不足や価格上昇が見込まれる。

中東各国で状況は異なるが、経済活動は継続しており、今後、代替ルートなどの港湾・物流インフラの整備や復興需要も見込まれている。ビジネスにおいては、輸出入の代替策の確保や渡航時の危機管理、各種リスク管理への対応、最新情報の収集などが必要となる。

中東情勢は流動的であり、中東と世界各国の最新動向は、特集「イスラエル・米国とイランの衝突を巡る中東情勢関連情報」「激動の中東情勢:中東各国への影響と展望」を参照されたい。

執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課 課長代理
井澤 壌士(いざわ じょうじ)
2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課、ジェトロ北海道、ジェトロ・カイロ事務所を経て、現職。中東・アフリカ地域の調査・情報提供を担当。